株式会社MIMIGURI ファシリテーターの木村彰宏による書籍『教育者のためのコーチング入門』が、2026年9月18日に株式会社東洋館出版社より発売されました。
この記事では、本書の序文を公開します。
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はじめに
近年、「教育にコーチングを」「これからはティーチングではなくコーチングが重要だ」「子どもにコーチングを」といった言葉を、以前にも増して耳にするようになりました。
実際、内閣府の総合科学技術・イノベーション会議による「Society 5.0の実現に向けた教育・人材育成に関する政策パッケージ」には、「Teaching(指導書のとおり計画を立て教える授業)」から「Coaching(子供の主体的な学びの伴走者)へ」という表現が明確に記されています。教育委員会の資料や研修のなかで、「コーチング」という言葉を見かけた方も少なくないのではないでしょうか。
一方、そうした流れのなかで、「コーチングとはどんなものなのか?」「学校現場でどのように使えるのか?」とモヤモヤを感じている方もいるかもしれません。
本書は、そのモヤモヤを丁寧にほどくために書きました。
ここで最初に、一つだけはっきりお伝えしておきます。教育現場で「コーチングそのもの」を行うことはできません。学校には、評価・指導・責任といった枠があり、プロの1対1コーチングが成立しやすい前提(対等な関係であること、評価が持ち込まれないこと、本人がテーマを決めること)とは構造がまったく違うからです。
しかし一方で、コーチングの背景にある考え方や構成要素は、うまく翻訳すれば、教育のさまざまな場面で強力なヒントになります。
たとえば——
・マインドセット(どんな前提で相手を見るか)
・プロセス(関わりの流れ)
・スキル(ペーシング・傾聴・承認・問いかけなどの技術)
これらは、子ども一人ひとりへの学びのサポート、授業、学級経営、生徒指導、保護者対応、同僚との対話など、日常の無数の場面で「相手の主体的な学びや選択」を支えるために使えます。
本書では、この営みをあえて「コーチング」ではなく、「コーチング的な関わり」と呼びます。それは、教育的な意図(目標・指導・評価等)があることを互いに認めつつ、その枠のなかで、最大限相手の主体性を尊重する関わりです。
こうした問いに向き合うにあたり、本書では、国際コーチング連盟(ICF)が定める「コア・コンピテンシー(中核となる能力要件)」を、見えない背骨として参照します。
ICFは、世界中のプロコーチが拠りどころとしておられる基準であり、「どのようなあり方で人と向き合うのか」「どのような関係性をつくるのか」「どのように学びと成長を支えるのか」を、具体的な言葉で整理しています。
ただし、本書の目的は、ICFの基準をそのまま教育現場に当てはめることではありません。「学校という文脈のなかで、子どもたちの学びと幸せを支えるために、コーチングのどの要素を、どう翻訳すればよいのか」。その問いを軸に、コーチングの考え方を”教育の言葉”に置き換えていきます。
対象は、教員や管理職、教育委員会の方々はもちろん、子どもたちの学びや遊び、生活に関わるすべての大人に向けて書いています。
ただ、具体的な場面の多くは、学校現場から取り上げています。私自身が、いちばん解像度高く語れるのが学校だからです。
けれど、ここでお伝えする関わりの考え方は、学校の外にもひらかれています。
保育や幼児教育の現場、学童や放課後の居場所、塾や習いごと、フリースクール、児童発達支援や放課後等デイサービス、あるいは家庭や地域での関わりまで——人が、人の育ちや学びに関わるあらゆる場で、同じように働きます。
読み進めるなかで「これは自分の現場ならどうだろう」と、ご自身の場に引きつけて受け取っていただけたら嬉しいです。
コーチングの考え方のどこまでが使えて、どこからが難しいのか、その境界線を大切にしながら、コーチング的な関わりについて、できるだけ平易な言葉で、具体的にお伝えしていきます。
ただ、「コーチング」や「コーチング的な関わり」という言葉に、もし、どこか抵抗を感じるなら、無理に使う必要はありません。
実のところ、ここで述べるような関わりを、意識的にか、無意識にか、すでに実践しておられる方も、たくさんいます。
私がこの本を書いたのは、「コーチングって、何ですか」「教育現場で、どう活用できますか」という質問を、たくさんいただくからです。その問いに、できるだけ丁寧に答えてみたい。そう思って、本書を書きました。
ですから、どうか「コーチング」という名前そのものには、とらわれないでください。目の前の子どもや、同僚や、先生に、何を大切にしながら、どう関わるか。私が本当に伝えたいのは、そこなのです。
本書に書かれている関わりを、いつでも、すべて実践する必要もありません。教育の現場には、ティーチングが力を発揮する場面も、はっきりと指示や提案をすべき場面もあります。コーチング的な関わりは、あなたの引き出しに加わる、選択肢の一つです。
そして、どの関わりを、いつ、どう使うか——そこには、一人ひとりの先生の持ち味があると思います。
だからこの本を読みながら、ぜひ、ご自身にも問いかけてみてください。自分は、目の前の子どもに、どう関わり、どんな力を育みたいのか。その答えは、この本のなかではなく、あなたのなかにあります。
この本が、子どもたちの学びと幸せを願いながら、日々さまざまな現場で奮闘されている皆さんにとって、立ち止まって考えるための一つの手がかりとなることを、心から願っています。
公的資料・ウェブサイト内閣府 総合科学技術・イノベーション会議「Society5.0の実現に向けた教育・人材育成に関する政策パッケージ」2022年6月2日。
国際コーチング連盟(ICF)「2025 ICF コア・コンピテンシー」(2025年9月改訂、日本語版2025年11月5日公開)。



