様々な時代の経営をめぐる言説(理論や概念など)において、経営がどのように捉えられてきたのか──「経営観」の変遷を近畿大学経営学部教授・山縣正幸さんとたどる本シリーズ。
第4回以降は、個人と協働を大きなテーマとして扱っています。
第4回は人間関係論の誕生、第5回は協働で創造性を発揮するフォレットの経営論について、そして第6回ではチェスター・バーナードの組織論の中核となる個人や組織の考えをご紹介しました。
第7回となる今回は、バーナードの組織論の中でも特徴的な、公式組織・非公式組織の捉え方や、組織を成立させる3つの要素として、誘因の経済や、共通目的における貢献者という視点、コミュニケーションにおける「権威」は受け取る側にあることなどを深掘っていきます。

山縣 正幸
近畿大学経営学部教授/デザイン・クリエイティブ研究所/経営イノベーション研究所
1976年生まれ。関西学院大学大学院商学研究科博士課程後期課程をへて、2008年に同大学より博士(商学)を授与される。専門は、経営学史・経営学原理。ドイツ語圏の経営学の展開について研究。2016年ごろから、サービスデザイン、デザイン経営についても研究や実践にかかわるようになる。最近はアントレプレナーシップへの美学的アプローチにも関心を抱いている。2017年から2024年まで経営学史学会理事。同学会による経営学史叢書第II期編集委員を務める。
それ以外に、国立能楽堂の解説パンフレットの執筆を2016年から継続。八尾市産業振興会議の座長(2020年〜現在)なども務めている。
著書に『企業発展の経営学』(千倉書房、2007年)、『バーナード』(藤井一弘編、経営学史叢書第VI巻、文眞堂、2011年、共著)『DX時代のサービスデザイン』(廣田章光/布施匡章編、丸善出版、2021年、共著)、『経営学の基礎』(片岡信之編、経営学史叢書第II期第1巻、文眞堂、2022年、共著)、『ドイツ経営学入門』(海道ノブチカ/山縣正幸、文眞堂、2026年)など。
1. 組織が成り立つために必要な三要素:協働意欲/共通目的/コミュニケーション
前回、バーナードの組織という概念は、顧客の活動も組織を構成していると考え、組織という現象をきわめて広範かつ動的に捉えていることを見てきました。

なぜ人は協働に参加するのか?バーナードが問い直した個人から始める組織論──【連載】転換しつづける経営観 第6回
組織について、バーナードは公式組織(formal organization)と非公式組織(informal organization)の2つの面から構成されると述べています。
「公式」というと、何か形式が整っているとかいったようなイメージを持たれるかもしれません。これも間違ってはいませんが、それよりも協働を支えるために整っていなければならない諸要素を明確化したものとイメージしてもらえるとよいでしょう。
この要素として、バーナードは、公式組織を成り立たせるためには(1)協働意欲、(2)共通目的、(3)コミュニケーションという3つの要素が必要であると述べています。順番に深掘りしていきましょう。
1-1 協働意欲
まずは(1)協働意欲です。
いうまでもないことですが、協働はそこに参加する諸個人が貢献を提供しようとしなければ成り立ちません。協働それ自体が諸個人によって提供された貢献の結合/関係づけによって成り立っているわけですから。
となると、諸個人のなかにいかにして協働意欲を湧き起こらせるか、諸個人にいかにして協働意欲を抱いてもらうかが重要な課題となります。
ここで大事なことは、一人ひとりの個人が抱く動機や期待、欲望、さらにはそれをどう評価するかという価値判断基準は、それぞれに異なるという点です。
バーナードは、協働に参加してくれる個々の主体を貢献者と呼び、貢献者が協働への貢献に対して、協働から得られると期待する内容を「誘因」と名づけています。そして、以下の式が成り立つとき、貢献者は協働意欲を抱き、協働への貢献を提供するとしました。これを「誘因の経済」と呼んでいます。
【誘因の経済】 誘因 − 貢献 = 純満足 ≧ 0
ただし、この式はそう単純に計算できません。
なぜなら、誘因にしても貢献にしても、量的な測定ができるとは限らないからです。例えば、金銭的報酬としてはそれほど大きくなくても、異なる誘因がある場合、あるいは提供する貢献について「お安い御用」と考えることができる場合、人は純満足を正の状態として“計算”することもあるからです。
つまり、誘因と貢献それぞれをどう“評価”するかが重要になるわけです。その際、この“評価”のための基準が、それぞれの個別主体においてどう形成されているかに目を向けることが大事になってくることも、容易に想像していただけるかと思います。
1-2 共通目的
次に、(2)の共通目的について見てみましょう。
こちらは、あまり説明を要しないかもしれません。「なぜ、私はこの協働に自ら貢献するのか」「この協働によって、どのような状態をもたらすことができるのか」といった点は、協働に参加することの意義や正当性を貢献者に認識させてくれるはたらきがあります。
その際に大事なのは、その目的が組織を構成する努力や貢献を提供する人々によって容認されていなければならない、という点です。これは、最近のパーパスやビジョン、ミッション、バリューといった企業あるいはそれ以外の組織体の理念にかかわる議論そのものです。ここでもバーナードは、協働ないし組織全体とそこに参加する諸個人(貢献者)という2つの視点を忘れません。
つまり、「その組織的活動は、何のためになされるのか」と、「その協働を通じて、そこに参加するそれぞれの主体にはどのような満足がもたらされるのか」という点です。これらは重なり合うこともありますが、基本的には別物です。
この両面に注目することを決して忘れなかったのが、バーナードの学説の重要な学史的かつ現代的意義です。
なぜなら、経営をめぐる議論においては、他の企業などとの競争のなかで「勝つ」ことばかりに注目が集まる傾向があるからです。そうなると、その協働に参加するそれぞれの主体が何を期待しているのかということが看過されがちになります。しかし、真に強い ——レジリエンスがある、といってもよいかもしれません—— 組織的活動というのは、そこに参加している個々の主体がどのような存在で、それぞれが何を感じ、欲しているか、同時にこの組織的活動はそれぞれの主体に対して何を求めているのかを、ちゃんと了解しようとしています。この点はフォレットにも見られた点で、バーナードもフォレットから影響を受けているのではないかと指摘されています(高橋公夫 [2012]「フォレットの経営者論」三井泉編『フォレット』経営学史叢書第IV巻、第6章)。

それぞれの欲求を織り合わせ協働で創造性を発揮するフォレットの経営論──【連載】転換しつづける経営観 第5回
1-3 コミュニケーション
最後に(3)コミュニケーションについてです。
これは、もっとも協働や組織を考えるときに思い浮かびやすい要素ではないかと思います。ここでのコミュニケーションとは、共通目的の達成に向けておこなわれる、協働を動かしていくための意思疎通活動です。この活動を組織における一般的なルールとして構造化したとき、そこに組織構造が生まれます。
いわゆる職位などの体系として理解される組織構造は、何よりコミュニケーション・システムなのです。
一般的には、こういった組織構造を精緻に整えることが重視されがちですが、大事なことは「協働において、やっている活動を時間的/空間的に継起したり並行したりする活動につなげると同時に、その活動によって生じた事象などを共有する」ことです。
例えば、あるプロジェクトにおいて時間的に前後にある活動や、プロジェクトと並行して動いている別のプロジェクトが組織内には数多くあるでしょう。それらの活動と齟齬がないようにつなげること、その活動によって生じた事象などを共有することが大切だ、というのは組織で働くビジネスパーソンにとって、目新しい話ではないかと思います。
その結果として、メンバーが自律的に判断し、行為できる環境が整えられ、またメンバーも自律的に判断・行為することが実践されている場合、いわゆる“フラット”な組織構造が可能になることもあるわけです。
この点を考えると、コミュニケーションは企業などにおける指示系統とも理解できるのですが、注意しなければならないことがあります。それは、指示や命令なども含むコミュニケーションは受け取る側によって理解され、かつ実行されるか、あるいは適切な次の活動として展開されるかしなければ、コミュニケーションが成立したとは言えない、という点です。
このコミュニケーションが理解され、実行されているとき、あるいは適切な次の活動として展開されているとき、「権威(authority)が成立している」とバーナードは言います。これを権威受容説と呼びます。
一般的には、指示権限などを持つ職位において上長にあるがゆえに「権威がある」とみなされがちです。これを権威上位説と呼びます。多くの場合、権威上位説という観念を多くの人が共有しているから、いわゆる上司の指示などを部下にあたる人たちは、特に反発することもなく受け入れているわけです。

しかし、時として「は?」と思ってしまう指示もありますよね。
そういうときに、もちろんやむなく受け入れる場合もありますが、例えば「やり過ごす」(高橋伸夫[1996=2002]『できる社員は「やり過ごす」』日経ビジネス人文庫)ということも、ちょいちょいあるでしょう。少なくとも上長の指示が「やり過ごされている」という点で、権威上位説からは逸脱する事象です。
そう考えると、権威というのは職位において上位にあるからという以上に、そのコミュニケーションが受容されているという点こそ重要であるともいえるわけです。このあたりも、バーナードがさまざまな協働体系や組織的活動の実態を、現場で経験してきたことから導き出された卓見です。
この公式組織成立の3要素については、バーナードの学説のなかでも重要なところなので、丁寧に説明しました。協働を通じた組織的活動が成り立つために、これら3つの要素が欠かせないことはイメージしていただけたのではないでしょうか。
2. 公式組織と非公式組織:パーソナルなつながりがフォーマルな協働を支える
さて、協働を通じた組織的活動の基盤となるのが、今述べてきた3要素からなる公式組織です。
が、公式組織はそれだけで機能するかというと、実はそういうわけでもありません。
みなさんも、直感的にわかってもらえるかと思います。
例えば、今はもう数少なくなったのが「タバコ部屋」での雑談、あるいは映画『釣りバカ日誌』(これももう古いでしょうか)での、スーさんとハマちゃんという関係性を思い浮かべてもらうとよいでしょう。会社では絶対的な権力を持つ社長のスーさんと、平社員の(しかも仕事への熱意はあまりない)ハマちゃんですが、釣りの現場ではハマちゃんが師匠で、スーさんがアドバイスを請う未熟者です。
いわゆる公式的なコミュニケーション体系としての組織構造、その組織構造における職位とは別に、こういった個々人のつながりなどの関係性を通じたコミュニケーションが、存在しています。
これは単に存在しているというだけでなく、公式的なコミュニケーションと並ぶくらいに重要なコミュニケーションであるといえます。
これを公式的ではないという意味で、非公式組織とバーナードは名づけています。
例えば、私(山縣)は大学に勤務していますが、休講する事態になったときに、その通知を大学の教務システムを通じて発信します。そのとき、受講生全員がその発信を確認しているわけではないのに、まちがえて教室にくる受講生はほとんどいません。これは、友人などとのコミュニケーションのなかで知るからです。
会社のなかでも、同期や何らかのかたちで日ごろからコミュニケーションをとっている同僚であれば、部署を超えて情報が届くことも珍しい話ではないでしょう。そういった、まさにinformalな情報共有がなされる空間を、非公式組織と呼ぶわけです。
この非公式組織は、職位や身分、肩書といったものとは、無関係のコミュニケーションによって成り立っています。先ほど例で述べた『釣りバカ日誌』は、まさにそれを素材にしているのです。
ここでは、人間関係としての社会的側面が色濃くあらわれます。
人間というのはもちろん個別的存在ですが、同時に他者などとの周りのさまざまな存在との関係性のなかでのみ生きていける関係的存在でもあります。
それによって、その個人の尊厳が確かめられるという事態は、間違いなくあります。その意味で、バーナードは非公式組織が人間性を保ちうる側面を持つということも指摘しています。

もっとも、この人間関係が個別的存在である個人にとって、「しがらみ」になることもあるのも、また事実です。
さて、そもそも協働を始める際には、まったく見ず知らずの人と一緒にやるというのは、やや考えにくいケースといえます。
見ず知らずの人との協働が生じうるケースとしては、例えば、路上などで急病人が発生したり、車いすに乗っている人やベビーカーを押している人などが、段差があるところで立ち往生しているときに、そこにいた人たちが協力し合って、手助けするという場合などはあります。
ただ、何か事業を始める、あるいは大学などでサークルを立ち上げるといったときには、基本的にそれまでに知り合っている人同士でやるのが一般的です。
組織内では、見ず知らずのメンバーが集められたように感じられるプロジェクトはあるかもしれません。そのためにチームビルディングなどが行われるわけですが、そうした場合でも、リーダーやキーパーソンのアサインは過去のプロジェクトでの関係に基づいているなど、全くの見ず知らずのメンバーしかいない、というケースも少ないのではないでしょうか。そして、プロジェクトを遂行しながら豊かな関係が築かれると、解散後も交流がつづいていき、非公式組織となっていく可能性があります。
そのように考えれば、非公式組織の存在は、公式組織が生まれる前提でもあるのです。
人間関係をより強くしたり、深めたりするために、何か協働を開始し、公式組織が生まれるというケースもあります。友人どうしで起業するときに、たまたま趣味が一致していたから、その趣味をベースにした事業を始める、というのは、この一例といえるでしょう。
このように、公式組織と非公式組織は概念的には別のものですが、それぞれの成立や生成には相互的な関係があります。公式組織を動かしていくうえで非公式組織にとらわれすぎるのはよくありません。また、非公式組織に依存しすぎても、協働にネガティブな影響を与えることも考えられます。協働において基軸となるのは公式組織です。
ただ、非公式組織の存在に留意することは、きわめて大事なことであるのも、あらためて知っておきたいところです。このあたりにも、バーナードの実践から得られた「組織がうまくいっている 感覚(sense of fitness) 」とでもいうべき、経験の言語化を見いだすことができます。
今回は組織の3要素と公式組織・非公式組織について、丁寧に触れてきました。この内容を踏まえながら、次回は、バーナードの組織経済の考え方を紹介します。そして、「戦略的」という言葉が徐々に入り込んできた背景に迫りながら、バーナードの学説を総括していきたいと思います。
参考文献
- バーナード, C. I.『新訳 経営者の役割』(原著1938年、山本安次郎/田杉競/飯野春樹訳、ダイヤモンド社、新訳版1968年)
- バーナード, C. I.『組織と管理』(原著1948年、飯野春樹監訳、文眞堂、1991年)
- 飯野春樹編『古典入門 バーナード 経営者の役割』有斐閣新書、1979年
- 藤井一弘編『バーナード』(経営学史叢書VI)文眞堂、2011年



