MIMIGURI安斎勇樹さんと、創造性研究の第一人者でMIMIGURIシニアリサーチフェローに就任した岡田猛さんの対談シリーズ「おとな創造性Q&A」。創造性をめぐるさまざまな「お悩み」を起点にしながら、ビジネス×アカデミアの知見をお二人にぶつけていただきます。第6回のテーマは「加齢と創造性」。

【今回のお悩み】

昔はアイデアマンと言われていたのに、最近まったくヒットする企画が思いつかなくなりました。
これは年齢のせいですか?

安斎勇樹(以下、安斎):いわゆるヒットメーカーにも2つのタイプがいて、1つはその都度みんなが求めているものを読み取って、そこに合致するようなアイデアを出せる人です。

一方で、出しているアイデアが毎回違っているようでも、じつはそれを出すための方略みたいなものは変わらず一定だったりするタイプもいますよね。[以前の記事]で岡田先生に教えていただいた言葉で言えば、そういう人は「パースペクティブ」がずっと同じなんです。

その方略が外部環境とか世の中のニーズとうまく合致していたりすると、ヒットをつくり出す勝ちパターンになります。極端な話、そのパターンに当てはめれば、ジャンルが違っていたりしても、どれだけでも売れるアイデアが出せてしまう

ただ、後者のヒットメーカーはけっこう危険で、いわゆる「サクセストラップ」にハマりやすい。過去の成功体験がその方略・パースペクティブに対する動機づけになっているので、ひたすら同じパターンを繰り返してしまうんですね。

で、世間のトレンドそのものが変化して、方略そのものの賞味期限が切れてしまうと、途端にヒットが出なくなってしまう。マーケットからは「そのやり方はもう古いよ」と突きつけられているのに、以前のやり方をやめられない──これには加齢の影響もあるかもしれませんが、それこそ職位が上がってきたり、マイホームのローンを組んでしまったりして、新しい挑戦へのリスクをとれないといった事情もあるかもしれません。

岡田猛(以下、岡田):すごく大事な話だと思います。アーティストの例でも、キャリアの初期に時代の流れにマッチした作品をつくって、世の中からパッと脚光を浴びてしまい、そのあとの制作が行き詰まる人がいるんですよね。「デビュー以降、10年間、描けませんでしたが、ようやく復活しました」という話はけっこうよくあります。

それって、たまたま作品が時代の基準に合った結果、世に受け入れられて「すごい」と言われてしまったけれど、本人の中で自分なりのビジョンなり哲学なりが見えていなかったということなんだと思います。

アーティストを長く続けている人の話を聞くと、彼らにはやっぱり自分なりの「創作ビジョン」があるんですよね。これって、単にアート作品をつくるうえでの哲学というよりは、そのアーティストの人生そのものに関わるビジョンなんです。

創作を続けるなかで、「周りに受け入れられようとどうだろうと、自分はこれをやらざるを得ない! そうじゃないと生きていけない!」というような、本当に大事なものが見つかってくる。それが作品をつくっていくうえでの核になるんです。逆に、それが見つかっている人は、「年齢のせいで創造性が衰えてしまいました」みたいなことにはならない。

歳をとってもクリエイティブであり続けるためには、そうやって一生をかけて追いかけるようなビジョンなり、内的な基準みたいなものが必要なんだと思います。それがあれば、本人の中ではずっと充実感がある。

一方で、安斎さんに聞いてみたいのが、組織における創造性の話です。企業の場合、「この人、いいアイデアをだすよね」と言われる人というのは、自分なりのビジョンのようなものを持っているんでしょうか? あるいは、そもそも創作ビジョンのようなものは、あまり関係ないんでしょうか?

安斎:現場レベルで目の前の問題を解決したりするレベルであれば、そうした個人のビジョンがなくても、なんとかなってしまう部分はあると思いますね。べつに、実務上のアイデアを出すだけなら、その人がどういう哲学を持っているのかは問われない。

一方で、そのご質問で思い出したのですが、いまどの企業も抱えている「経営リーダーが育たない」という悩みです。要するに、現場メンバーのなかからマネジャーを抜擢して、課長職、部長職、部門責任者という感じに引き上げていくことはできているものの、その中から「会社の将来を担うような人材」がなかなか出てこない、と。

なんでそうなってしまうかというと、部門責任者にまで上りつめるまでに、ひたすら我を殺して調整能力を磨き続けているからなんですよね。その結果、ツルツルに角がとれてしまって、みんな「定石をよく知っている、似たような人材」になってしまっている

そういう人たちに「じゃあ、あなたが次、経営者としてのステージに上がったとき、この会社をどんなふうに経営していきたいですか?」と聞いてみても、とくにこれといった意見が出てこない。与えられた課題は解けるけど、創りたいものがない。これは岡田先生がおっしゃっている「創作ビジョンがない」状態と重なるように思います。

逆に、経営リーダー育成に力を入れている企業なんかは、幹部候補あたりの早い段階から自分なりの経営哲学をアウトプットする機会をつくったりとか、自分の意見を言うトレーニングをしたりしているんです。

岡田:面白いですね。そういう意味で、やはり若いうちにパフォーマンスが上がった人ほど、自分なりの創作ビジョンなり仕事哲学なりについて内省したほうがいいということなんでしょうね。

安斎:そうですね。ちなみにアートの世界だと、創作ビジョン探索の壁を「乗り越えられるアーティスト」と「乗り越えられないアーティスト」には、どんな違いがあるんでしょうか?

岡田:正直なところ、そこはまだはっきりわからないです。なぜかというと、ほとんどのアーティストは「やめる」からです。たとえば、アーティストの卵が50人くらいいたとして、そのうち30年後にも創作を続けているのって、1人とか2人といったところではないでしょうか。

そもそも、アートだけで食べていける人なんてほとんどいないんです。そんな世界で何十年もやり続けていこうと思ったら、「自分はなんでこんなことを続けているのか?」を問い続けて、「自分はこれをやるしかない!」というようなビジョンをつくっていくしかないんです。そうじゃないと続かない。

その点は、ビジネスパーソンとは決定的に違うところかもしれませんね。

(第7回に続く)
聞き手・編集:藤田悠

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