誰もが「バカ」を待っている|おとな創造性Q&A 第8回
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誰もが「バカ」を待っている|おとな創造性Q&A 第8回

MIMIGURI安斎勇樹さんと、創造性研究の第一人者でMIMIGURIシニアリサーチフェローに就任した岡田猛さんの対談シリーズ「おとな創造性Q&A」。創造性をめぐるさまざまな「お悩み」を起点にしながら、ビジネス×アカデミアの知見をお二人にぶつけていただきます。最終回となる第8回のテーマは「自信と創造性」。

【今回のお悩み】

いつも「自分の考えを周りからバカにされるのでは…?」と恐れています。
つい“安全策”を選んで、無難なアイデアに逃げてしまう自分を変えるには、何からはじめればいいでしょうか?

安斎勇樹(以下、安斎):ぼくは毎日のようにSNSで発信しているので、こんなことを言うと驚かれるかもしれませんが、学生時代は自分のアイデアを公開することにめちゃめちゃ抵抗がありました。限られた友人だけに向けてmixi日記を書いているくらいで、それ以外には何も発信していなかったんです。

でも、あるときカフェで友人から「お前はこんなにいいことを考えているのに、それを内側に溜め込んでいるのはバカげている。膨大な現金をタンスにしまっているのと同じだ。複利で運用すればものすごいことになるのに、もったいなさすぎる!」とさんざん煽られたんですね。それ以来、ブログを書くようになっていまに至るという感じです。

岡田猛(以下、岡田):なんともいいお話ですね。せっかくなので私も自分の話をしておくと、じつはつい最近までものすごく「あがり性」だったんです。たとえば、東大時代にも安田講堂で2回ほど1000人くらいを相手に公開講座をやったんですけど、それこそ壇上に立つだけでもすぐカーッとなってしまう。極端なことを言うと、もうほとんど意識がなくて、原稿に書いてあることをひたすら読んでいるんです。10分くらい話していると、だんだん落ち着いてくるんですが、とくに大きな舞台に立つたびにこのパターンを繰り返していました。これも根底には「バカにされるのでは……?」って人の目を気にする心理があったんだと思います。

それで、8年くらい前にとある国際学会で基調講演をやることになって、「まいったなあ」と思っていたんです。その直前にべつの学会に参加したとき、たまたま隣に座った研究者と「今度、基調講演を頼まれちゃって……。私はあがり性なので、どうしていいかわからないんだ」という雑談をしたんですよ。その人はいろんなところで大きな講演をやっていたので、何かアドバイスがもらえるかもと期待したんです。

そうしたらその人が「とあるアドバイス」をくれたんですが、それがものすごく効いて。その国際学会でもまったく緊張しなかったし、それどころか今日に至るまで、一度もあがらなくなったんですよ。

安斎:もはや課金したくなるくらいの前振りですね(笑)。いったいどんなアドバイスだったんでしょうか?

岡田:気になるでしょう?(笑) 要するに、2つのことを言われたんです。1つはテクニカルな話で、「パワーポイントをつくっておしまい」じゃダメ、壇上に立って話をするんだから、声に出して練習しなくちゃいけないということでした。で、もちろん言われたとおり、リハーサルを繰り返しました。

すごく効いたのが、もう1個のアドバイスでした。それは心がまえの話で、「なんでその人たちがその場に座っていると思う?」って聞かれたんですよね。「その人たちは、あなたの話が聞きたいからわざわざ来てるんだよ」と。「あなたの話を聞きたがっている人に、あなたは自分が話したいことを話す。それだけでしょ?」って言われて、「なるほど、そのとおりだ」と思ったのです。

カボチャとかイモに向かってしゃべろうとする必要はなくて、目の前の人に自分の言いたいことを伝えるんだって考えると、日常会話と変わらないんですよね。だから、まず壇上に立ったら、そこにいる人たちの顔をバーっと見るようにする。「いまからこの人たちに話をするんだ」と思うと、全然あがらないんです。

安斎:結局、「講演も人とのコミュニケーションなんだ」ってことを忘れていると、「バカにされるのでは?」みたいな恐れが生まれてしまうわけですね。2個めのアドバイスもさることながら、1つめの「準備」のほうもかなり効果的だなと思いました。

岡田先生とのご縁でいうと、東大のいくつかの研究室とKDDI研究所が一緒になって共同研究をやることになったんですよね。そのとき、ぼくが所属していた研究室と、岡田先生の研究室もチームに入っていたんですが、なんといちばん下っ端のM1(大学院の修士1年生)だったぼくが、その共同研究で実施するワークショップのファシリテーターに抜擢されてしまうという出来事がありました。

前任者がめちゃくちゃ優秀なファシリテーターだったこともあって、「これ、ぼくが企画考えるの……? テーマどうしよう……?」みたいに震え上がっていました。でも、結果から言うと、なんとかそのワークショップをいいかたちで終わらせることができたと思います。

なぜうまくいったかというと、それは「めちゃめちゃ時間をかけて準備した」からなんですよね。そのときは“つながらない携帯”についてみんなで考える「アンプラグド携帯ワークショップ」というのをやったんですが、その案の背後にはボツになった何十案、何百案があります。

いまでも思い出しますけど、何カ月ものあいだ、そのワークショップのことばっかりをずっと考えていて、ジュンク堂書店の全フロアの棚を回りながら、「この棚でワークショップをつくるなら、どういう企画がいいかな?」とかってのをひたすら考えていました。

岡田:KDDIとのプロジェクト、覚えていますよ。あのとき、そこまでがんばっていたんですね。

あと、「バカにされるのでは…?」みたいな恐れを克服するうえで意外と大事なのは、自分なりに表現したいものがすでに見つかっているかどうかかもしれません。私自身もいちばんシンドいのは、伝えたいものがないのに無理やり話をしなくちゃいけないときなんですよ。そういうときには、この相談者さんが言っているように「どっかで聞いたような話」をしてしまいそうになる。「安全策」に逃げてしまうわけですね。

「どうすればエッジが利いた面白い話ができるか?」というのは難しいテーマですが、覚えておくといいのは、自分がワクワクする話というのは、もしかしたらほかの誰かもワクワクさせるかもしれないってことだと思います。

安斎:そういう意味で言うと、「まず最初、誰に話すか?」というのも大事ですよね。まず一回、その話を面白がってくれる人に話してみると、かなり心強くなります。

岡田:たしかに同じ話をしても、人や場によってウケる/ウケないは変わってきますからね。最近はアカデミックじゃない場でも話をする機会が増えてきたので、つくづくそれを感じています。「ここが自分の研究でいちばん面白いんだ!」ってところを話しても、意外と「へえ。何それ?」みたいな反応のときもあって。ですから「これまで私は『いい聞き手』に恵まれていたんだな」と思っています。

安斎:[以前の記事]でもお話しした生成AIとも関連してきますが、これからの時代はますます「どうすればエッジが利いた面白い話ができるか?」が大事になってくると思います。最大公約数的な最適解みたいなものは、誰でもAIでつくれてしまう以上、「それっぽい答え」にはどんどん価値がなくなっていくんですね。

そう考えたとき、これから注目を集めたり応援されたりするのは、「ちょっと非合理なんだけど、なんかその人らしいね!」と言われるアイデアだったりとか、「ちょっと論理的に矛盾してるんだけど、どうしてもやりたくなっちゃったんだろうなあ」みたいに思われる企画だったりする。

要するに、標準から外れていて「みんなからバカにされる可能性がある意見」のほうが、AI時代には重宝されるようになっていくんじゃないでしょうか。少なくとも、アイデアの評価軸みたいなものは、これからどんどん変わっていくと思います。

ぼくもVoicyという音声プラットフォームで、毎日15分くらいの一人語りを配信しているんですが、あらかじめ「これ、ビジネスにめちゃくちゃ役に立つ話ができたな」みたいな手応えがある回って、もちろん「勉強になりました!」みたいな反響はあるんですけど、そこまで大きくハネることはないんです。

逆に、ちょっと余裕やネタがなかったりして、どうでもいい愚痴を話したり、子育てのことばかり語ったりした回は、みんなからすごく評価してもらえることがある。リスナーに求められているのは、組織づくりの専門家としての知見じゃなくて、その専門家が「しょうもないこと」で愚痴ったりしている姿だったりするわけです。

これもまた、世の中のニーズが「最適解」から「人間じゃないとつくれないもの」へと変化しているということなんじゃないかと思いますね。

聞き手・編集:藤田悠

対談の様子(撮影:小野寺智行)

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