【序文公開】組織の成果を最大化する ルールのデザイン
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【序文公開】組織の成果を最大化する ルールのデザイン

2026年7月24日に安斎 勇樹(株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO / 東京大学大学院 情報学環 客員研究員)と水野 祐(法律家・弁護士 / シティライツ法律事務所)の共著『組織の成果を最大化する ルールのデザイン』が発売されました。この記事では、本書の序文を公開します。
※掲載している「はじめに」は、書籍版の内容を一部編集して公開しています。
組織の成果を最大化する ルールのデザイン(Amazon)

【出版記念イベント開催】
「ボトムアップで職場を変えていく」~社内ルールも残業削減も、まずは半径3メートルからできること~
日時:2026年8月9日 16:00〜17:30|オンライン(Zoom予定)|参加費無料
登壇:安斎勇樹、水野祐、沢渡あまね(『定時で成果』著者)
主催:StudyHacker Square
権限がなくても、職場は変えられる。本書第3章「半径3メートルから始めるルールデザイン」を起点に、組織論・法律・業務改善の3つの視点から、明日からできる一歩を語り合う90分です。
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はじめに

あなたの職場で、こんな場面を見かけることはありませんか?

・会議が報告ばかりで、何も決まらない
・稟議を回しても、なかなか承認が返ってこない
・上司が仕事の進め方まで細かく指示するタイプで、しんどい
・若手社員に意見を求めても、表面的な意見しか返ってこない
・部下が〝指示待ち〞で自律的に動いてくれない

「仕事なんてそんなものだ」と、とうに諦めている人もいるかもしれません。仕事はつまらない、上司や同僚、部下はわかってくれない、会社は変わらない──。実は、こうした問題を引き起こしている要因の1つは、「組織のルールがうまくデザインされていない」ことにあるのかもしれません。
 例えば、あなたの所属する組織には、こんなルールがありませんか?

・社内申請のルールが複雑すぎて、小さな備品1つ購入するにも2週間かかる
・新規事業企画を通すにはいくつもの部署の承認が必要になるルールがあるため、スタートアップのスピードに勝てない
・オンライン会議の「上座・下座」を気にして、入室タイミングや画面の位置などが気になり議論に集中できない
・上司より先に帰れないという暗黙のルールがあるため、無意味な残業が発生している

 私たちが「ルール」と聞いて、ネガティブなイメージを持ってしまうのは、こんなふうになぜ存在しているのかわからない、無駄に複雑化していてメンバーの創造性やモチベーションを奪う「謎のルール」が多いからかもしれません。
 しかし一方で、ルールがあるからこそ、効率的かつ円滑に組織を運営することができる側面もあります。市場のさまざまなルールを前提として、競合となる企業と売上や利益を競うことにより、より良いサービスや商品を市場や消費者・ユーザーに届けられるというのです。
 例えば業務時間のうち20%を普段の業務とは異なる業務にあてて良いとするGoogleの「20%ルール」。全従業員に1日20,000ドルの決裁権を与え、顧客が感動するほどの「WOWストーリー」を生み出すリッツ・カールトン。“No Rules Rules”を標榜するNetflixもまた、「ルールをつくらない」というルールを設定していると言えるでしょう。IKEAは「フラットパック(製品を平らに梱包する)」というルールを課すことで、高品質かつ低価格な製品づくりを実現しています。
 また、ビジネス以外の分野にも目を向けてみると、スポーツやゲームには明解なルールがあるからこそ戦略が生まれ、人々を熱狂させます。サッカーやバスケットボール、格闘ゲームや e スポーツにも細かなルールがあり、ルールという制約の中で技術を磨き、健全に競い合うことができるのです。

 個人レベルでも、自分なりの「マイルール」をうまく利用し、限られた時間をよりクリエイティブなものにしている人がたくさんいます。スティーブ・ジョブズが毎日、黒のタートルネックとジーンズを着て、決断するリソースを仕事に集中させていたのも、よく知られていることですよね。「着信以外のスマホの通知を切って、集中が途切れないようにする」「目的地の1駅前で降りて、歩くのを習慣づける」……。身近にいる「仕事のできる人」ほど、こうした自分なりのルールを持っているはずです。
 このようにルールには、「人/組織を縛る」という側面だけでなく、「人/組織のポテンシャルを解放する」という側面があります。

組織とは「ルーティン」の集合体である

 本書では、ルールを人の行動や思考を方向づける規範と定義しています。この定義は、皆さんがイメージするような明文化されたルールだけでなく、職場の慣習や〝暗黙の前提〟個人のマイルールまで含む、少し広い捉え方です。ルールは私たちにルーティン(繰り返される行動や思考の習慣)をもたらします。赤信号を見て立ち止まる。改札で IC カードをタッチする。店を出る前に会計を済ませる。ルールによって社会の構成員である私たちに共通の認識が生まれ、一定の秩序が保たれることにつながります。
 組織においても同様のことが言えるでしょう。同じ組織で働く人が理念や行動規範を共有し、それに基づいて日々の業務を遂行する。そうしたルーティンの積み重ねが、意思決定のスピードを高め、組織としての一体感を育み、日々の業務を円滑に進める組織文化の土台となります。
「組織とは何か」についてはさまざまな議論がありますが、本書では、こうしたルーティンに着目し、 組織を人々の単なる集合体ではなく、「ルーティンの集合体」であると考えます。
 自分たちの組織をより良くすることは、リーダーやマネジャーはもちろん、すべての所属メンバーの願いでしょう。しかし、

・自分の立場や役職では、巨大な組織を変えられる気がしない
・課題が多すぎて何から手をつけたら良いかがわからない
・そもそも課題がわからない

 といった具合に、限界を感じているのではないでしょうか。本書では、具体的な 「ルーティン(=繰り返される行動や思考の習慣) 」に焦点を当てることで、そうした課題をクリアしていく手助けになればと思っています。
 特定の誰かを変えたり、実体が見えにくい〝空気〟を変えようとするのではなく、具体的なルーティンに焦点を当てて組織変革を考えてみよう、というのが本書の視点です。さらに言うと、本書でより注目しているのは、トップダウンで行う組織変革だけでなく、組織のメンバー個人や数人からでも始められるボトムアップを端緒とする「ゆるやかな組織変革」です。

私たちは誰もが「ルールデザイナー」である

 組織変革を実現するためには、組織のルーティンを変える必要があります。そして、ルーティンを変えるために必要なのが、ルールをデザインするという考え方です。本書におけるルールのデザインとは、課題解決や価値創造を実現するため、ルールによって人々の行動や思考を動機づけることを指します。
 前述した通り、ルールには組織レベルのものから、チームレベル、個人レベルのものまで大小さまざまあります。そして、後述するように個人レベルからはじめる小さなルールデザインが、結果的に組織文化を変えることにつながっていくことでもあるということです。

 マネジメント論や組織論において、「組織文化はつくることができない」「組織文化を変えることは困難」と言われるのは、経営陣が号令をかけても組織全体に文化として浸透させていくことが困難だからでしょう。
 目に見えない空気感や〝暗黙の前提〟に満ちた組織文化を直接変えるのは難しいことですが、ボトムアップのルールデザインによって、組織のルーティンをじわじわと望ましい方向に変えていくことはできるのです。

「毎朝7時に起きる」「ベッドルームに携帯を持ち込まない」「毎週土曜は家族全員で夕食をつくる」──。日々の暮らしの中で、私たちは効率よく暮らしたり、生活を豊かにしたりするために、自身のルーティンや周囲とのルールを上手に使っています。反対に「自分はルールにとらわれない」と心に決めている人だって、自らにそういうルールを課していると言えます。この点を見ても人は誰しも「ルールデザイナー」なのです。
 少し記憶をさかのぼれば、子どもの頃、自分たちで決めたルールで遊びに没頭した経験があるのではないでしょうか。「道路の白線だけしか踏めないルールで、どこまで遠くへ行けるか」「手のひらから放たれたビームを『バリア!』と叫べば防ぐことができる」──。そう、かつては皆、創造的なルールデザイナーだったのです。
 組織のルールデザインも、こうした身近なルールデザインの延長線上にあります。私たちに今必要なのは、ルールを「守る」だけの受動的なスタンスから、ルールを「デザインする」能動的なスタンスへのパラダイムシフトです。
「そう決まっている」「偉い人が決めた」ルールにとらわれ、〝ルールの奴隷〟になるのではなく、自らルールデザインのプロセスに参画し、「自分たちらしいルール」を「デザインする」ことで組織の閉塞感を打破し、いきいきと働くための原動力とするのです。

ルールが変われば組織が変わる、社会が変わる

「ルール」と「創造性」──。一見すると相反するように見えるこの2つの言葉は、実は深く結びついています。本書の著者である安斎勇樹と水野祐にとって、この2つは、ごくシームレスに掛け合わされた言葉です。
 安斎は株式会社 MIMIGURI 代表取締役 Co - CEO、および東京大学大学院情報学環客員研究員として、人と組織の創造性を引き出す方法論を、経営と研究の往復を通じて探究し、その軌跡は『冒険する組織のつくりかた』 (テオリア) 、『問いのデザイン』 (学芸出版社) 、『新・問いかけの作法』 (ディスカヴァー・トゥエンティワン)などの著書にまとめています。
 水野は法律家として、法律を含むルールを単なる規制ではなく、物事や社会をより良い方向へ誘導するためのツールとして捉える「リーガルデザイン」の考え方を提唱してきました。その一端は著書『法のデザイン』 (フィルムアート社)などに記しています。水野は MIMIGURI の顧問弁護士でもあり、安斎と水野は以前から「創造的な組織におけるルールのデザイン」をテーマに探究を重ねてきました。
 ルールは私たちを縛り、抑圧するものだという一般的なイメージに対し、ルールを主体性と創造性を引き出すためのツールとして捉え直すこと。ルールは不変のものではなく、つくり、使い、改善し、またつくり直せる可変的なものであること──。本書は、そうした安斎、水野の問題意識が交わったところから生まれたものです。
 本書では次の5つの章で、組織に関するルールデザインの理論と実践を解説します。

  • 第1章:組織文化を変える「ルールデザイン」の可能性──組織の硬直化のメカニズムを考察し、ルールと組織文化の関係性を紐解きます。なぜルールデザインが組織変革の鍵となるのかを、理論や事例で明らかにします。
  • 第2章:ルールデザインの作法───創造的なルールデザインの5つの基本原則と実践の4ステップを解説します。良いルールをつくるための考え方や手法を、具体的な事例とともに紹介します。
  • 第3章:半径3メートルから始めるルールデザイン──個人の「マイルール」からチームの「ローカルルール」まで、現場レベルで実践できるルールデザインの手法と事例を紹介します。
  • 第4章:組織を創造的にするルールデザイン──企業理念や人事制度など、経営レベルのルールデザインを、国内外の先進企業の事例とともに解説します。
  • 第5章:社会にひらくルールデザイン──組織の枠を超え、市場・業界・社会のルールを変えていくための視座と方法論を提示します。

 組織文化をルールデザインの視点から論じた著述・言説は実はまだそう多くはなく、この本に書かれていることはまだその端緒にすぎません。また、組織における過去のさまざまな取り組みが本書の視点によって再発見されることもあるでしょう。本書は「こうすべき」という一方的な主張をするものではありません。むしろ、あなた自身がルールをいままでとは違う形で捉え直し、活用するためのツールとなれば嬉しく思います。また、本書が提示する方法論は、あくまで出発点であり、あなた自身やそのチーム、組織の文脈に合わせてカスタマイズすることを前提としています。

 ルールは、使い方次第で人や組織を縛る鎖にも、創造性を解き放つ翼にもなります。あなたが働く組織には創造力が生まれ、何よりあなた自身がいきいきと働けるようになることでしょう。この本がその第一歩となれば幸いです。

(Composition and Writing Collaboration 大矢 幸世 / X:@saci_happiness note:@saci


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