モヤモヤは「成長痛」のサイン。リフレクションをチームの学びへ変えるコツ|【連載】モヤモヤを活かす組織づくり 第3回
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モヤモヤは「成長痛」のサイン。リフレクションをチームの学びへ変えるコツ|【連載】モヤモヤを活かす組織づくり 第3回

「自分の業務やチームのマネジメントのやり方、今のままでいいのか自信が持てない」「なんとなく仕事に意義を感じられなくない」。そんな漠然とした迷いやモヤモヤを抱えながら、日々の業務をこなしている人も少なくないでしょう。

しかし、成果や効率が重視される職場では、こうした言葉にしきれない違和感や葛藤は、「考えすぎだ」「とりあえず手を動かそう」などとノイズとして蓋をされてしまいがちです。あるいは、ふり返りの場であっても「で、解決策はあるのか?」という空気に押され、モヤモヤをテーブルに乗せることをためらってしまいます。

しかし、こうしたモヤモヤは、決して排除すべきものではありません。今回は、このモヤモヤをチームの学びを促す「成長痛」として捉え直し、それを学びの素材としてどう扱えばよいのかを紐解いていきます。

モヤモヤは、学びの起点になる

まずは、モヤモヤがなぜ学びの素材になるのかを見ていきます。

成人教育学の研究者ジャック・メジローは、大人が深く学ぶとき、それは「これまで自明だと思っていた自分のものの見方が、もはや通用しなくなった」と気づく体験から始まる、と述べています。慣れ親しんだやり方や価値観が通用しなくなったとき、人は強い不安や混乱を覚えます。それがまさにモヤモヤの正体のひとつです。しかしメジローによれば、このモヤモヤは単なる苦痛ではなく、自らのものの見方を問い直し、新しい視点を獲得するための入口になるというのです。

組織変革のトリガーは「痛み」か、あるいは「遊び心」か?

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この適度な葛藤や戸惑いこそが学びを深めるというメカニズムは、他の学習理論にも通じています。

例えば、社員を異業種などに送り出す「越境学習」の研究においても、学習効果の源泉は快適な新しい体験にあるのではなく、むしろ「どう振る舞えばいいかわからない」という葛藤や戸惑いにあると指摘されています。安全で快適な場所にいるだけでは、深い学びは起きません。

『越境学習入門』

『越境学習入門』

この個人の成長において重要なモヤモヤを、チームや組織の学びにどう活かすのか。ここで参考になるのが、組織学習における「ダブル・ループ学習」の観点です。モヤモヤに対して、「どうすればよかったのか?」と即座にやり方の修正や改善策を講じるのは、「シングル・ループ学習」。それに対し、モヤモヤに一旦留まり、「そもそも自分たちは何を大事にしたかったのか」「問題の前提は何だったのか」と価値観まで立ち戻って問い直すのが、「ダブル・ループ学習」です。

ダブル・ループ学習

組織学習はどのようにして進むのか:連載「組織学習の見取図」第3回

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つまり、チームのふり返りでモヤモヤを排除せずに語り合うことは、組織をこのダブル・ループ学習へと導き、前提そのものを変革する貴重な契機になると考えられます。

モヤモヤとは、組織の機能不全を示す単なるエラーや、すぐに取り除くべきものとは限りません。個人やチームがこれまでの殻を破り、新しい価値観へと適応しようとする際に伴う、健全な「成長痛」なのです。

モヤモヤを持ち寄る、チームの「静かな時間」

しかし、モヤモヤを持ち寄れる場をつくるためには前提が必要です。

ここで、安斎勇樹の著書『静かな時間の使い方』を参照して考えてみます。

本書の中では、私たちが外部の規範や評価、期待(ソーシャルノイズ)に過剰適応して自分を見失わないために、それらから一時的に距離を置く「静かな時間」の確保を推奨しています。

私たちを縛る「ソーシャルノイズ」の正体──常時監視社会で手綱を取り戻す

私たちを縛る「ソーシャルノイズ」の正体──常時監視社会で手綱を取り戻す

これをチームに応用すると、チームリフレクションの場とは、日常のKPIや同調圧力といった「ソーシャルノイズ」から一時的に離れる、チームとしての静かな時間と言えるのではないでしょうか。

まず必要なのは、場を設計するファシリテーターやマネージャーがモヤモヤを歓迎する姿勢を、意図的に先に示すことです。

「うまくいったことだけでなく、わからなかったことも持ち寄っていい」
「正解がなくても語っていい」

という空気は、誰かが率先してつくらなければ、自然には生まれにくいものです。

マネージャーやファシリテーターがモヤモヤを歓迎する姿勢を示す

また、こうした場面では、不確実で割り切れない状況の中にあっても、安易に答えを急がず、そこに留まり続ける「ネガティブ・ケイパビリティ」の発揮が求められます。組織論の文脈では、性急な判断を控えて状況を深く吟味し続ける「熟慮的な不作為」とも言われます。

ファシリテーターやマネージャー自らが「実は、この件についてはまだ整理しきれていないんです」などと、あえて自身のモヤモヤを先に自己開示する。そして「すぐに解決策を探るのではなく、この分からなさをもう少し味わってみませんか」と、不確実性に耐える背中を見せる。こうした働きかけが、チームに問いを抱き続けることの価値や「このレベルで語っていいんだ」という手触り感のある安心感を醸成し、ひいては心理的安全性を育む力学として機能していきます。

すぐに答えを出さないトレーニング手法

チームの空気が少しずつモヤモヤを受け入れられるようになってきたら、次に大事になるのは、誰かがモヤモヤを語り始めたときの周囲の対応です。

ここで陥りやすいのが、「では、どうすればよかったのか?」という解決策を急いで出してしまうことです。これを防ぎ、対話を構築していくための実践方法の一例として、心理学者であるロイス・ホルツマンのソーシャル・セラピーの手法を紹介します。

“アメイジング・サイレンス”

一つは、「アメイジング・サイレンス」です。これは、ホルツマンの理論をビジネス現場に応用しているコンサルティングファーム(POAL)の実践手法の一つで、相手の話を聞いた後、あえて10〜15秒(実際には3〜5秒でも構いません)の沈黙を置き、すぐに解決策や反論を提示しないという身体的なアプローチです。私たちは相手が話している最中に、すでに次に言いたいことを考え、発言を重ねてしまいがちです。沈黙の時間を置くことで、反射的に応答してしまうことを断ち切り、すぐ改善策を出すことを防ぐことができます。

“Yes, And …”

二つ目は、「Yes, And」で対話を構築することです。日常の対話では「Yes, But(でも、それって…)」と相手の提案を否定しがちですが、これを「Yes(そう感じたんだね)」と相手の現実を受け止め、「And(だったら、どういう状態が理想だろう?)」と新しい要素を付け加え、問いを積み上げていきます。これにより、対話は単なる情報の受け渡しだけではなく、共創による意味の創造へと変容していきます。

モヤモヤを「問い」に変える

モヤモヤにすぐ答えを出さないことに慣れてきたら、次に大事になるのは、持ち寄ってモヤモヤをどのように「問い」へ変えていくかです。

モヤモヤをそのまま吐き出すだけでは、場が発散するだけで終わってしまうこともあります。そこで活用できるのが、ふり返りのフレームワーク「KMQT(ケモキュート)」です。これは、ふり返り手法でよく使われるKPT(Keep・Problem・Try)の「Problem」の部分を「Moyamoya」と「Question」に分解した手法です。モヤモヤをまずチームで共有し、次のステップでそのモヤモヤを探究的な「問い」へと変換していきます。解決策を急ぐのではなく、

「このモヤモヤの正体は何だろう?」
「なぜ自分たちはここに引っかかったんだろう?」

このように、モヤモヤを感じた背景にあるものを探っていくつもりで問いを立てることが、学びの起点になります。

ふり返りのフレーム「KMQT(ケモキュート)」

モヤモヤのベクトルを“他者”ではなく“自分”へ向ける

このとき、モヤモヤのベクトルをどこに向けるかも重要です。『静かな時間の使い方』の書籍では、モヤモヤしたときに他者(=放火犯)を責めるのではなく、ベクトルを自分の内側に向け、自分の内側にある価値観や傷(=火元)を探ろうという話が紹介されています。きっかけは他者の言動であったとしても、それに反応してモヤモヤした理由は、自分自身の内側にあるからです。

「あの人のあの発言、なんか嫌だったな」という他者に向けたモヤモヤを、「なぜ自分はあの発言にモヤモヤしたんだろう?」と自分の内側に向け直してみる。そうすると、「自分たちはこういうことを大切にしたいと思っていたんだな」という自分たちの価値観への気づきが生まれやすくなります。

モヤモヤのベクトルを「他者」ではなく「自分」へ向ける

そして、チームの中でそういった語り合いができるようになってくると、「あの人はそういう考えを大事にしていたからこそ、あの判断をしたのか」という相互理解が生まれ、過去の出来事への納得感につながります。そしてその納得感があってはじめて、「だったら次はこうしてみようか」という次にやってみたいことが、義務感からではなく自分たちの中から自然に湧いてくるようになるのです。

これは、先ほど紹介したふり返りのフレームワーク「KMQT」の「T(Try)」に当たるものとも言えます。「自分たちにもできそう」「やってみたい」と思えるTryが自然と出てくることが、チームの学び、成長へとつながっていきます。

チームのふり返り:KMQT(Keep/Moyamoya/Question/Try)|Miroverse

モヤモヤをチームの「衝動」へと育てていく

リフレクションの場で、「次からこうしよう」という改善策を出せば、その場はいったん収まります。でも、それ以降も同じような問題がくり返されてしまうとき、起きたことの背景にあるチームの暗黙のルールや自分たちの物事の捉え方に原因がある場合も少なくありません。

「そもそも、なぜそうなったのか?」
「自分たちは何を大事にしたかったのか?」

このように、一歩踏み込んだ問いを立ててリフレクションをしていくことが求められます。

メジローが言うように、深い学びは、価値観の枠組みが揺さぶられている時間を経てこそ起きるものです。モヤモヤとともにしばらく留まることで、自分でも気づいていなかった前提や価値観が、少しずつ言葉になっていきます。

さらに言えば、モヤモヤには、まだ問いにすらなっていない問いの「種」が眠っていると言えます。それを性急に解決策へ向かわせてしまうと、問いの種が芽吹く前に摘み取ってしまいかねません。答えの出ない状況に留まり続ける力、すなわち「ネガティブ・ケイパビリティ」をチームで少しずつ育てていくことが、新たな探究の出発点になっていきます。

『静かな時間の使い方』の書籍では、リフレクションには「分析的リフレクション」と「物語的リフレクション」の2つのモードがあることが紹介されています。「分析的リフレクション」は、成果への要因を論理的に分析し、改善や再発防止を図るもの。一方、「物語的リフレクション」は、自身の経験に感情的にしっくりする意味づけを見出し、納得感を醸成して、前向きに捉え直すためのものです。

分析的リフレクションと物語的リフレクション

職場のふり返りが重苦しい「反省会」へと陥りがちなのは、外部の評価軸に即した効率性や正解を求める「分析的リフレクション」に偏りすぎているからかもしれません。あえて、モヤモヤを共有し合うことは、「物語的リフレクション」としての対話の入口になっていきます。

これは、起きた問題を早く治すべき「病気」として裁くのではなく、チームが次のステージへ進むための「成長痛」として味わい、意味づけしていくプロセスとも言えます。そのプロセスを丁寧に辿ることで、改善策を出すだけのリフレクションでは得られなかった「次にこれをやってみたい」という純粋な衝動が、チーム内に芽生えてくるはずです。


もちろん、「この場でモヤモヤを話しても大丈夫だ」という安心感がチームの中に醸成されてくるには、それなりに時間がかかる場合も少なくないでしょう。それでも、日常の中にモヤモヤを出し合い、問いに変える対話の場をつくってみることが、チームの学びの起点になるとしたら、ふり返りの場への期待の置き方も、少し変わってくるのではないでしょうか。

参考文献

  • 安斎勇樹, 静かな時間の使い方──自分の解像度を上げる「独りの施策」の全技法, 朝日新聞出版, 2026
  • Mezirow, J., Transformative Dimensions of Adult Learning, Jossey-Bass, 1991
  • P. Simpson, R. French, and C. Harvey, Leadership and negative capability, Human Relations, 55(10), 1209-1226, 2002
  • Holzman, Lois. The Overweight Brain: How Our Obsession with Knowing Keeps Us from Getting Smart Enough to Make a Better World. East Side Institute Press, 2018.
  • ロイス・ホルツマン(編訳・岸 磨貴子 他), 「知らない」のパフォーマンスが未来を創る:知識偏重社会への警鐘, ナカニシヤ出版, 2020
  • Skip Prichard, 5 Fundamentals to Achieve Peak Performance(https://skipprichard.com/5-fundamentals-to-achieve-peak-performance/ ), 2016
  • 瀧 知惠美, "もやもや"を問いに変えるふり返り『KMQT(ケモキュート)』で、チームのイシューを探り、メンバーの関係性を育む, note(https://note.com/takichi/n/n712238cd25ac), 2025

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