欧米のターンアラウンドモデルは、なぜ日本の中堅・中小企業では機能しないのか
経営変革に迫られたとき、多くの経営者が手にするのはコッターの「8段階の変革プロセス」に代表される、欧米発の組織変革論です。「危機意識を高め、強力な推進チームを作り、ビジョンを掲げ、施策を推進する」といった方法論は、一見妥当性が高そうですが、中堅・中小企業の現場で試みようとすると、取り組みづらい部分もあります。
通常の組織変革よりも短期間での業績回復が迫られるため、ターンアラウンドに関しては尚更です。欧米企業向けのターンアラウンドの教科書には、しばしば「リストラを断行する」という方法が最初のステップとして登場します。しかし日本では、法制度的にも文化的にも、それは容易ではありません。特に、中堅・中小企業では祖業を守ってこられたオーナー経営者の方も多いと思いますが、このような経営者の方々が、変革時に「まず人を整理するところから変革を始めよう」と考えることはほとんどないでしょう。
日本では、M&Aによる事業再構築もここ数年で増えてはいるものの*1、文化的なアンマッチや統合コストの高さから、簡単に使える手段ではありません。外部から「プロ経営者」を採用しようとしても、地方の中堅・中小企業では人材採用自体が極めて難しい状況です。新規事業開発リーダーを外部招聘するコストを計算すれば、「その予算で別のことができる」と躊躇する経営者も多いのが現状でしょう。
つまり、日本の中堅・中小企業には、欧米型の「外から資源を調達して外科手術的に会社を変える」というアプローチが採用しづらいのです。
ではどうするか。答えはシンプルで、「今ある資源や、今いる人材を最大活用する軌道を立てる」しかありません。筆者が所属するMIMIGURIが提唱するのは、それを可能にする方法です。私たちは、それを「“ファシリテーション”によるターンアラウンド」と呼んでいます。

変革が止まる本当の理由——「適応課題」という視点
組織の中の課題には、「技術的問題」と「適応課題」と呼ばれる2つの課題が存在します。技術的問題とは、解決方法が明確で、既存の知識や技術を用いて、解くことができるものです。一方、適応課題とは、問題の当事者自身が認識や関係性を変えなければ解けない課題のことを指します。現代の組織・経営における課題の多くは、この適応課題の性質を帯びています。

組織の中で適応課題が生まれるとき、そこには3種類の「ズレ」が潜んでいます。
1つ目は、意味のズレ。「来期のミッションはこれでいくぞ!」と共有しても、その言葉が指す内容が、経営者と現場で食い違っているようなケースです。2つ目は、期待のズレ。自分が担うべき役割だと思っていることと、周囲から期待されている役割が、微妙にすれ違っているような状態です。3つ目が動機のズレ。変革に向かう意図やコミットメントの深さが、関係者の間でバラバラになっているような場合です。
これらは、「人間の内面や関係性に関わるズレ」とも言えるでしょう。こうしたズレには、「正しい戦略を立てれば解決する」という技術的アプローチでは歯が立ちません。私たちが「“ファシリテーション”によるターンアラウンド」と称しているのは、まさにこのズレを丁寧にほぐしていくことを、変革の中心に置いているからです。

「危機感」ではなく「効力感」に火をつける——9ステップのプロセス仮説
では、ファシリテーション型のターンアラウンドは、具体的にどのようなプロセスをたどるのでしょうか。
これまでに伴走させていただいた複数のプロジェクトから帰納的に導いたのが、下記の図に示す、3工程・9ステップのプロセスです。

第1工程「解凍と直視」では、①経営者の武装解除、②ファクトベースの分析、③止血の意思決定、という3つのステップを踏みます。
この段階は、まず、経営者が “正解を持つ人” という鎧を脱ぎ、“不都合な事実”を直視する「経営者の武装解除」から始まります。“不都合な事実”とは、「このままの減収が続けば、数年後に倒産する」といった、目を背けたくなるような経営数値の記録や予測です。「自分の失敗と思われてしまうのでは」という恐怖感から直視することを躊躇する経営者は少なくありませんが、それを乗り越えることが変革のスタートを切る上で非常に重要です。
経営者の武装解除に関しては、「エグゼクティブ・ファシリテーションとは何か?」でも語られていますので、合わせてご覧ください。
次に、「ファクトベースの分析」です。中堅・中小企業では日々の意思決定が属人的な勘頼みになっていることも多く、必要に応じて、まずデータや現場の声などを集めて整理するところから始めます。
そのデータをもとに、何をやめるかを決める「止血の意思決定」へと進みます。不採算事業や慣習化してしまっている取引の見直しは、聖域への配慮から先送りされがちですが、この段階で踏み込むことが重要です。

第2工程「探索と実験」では、④ビジョンの再構築と提示、⑤変革リーダーの抜擢、⑥経営管理手法の刷新、を行います。
まず、「ビジョンの再構築と提示」では、課題が解消された、新たな未来像について、経営者が自分の言葉で、痛みも希望も含めて包み隠さず語ることが求められます。ただ、現場からは「また始まった」「どうせ変わらない」というしらけた反応が返ってくることも少なくありません。そこで注目したいのが、「変革リーダーの抜擢」です。
社長1人が変革の旗を振り続けるだけでは、変革のスピードが途中で失速してしまいます。自分以外の人間を変革リーダーとして抜擢し、社長1馬力以外で回せる状態を早期につくることが、変革を組織全体に広げていく上で必要不可欠です。「そんな人材はいない」という声もよく聞きますが、基本的に抜擢前に必要な技術が備わっているケースはほとんどありません。ここは勇気をもって抜擢し、「何をすれば抜擢したリーダーが活躍できるか」を一緒に考えていくようにしましょう。
また、ビジョンを掲げても、変革の進捗が経営者に見えていなければ、適切な意思決定や現場へのフォローができません。変革が進んでいることを経営者が「見える化」できるように、経営管理手法——情報の集まり方やレポートラインなど、経営上の意思決定をスピーディーに行う仕組み——を刷新することも、この工程の核心です。

第3工程「再凍結と拡大」では、⑦成功体験の支援、⑧全社的な意味づけ、⑨投資の決定(トラッキング整備)を行います。
「成功体験の支援」とは、現場に小さな成功体験が生まれるまで、経営として支援し続けることを指します。よくある失敗は、変革を現場に任せきりにした結果、成果が出る前に息切れしてしまうパターンです。大きな成功でなくても構いません。既存のリソースを組み合わせて小さく実験し、まず「できた」という感覚を積み重ねることが重要です。
そうして小さな成功体験が生まれてきたら、それを「この会社にとってどんな意味があったのか」と全社的な主語で意味づけし、振り返ります。成功を個人や部門の手柄にとどめず、組織全体の学びとして共有することで、次の挑戦への推進力が生まれます。
こうした実験と意味づけを繰り返し、勝ち筋が見えてきたら、何に投資するかを経営として決定します。その際、撤退基準や見直しの基準をあらかじめ明確にしておくことで、意思決定のリスクを抑えることができます。

ここまで説明してきたターンアラウンドのプロセスは、危機感を煽るトップダウン型の変革ではありません。「自分たちにもできる」という効力感に火をつけ、現場とともに歩む変革です。今回紹介した9ステップは、そのための見取り図として機能します。
「抵抗勢力」という見方を捉え直す——変革時に各階層が見ている景色
9ステップを実践しようとするとき、気になるのが「抵抗勢力」の存在ではないでしょうか。私もよく相談を受けることがありますが、この言葉には注意が必要です。というのも、一口に「抵抗」と言っても、その背景にある心理はフェーズや立場によってまったく異なるためです。各階層が変革のどの段階で何を感じているかを理解しておきましょう。
たとえば、「解凍と直視」の段階では、各階層の不安が色濃く出ます。経営者は過去を否定されるような葛藤から防衛本能が働きやすく、一般社員は雇用・給与への不安や経営への疑心暗鬼を抱えています。既得権益を持つ層の警戒心も強く、変化そのものへの抵抗として表れやすい時期です。
「探索と実験」の段階になると、今度は中間層の疲弊が目立ち始めます。変革リーダーは板挟みによる孤立感と実務負荷の増大に疲れ始め、経営者も「何も変わっていないのでは」という焦燥感から現場に介入したい衝動に駆られます。一般社員は懐疑的でありながら、貢献したいという気持ちも同時に抱えています。
「再凍結と拡大」の段階に入ると、景色は一変します。経営者は「もう自分がいなくても組織が回るかもしれない」という複雑な解放感を覚え、変革リーダーにはフォロワーが増えたことへの安心感が生まれます。現場社員には「自分たちの提案で会社が変わった」という自己効力感と仕事への誇りが育ち始めます。
こうした景色の変化を踏まえると、抵抗をただ封じ込めようとする発想では変革が前に進まないことがわかります。「抵抗勢力」に見えている人たちも、実はフェーズごとに異なる不安や葛藤を抱えているだけです。重要なのは、その心理を踏まえた上で、各階層への「期待役割」をフェーズごとに意識的に変えていくことです。
このフェーズ別の役割変化を意識できないまま変革を進めると、経営者がいつまでもトップダウンを続けることで変革リーダーのモチベーションが削がれたり、現場社員が「成果を出しても自分のキャリアに返ってこない」と感じたりして、離れていきます。「抵抗勢力」に見えていた人たちも、フェーズに合った関わり方ができれば、変革の大きな推進力になりえます。
変革を「自社らしく」設計する
さて、ここまで、9つのステップを紹介してきましたが、最後にお伝えしたいこととして、この記事をご覧になっていただいた皆さんに、このプロセスをそのまま適用してほしいわけではありません。
変革が迷走してしまう組織に多いのが、手順だけを真似した見切り発車です。何となく動き始め、全員が手探り状態のまま混乱し、結果「やっぱりやめましょう」となる場合のコストは甚大です。そのため、変革の初期段階で経営チームが時間をかけて「自社らしい変革プロセスとは何か」を対話し、設計することが、何より大切です。
組織変革やターンアラウンドの必要性を感じているという方がいらっしゃいましたら、まずは自社らしい変革プロセスを話し合うところからぜひ始めていただきたいと思います。
本記事で紹介したターンアラウンドのプロセスの背景にある考え方や、実践的なポイントの詳細は、MIMIGURIのホワイトペーパー「中堅・中小企業のためのターンアラウンド」にまとめられています。
急速な外部環境の変化や後継者問題など、事業の継続性に課題を抱える中堅・中小企業の経営者・マネジメント層の方に向けて、ターンアラウンドの定義から実践的なポイントまで、株式会社MISHへの伴走事例をもとに具体的に解説しています。
無料でダウンロードいただけますので、ぜひご活用ください。
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*1 参考:日本企業が関わったM&A(合併・買収)の件数は、前の年度比11%増の4704件と過去最多( https://www.nikkei.com/article/DGXZQOTG070BB0X00C25A4000000/ )



