急成長するスタートアップは、どのようにCIをリデザインしたのか〜ツクルバ共同創業者中村氏が語る実践知〜
急成長するスタートアップは、どのようにCIをリデザインしたのか〜ツクルバ共同創業者中村氏が語る実践知〜

急成長するスタートアップは、どのようにCIをリデザインしたのか〜ツクルバ共同創業者中村氏が語る実践知〜

2020.12.07/12

コーポレート・アイデンティティ(以下、CI)は一般的に、組織が目指していることや大切にしていることを、社員に共有するためにつくられ、ミッション、ビジョン、バリューといった言葉で構成されます。組織の求心力となるCIの存在は、Jカーブを描くように急成長・急拡大しているスタートアップでは特に重要です。社員が増えていくプロセスに合わせた、組織デザインはどのように行われているのでしょうか。

CULTIBASE Labが主催する「スタートアップゼミ」(2020年11月より「マネジメントゼミ」に改名)の第4回では、まさに急成長を遂げているデザイン・ビジネス・テクノロジーをかけあわせた場の発明を行う不動産スタートアップ・株式会社ツクルバの代表取締役ファウンダー中村真広氏をゲストとしてお招きしました。

ツクルバの事業は、ミッションである「場の発明を通じて欲しい未来をつくる」に紐付いて展開されています。働く “場” としては、コワーキングスペース「co-ba(コーバ)」を始め、スタートアップのためのオフィスサービス「HEYSYA(ヘイシャ)」や、メルカリ・日本交通といった企業のオフィスのデザインなど空間プロデュースもしています。

住む “場” としては、中古・リノベーション住宅の流通プラットフォーム「cowcamo(カウカモ)」事業を行っています。東京に多くある中古マンションをリノベーションし、市場に再び流通させ、個人ユーザーに効率的でスムーズな購入・売却体験を提供しています。それに加え、リノベーション再販事業を行う不動産会社にも情報を提供し、マーケットデータを活用した物件プロデュースをすることで、生活者視点から都市居住の在り方を変えることを目指しています。

今回は、ツクルバが昨年(2019年)の上場を機にプロジェクトのスタートをし、2020年8月に刷新したCIのリデザインについて、本ゼミの主催者であるミナベトモミ、モリジュンヤも交えて話しました。

目次
CIの “賞味期限” が切れていると感じたきっかけ
会社の在りたい姿へ向けてミッションを起点に言葉を紐付ける
ロゴリニューアルのプロセスにも “ツクルバらしさ” を
ツクルバがひとつの人格として手離れしていった


CIの “賞味期限” が切れていると感じたきっかけ

2011年に共同創業者の村上浩輝氏と中村氏のふたりでツクルバを創業し、co-ba shibuyaを立ち上げた後、2015年にカウカモを始めて「言語化の壁」にぶつかったといいます。

中村:創業当時は、共同創業者である村上と自分のふたりだけだったので、言語化しなくても会社の在り方が共有できていました。カウカモを始めた2015年、社員数が約15人のとき、組織をつくっていくために、ミッション・ビジョン・クレド(行動指針)を言語化したんです。

ツクルバは、2015年当時のミッション・ビジョン・クレドを拡大解釈して、2019年まで突っ走ってきました。しかし、事業や社員数が急激に拡大するプロセスにおいて、「組織の縦と横の繋がりの壁」にぶつかるようになったそうです。

中村:社員数100人を超えたあたりからトップとメンバーの距離が離れていきメッセージが伝わりづらくなる “縦の成長痛” 、人の顔と名前が一致しなくなり一体感が失われてしまう “横の成長痛” を感じるようになりました。創業者の2トップでフラットな組織体制から、階層化してマネージャーを置くと、社員全員に同じ言葉が当てはまらなくなって、ビジョン・クレドの賞味期限が切れたんです。

加えて、上場を目指していると、やらなければいけないこと(doing)だけに捕われてしまう時間が増えました。想いがついてこないので、行動に体重が乗らなくなっていったんですよね。

2019年7月に東証マザーズに上場し、ますます勢いが加速する中、理念を再構築して組織の空気を温め直そうと、中村さんは決意しました。

中村:上場したタイミングで、“変わるために変わらないものを確かめる” ため、コーポレート・アイデンティティをリデザインすることを決めました。法人格としての在りたい“being”に向き合おうと。

会社の在りたい姿へ向けてミッションを起点に言葉を紐付ける

リデザインされたツクルバのコーポレート・アイデンティティは、MISSION・VISION 2025・TSUKURUBA 3VALUES・ロゴで形成されています。MISSIONはリデザイン後も変わらないもの、VISION 2025は2025年の在りたい姿、TSUKURUBA 3VALUESは行動指針、ロゴはMISSIONをビジュアル化したものと位置付けました。リデザインの過程では、一つの会社に集いたい理由を言語化し、社員が共感して参加する状態をいかにつくるかを重視したそうです。

中村:今回のリデザインでは、MISSIONである『場の発明を通じて欲しい未来をつくる』以外の要素はすべて変えました。ただし、新しいものを入れたというよりは、創業から今まで大切にしてきたものを自分たちで発見して、デザインし直した感覚です。MISSIONは、全員で共通の理解ができるように、抽象的な言葉は表現を開いて記述しています。

創業時から大切にしてきたMISSIONを中心に据えて、VISION 2025・TSUKURUBA 3VALUESの策定に考えを広げていきました。中村氏は、言葉をつくるときにDoingとBeingの2つの軸を意識していたといいます。

中村:ミッションを起点に、それを形にする “Doingのパワー” 、どういう願いを持っているのか=“Beingのパワー” の両ベクトルの先に、5年後の姿と根源的に大切にしていることを紐付けていきました。ミッションの先にはビジョンがあり、ミッションを通じて何を達成するのか、どういう企業になるのかを戦略に落とし込んでいきました。3VALUESはビジョンを実現するために必要なものとして、仕事の基本の “基” となる言葉にしました。ロゴはミッションに紐づくものとしてDoing と Beingの交差点として置いています。

新たなコーポレート・アイデンティティは、過去と未来と繋ぎ合わせて目の前の課題へ対応するために、実効的な理念体系に進化させたいという狙いで組み上げていったと中村氏は説明します。

中村:理念体系としては、まずミッションの手前にあるWhy=Founders’ statementが、自分たちがどこから来たかを示します。Whyから始まって、たどり着きたい方向に掲げたのが「やがて文化になるリーディングカンパニー」という2025年に在りたい姿です。ビジョンを目指すための発射角度をバリュー、中期計画で支えるという構造に落とし込んでいきました。

Being=Whyにあたる「場には人生を肯定する力がある」は、創業して8年目に中村氏が自分と向き合ったことで生まれた言葉でした。

中村:当時組織が拡大期で代表らしくいなきゃいけないと思ったり、家庭でもちょうど娘も生まれたことで関係性が変わったりして、公私ともに壁にぶつかっていたんです。自分のメンタルモデル※に向き合い、相方の村上と話すなかで生まれてきたのが『場には人生を肯定する力がある』という言葉でした。それを証明したくて、ツクルバを経営しているということを改めて言語化できたんです。」

※誰もが無自覚に持っている「自分は/世界はこういうものだ」という人生全般の行動の起点になっている信念・思い込み(引用:http://mentalmodel.jp/)

中村氏はビジョンやWhyなどの言葉をつくる際、リデザイン前に課題と感じていた組織の “求心力” のバランスを意識したと話します。具体的にどのように反映されているのでしょうか。

中村:組織が掲げる言葉において、求心力と遠心力のバランスをとることを意識しました。そもそも理念というみんなで共有する言葉は、図らずとも求心力を持ってしまうものではあります。その求心力が強くなりすぎると、みんなの思考が型にはまってしまう弊害もある。求心力が強いというのは、意思統一ができているということなんですが、いきすぎるとその枠から外れることを恐れて意見を言いにくくなるんです。

なので、今回のリデザインは求心力が強くなりすぎないように、WhyやMISSIONは解釈の余地がある比較的遠心力がある言葉、VISION 2025はコトに向かうための求心力となる言葉にし、全体としてバランスがとれるようにつくりました。

ロゴリニューアルのプロセスにも “ツクルバらしさ” を

リニューアル前のロゴは、創業者の専門性である「Business」と「Architecture」を表現したもの、つまり創業者ふたりのロゴでした。今回リデザインする際には、社員みんなを表すロゴにすることで、これからのツクルバを象徴するものに変えました。未来のツクルバでも、変わらない使命をあらわすロゴへアップデートしたいと考えていたそうです。

最終的にできたロゴは、ボトムアップでつくられたロゴリニューアルプロジェクト委員会が主導してつくられました。委員会は、中村氏が経営陣や外部のデザイナーとつくったロゴが社内で大反対をされたところから始まります。

中村:経営陣と外部のデザイナーでつくったロゴの初期案があったんですが、社内でお披露目をしたときに大反対されたんです(笑)。みんなのロゴにしたいと思って、僕らなりに進めたけど、違った。みんなからたくさんの意見をもらって、それだけ想いを持っているならと思い、メンバーに主導権を持って進めてもらうことにしました。

▲ロゴリニューアルプロジェクトの映像のひとコマ。映像はこちらからご覧いただけます。

ロゴリニューアルプロジェクト委員会は、所属チームや職種の異なる5名で構成され、株主やお客さん、ユーザーの方など外部の方も含めたワークショップなどを行い、進めていきました。他にも外部を意識して、デザインを社外の人に依頼したり、ワークショップの様子をnoteで発信したりと工夫していたそうです。その背景には、プロセスにツクルバらしさを反映させることだけでなく、他にも理由がありました。

中村:ロゴをつくるプロセスを通じて、社外の方と共創する=『半開き』というツクルバらしさを表現しながら、パブリック・リレーションズとしてのプロジェクトにしたかったんです。ツクルバで大切にしている想いを知ってもらい、未来を一緒につくる仲間を集める機会にしたいと考えていました。あとは、内側だけでつくると、自分たちの中だけでしか伝わらないロゴになってしまって、外部に伝わりにくくなってしまうのではないかと。

中村氏によるプレゼンの後、実際にロゴリニューアルプロジェクトのワークショップに参加していたモリ氏は、社員や外部のメンバーが「ツクルバはこういう会社で、こうしていきたい」という希望を熱量高く話しているのが印象的だったと明かします。

モリ:参加者の熱量が高いほど、委員会のメンバーたちはその想いを背負うので、「自分たちが決めていいのか」という葛藤も垣間見えて。僕は「納得感を醸成するためにやってるんだっけ?」という問いを投げかけました。みんなの代表として委員会として活動をしているんだから、自分たちが信じることを決めなきゃいけないんだってことを伝えたいなと。

▲左・リニューアル前の創業者ふたりをイメージしたロゴ/右・リニューアル後のロゴ

ツクルバがひとつの人格として手離れしていった

ミナベが「CIが再定義された後に、コロナ禍に突入して、組織はどんな形になったのか?」と尋ねると、中村氏は「『組織崩壊』することなくトップとメンバーが一致団結できたのはリデザインを経たからこそだ」と答えました。

中村:新しいCIは、オンライン会議で2月に発表しました。コロナ禍で物理的に離れていてもみんなから熱意を感じましたし、旗印となるCIのもとに集まるような結束力があったんですよ。

コロナ禍でトップダウンで動いたこともあったんですけど、ボトムアップでコロナの状況に対応したビジネスプランを出すような動きもありましたし、どちらも、ロゴや新たな理念体系を共創したプロセスがあったからなんじゃないかと思っています。

リデザインのプロセスのゴールを “親離れ・子離れ” と中村氏は表現します。ツクルバを自分と同一視せず、法人格として捉えられるようになり、持続可能な企業へ成長させるという夢へ一歩近づいたといいます。

中村:自分たちが創業した会社でもあり、旧CIもその当時につくったものだったので、自分=会社になっていた。それが、リデザインを経てひとつの人格として手離れしていった感覚があります。「自分たちの寿命を超える企業体を残したい」という構想を村上ともよく話しているので、夢へ一歩進んだ気がします。自分は自分のライフミッションを持ち、ツクルバはツクルバという法人格としてMISSION・VISIONを持ちつつ、それぞれが親離れ・子離れをして成長することが大切だと思います。

今はCIをつくったばかりなので、絵に描いた状態。しっかり運用していかなければ、すぐに賞味期限が切れてしまいます。つくることと運用することは全然違う性質を持っていますから、CIをいかに浸透させ続けるか、引き続き模索しながらチャレンジしていきたいですね。

中村氏は「組織だけではなく人の集団や群れでも、ひとつの場に集いたいと思う理由を言語化し、共感して参加する状態をつくることが重要」という言葉で、イベントを締めくくりました。

CIを形成する言葉は、一般的にミッション・ビジョン・バリューとありますが、企業によってその存在意義は異なります。まずは、それぞれにどういった役割を持たせるかを決め、決める過程に組織文化を表現するような方法を考えるところから始めるのがいいのでは、と考えるきっかけとなるイベントでした。


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執筆:外山友香
編集:村上未萌

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