かけがえのない個人の幸せがすり減らない、ネットワーク先行の組織づくりのためにできること――文化人類学者・小田亮さん、スマイルズ代表・遠山正道さん対談(後編)
かけがえのない個人の幸せがすり減らない、ネットワーク先行の組織づくりのためにできること――文化人類学者・小田亮さん、スマイルズ代表・遠山正道さん対談(後編)

かけがえのない個人の幸せがすり減らない、ネットワーク先行の組織づくりのためにできること――文化人類学者・小田亮さん、スマイルズ代表・遠山正道さん対談(後編)

2021.01.25/10

2020年秋に上梓された『スマイルズという会社を人類学する-「全体的な個人」がつなぐ組織のあり方』は、“未来型”と称されることの多いユニークな会社・スマイルズの組織構造を、人類学的な手法で解体する一冊です。人類学と組織論・経営論がブリッジするこの本は、未来のよりよい会社のあり方を考える上で、とても示唆に富んだ内容となっています。

今回CULTIBASEでは、本書の発刊に合わせて、著者の一人である文化人類学者の小田亮さんと、スマイルズ代表取締役社長の遠山正道さんの対談を企画しました。スマイルズという組織を人類学的に考察する小田さんと、その鋭い視点に触発されて言葉を紡ぐ遠山さん。二人の言葉が折り重なった先に、果たしてどんな「組織の未来像」が見えてくるのでしょうか。

前半は、共同体におけるシステムとネットワークの役割や、自律的な組織を目指す上でカギとなる概念「全体的個人」とはなにかについて伺いました。後編となる今回は、前編の考察を引き継ぎつつ「よりよい組織となるために、何を守り、何をエンパワーメントしていくべきか」といった具体の方法論について言及していきます。

目次
システム偏重な組織に必要な「雑」なるもの、そこから芽生える「背もたれの幸福」
「全体的個人も、ネットワークも、人為的にはつくれない」――ならば、よりよい組織づくりのために、何ができる?
組織やシステムに依存しない。代替不可能な個人が「社会的私欲」でビジネスの主体になる時代へ


システム偏重な組織に必要な「雑」なるもの、そこから芽生える「背もたれの幸福」

小田:近代的な資本主義の思想に寄ったシステムが、全体的個人の居場所を奪っていることは明白です。しかしながら、そのシステムをぜんぶ壊せばいい、という話にはなりません。組織が大きくなればなるほど、円滑な運営のためにある程度のシステムは不可欠になってきます。そこで私たちが考えるべきは、システムの操り人形にならないよう、どう“雑”な要素を混ぜていくか、なのだと思います。

遠山:雑な要素、ですか。

小田:20世紀は「旧来的なシステムから脱却しよう」とさまざまなアプローチがされましたが、結局は違うシステムが生まれて吸収されるだけ、という失敗を繰り返してきました。その反省を生かし、これからは「現状のシステムの中に“雑”な要素を巣食わせて、全体的個人でいられるようバランスを取る」ためのアプローチを取っていくべきなのでしょう。

その“雑”とは、全体のシステムからすれば、ノイズと見なされるようなこと。すなわち、効率や生産性にとらわれない一人ひとりのユニークさ、そこから立ち上がる「個人の衝動、周りから言われなくても勝手にやってしまうこと」だったりする。スマイルズでは、そうした“雑”な要素を切り捨てず、むしろ奨励して、積極的に組織に取り入れていますよね。

遠山:そうですね。言うなれば、我々は“雑だらけ”の組織かもしれません(笑)。

小田:その雑さがシステムの中に張り巡らされているからこそ、スマイルズには効率や利益を盲目的に追い求めない文化が根付いているのだと思います。それは言わば「システムを飼いならしている」とも表現できる状態です。

遠山:食われないように、飼いならすと。とてもイメージがしやすいですね。システムに食われてしまうと、自分に「1/1の人生」があることを忘れがちになる気がします。誰のため、何のために生きているのか、そもそもの自分の幸せの在り処を、見失ってしまう。

コロナ以降、社員に「自分の幸せは自分で設計しよう」という機会が増えました。幸せの設計って、会社や社会、他人の尺度に依存しなくていいんです。1万人の組織、数百万人の共同体の幸せの設計なんかは大変だけど、自分ひとり、1/1を満たすことは、本来そんなに難しくないことのはずで。それを充足させる要素は、誰にとっても分かりやすいものではなくて、かなり“雑”なものだと思うんですよね。

写真左:株式会社スマイルズ 代表取締役社長 遠山正道さん
写真右:首都大学東京・都市教養学部人文社会系社会人類学分野前教授 小田亮さん

小田:なるほど。

遠山:そうそう、雑な幸せと言えば、最近「背もたれの幸福」に気づいたんです。

小田:背もたれの幸福?

遠山:数か月前から、北軽井沢に物件を購入してシェア別荘を始めたんです。モノや情報にあふれた都会から離れて、いろいろと考えごとをしたり、心を休ませたりする場所があるといいなと思って。なので、当初はモノをまったく置かずに「茶碗ひとつと寝袋だけ持ち込んで過ごすぞ」などと息巻いていたのですが……さすがに身体的に無理があるな、となって。背中が痛むのなんの(笑)。

やむを得ず、ソファベッドとダイニングテーブルセットを導入したんですが、もうわずかでも「背もたれがある!」ってだけで、めちゃくちゃ幸せな気持ちになれたんです。これを、「背もたれの幸福」と名づけました。

小田:環境を変え、「足るを知る」ことによって、すでに身近にあった幸せを再発見できたと。

遠山:まさにそうです。万人が背もたれに幸せを感じられるかは分かりませんが、「背もたれの幸福」のような要素は、皆それぞれの身の回りにたくさん転がっているはず。そして、こういうことを家族や友人と分かち合うことで、幸せはさらに膨らんでいくんですよ。

人生、仕事だけじゃない。自分の中にある雑な要素をいろいろと組み合わせながら、まずは1/1を満たして、前向きに生きていく。「1/1の人生」が満たされた状態から生まれる健全でポジティブなエネルギーが、素直に会社や社会へと接続していけば、大きな資本のシステムに支配されない世の中になっていきそうだな、と感じます。

「全体的個人も、ネットワークも、人為的にはつくれない」――ならば、よりよい組織づくりのために、何ができる?

遠山:小田さん、ちょっと相談してもいいですか。

小田:はい、なんでしょう?

遠山:よく「どうしたらスマイルズみたいに、社員が生き生きと主体性を持って働く組織をつくれるんですか?」と聞かれるのですが、私はそこまで意図的に組織づくりをしていないもので……こういった質問に、どう答えたらいいと思われますか。

小田:スマイルズの組織の強さは「全体的個人が生み出すネットワークが、システムよりも前面に出てきていること」だと捉えています。なので、ポイントを抽出すると「構成員が“全体的個人”として尊重されること」「システムの中にネットワークを巣食わせること」と言えるかなと。

ただ、身もふたもないことを言いますが、全体的個人もネットワークも、人為的につくれるものではありません。それらは「すでにあるもの」であり、「自然に発生するもの」です。設計しようとしても、できあがるのはまがいもの。すぐにシステムに吸収されてしまいます。

遠山:つくろうとしてはいけない、すでにあると。

小田:「つくれる、コントロールできる」という傲慢さを、まずは手放すことが大事です。

そして、すでにあるものをちゃんと評価すること。個人のユニークさを抑え込まず、自然に生まれようとしているネットワークの形成を阻害しないこと。これらの方法論は、スマイルズの組織文化のなかに、たくさんヒントが詰まっていると感じました。詳しくはね、皆さんにもぜひ本を読んでいただけたらと(笑)。

遠山:たしかに、スマイルズでは「組織が個人を抑え込まない」という点は、かなり徹底して意識していますね。

小田:近代的な組織が「意味のない、非生産的だ」と捨ててきたものが、実はネットワークの形成に寄与していた……なんてことは、山ほどあるんです。それをもう一度拾い集めるのは、そこまで難しいことではありません。

ひとつ、現状のシステム寄りの組織に変化を加えていく上でのアドバイスができるとしたら、「考えすぎずに、小さく始めること」ですね。広い範囲、大きい対象をどうにかしようとすると、どうしてもリスクに目がいって、結果的に合理的な解決の発想になってしまいます。

遠山:その考えにはとても共感します。私もかつて大企業に所属していた頃には「誰にも頼まれていない、小さなことから始めていくこと」を大事にしていて。それを積み重ねていった結果、スープストックトーキョーの事業が生まれました。こうした姿勢は今も変わっていませんし、何なら当時よりも今のほうが、さらに大事にしている気がしますね。

小田:やることのサイズや適応範囲が小さいと、自分が全体の責任を持てるんですよね。人間がマズい失敗するのって、大抵は見栄を張るからなんですよ(笑)。共同体レベルで見ても、集団が小さければ小さいほど、「見栄を張る」という行為は発生しにくくなります。なぜなら、お互いのステータスが大体わかっているから。そこでわざわざ、見栄を張って自分を大きく見せたりするのは、無意味なことなんです。

遠山:それはごもっともですね(笑)。他人や世の中の目を気にしすぎると、うまくいかなかったときに、必要以上に自分に腹が立ったり他責思考になったりしがちです。人の意見に耳を傾けるのは重要だけど、言いなりになってはいけない。それは、自分の人生の主導権を手放すことに繋がります。

小さく、リアルに、人肌や手触り感を大切にする。そして、自分に嘘をつかない。素直にやりたいことに向かっていると、上手くいかなくても全然大丈夫なんですよね。やったこと自体に充実感を覚えるし、仮に失敗だと感じることがあっても、次やるときに生かせばいいだけだから。

小田:「自分に嘘をつかない、素直に動く」という視点を持つ人は、日本でも増えてきているのではないかな、と感じます。複業や移住、二拠点生活などを始める人が増えているのも、その兆候とも言えるでしょう。まだまだ母数は少ないかもしれませんが、そういった「全体的個人としての選択を尊重する生き方」が「イケてる、かっこいい」といった人々の直感的な憧れの的になっていくと、システム優位の社会がいい方向に変わっていきそうです。

組織やシステムに依存しない。代替不可能な個人が「社会的私欲」でビジネスの主体になる時代へ

遠山:今日は組織の話をするつもりで来ましたが……どちらかというと、個人の在り方の話になっちゃいましたね(笑)。

小田:そうですね。しかし、やっぱりそれが大事なのだと思います。個人なくして、組織は成り立ちませんから。

遠山:実はここ数年で、「会社組織」というものに、あまりこだわらなくなってきたんです。スマイルズも、ずっと存続しなくていいと思っている。いや、なくなれって言っているわけではないんですけど(笑)。

その時々の状況に置いて、仮に存在価値を失ったら、ただただ存続することだけにしがみつかずに、退場するべきだろうなと。あるいは、物理的にサイズを小さくしたり、分割したりするとか。結果として長く続くのはよいことだけど、「組織として持続可能であること」自体には、そこまで意味を感じなくなったんですよね。

小田:「継続を目的にすること」に違和感を覚えている、という感じなのでしょうか。

遠山:そうだと思います。「お呼びがかからなくなったら退場する」、そういう潔さを大事にしたい。今いる場所からは退場はするけど、それまで培ってきた知識や関係を頼れば、きっとほかの場所で居場所は見つかるはず。社会の変化に合わせて身の振り方を変えていく柔軟性が、ひいては自分の幸せにも繋がってくると思います。

小田:システムではなく、ネットワークを頼るような生き方ですね。それは従来の価値観で見ると「不安定」だと捉えられがちですが、特定のシステムに依存するよりも、実はよっぽど安定感や安心感を得やすい選択でしょう。

遠山:依存しないように、人生における会社や仕事の割合は、どんどん減らしていって。空いた分を、好きなことや興味のあることで満たしていく。そうすると、全体的個人としてどんどん豊かになるし、魅力的になっていくはずで。

小田:そうですね。

遠山:そうやって仕事以外の文脈で豊かにしていったものが、現代では仕事に繋がりやすくなっています。インフラやツールが発達したおかげで、従来では混ぜ合わせることが難しかったさまざまな「○○×ビジネス」が、たくさん生まれていますよね。

私もずっと趣味でアートをやり続けてきましたが、今ではそれがしっかりとビジネスに結びついています。仕事とプライベートを接続するような“公私同根”が、いまや職業人としてのユニークネスとして、明確な強みになっている。こういった「社会と通じてしまう個人の欲」のことを、私は最近「Social Self Interest≒社会的私欲」と呼んでいます。

小田:社会的私欲、とても面白い概念ですね。自分の素直な欲求や好奇心から沸き上がる行動が、そのまま社会に接続して、生きるための糧を得る行為になると。全体的個人として無理のない自然な在り方のまま、社会で生きていく術を模索する上で、「社会的私欲」という言葉はひとつの目印になりそうです。

遠山:「社会的私欲で駆動する人たちが、一番イケている」という世の中になってほしいですね。少なくともスマイルズは、そういう集団であり続けたいと思います。

小田:今日はお話できて、たくさんのキーワードをもらえました。ありがとうございます。

遠山:こちらこそ、刺激的な時間でした。ありがとうございました!

執筆:西山武志
編集:モリジュンヤ
撮影:須古恵

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