オンラインでいかに協創のための場づくりを行うか
オンラインでいかに協創のための場づくりを行うか

オンラインでいかに協創のための場づくりを行うか

2020.09.15/9

2020年5月、厚生労働省から新型コロナウイルスを想定した「新しい生活様式」が発表され、テレワークやローテーションでの勤務が推奨されるようになりました。働き方に関するあらゆる状況が一変し、ワークショップなど場づくりが必要な場面でも対面での実施が難しくなっています。あらゆる会議や研修、ワークショップのオンライン化が急速に進んでいるものの、いまだ体系化されたノウハウの確立には至らず、ファシリテーターが個々人で試行錯誤する状況が続いています。

こうした流れを受けて、CULTIBASEでは、オンラインの日々の業務や、オンラインのワークショップに関してナレッジを共有しあう機会として、会員限定イベント「オンラインナレッジシェア会」を不定期で開催しています。ホストをミミクリデザイン(現・株式会社MIMIGURI)の瀧知惠美が務め、各回ごとに異なるゲストから、オンラインの場づくりに関する様々なナレッジをお話しいただきます。

2020年6月19日に実施されたオンラインナレッジシェア会のテーマは「プロセスの可視化で創造的なオンラインの場づくりを」。ゲストファシリテーターをミミクリデザイン(現・株式会社MIMIGURI)のディレクター・雨宮澪が務め、オンラインホワイトボードツールである「Mural」を実際に体験し、学びを深めていく内容となりました。本記事では、その模様をレポートします。

■企画・ファシリテーター
瀧 知惠美(株式会社MIMIGURI Director / Experience Designer)

多摩美術大学情報デザイン学科卒業。東京藝術大学デザイン科修士課程修了。多摩美術大学非常勤講師。ヤフー株式会社にて複数サービスのUXデザインを担当し、所属部署でUXデザインチームのマネージャーを務める。UXデザイン推進活動としてワークショップ型の研修やUX導入の実務支援を行い、組織へ浸透させるための、ふり返りの対話の場づくりの実践および研究を行う。ミミクリデザイン(現・株式会社MIMIGURI)では、よりよいユーザー体験につながるモノ・コトを生み出すために、つくり手の体験も重要と考え、事業開発と組織開発の組み合わせ方を実践と研究の両軸を重視しながら探求している。

■企画・話題提供
雨宮 澪(Director / Designer)

組織や個人の「在りたい」姿に向かうワクワクするジャーニーの伴走者。「今」の変化を重ねる流れをデザインし、変化の場においてはファシリテーターとデザイナーを行き来しながら、「今」とその連続であるプロセスを共にする。複雑な情報を、心が動く「伝わる」に変えるプレゼンスライドデザイナーでもある。「耳のないマウス」の一員としてアート活動も行っており、主な受賞作に清流の国ぎふ芸術祭での「移動する主体(カタツムリ)」(審査員賞)がある。

目次

目的・プロセス・振る舞い方を確認し、協同活動に必要な足場を固める

オンラインの場づくりの課題解決に繋がる、新たな方法を発想する

人がリードするのではなく、”プロセスにリードしてもらう”設計を心がける


目的・プロセス・振る舞い方を確認し、協同活動に必要な足場を固める

簡単な挨拶やイントロダクションを終えて、雨宮による進行のもと、ワークショッププログラムがスタートしました。このワークショップはMuralとZoomを併用するかたちで行われ、ワークショップの参加者はZoomから画面共有に音声による説明を受けたり、チャット上でファシリテーターとコミュニケーションを取ったりしながら、必要に応じてMuralを操作していきます。また時おり、ツールに関する様々なノウハウやTIPSが雨宮から説明されていました。

オンラインでのワークショップでは、画面越しであるがゆえに場の一体感の維持が困難とされています。こうした中で雨宮は「WHY(なぜここにいる?)」「WHAT(なにをする?)」「WHO(私たちは何者?)」「HOW(どうふるまう?)」という4つの観点から、この場の目的やルールを丁寧に説明し、協同の場としての足場を固めていました。

▼最初の「WHY(なぜここにいる?)」の説明スライド。このワークショップを通じて、成果として何が得られるのかを説明。場における共通の目的を改めて確認し、参加者間の目線を合わせていきます。

▼二つ目の「WHAT(なにをする?)」では、イベントの今後の流れが示されるとともに、今後のステップが示されました。

▼三つ目の「WHO(私たちは何者?)」。ファシリテーターの役割について説明するとともに、参加者にも主体的な参加を促していきます。

▼最後の「HOW(なにをする?)」。参加者の一人ひとりが異なる環境から参加していることを受け入れ、アクシデントも当然のものとして許容される、安全性の高い空間であることが強調されていました。

また、Zoomの操作に関する説明を行なうとともに、チャットで気軽に質問を行なうことを推奨しつつ、まずはその操作に慣れることと、緊張をほぐすことを目的として、以下のようなアナウンスとともに、ウォーミングアップのワークに入っていきました。 

雨宮 これから10秒間、沈黙の時間が訪れます。皆さんは目を閉じて『今の気持ちは?』とご自分に問いかけ、今ある感情を捉えてみてください。10秒経ったら目を開けて、ご自身の今の気持ちをチャットに書いてみてください。

沈黙の10秒間の後、チャット上では「ワクワク」や「ドキドキ」、「一週間の疲れが押し寄せてきた」など、様々な気持ちが続々と共有されていました。雨宮も参加者からのコメントを読み上げながら「私も緊張しています」と正直な気持ちを伝えたことで、場にリラックスした雰囲気が生まれていました。

また、オンラインワークショップで起こりがちな課題として、「参加者の反応が薄くなる」や「コミュニケーションが難しい」などがよく挙がることに触れながら、コミュニケーションが取りやすくなるための場づくりの一環として、ファシリテーターや他の参加者の発言に対して、「OK」や「いいね!」を全身で表現するルールを設けると有効なのだそう。今回のイベントでは、いきなりそう言われてもなかなか難しいからと、「ENERGIZER」というミニワークで身体をほぐしてみる方法が紹介されていました。このワークは、一つずつ開示される絵文字と同じポーズを参加者が順番に真似るというもので、ワークショップだけでなく、普段の会議でも、始まる前に簡単に実施してみることでコミュニケーションが円滑に進みやすくなるそうです。

オンラインの場づくりの課題解決に繋がる、新たな方法を発想する

いよいよワークショップ本編へ。まず最初のWORK1は「アジェンダを作る」です。このイベントで初めてMuralに触れる参加者も多いことを考慮し、ツールの基本機能や操作方法の説明が詳細に行なわれていました。またその際、ファシリテーターとして参加者のカーソルを効率よく誘導するポイントなども合わせて紹介されていました。

先に述べたように、リモート環境では物理的な一体感は得られにくい傾向にあります。そのため、参加者が同じ方向を見る上で、解くべき課題の設定から丁寧に合意形成を進めていくことが重要なのだと雨宮は話します。

まずWORK1では「オンライン場づくりツールボックスに入れるアイテムを決める」という今回のワークショップの全体を通したお題が発表され、続くWORK2では、「必要な情報を集め、現状を深く知る」という題目のもと、事前課題として参加者一人ひとりに提出してもらった「オンラインの場づくりにおいて私が課題に感じていること」に対して、共感を示す”炎マーク”をコピー&ペーストでつけていくワークが行なわれました。

軽快なBGMが流れる中、数十もの参加者のカーソルが各課題の間を縦横無尽に行き交ってました。また、その間もオンライン・ファシリテーションならではのTIPSやMuralの特徴的な使用方法などが、瀧や参加者と雨宮とのやり取りの中で随時共有されていました。

ある程度共感の票数のが多い課題が出揃うと、続いてその課題を深く理解するワークへと移っていきました。このワークでは、3分間、ピックアップされた課題を掘り下げる問いをひたすら付箋に書き出していきます。

別のホワイトボードへ移動し、WORK3の「アイデアを出す」へ。同じく3分間、今度は課題に対する解決方法を付箋に書き出していきます。また、ワークの終了後、画面に並んだ様々な解決方法のうち、ファシリテーターが特に気になったアイデアをいくつか取り上げ、発案者と直接通話でやり取りしながらその意図などを聞き、深めていました。

最後に行なわれたWORK4では、「採用するものを決める」として、出てきたアイデアを精査するワークが行なわれました。前のワークで生み出された多数の解決案の中から、各自が気になったアイデアを「ツールボックスに入れたい」「チームで考えて深めたい」「もっと深く知りたい」という3つのカテゴリに振り分け、それぞれマークを付けて可視化していきます。最終的に、「ツールボックスに入れたい」のマークが最も多かった解決アイデアが、本ワークショップの成果物として定義されていました。

人がリードするのではなく、”プロセスにリードしてもらう”設計を心がける

最後に全体の流れを改めて振り返りながら、オンラインワークショップにおけるファシリテーションのポイントのおさらいしていくことに。その中で、「参加者をうまくリードするプロセス設計のコツは?」という参加者からの質問に対し雨宮は、「人がリードするのではなく、プロセスにリードしてもらう」設計が重要であると強調して、次のように話していました。

雨宮 ファシリテーターが何でも口頭で細かく指示を出すようでは、参加者の態度がどうしても受動的になりがちです。そのため、参加する人たちの感情に寄り添い、アイデアを出してみたくなるような情報を、ファシリテーターからの口頭による情報だけでなく、設計したプロセスや、今回の場合はmural上のワークエリアの中に記載された指示だけで掻き立てられるようにすることが重要です。(すべて人力で行なうのではなく)そのプロセス全体から、参加者の皆さんが「動きたい、やってみたい」と思えるようになるようなファシリテーションや場づくりを心がけています。

主催者である瀧も、オンラインワークショップにおけるプロセスづくりについてこのように述べます。

 オンラインは特に、一つひとつのプロセスに想定以上の時間が必要になります。だからこそ、ワークの設計をシンプルにすることが大事だなと思います。また、設計や指示が適切に作用するかどうか、自分が参加者となってプロトタイプ的に一回試してみることも大切です。これはオフラインでも同じですよね。

その他の質疑応答では、「参加者が初めて使うツールの場合、使い方講座で終わってしまう」という悩みや、「場が活気づくプロセス設計の秘訣」など、オンラインワークショップに共通する悩みが数多く寄せられ、その解決策となる様々なノウハウやTIPSが共有されました。

このオンラインナレッジシェア会の動画は、「CULTIBASE Lab」にてアーカイブとして公開中。CULTIBASE Labでは毎週配信される動画コンテンツやメルマガ、また会員専用のオンライングループでの交流を通じて、人とチームの「創造性」を最大限に高めるファシリテーションとマネジメントの最新知見を学びます。興味のある方は、まずは下記バナーより詳細をご確認ください。

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ライター:田口 友紀子
フリーランスのライター・編集者。東京都在住。FICCにてプランナー・ディレクターとしてプロモーション企画やコンテンツ制作に従事。やがて自身の文章への執着心に気づき、PR会社勤務を経てライター・編集者として独立。人の動機や感情に焦点を当てながら、伝わる言葉を紡ぐことを目指している。

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