人の感性を耕す「対話型鑑賞」の可能性——事業開発や組織開発でいかに活用するか
人の感性を耕す「対話型鑑賞」の可能性——事業開発や組織開発でいかに活用するか

人の感性を耕す「対話型鑑賞」の可能性——事業開発や組織開発でいかに活用するか

2020.12.21/9

イノベーションを生み出すためには、個人や組織の創造性や感性を引き出し、アイデアを発想していくことが重要です。そのために、企業はどのような場や機会を創る必要があるのでしょうか。アートにおける「対話型鑑賞」という活動に、そのヒントが見出せるかもしれません。

CULTIBASE Lab会員向けオンラインプログラムの11月の「アートゼミ」では、本ゼミの主催者であり、対話型鑑賞のファシリテーションを複数手がける臼井隆志が、対話型鑑賞の定義やファシリテーションの方法、ビジネスへの応用可能性について語りました。

目次
アート作品を通し、自分と他者を“探究”する「対話型鑑賞」
対話型鑑賞を構成する「3つの問い」と「6つの技術」
感性をシェアする「対話」を、ビジネスの場に持ち込む
ビジネスへ応用する意義、アートから始める重要性


アート作品を通し、自分と他者を“探究”する「対話型鑑賞」

はじめに、対話型鑑賞を理解する前提として、臼井は「アート鑑賞という行為の多様性」について説明します。

臼井:人は、絵画などのアート作品を鑑賞するとき、様々な感情や思考、感覚を働かせています。

例えば、同じ絵を見ていても「爽やかな気分になるな」と感情が真っ先に働く人もいれば、「このモチーフは太陽みたいだな」とアナロジカルな思考が働く人もいる。

あるいは、「ここの絵の具が盛り上がっているな」と物理的な特徴を分析する人もいれば、「ここは力を込めて描いてのだろうな」と、絵を描いた人の身体感覚を想像する人もいます。

こうした感情や思考、感覚は、鑑賞者の過去の経験や記憶、つまり一人ひとりの感性によって異なると考えています。

臼井:作品から感じることや考えることは一人ひとりの感性によって異なる。その前提に立って、「違い」を複数人のグループで共有し、作品への解釈を深めていく活動が対話型鑑賞です。

対話型鑑賞の背景にあるのは、「知識は対話を通じて合意されたもの」と捉える社会構成主義的な学習観です。社会構成主義では、人間が「現実」と捉えていることは、すべて他者とのコミュニケーションを通して意味づけられ、合意されたものだと考えます。

対話型鑑賞は、目の前にある作品という「現実」について、鑑賞者がそれぞれの感情や思考、感覚を共有し、相互理解を深めたり、新たな意味づけを作り出したりするコミュニケーションなのです。

参考:ファシリテーターはなぜ「対話」を重視するのか:社会構成主義入門

対話型鑑賞を構成する「3つの問い」と「6つの技術」

では、その対話型鑑賞はどのように行われるのでしょうか。臼井は、対話型鑑賞を構成する要素として「3つの問い」と「6つの技術」があると言います。

まずは3つの問いについて、ムンクの「叫び」を例に説明します。

The Scream (1893), an expressionist painting by Edvard Munch.

臼井:対話型鑑賞では、主に3つの問いを投げかけながら、対話を深めていきます。

1つ目は「どこからそう思う?」です。これは感想や印象を深掘りするための問いです。例えば「不気味な感じがする」と答えた人がいたら「どこから不気味さを感じますか?」と聞きます。

続いて、2つ目の問い「他に発見はありますか?」を、他の鑑賞者にも投げかけて、感想や印象をたずねます。

3つ目の問いは「そこからどう思う?」です。これは作品に対して、自分が何を思ったのか、を考えてもらうための問いです。例えば、「真ん中の人物の顔がヘンテコで何を伝えたいのか理解できない」という感想があったら、「理解できなかったことについて、どう思いますか?」と聞いていきます。

3つの問いに加えて、対話型鑑賞の基礎を成すのが「6つの技術」です。ファシリテーターはこれらの技術や動作を取り入れ、鑑賞者同士の対話を促していくと臼井は語ります。

・ポインティング…「どこからそう思う?」と聞くときに該当する箇所を指差す
・パラフレーズ…鑑賞者の発言を言い換えたり、オウム返ししたりする
・インフォメーション…作品やアーティストの背景知識を伝える
・コネクト…鑑賞者の発言同士の類似性や違いなどの関係を示す
・サマライズ…挙がった意見や感想を要約する

3つの問いと6つの技術によって、互いに感じたことや考えたことを共有し合う対話型鑑賞。その活動を通し、鑑賞者は作品の解釈を深めるだけではなく、他者や自分自身のものの見方や感性を“探究”できる」と、臼井は考えています。

臼井:他の鑑賞者の意見を聞いて、「Aさんにとって、この絵はこう見えているのか!」と、新しいものの見方や感性に触れるとき。Aさんへの理解が深まるとともに、自分自身のものの見方や感性も揺さぶられると思います。

英語だと、対話型鑑賞は「Arts and Inquiry」とも呼ばれます。他者や自分自身を探究(Inquiry)する活動なんですよね。その刺激によって、アイデアの創発が起きるのが対話型鑑賞であり、そこが一番の面白さだと思います。

感性をシェアする「対話」を、ビジネスの場に持ち込む

作品を通した対話によって、他者と自分自身のものの見方や感性の「違い」を探究し、創発を起こす。こうした対話型鑑賞は、絵画や演劇、映画といったアートの領域だけでなく、ビジネスの領域でも応用できる可能性があると、臼井は言います。

臼井:もともと、アートの語源であるラテン語の「ars 」には、「技術」という意味もあります。アートには「表現のために技術を用いてつくられたもの」といった定義も含まれると、僕は捉えています。

そう捉えてみると、美術館にあるような、絵画や彫刻といったアート作品だけでなく、企業が作るプロダクトなども広義の「アート」として鑑賞できるのではないかと考えています。

具体的にどのようにビジネス領域で応用できるのか。臼井はプロダクト開発における対話型鑑賞の応用可能性について説明します。

対話型鑑賞は、とりわけ「意味のイノベーション」をベースにしたプロダクト開発と相性が良いと臼井は語ります。意味のイノベーションとは、作り手の想いやビジョンを起点に、ユーザーに新たな「意味」を提案する手法や考え方です。

参考:「意味のイノベーション」とは何か:最新の研究動向を抑える

臼井:意味のイノベーションでは、プロダクトを通して作り手の提案した「意味」は、ユーザーがそれをどのように解釈したかによって変化すると考えます。対話型鑑賞と同じく、社会構成主義的な考え方がベースにあるんです。

プロダクトをユーザーが「どのように解釈したのか」を捉えることは、作り手が新たなプロダクトを開発するうえで大変重要です。対話型鑑賞は、そうしたユーザーの解釈を理解するうえで役立ちます。

例えば、「恋人への愛情が湧く」という意味を込めて香水を開発している会社があったとします。ユーザーを集めて対話型鑑賞をしたら、「優しい気持ちになった」など、少し異なる解釈をしているかもしれない。

解釈の背景には、一人ひとりのユーザーの感性やものの見方があります。それらに触れることで、作り手はそれまで見えていなかった香水の「意味」を発見し、プロダクト開発に活かせるはずです。

さらに、臼井はプロダクト開発に加えて、企業理念の浸透においても対話型鑑賞を応用できると語ります。

臼井:例えば、企業理念として掲げている文章について、それぞれの社員がどのように解釈しているのかを語り合ってみる。抱いている違和感や共感、モヤモヤをシェアし、対話を重ねることで、企業理念への解釈が深まっていくでしょう。

また、解釈の背景にある一人ひとりの感性やものの見方を理解し合うことで、チームの関係性に変容が起きる可能性もあると考えています。

臼井は、ビジネスの場で対話型鑑賞を行った実例として、「企業理念の対話型鑑賞」と「アート鑑賞」を組み合わせたワークショップを紹介しました。

臼井:以前、とある企業の理念浸透を目的に「ArtScouterワークショップ」を開催しました。

ArtScouterは、オフィス向けに様々なアート作品をレンタル・販売するプラットフォームです。「ArtScouterワークショップ」というプログラムの制作をお手伝いしたことがあります。このプログラムでは、参加する社員が「企業理念を象徴するアート作品」をArtScouterから選び、各作品の対話型鑑賞を行いました。

一般的な企業において、社員が「感じたこと」を自由にシェアする機会は決して多くはないと思います。「ArtScouterワークショップ」では、アート作品を媒介にすることで、理念への解釈だけでなく、社員同士の感性や感情への理解も深めることができます。

「ArtScouterワークショップ」を含め、複数の組織で対話型鑑賞を行ってきた臼井。ビジネス領域において対話型鑑賞を応用する意義として「ジャッジしない対話ができること」を挙げました。

臼井:対話型鑑賞の対話では、良い悪いとか、正解不正解といった「ジャッジ」が発生しません。

誰かが「この作品の正解はこう」と言いかけたら、「あなたはそう思うんですね。じゃあ他の人はどうですか?」とファシリテーターが問いを投げかけます。

個人的には、バレーボールでトスを回す感覚に近いんです。ボールを誰かが握って止めそうになったら、ファシリテーターがトスを上げて、再び宙に浮かせる。あえて判断や意思決定を保留していくんです。

なので、意味のイノベーションや理念浸透のように、互いに合意しながら、自分たちなりの正解を見出していく取り組みと相性が良いのだと思います」

ビジネスへ応用する意義、アートから始める重要性

臼井の解説を踏まえ、同じくアートゼミ主催者の田中真里奈は「日頃の権威構造から離れて、より対等な対話ができそうですね」と気づきを共有していました。

このようにビジネス領域での応用可能性に満ちた対話型鑑賞ですが、臼井は「まずはアート鑑賞から始める」ことが大切だと強調します。

臼井:いきなりプロダクトや企業理念を鑑賞するより、絵画や彫刻など、アート作品の鑑賞のほうが、自由に発想が広がりやすいと思います。

応用から始めたくなるかもしれませんが、まずは狭義のアート作品で感じる力を養っていただけたら嬉しいです。

最後に臼井は「対話型鑑賞」と前回のアートゼミで扱った「インスピレーション」の接続を示し、ゼミを締め括りました。

臼井:前回、石黒さんは人や組織がインスピレーションを得るためには、作品を鑑賞すると同時に「自分の創作にどう活かせるのか」を考える「デュアルフォーカス」が必要だとおっしゃっていましたよね。

人や社会がクリエイティビティを発揮するには?アート鑑賞と表現、インスピレーションの関係に学ぶ
人や社会がクリエイティビティを発揮するには?アート鑑賞と表現、インスピレーションの関係に学ぶ

他者と自分の感性やものの見方を探究する対話型鑑賞でも、このデュアルフォーカスに近い状態が生まれているように思います。

次回のゼミでは、対話から発想したアイデアを、どのように「表現」するのかにフォーカスして、ワークを行う予定です。ぜひ楽しみにしていてください。


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執筆:石渡翔
編集:向晴香

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