アイデア創発の“プロセス”に働きかける、グラフィックレコーディングの可能性を探究する
アイデア創発の“プロセス”に働きかける、グラフィックレコーディングの可能性を探究する

アイデア創発の“プロセス”に働きかける、グラフィックレコーディングの可能性を探究する

2021.01.08/10

個人や組織がアイデアを生み出すためには、インスピレーション(ひらめき、触発)の起こる場や機会を作ることが重要です。その際に有用な手段のひとつが「グラフィックレコーディング」です。

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CULTIBASE Lab会員向けオンラインプログラムの12月の「アートゼミ」では、本ゼミの主催者であり、さまざまなグラフィックレコーディングを手がけてきたMIMIGURIの夏川真里奈が、その役割やアイデア創発・組織開発における実践例を共有。「場にひらめきをもたらす」グラフィックレコーディングの可能性を語りました。

目次
その場で“言われていないこと”も含めて共有する
表出した言葉の“奥”に触れ、アイデアを創発する
商品開発や組織開発の場に“ひらめき”をもたらすには?
メタファーと即興性が示す、グラフィックレコーディングの可能性

その場で“言われていないこと”も含めて共有する

まず、夏川は自身の考える「グラフィックレコーディング」の定義や役割を共有しました。

夏川「グラフィックレコーディングは、リアルタイムに絵と文字で話された内容や場の様子を可視化することによって、場や個人、関係性に影響をもたらす手段だと考えています。

絵や文字を使って、参加者の発言だけでなく、議論の流れや個人の感情、場の盛り上がりなど、『言われていないこと』も含めて場を可視化し、共有する。それによってアイデアの創発を促すことができるんです」

「『言われていないこと』も含めて場を可視化し、共有する」とは、具体的にどのように行なわれるのでしょうか。夏川は過去のグラフィックレコーディングを例に説明します。

夏川「例えば、以前『組織ファシリテーション概論』で『個人・チーム・組織のポテンシャルを活かす』という発言があったとき。発言者はひまわりを例に挙げていなかったですが、『個人やチーム、組織が育つ』様子は、『植物が水を吸収して育っていく』様子に例えられるのではと考えて、ひまわりを描き加えました。

他にも、組織における『部品主義』とか『人間主義』といった話が挙がったときに、車を描いて、人と機械の対比を表現しました。いずれの事例でも『その人の発言の奥にある想いや意図をどう可視化できるか』を考えています」

他の事例として、場の盛り上がりや議論の流れなどの情報を可視化したグラフィックレコーディングも紹介しました。

夏川「『プレイフル経営ゼミ』のグラフィックレコーディングには、『“PLAYFUL”との出会い』や『PLAYFULをどう訳す』などの見出しをつけています。実際にこうした言葉が挙がっていたわけではなく、その場で『今この話が盛り上がっているな』というポイントを認知して書きました。

あるいは、議論された内容を『過去』から『未来』という時間軸に沿ってマッピングした事例もあります。そうすると『あまり未来の話が出てきていないね』とか『ずっと今の話ばかりしているな』といったふうに議論をメタ認知できます。

このように、参加者の発言だけでなく、背後にある動機や感情、その場のコミュニケーションの流れや盛り上がりも可視化しています」

表出した言葉の“奥”に触れ、アイデアを創発する

夏川はグラフィックレコーディングは、場の目的によって発揮する役割も多様であると語ります。

夏川「一言でグラフィックレコーディングと言っても、イベントで話された内容をわかりやすく記録するもの、相手の思考をスピード重視で可視化し、内省を促していくものなど様々です。

実践する方の考え方や場の目的によって『どのくらい発言以外の情報を描くか』や『場への影響を意識するのか』なども違ってきます」

グラフィックレコーディングの考え方を踏まえ、夏川は、なぜ「言われていないことの可視化」が場に影響し、アイデアの創発を促すのか自身の考えを共有します。

前提として挙げたのは、組織開発で広く用いられている『氷山モデル』です。

夏川「『氷山モデル』では、組織内で実際に話されている内容や行われている業務など、目に見える情報を『コンテント』、その背後にある関係性の質や個人の感性を『プロセス』に分類します。

以前、CULTIBASE編集長の安斎も『組織ファシリテーション概論』で話していた通り、商品開発や組織開発においてアイデアを創発するには、『コンテント』だけでなく『プロセス』に働きかけることが大切です。

チームが創造性を発揮するためには、個人の感情や内発的動機への刺激、それらを発揮できるチームの関係性の構築が欠かせないからです」

夏川は、グラフィックレコーディングを活用することで、氷山モデルにおける『プロセス』にアプローチできるのではないかと考えていると語ります。

夏川「先ほど紹介した通り、グラフィックレコーディングでは、表出した言語だけでなく、背後にある動機や感情、その場で起きたコミュニケーションの流れや雰囲気などを可視化できます。いわば、氷山モデルでいう『プロセス』の部分を共有できる。

絵や文字を通して、参加者が『コンテント』だけでなく『プロセス』についても考え、議論や対話を行う。それによって、アイデアの創発にもつながるのではないかと考えているんです」

商品開発や組織開発の場に“ひらめき”をもたらすには?

グラフィックレコーディングの役割や表現手法を確認したところで、夏川は実際に商品開発や組織開発における活用例を共有します。

一つ目は商品開発において、グラフィックレコーディングの「即興性」を活かし、ひらめきをもたらした事例です。

夏川「キッチンコンロを展開する企業の新商品開発のワークショップに参加した際、その場で挙がった案を『こんな感じですか?』と次々に絵にしていきました。

そうすると『そうそう!』とか『ちょっと違う気がする』とか反応が返ってくる。反応を踏まえて新しい絵を描いて、また『こんな感じですか?』と聞いていくと、その人の頭のなかにあるアイデアがどんどん具体化していく。消さずに描き直していくことで、正解を探っていくプロセスも可視化されます。

一人の思考の流れが共有されていくと、他の参加者も刺激を受け、『こういう機能があっても良いですよね』といった意見が挙がる。そうやって新たな創発が生まれていきました」

二つ目は、組織開発において「メタファー」を用いて、創発につながる対話を促した事例です。

夏川「組織の暗黙知を可視化して、次の世代につなげていきたい』といった目的の場でグラフィックレコーディングを行ったとき、先ほどのような氷山を描いて、対話の内容を可視化していきました。

その場で挙がった発言などを海に浸かっている部分に書き加えていくと、『この組織には言語化されていない暗黙知があるんだな』とか、『この場は暗黙知を出す場なんだな」といった背景を言語化せずとも全員で共有できる。

組織の状態や課題への共通認識を持てたことで、より深い対話につながったと感じられた事例でした」

組織開発の対話におけるメタファーの力に言及しつつ、夏川は対話を誘導し過ぎない重要性も指摘しました。

夏川「メタファーの使い方を間違えると、場の流れを強引に誘導し、自由な対話やアイデアの創発を阻んでしまう可能性もあります。

私は、その場にいる人が対話を深め、気づきを得て、創発を生み出すことを最優先にしたいので。その場にいる人の感情や雰囲気に沿って、途中で『これは木よりも車だな』とか、どんどんメタファーは描き変えていくようにしています」

メタファーと即興性が示す、グラフィックレコーディングの可能性

夏川の解説後は、グラフィックレコーディングの「メタファー」や「即興性」について話が広がりました。

アートゼミ主催者の臼井隆志は「ひらめきをもたらすグラフィックレコーディングには、絵心と同じくらいメタファーの力が重要だと感じました」と共有し、「メタファーのパターンを蓄えるために日頃から心がけていることってありますか?」とたずねます。

夏川「連想ゲーム的に『この状態を何かに例えるなら…』と考えて、絵に描いてストックしておく習慣はありますね。例えば、以前に議論の流れに使えそうなメタファーのパターンを一覧にまとめたことがあります。

実際に絵にしなくても『これってあれに似てるな』と日頃から考える癖をつけるだけで、思いつくメタファーのバリエーションは増やせると思います。

もう一つ、メタファーを発想するときに大切なのは、言葉を主軸に考え過ぎないこと。私は普段、その人の話し方や背景にある感情はどういったものなのかを捉えるようにしています」

(「プレゼント」「握手」「宝箱」など議論の内容や流れをメタファーで表現する際のパターンをまとめたもの)

「言葉を主軸に考えすぎない」という点について、夏川は自身が取り組んでいるインプロビゼーション(即興演劇)との関連にも言及しながら、より詳しく解説します。

夏川「発している言葉の意味が一切わからなくても、話し方や抑揚から『その人がどのような感情で、何を言いたいのか』って、ある程度は読み取れると思うんです。

例えば、アニメの『ピングー』とか『ミニオンズ』とかって、登場人物は観ている側に意味のわかるセリフを話しませんよね。でも、感情や動機、意図は掴めるじゃないですか。グラフィックレコーディングでも、そこを捉えて、どのように表現できるかを考えます。

それは、少し即興演劇に似ているところもあるんです。例えば、『ジブリッシュ』という、意味のわからない言葉で話す即興演劇があります。これは『言葉の意味ではなく、話し方や抑揚から読み取っていく』という点が、とてもグラフィックレコーディングに近いなと感じます」

夏川の発言を受けて、臼井は「『即興で創り上げていく』という点も、グラフィックレコーディングと即興演劇はつながりがありますよね」と視点を示します。

夏川も大きく頷き、自身の考えるグラフィックレコーディングの可能性について語りました。

夏川「まさに即興性を恐れないのもグラフィックレコーディングにおいて重要なポイントだと思っています。

準備ができたら描こうじゃなくて、まず描いてみる。そこから間違ったら描き直してを繰り返して、進めていく。ビジネスの文脈で言えばプロトタイピングにも近いかもしれませんね。先ほどの商品開発の事例などはラフなプロトタイピングとも言えるかもしれません。

完成したものの記録や振り返りだけでなく、対話を深め、創発を起こしていく。その創造のプロセスに貢献できる手段としても、ぜひ『グラフィックレコーディング』面白さや可能性を感じてもらえたら嬉しいです」


本イベントのフルでのアーカイブ動画は、CULTIBASE Lab限定で配信しています。

CULTIBASE Labではアートゼミのようなイベントに加え、毎週配信される動画コンテンツやメルマガ、また会員専用のオンライングループでの交流を通じて、人とチームの「創造性」を最大限に高めるファシリテーションとマネジメントの最新知見を学びます。興味のある方は、まずは下記バナーより詳細をご確認ください。

https://www.mimicrydesign.co.jp/cultibase-lab/

登壇者

夏川 真里奈 株式会社MIMIGURI Art Educator
東京都出身。幼少の頃より、特殊な創造性教育を受けて育つ。東京学芸大学教育学部初等教育教員養成課程美術選修卒業。東京学芸大学大学院教育学研究科修了。幼・小・中(美術)・高(美術)の教員免許を保有し、創造性や主体性の開発をテーマに実践と研究を行う。学校教育への問題意識から、公立中学校の美術教員を経たのち、MIMIGURIに参画。MIMIGURIでは主に創造性を育むワークショッププログラムの開発・実施や、グラフィックレコーディングを担当している。

臼井 隆志 株式会社MIMIGURI Director / Art Educator
慶應義塾大学総合政策学部卒業。ワークショップデザインの手法を用い、乳幼児から中高生、ビジネスパーソンを対象とした創造性教育の場に携わっている。児童館をアーティストの「工房」として活用するプログラム「アーティスト・イン・児童館」(2008~2015)、ワークショップを通して服を作るファッションブランド「FORM ON WORDS」(2011~2015)、伊勢丹新宿店の親子教室「ここちの森」(2016~)の企画・運営を担当。主な著書に『意外と知らない赤ちゃんのきもち』(スマート新書)がある。

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