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会議で“良いアイデア”が出ないときの原因別の処方箋

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約7分

会議で“良いアイデア”が出ないときの原因別の処方箋

「会議で“良いアイデア”が出ない」

このようなお悩みは、商品開発やサービスデザインの現場において頻繁に耳にします。イノベーションを生み出すために、優秀な人材をアサインし、予算も確保し、研修でアイデア発想のフレームワークを導入し、さまざまなコストをかけているわりに、投資に見合った”良いアイデア”が生まれない。

このような状況を目の前にすると、つい「どうすれば“良いアイデア”が出るだろうか?」と、新奇なアイデアの発想をファシリテーションしたくなるところですが、この問題を解決するためには、「なぜ“良いアイデア”が生み出せないのか?」あるいは、「生成したアイデアに対して、なぜ“良いアイデア”だと判定できないのか?」という問いを立てて、問題の真因を探ることが、何より重要です。この問題の背後にはいくつかの要因が考えられ、そのパターンによって、処方箋のアプローチも変わってくるからです。本記事では、以下の3つの主要な要因のそれぞれについて、解決策をまとめていきます。

会議で“良いアイデア”が出ない要因
1.アイデアの基準と形式がチームでバラバラ
2.問題の本当の原因が掘り下げられていない
3.アイデアの固定観念に囚われている

1.アイデアの基準と形式がチームでバラバラ

第一に、そもそもチームの“良いアイデア”の基準と形式が統一されていないケースはよくあります。

何が”良いアイデア”なのかの目線があっていないために、会議で生み出されるアイデアが、ある人にとっては”良いアイデア”だけど、別のある人にとっては”悪いアイデア”である、というようなすれ違い的な状況が続き、収拾がつかないケースです。

この場合、「”良いアイデア”を生み出すこと」をプロジェクトの目標にせず、まずは「“良いアイデア”の基準を決めること」を目標に置き、話し合いをすべきです。

過去のプロジェクトで生み出された「成功例」や「失敗例」の具体例を参照しながら、お互いが抱えている「良いアイデアの要件」「ボツネタの基準」などを明らかにすることで、チームにとっての共通のものさしをあぶりだすのです。

また、想定しているアイデアの形式が整っていないケースもあります。「アイデアを考える」と一口にいっても、プロダクトの抽象的なコンセプトを考えることなのか、具体的な技術仕様を考えることなのか、あるいはユーザーインサイト、ビジネスモデル、コミュニケーション戦略など、どこまでの範囲で考えるのか、そのフォーカスは曖昧です。

アイデアの基準や形式のものさしが定義されていないのに、チームで”良いアイデア”に合意できないのは、当然のことです。具体的なアイデアを考えるよりも前に、まず基準を決めることは有効なアプローチです。

2.問題の本当の原因が掘り下げられていない

組織や事業における問題状況がチームで共有されている場合、ついついその解決策としての「How」を考える衝動にかられます。

たとえば、組織において「離職率が高い」ことが問題になっている場合。「これはまずい!」ということで、会議を始めれば早速「飲み会を増やしてエンゲージメントを高めるのはどうか」「オンボーディング施策を充実させたらよいのでは」「給与や賞与をアップさせるしかない」など、問題状況に対するさまざまなアイデアが頭に浮かびます。

けれども”離職率が高い”という状況の背後に、どのような問題の真因があるのか?それが本当に解くべき課題なのか?、いわゆる「Why」について検討せぬまま、「How」の有効性については議論できません。

この問題の「Why」について共同で検討をしないがために、次々に飛び出す「How」としてのアイデアが”良いアイデア”かどうかが判定できない、ということは会議において頻繁に起こります。無数に飛び交うアイデアに対して、どこかしっくりこないときは、「何のためのアイデアなんだっけ?」というところを問い直すことが有効です。

3.アイデアの固定観念に囚われている

第三に、発想が何らかの固定観念に囚われていることが原因であるケースです。自由に発想したいのだけれど、知らぬうちに限られた発想空間のなかでアイデアを探索していて、そのためにブレイクスルーの実感が得られない場合です。

アイデアの阻害要因としての「固定観念」はよく指摘されることではありますが、「意味の固定観念」に囚われているのか、「仕様の固定観念」に囚われているのかによって、その対処法は変わります。

どのような商品であっても、あらゆるアイデアは「意味」と「仕様」の結びつきによって構成されていると捉えることができます。仕様があるからこそ意味が実現し、意味を実現する手段として仕様は切り離せないため、この2つは相互に関連しますが、商品開発のプロセスにおいては意味と仕様を区別することがとても重要です。

たとえばお掃除ロボット「ルンバ」で考えてみると、ルンバの仕様は「円盤形」であり「フロアトラッキングセンサー」が付いていることなどが挙げられます。しかしユーザーは「フロアトラッキングセンサー」を購入しているのではなく、「自分がいない間に部屋を綺麗にしてくれる」という意味を購入しているわけです。

このうち「意味」と「仕様」のどちらの固定観念に囚われているのかによって、”良いアイデア”を生み出すためのアプローチは変わります。

たとえば「仕様の固定観念」に囚われてしまっていた場合。上記の「ルンバ」に変わる新しい商品を考えたいけれど、目新しい機能を考えようとはしているものの、つい「円盤形」「自動操縦」といった既存の仕様から逃れられないケースです。

ある程度ブレインストーミングをしてみて、この傾向に気がついたら、意識的に「円盤でない形状」「ユーザーの操縦が必要」など既存の仕様の固定観念から抜け出すための制約を設定することで、「仕様の固定観念」から意識的に抜け出すことが有効です

他方で「意味の固定観念」に囚われてしまっていた場合。たとえば、さまざまな仕様のお掃除プロダクトの発想が飛び交っているものの、結局のところ「手間がかからない」「勝手に部屋をきれいにしてくれる」といった既存の意味に縛られてしまうケースです。

このような場合には、いま浮かんでいる仕様を軸足にして、どんな新奇な意味が提案できるか、「意味をズラす」ことを意識するとよいでしょう。たとえばお掃除ロボットが、「子どもをあやしてくれる」といった具合にです。

意味と仕様、どちらに囚われているのかによって、打破の仕方が異なるので、囚われに対する「メタ認知」が重要になってくるのです。

以上、会議において“良いアイデア”がでないとお悩みの場合は、まずはその背後にある原因に目を向けて、それにあわせた処方箋を選び、適切なファシリテーションを心がけましょう。

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著者

株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO

東京大学大学院 情報学環 客員研究員

1985年生まれ。東京都出身。私立武蔵高校、東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO/東京大学大学院 情報学環 客員研究員。

企業経営と研究活動を往復しながら、人と組織の可能性を活かした新しい経営・マネジメント論を探究している。主な著書に『問いのデザイン』、『問いかけの作法』、『パラドックス思考』、『リサーチ・ドリブン・イノベーション』、『ワークショップデザイン論』『チームレジリエンス』などがある。

X(Twitter)noteVoicyhttps://lit.link/YukiAnzai

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