「デザインの時代」はいつ終わるのか?:教育から考えるデザインのこれから

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約92分

10/23(土)に開催された「『デザインの時代』はいつ終わるのか?:教育から考えるデザインのこれから」のアーカイブ動画です。

資料

当日資料
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チャプター

00:11 イントロダクション(登壇者自己紹介・チェックイン)
08:39 長尾先生がデザインを始めたきっかけと「これからはデザインの時代」の意味
17:58 大学における「デザイン教育」の原型
25:10 デザイン教育の礎(1):石川弘先生の工業デザイン
34:54 「デザインの時代」初期の教育カリキュラム
44:12 デザイン教育の礎(2):杉山和雄先生によるデザイン
53:41 デザイナーに求められる資質とは:ジョーンズ、クロス、アーチャーの知見
01:00:30 教育によってひらかれるデザインの歴史と事例
01:13:39 「デザインの時代の終わり」を捉える4つの問い
01:29:30 今後のイベントのお知らせ


ポイント

  • 今回のゲストは千葉工業大学副学長/創造工学部デザイン科学科教授・長尾徹先生。ホストを務めるMIMGIURI・小田は長尾先生のもとで大学院の修士・博士課程で約10年弱にわたって学び、いわば師弟関係にある。
  • 長尾先生がデザインを始めたのは高度成長期の頃。最新のオーディオ機器に触れる中でプロダクトデザイナーを志すようになり、千葉大学工学部で工業意匠を専攻する。当時の今でいうデザイン教育のカリキュラムは多岐にわたり、特にデザインの定量化に関する研究が盛んに行われていた。
  • 松下幸之助が1951年に「これからはデザインの時代」と述べてから70年。「デザインの時代」の初期に活躍した代表的な研究者として長尾先生は、石川弘先生と杉山和雄先生を挙げる。
  • 石川先生は工業デザインにおいて「ビジョン」「効用」「技術」「経済」の要素を総合的に捉えることの重要性を説くなどで活躍。また、デザイナーの教育カリキュラムの構築の面でも大きな功績を残す。また、石川先生はデザイナーが基礎トレーニングとして、「創造性の解放」を目的とした「造形」を掲げていた。まずは自身のアイデアを広げ、「今」ではなく「これから」に目を向けた機能や効能への接続を重視した姿勢が特徴的だと長尾先生は語る。
  • 当時は描き直しのできない方法をあえて採用し、事前の計画を正確に立てる思考の育成が重視されていたのに対し、現代では「手を動かしながら考える」ことが中心のカリキュラム設計となっている。これらはどちらが良い悪いではなく使い分けが重要であり、優秀な学生は二つの思考パターンを往復しながら取り組んでいることが多い。
  • デザイン教育の礎を築いたもう一人の先達として紹介された杉山和雄先生は、産学連携のプラットフォームを構築した第一人者である。デザインを「そのもののあるべき姿を創出する行為」と定義し、単純な造形美だけではなく、社会的な価値も含めた「美しさ」を大事にすることを当時から主張していた。
  • 杉山先生の主張のうち、特に特筆すべきは「デザイナー教育の課題の一つは、仮説提示力の強化」だと喝破した点にある。デザイナーには「はあるべき姿を多様に描く力」が求められるとした上で、決して独りよがりに思考するのではなく、他者との連携の中で複数の対象のあるべき姿を模索することを説いた。また、社会におけるデザインマネジメントの先駆けとなる取り組みを行っていた。
  • その他のデザイン教育の源流としては、「デザイナーは、想像された『未来』を現実のものとして扱い、『見たこともない』物事を現実化する方法を突き止めねばならないという宿命にある」と述べたジョン・クリス・ジョーンズや、デザインに求められる価値を説いたナイジェル・クロス、デザイン思考という言葉を初めて用いたブルース・アーチャーなどが挙げられる。
  • デザインの定量化が模索された当時、デザインの領域内の概念ではデザインを定義づけることが困難であったため、他の領域から概念や方法論を借りてくる動きが広がったと長尾先生。もともとデザインという領域は複数の領域にまたがるものであり、現代においてもデザインを学ぶ上では、デザインそのものの探究のみに閉じるのではなく、様々な領域との関係や結びつきを意識しながら学ぶ姿勢が重要だと語る。
  • 例えば、2012年に提唱された「アクティブラーニング」に象徴される昨今の教育観において、デザインの考え方は非常に親和性の高いものだと長尾先生は語る。こうした教育領域からの後押しも受けながら、デザインが一般化し、誰しもが当たり前に一定レベルを身につけるような時代が到来しつつある中で、「デザインに注目が集まる時代が終わる時、デザインやデザイナーはどう変容するのか?」という問いが新たに立ち現れてくる。
  • 一つには、一方的なデザインの提供ではなく、互いにデザインし合うCo-Design的な共創の考え方が今後広がっていくことが予想される。この場合デザインは、対話において自分の思考を外に出すための表現の技法として活用される。
  • また、小田は今注目すべき概念として「プロジェッティスタ」を挙げる。プロジェッティスタとは、元々イタリアの中規模の生産工程における頭領的な役割を担う人を指す言葉であるが、「何を目指すのか」や「あるべき姿を示す」ことに長けたデザインの素養を持つ人が社会的に増えることは、企業活動においても大きな意味を持つのではないかと指摘。デザインを体系的に学ぶことの意義となり得るのではないかと語る。

イベント概要

1951年に松下幸之助が「これからはデザインの時代」と語ってから、およそ70年の月日が経とうとしています。そしてその言葉通り、現在デザインは私たちの生活や社会全体に広く浸透するところとなりました。

他方で、デザインの領域は日々拡張を続けており、デザイナーに求められる職能の幅も広がり続けています。また、昨今急速に広がるデジタル化の流れを見ても、今もなお「これからはデザインの時代」と言われ続けているように思えます。

「デザインの時代」はまだまだ続くのでしょうか。それとも、すでに終わりが見え始めているのでしょうか。本イベントでは、「教育」という観点を切り口に、「デザインの時代」の真っ只中を生きる私たちの“現在位置”について議論します。

今や高等教育のカリキュラムを紐解けば、デザインと名のつく授業を必ずと言っていいほど目にする時代となりました。また、この流れは今後もさらに加速していくことが予想されます。一人ひとりが当たり前にデザインを使いこなす未来が到来した時、私たちのデザインを取り巻く価値観や、デザイナーとしての職能はどのように変化しているのでしょうか?

本イベントでは、ゲストに長尾徹先生(千葉工業大学 副学長/創造工学部デザイン科学科教授、一般社団法人 ブランディングデザイン協会 代表理事)をお招きします。デザイン実践を志す人向けの教育のあり方を主な関心領域として掲げている長尾先生から、アカデミックや企業・地方公共団体との共同プロジェクトの中で取り組んできた教育デザインに関する実践的な研究や実践についてお話を伺い、「デザインの時代」の全体像について話題提供をいただきます。その後、長尾先生の“教え子”としてデザイン領域で博士号を取得した株式会社MIMIGURIの小田裕和を聞き手として、「デザインが本当の意味で浸透した未来」について対談形式で知見を深めていきます。

出演者

小田 裕和
小田 裕和

千葉工業大学工学部デザイン科学科卒。千葉工業大学大学院工学研究科工学専攻博士課程修了。博士(工学)。デザインにまつわる知を起点に、新たな価値を創り出すための方法論や、そのための教育や組織のあり方について研究を行っている。特定の領域の専門知よりも、横断的な複合知を扱う必要があるようなプロジェクトを得意とし、事業開発から組織開発まで、幅広い案件のコンサルテーション、ファシリテーションを担当する。主な著書に『リサーチ・ドリブン・イノベーション-「問い」を起点にアイデアを探究する』(共著・翔泳社)がある。

長尾 徹
長尾 徹

千葉大学大学院工業意匠学専攻修了後、オフィス家具メーカーにて、エルゴノミックチェアの基礎研究・デザインを行う。2005年3月まで、千葉大学工学部デザイン工学科製品デザイン研究室 専任講師。多機能機器のインタラクションデザイン、ユーザビリティ評価方法について様々な企業と共同研究を行った。2005年4月より、現職。専門は工業デザインを軸に情報デザイン、教育デザインについて実践的な研究を行いつつ、デザインプロセスとデジタルファブリションを融合し、イノベーショナルな製品・システム開発プロセスを研究、様々な企業・地方公共団体とのプロジェクトで実践している。教育活動では、千葉工業大学において、大学院工学研究科長として、デザイン、エンジニアリングとマネジメントの関係性を再考し、高度デザイン人材や新時代のエンジニアに求められる能力である、多面的・多角的に課題を捉え、ステークフォルダーと共創しながら革新的な価値を実現することができる人材育成カリキュラムの構築を行った。デザイン学会代議員、インテリア学会評議員、工学教育協会、国際P2M学会等に所属し多数の研究論文が掲載されている。主な著書(共著)「デザイン科学辞典」。