“できているつもり”になりがちな「振り返り」に潜む落とし穴:連載「チームレジリエンスの科学」第4回
“できているつもり”になりがちな「振り返り」に潜む落とし穴:連載「チームレジリエンスの科学」第4回

“できているつもり”になりがちな「振り返り」に潜む落とし穴:連載「チームレジリエンスの科学」第4回

2022.03.07/8

エースメンバーの突然の離脱、取引先の無茶な要求、感染症のパンデミックによるチームの業績不安……チームは様々な困難に直面します。こうした困難の中で今までと変わらぬパフォーマンスを発揮する、あるいは、今まで以上の高業績をあげる上では、チームで困難状況を乗り越える力である「チームレジリエンス」が欠かせません。

チームレジリエンスの高いチームは、遭遇した困難から必ず教訓を得ます。それにより、次に同じような困難に遭遇した時はダメージが低く済むようにしているのです。

チームが困難から教訓を得るための重要な要素の一つに「振り返り」があります。何かうまくいかない出来事があったときに、振り返りをしているチームは少なくないかもしれません。一方で、困難が生じた後の振り返りは意外と難しく、自分たちの悪かったところだけ挙げて終わりにしたり、“犯人”を特定して糾弾するだけだったりになりがちです。この記事では、そうしたよくある振り返りの失敗パターンを3つ紹介します。加えて、それを回避し、チームレジリエンスを高めるための方法について解説します。

犯人告発裁判、反省会、その場しのぎ:チームの振り返り、3つの失敗パターン

困難な出来事を経験した後の振り返りは、次のような望ましくないパターンが生じがちです。

失敗パターン①:犯人告発裁判パターン

このパターンは、誰が悪かったのか犯人探しをして、その人に罰を与えることで振り返りを終了させるというものです。「振り返り」においては、チームのネガティブな経験が思い出されます。そのため、普段は人間関係に問題のないチームでも「あの人のあのミスさえなければ、〇〇もうまくいったのに……」といったネガティブな感情が生じ、今後、同じような問題が生じるのを防ぐための話し合いではなく、罰を与えることで終わらせようとすることがあります。例えば、会社の広報で運用しているTwitterで不適切な発言をしてしまった時に、再発防止のための策を考えるのでなく、当事者を懲戒処分して終わりにするケースなどがこのパターンに分類されます。

ある程度しっかりと組織学習に向き合っている組織であれば、“犯人告発裁判“が生じる頻度はそれほど高くないかもしれませんが、人間関係の悪化を招き得る深刻なパターンです。また、処分をしただけで、再発防止の対策が練られなければ、再度同じような危機に遭遇する可能性が高まってしまいます。

失敗パターン②:反省会パターン

このパターンは、振り返りにおいて各自が自分のダメだった点やチームのよくなかった点のみをあげ、「今後どうするか」が示されないというものです。例えば、チームで考えたビジネスプランが、上長から承認されなかったとしましょう。反省会パターンでは、その後の振り返りにおいて、「私のプレゼンがいまいちだったから」「マネタイズの方法を十分に練ることができなかったから」とうまくいかなかった理由のみを挙げて、具体的改善策が示されません。これでは、悪かった点はわかるものの、次に何をすればいいかが明確ではないため、行動変容が生じにくくなってしまっています。

このパターンは、振り返りにおいて、比較的よく生じます。これによりチームの関係や状況が悪化することはないかもしれませんが、結局何も改善がなされないので、類似した困難が生じた際にもまた同じ失敗に陥ってしまいます。同じ失敗を繰り返さないようにするためには、次は何に気をつけるべきか、教訓を得る必要があります。

失敗パターン③:その場のしのぎパターン

このパターンは、教訓を得てはいるものの、根本的な問題は解決されないような教訓のみが得られているケースです。例えば、納期に遅れがちなチームがみんなで業務量を増やし、納期前に徹夜をしたら乗り越えられたときに、「徹夜すれば納期には間に合う」と学習する例などが挙げられます。それ自体は事実かもしれませんが、もっと業務量が増えたりしたらどうでしょうか? これでは、根本的な解決策にはなっていません。

このパターンは、振り返りにおいて、とてもよく見られるパターンです。形だけの再発防止策が記載された、形骸化した再発防止マニュアルを作って終わりにするケースも、このパターンに分類されるかもしれません。チームが、次に向けて何をすべきか検討できている点においては、他の失敗パターンよりは良い振り返りをできていると思います。しかし、根本的な問題解決になっていないためチームが類似の困難に遭遇した際、ダメージを受けるリスクはまだまだ残ります。

失敗パターンに陥らないため、留意したい3ポイント

こうした失敗パターンに陥らないためには、①良かった点も振り返る ②目標の見直し ③チーム内の役割変更の3つが重要になります。犯人告発裁判パターンや反省会パターンを乗り越えて冷静に振り返る土台を作るためには、①がまず大切になってきます。次に、冷静に話し合える場が作れた後は、その場しのぎではなく、本質的な教訓を得るために、②と ③をする必要があります。以下で、それぞれ詳しく説明します。

①良かった点も振り返る

犯人告発裁判パターンや反省会パターンを防ぐためには、ネガティブ感情に巻き込まれない、冷静な振り返りの場を作ることが大切です。そのために、振り返りの際にうまくいかなかったところだけでなく、「良かった点も振り返る」ことが重要になります。うまくいかない経験の中にも、必ず良かった点やチームが強みを発揮できた部分はあるはずです。例えば、チームで苦境に遭遇していても、チームメンバーが愚痴や不満を言わずに過ごしていたならば、「チームをネガティブな渦に巻き込まなかった」という良さがあったはずです。先程ご説明した「犯人告発裁判パターン」や「反省会パターン」のような振り返りをしていると、良かったところについては特にフォーカスされず、次の機会に良いところを殺してしまうことも少なくありません。良かった動きを次も取れるように記録しておくことも、大事な振り返りです。

②目標を見直す

「失敗からの学習」研究において、うまくいかなかったことから学ぶためには、エラーを検出してその部分を修正するシングル・ループ学習だけでなく、既存の前提を問い直し、チームの構造やしきたりを変えていくダブル・ループ学習をすることが望ましいと言われています(Carmeli 2007)。ダブル ・ループ学習により教訓が得られれば、同じような困難がそもそも生じにくくなるため、困難から教訓を引き出す上でも重要だと考えられます。

問いのデザインにおいて、目標は「プロセス目標」「成果目標」「ビジョン目標」の3つに分類されています(安斎・塩瀬 2020)。成果目標とは「どこを目指すか」を、プロセス目標は「どのように進めるか」を、明確化するものです。ビジョン目標は、成果目標とプロセス目標の意義や目指す方向性のコンセプトを言語化したものになります。

その場のしのぎパターンでは、上記3つの目標のうちの「プロセス目標」のみが修正されています。一方で、プロセス目標の修正だけでは、シングル・ループ学習から抜け出せず、次も同じような困難に遭遇してしまうことが少なくありません。

例えば、新型コロナウイルス感染症の流行により、対面での研修の売り上げが低下した際に、感染症対策をしっかりすることで売り上げが少し戻ってきたという例を考えてみましょう。この経験を踏まえ、「対面での研修の売り上げを下げないために、感染症対策をしっかりしよう」という教訓を生み出すのは、プロセス目標のみが修正されるシングル・ループ学習です。対面の研修を売り続けるという方向性では世の中の変化についていけず、今後さらに売り上げを落とす可能性もあります。成果目標を見直し、対面の研修だけでなく、オンラインの研修も含めた売り上げ目標を定めるようなダブル・ループ学習をしたほうが、感染が再度拡大したときにもうまく乗り切れる可能性があります。 

なので、振り返りの中で「そもそも、自分たちはどの方向に進んでいるのか?」「今までの目標のままで良いのか?」「自分たちは何を目指していたのか?」といった問いかけを行い、成果目標やビジョン目標を見直すことが、チームで困難を経験した後の振り返りに欠かせません。

③チーム内の役割変更

「個人」でなく「チーム」であることの利点は、個々によって得意なことや専門性が違うために多様なスキルや価値観を導入できることです。目標や行動の見直しだけでは解決が難しいことも、誰が何を担当するかを変更すれば解決できる場合が多々あります。

例えば、お笑い芸人のロンドンブーツはもともと田村亮さんの方がツッコミで、番組の仕切りなども亮さんがやっていたそうですが、途中で役割を交換して田村淳さんの方がMCなどを行うようになったそうです*2。得意を活かした役割分担により、ロンドンブーツはより一層、多くの番組でMCを成功させていきました。

このように、個々が得意なことを活かし役割を見直すことで、チームはその場しのぎパターンを乗り越えて、根本的な課題を解決したり、さらに飛躍したりする可能性があります。「チームメンバーの個性を活かして、よりうまく課題を解決するためにはどうしたらよかったのか?」を振り返り、適切な役割分担を編み直すことで、問題に直面してもうまく機能できるチームへと進化することが可能です。

皆さんのチームは、困難から学べるような振り返りが行えているでしょうか? もし、失敗パターンが生じている場合は、ここでご説明した3ポイントを意識してみてもいいかもしれません。


CULTIBASEでは過去にチームや個人のレジリエンスに関するライブイベントを開催してきました。CULTIBASE Lab会員限定でアーカイブ動画を公開中ですので、興味のある方はぜひこちらもご覧ください。

*1:ヒアリング等をもとに筆者が生じやすさのレベルを評価した
*2:あちこちオードリー 2021年6月2日(水)放送回より

参考文献
安斎勇樹, & 塩瀬隆之. (2020). 問いのデザイン. 創造的対話のファシリテーション, 学芸出版社.

Carmeli, A. (2007). Social capital, psychological safety and learning behaviours from failure in organisations. Long range planning, 40(1), 30-44.

パッケージ

テーマごとにコンテンツを厳選してまとめました。

もっと見る