信頼と対話が組織をつなぐ:複数主体によるコミュニティのデザイン論─【特集】社会を動かすコミュニティのデザイン

信頼と対話が組織をつなぐ:複数主体によるコミュニティのデザイン論─【特集】社会を動かすコミュニティのデザイン

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いま、私たちは不安定さが常態化する時代を生きています。

人口減少・高齢化、気候変動、経済格差、テクノロジーの急速な進化、グローバルな政治の緊張──それらはすべて直接的な影響を及ぼしつつあります。かつての「常識」や「前提」が通用しにくくなった現代では、問題を単独で解決できるプレイヤーはほとんど存在しません。むしろ重要なのは、「異なる能力や属性を持った主体」が互いに学び合い、補い合いながら、新たな価値や解決策を共に創り出すことではないでしょうか。

CULTIBASE は、これまで組織に潜むナレッジを掘り起こし、理論と実践を越えて学ぶ場として歩んできました。本シリーズ 『社会を動かす「コミュニティ」のデザイン』 では、これまで培ってきた組織内マネジメントの知を土台としながら、企業・行政・学校・NPO など、より異なる主体が連携・協調しあう社会課題解決のチームをどのように形成して、マネジメントしていくのか。複数主体が志を束ねる「コミュニティ」のデザインを探究していきます。

この探究は、社会的必然だと考えています。

なお「コミュニティ」については様々な定義があります。

例えば宮垣(2021)では「コミュニティ」という言葉の意味が、昔の村(地縁)のような自然なつながりから、社会の変化とともに少しずつ変化してきたことが説明されています。1969年に国民生活審議会報告書では「コミュニティ」が国の政策の中でも使われるようになり、近年ではNPOや協働、多様なネットワーク型コミュニティへと広がる一方で、複層的・規範的な概念として再定義を迫られていることが示されています。

本記事で扱うコミュニティとは、「一組織のリソースでは解けない課題を共に解きあう複数の組織の集合体」を扱うものと定義します。

つまり、ある社会の問題を解決することに関心を持つ人たちが、ひとつの組織だけではなく、いくつもの組織やグループに広がっており、かつそれぞれの組織が「お互いに力を引き出し合う関係」になっていて、それぞれの得意なこと(強み)を活かしながら、助け合って協力する土台が形成されている状態です。

ここでいう組織としては、経済価値を創出しイノベーションを加速させる「企業」、公共性と長期視点で制度設計を担う「行政」、学びを媒介し地域と人を育み守る「学校」、社会課題の前線で行動し当事者の声を届ける「NPO」など、多岐に渡っています。これらの主体がビジョンと資源を共有・再編成しながら、共通善を実現する場こそが、これからの社会で必然的に重要なコミュニティであると考えます。

コミュニティでの協働を阻む壁

複数主体からなるコミュニティの強みは、何といっても多様性にあります。

企業・行政・学校・NPOなど、それぞれ異なる組織文化・専門知識・リソースを持つ者同士が交わることで、単一組織では生み出せない創造的なアイデアが芽生え、新たな価値が創出されます。多様なバックグラウンドを持つメンバーが協働する集団は、単一的な集団に比べて問題解決力やイノベーション創出力が高まることが指摘されています。その背景には、「異質なもの同士の接触」すなわち創造的摩擦が刺激となり、従来の常識に囚われない発想が生まれるという原理があります。

しかし、多様性は両刃の剣でもあります。

組織の差異は補完関係の源泉であると同時に、摩擦の火種でもあるからです。価値観や働き方の異なる者同士が協働すれば、摩擦(衝突)は当然生じやすくなるのです。

例えばスピードを重視する企業と透明性を重んじる行政という「組織文化の隔たり」、権限の所在とリスク許容度の差が生じる「ガバナンス構造の非対称性」、成果の物差しがバラバラではインセンティブが立ち上がらない「評価指標の不一致」などなど。特に異なる組織間では重視する価値観も異なると考えられるため、一企業のマネジメントでは想像もつかないほどに、協働の場面では大きな課題が内包されるはずです。

ここで重要なのが、その摩擦を「破壊的対立」ではなく「創造的摩擦」(Leonardo,1998)に転換するコミュニティマネジメントであると考えています。ポイントは信頼と対話に基づく心理的安全性の確保です。

したがって、コミュニティマネジメントの核心は、多様性を活かすための信頼醸成と対話のデザインにあると考えられます。具体的な施策としては、定期的な対話の場を設け、互いの立場や背景を理解する機会を創ることなどが考えられます。また、ファシリテーター役を担う中立的な存在を置いて対等な議論を促すことも有効です。

加えて、共通の言語やフレームワークを用意することも検討すべきでしょう。専門用語や前提が組織ごとに違うままでは誤解が生じますから、協働プロジェクトの初期段階で用語の定義や目的の再確認を行い、「文脈の共有」を図ることが望まれます。

協働を促進する「見えない資本」の力

このような複数主体からなるコミュニティが効果的に機能するためには、表面的な協定や業務分担の枠組みだけでも不十分であり、参加者同士の信頼関係、共有された規範、継続的なネットワークといった「見えざる資本」の存在がきわめて重要だとも議論されています。

社会学においては、こうした要素はソーシャル・キャピタル(社会関係資本)という概念で捉えられており、その代表的な理論家であるロバート・パットナムは、ソーシャル・キャピタルを「人々を効果的な協調行動へと導く社会組織の特徴」と定義しています(Putnam. 2001)。そこには、信頼(trust)、規範(norms)、ネットワーク(networks)という三つの要素が含まれます(Putnam,2001;小藪ら,2007)。

パットナムはその著書『Making Democracy Work(邦訳:『哲学する民主主義』)』において、イタリアの地方政府における制度パフォーマンスの違いを分析し、市民社会におけるソーシャル・キャピタルの蓄積度合いが、制度の効果や政策実行力に大きな影響を与えることを示しました(Putnam,2001)。つまり、形式上の制度設計が同じでも、それを運用するコミュニティの中に信頼とネットワークが根づいているかどうかで、制度の実効性が大きく変わるのです。この指摘は、異なる主体が協働する現代の社会課題解決コミュニティにおいても示唆に富んでいます。

たとえば、行政・企業・NPO・学校といった異なる組織が連携して子どもの貧困対策に取り組もうとする場合、単に役割を分担するだけでは、情報共有や実行の連携がうまく機能しません。むしろ、「相手を信頼してよい」「自分たちの行動が他者の行動と連動している」という感覚がチーム全体に広がっていることで、意思決定のスピードや柔軟性が高まり、目に見える成果へとつながっていくといえます。

このような信頼やネットワークは、突如として形成されるものではありません。日常的な対話や共同作業の積み重ねの中で、徐々に育まれていくものです。社会心理学の分野では、「関係的信頼(relational trust)」と呼ばれる概念です(Bryk&Schneider,2002)。関係的信頼は、相手の能力や誠実さ、共通目標への献身を信じることで成り立ちます。

従って、コミュニティを立ち上げる段階から、関係者同士が直接顔を合わせ、互の価値観や動機を共有するプロセスを丁寧に設けることが重要です。形式的な合意書よりも、非公式な対話や雑談、共に体験する場のほうが、信頼形成には効果的な場合もあります

蓋然性に基づく信頼のデザイン

とりわけ複数の組織が関わるコミュニティにおいては、自然発生的な信頼の醸成を待つのではなく、信頼の形成・維持・再構築を意図的にデザインする必要があります。なぜなら、組織間の連携は個人同士の関係性よりも利害の複雑性が高く、文化的背景や意思決定の構造も異なるため、偶発的に育まれる信頼だけでは持続的な協働は難しいからです。そのため、信頼を育んでいく構造的工夫が必要になります。

本章では、國領二郎が『ソーシャルな資本主義』の中で紹介していた〈必然〉〈偶然〉〈蓋然〉という三つの概念を踏まえて「信頼をデザインするための構造的工夫」とは何を意味するのかを考えてみます(國領,2013)。

まず〈必然〉とは、原因と結果が論理的に結び付いており「起こらざるを得ない」状態です。自然法則や数学的定理がその典型です。組織間協働に置き換えれば、法的拘束力のある契約や強制力のある規制がこの領域に近いといえます。しかし必然は、柔軟性と創造性を犠牲にしがちです。罰則を恐れるあまり、当事者はリスクを最小化する方向に動き、挑戦的な協働が生まれにくくなります。従って、必然だけでコミュニティを運営すると、秩序は保ててもイノベーションの芽を摘んでしまう危険があるのです。

次に〈偶然〉は、因果の網目からこぼれ落ちた出来事であり、基本的に再現性がありません。偶然にも同じ危機感を抱いていた......こうした瞬間的な縁は、協働の火種として大きなエネルギーを宿します。実際、NPO と企業の担当者が懇親会で意気投合し、共同プロジェクトが走り出す事例は決して少なくないでしょう。しかし偶然頼みでは、担当者の異動や環境変化で関係が途切れる危険が常につきまといます。要するに「棚からぼたもち」に期待しても、持続可能な連携基盤は築けないのです。

そして最後の〈蓋然〉は、必然ほど確定的ではないですが、条件を整えれば高い確率で起こりうる状態を指します。信頼をデザインする際に私たちが狙いたいのは、まさにこの蓋然領域です。

強制力(必然)に頼りきらず、巡り合わせ(偶然)を待つのでもなく、「互いに期待を守る可能性が高まる条件」を設計しておくこと、これが組織間の連携の土台となる「信頼」を醸成していくための構造的工夫として位置づけられます。

例えば企業が異なるアクター同士が集まりやすいコミュニティスペースを運営する例。また異なる立場の人同士が協働した成功体験を可視化・アーカイブして共有する例など。こうした工夫はいずれも、「信頼の蓋然性」を高めるための仕掛けであると言えます。つまり、信頼とは「あるか/ないか」の二値的なものではなく、条件設定によってその発生確率を上げていくことが可能な関係の生成過程といえるのではないでしょうか。

とはいえ実務上は、必然・偶然・蓋然のいずれも一長一短があり、排除できないとも考えられます。組織間のリスク管理上、契約という必然は不可欠だし、偶然の出会いがもたらす創造的化学反応も貴重です。しかしコミュニティを長期にわたって機能させるには、“蓋然性のデザイン”を中心に据え、必然で底を支え、偶然で刺激を与えるというバランスが必要といえるのではないでしょうか。

「普遍といま、ここ」のはざまで、私たちは何を編むのか

「コミュニティのデザイン」という言葉は、いまやあまりにも多くの場面で語られるようになりました。行政施策におけるまちづくりから、福祉・教育・文化・災害支援・ビジネスの現場まで、その適用範囲は広く、あたかも万能の処方箋のように語られることさえあります。その分、耳触りのよいスローガンとしての消費にとどまり、実態を伴わない空虚な語りに堕してしまう危うさも孕んでいます。

たしかに、コミュニティという概念は、時代の節目ごとに繰り返し要請されてきた歴史をもちます。戦後復興期には、地域の相互扶助による自治の再構築が求められました。

高度経済成長期には、都市化と核家族化の進行にともなう「孤立」への対抗軸として、近隣住民同士のつながりの再構築が課題となりました。阪神淡路大震災(1995年)では、仮設住宅における高齢者の孤独死を背景に、官民協働の見守りや共助のネットワークづくりが注目されました。東日本大震災(2011年)では、全国から支援の手が差し伸べられる中、外部とのつながりと地域固有の関係性との間にある摩擦が可視化されました。そして2020年以降の新型コロナウイルスの感染拡大は、物理的距離と社会的つながりの関係を根底から揺さぶり、デジタル空間における「新たな居場所」の模索を生みだしました。

このように「コミュニティ」が語られる背景には、常に「いま、ここ」を取り巻く社会的状況があります。

人が集まれない、支え合えない、あるいは誰かの声が届かない。そうした社会不安や断絶に対する応答として、私たちはたびたび異なるアクター同士が、自分らの「強み」を持ち寄りながら、共通善を抱きながら協働することのできる「コミュニティ」に希望を託してきたといえます。

しかし、そうした歴史を辿るとき、私たちはある種の畏れをもって、過去の知の積み重ねに向き合うことになります。「すでに語り尽くされているのではないか」「今さら自分に何が言えるのか」......。

そのような感情にこの文章を執筆している私も襲われています。だが、そうした知的営みに敬意を抱くと同時に、私たちには、やはり“いまの私たち”にしか語れない言葉があるはずだと思うのです。

このシリーズを通じて、公共善を実現する、組織間の協働コミュニティのマネジメントを探究していきます。

参考文献

  • Putnam, R. D. (2000). Bowling alone: The collapse and revival of American community. Simon & Schuster.(柴内康文訳, 2006『孤独なボウリング』柏書房)
  • Putnam, R. D. (2001). 哲学する民主主義: 伝統と改革の市民的構造 (河田潤一, 訳). NTT出版. (原著出版年: 1993)
  • Bryk, A.S & Schneider, B. (2002)Trust in Schools: A core resource for improvement. NY: Russel Sage Foundation.
  • 國領二郎. (2013). ソーシャルな資本主義. 日本経済新聞出版社.
  • 小藪明生, 濱野強, & 藤澤由和. (2007). ソーシャル・キャピタル研究における一般的信頼の位置づけ. 新潟医療福祉学会誌, 7(1), 60–63.
  • 宮垣元. (2021). コミュニティと総合政策:その変遷と今日的課題. KEIO SFC Journal, 21(1), 66–90.
  • Leonardo, D. (1998, 1月). 「“創造的摩擦”を活用するマネジメント――同質的な企業文化からイノベーションは生まれない」. DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー, 1998年1月号.

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