【序文公開】アイデアが実り続ける「場」のデザイン:新規事業が生まれる組織をつくる6つのアプローチ

【序文公開】アイデアが実り続ける「場」のデザイン:新規事業が生まれる組織をつくる6つのアプローチ

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約10分

2024年5月17日に小田裕和(株式会社MIMIGURI デザインストラテジスト/リサーチャー )の新著『アイデアが実り続ける「場」のデザイン』が発売されました。この記事では、本書の序文を公開します。

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はじめに

この本を手にとった皆さんは、どのような期待を持ってくださっているのでしょうか。まず、次のような組織的な課題感を持たれている方がいらっしゃると思います。

・新規事業を生み出さなければならないが、なかなか社員から積極的な提案が出てこない

・試行錯誤しながら新規事業施策を展開しているが、提出されるアイデアが年々減っていってしまう

・主体性や熱量を持って取り組んでほしいが、そうした社員はなかなか出てこないし、いたとしても転職してしまう

一方で、現場でモヤモヤを抱えている方もいらっしゃるかもしれません。

・どんなにアイデアを提案しても、なかなかそれが評価されず、形にならない

・どんどんチャレンジしろと言われるけれど、チャレンジしたところで損になるのが目に見えている

・そもそもどこからアイデアを考え出せば良いか分からないし、その余裕もない

他にも様々な課題感を持たれていると思いますが、最初にお伝えしなければならないのは、本書では「こうすれば確実にアイデアが出せるようになる」というアプローチを紹介しているわけではないということです。しかしながら、中長期目線でこうした課題を解決し、実りが生まれる場をつくることはできると私は考えています。

常識にとらわれないようなアイデアや新規事業を確実に成功させることを謳った書籍はすでにたくさんありますし、様々なフレームワークやツールキットを誰もが利用できます。また、生成AIの能力の飛躍的な向上に伴い、問いかけるだけであらゆるアイデアを提案してもらえるようにもなってきました。

にもかかわらず、様々な組織で「どうしたら新しい事業を形にできるのか」という悩みが尽きることはありません。皆さんの働く会社でも、新規事業を生み出すために、外部パートナーの力を借りたり、様々なセミナーを展開したりしていることでしょう。

私自身も、そうした支援に取り組んできました。特に京セラ社で2019年から数年にわたって伴走支援させていただいた新規事業施策は、代表的な取り組みの一つです。

初年度は数百にものぼる多くのアイデアが集まり、私たちはその中から選抜された数十人の参加者に、アイデアを磨いてもらうプログラムの支援をさせていただきました。参加した皆さんが、自身のアイデアのポテンシャルを磨き、想いや熱量を育むために私たちも試行錯誤を重ね、最終的に社長プレゼンを通過した案の1つが、「matoil(マトイル)」です。アレルギーを持つお子さんの「これ食べたい」という声に応えるオーダーメイドのミールキットサービスとして、第1章で対談した守屋実さんのサポートの上で事業化に至りました。

一見すると、「なぜ京セラが?」と思うような事業かもしれませんが、事業を提案した谷美那子さんが語る、「アレルギーを持っている子供たちは、『私これ食べたい』と言えずに、疎外感を抱いている」という課題のストーリーに多くの人の心が動かされ、実際に課題を抱える方々と、深い関係性を築く事業となっています。

一方で、残念ながら事業化に至らなかったアイデアも多くあります。事業を形にするのはそう簡単なことではありません。いくら想いを持っているからと言って、しっかりと市場規模や事業成長が見込めるものでなければ、形にすることはできません。成長を果たした企業は、こうした厳しさを乗り越えてきているからこそ今の姿があるのですから、当然避けては通れない道です。

そうした前提を踏まえても、事業化に至らなかった提案に向き合った方々にとって、本当に良い機会を生み出せたのだろうか。あるいは、組織として新たな価値創出のポテンシャルを育むことができたのだろうか。この書籍の原体験ともなるような想いが募る取り組みでもありました。

私が働いているMIMIGURIが大切にしている「創造性の土壌を耕す」という私たちの想いからしても、事業化に至らなかったアイデア自体やそれに取り組んだ人々が、その取り組みに意味を感じられたり、組織全体の土壌を耕すことにつながったりすることを考えていかなければならない。施策自体が組織の土壌を豊かにしていくような新規事業施策のあり方とは何だろうか?この本の原点には、こうした想いがあります。

そもそも私の原点は、大学でのデザインに関する学びや研究にあります。デザインに分かりやすい答えはなく、試行錯誤の連続。そのプロセスでの学びの蓄積こそが重要なのです。デザイン思考といったアプローチも広く社会に浸透しましたが、方法論を使えば、誰でも事業が生み出せるようになる、なんてことは正直あまり言いたくないのです。

前著『リサーチ・ドリブン・イノベーション』では、リサーチという活動が、外側に答えを探す活動に終始してしまい、どんどんと「正解探しの病」に陥ってしまっている現状への問いかけを起点に、「サーチ」を豊かに繰り返すという観点に立ち、より探究を深めたくなるようなリサーチの営みを紹介しました。

今回の書籍もベースの思想は同じ。新規事業施策が、単に事業を生み出すためではなく、実りが生まれ続けるような土壌づくりに寄与する取り組みになることが大切だと私は考えています。

こうした前提を踏まえて、第1部では、新規事業施策においてどのように土壌が悪化してしまっているのか、あるいは豊かな土壌の状態をどのように捉えれば良いのかを考えていきます。

その上で第2部では、組織づくりや場づくりという観点で、土壌を豊かにするための新規事業施策のあり方について、トップダウンのアプローチを紹介しています。

新規事業施策と言うと、参加する社員にどんな取り組みをさせれば良いかという話がどうしてもメインになってしまいます。ただ、それ以上に、どのように提案を評価するか、取り組みからどのように組織的に学びを得るか、そして創造的な取り組みが広がる場をどのように生み出していけば良いか、経営層やマネジメント層こそが自分ごととして取り組む必要があるはずです。こうした観点で今問い直すべきと考える3つのアプローチについて紹介しています。

第3部では、ボトムアップの観点に立ち、事業案を構想する方のヒントになるような3つのアプローチについて紹介しています。提案する事業の「価格」にどのように向き合っていくべきか、どのような課題をどう見出しどう伝えていけば良いのか、自身で探索の歩みを進めていくために何を大切にすべきかなどを扱います。

いずれも、こうすればうまくいくというアプローチを紹介するものではなく、今の新規事業施策での課題の捉え方をより深めたり、新たなアクションのインスピレーションにつながったりするようなアプローチを紹介しています。

本文中には、その内容について内省を深めてもらうための問いをところどころに残させていただきました。まずはその問いに向き合ってみて、今の状況を見つめ直すことを第一歩として、本書を活用してみてください。

また各章末には、その章のテーマを一歩深掘りするために、私自身が話を聞いてみたいと思った方々との対談も掲載しています。各章の内容を飛ばして読んでも、インスピレーションを持ち帰っていただける対談になったと思っていますので、まずこちらから読んでいただくのもおすすめです。

本書を読んでくださった皆さんの中に、考えたくなる様々な問いが生まれ、実りが生まれ続ける場づくりに向き合いたくなる人が増える一助となれば幸いです。

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【小田登壇イベントのお知らせ】
6月17日(月)19時より「新たな事業が生まれ続ける組織づくり」をテーマにしたトークイベントをオンラインと会場のハイブリット形式で無料開催いたします。

『アイデアが実り続ける「場」のデザイン』の著者である小田裕和(株式会社MIMIGURI)がモデレーターを務めます。

ゲストに、数々の事業を立ち上げてきた新規事業家の守屋実氏と、介護現場の最大課題である「排泄」に挑むケアテックカンパニーである株式会社aba 代表取締役CEO宇井吉美氏を迎え、’’大企業における新規事業を促進する環境づくり’’や、’’社会を変える想いと事業を両立する環境づくり’’など、多層的な視点で『新たな事業が生まれ続ける組織のつくり方』を掘り下げていきます。

■開催概要
日時:2024年6月17日(月)19:00~21:00(会場は18:30 開場/受付)
会場:東京都渋谷区渋谷2-24-12 渋谷スクランブルスクエア15F SHIBUYA QWS内クロスパーク
オンライン:YouTubeにて配信予定
参加費:無料 ※事前申し込みは必須です。

■イベントの詳細はこちら
新たな事業が生まれ続ける組織のつくり方
https://www.cultibase.jp/events/15059

■お申込みはこちら
・ウェビナ―(オンライン)
https://mimiguriqws20240617online.peatix.com/

・会場参加型イベント(オフライン)
https://mimiguriqws20240617.peatix.com/