「探究の戦略」講義 2021年7月 – 探究のブランディング戦略

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約83分

7/31に開催されたイベント「『探究の戦略』講義 -探究のブランディング戦略」のアーカイブ動画です。探究の戦略」では、講義とグループワークを通して、参加者の一人ひとりが「探究」する意義や可能性への理解を深め、探究の質を高めるための戦略(strategy)の大枠を学んでいきます。アーカイブ動画に収録された「講義パート」では、探究の意義や戦略的に探究を進めていくポイントなどを安斎が解説しています。

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<今週のポイント>
・探究の辞書的な意味は「物事の本質を明らかにしようとすること」。ここでいう「本質」とは、絶対的な真理ではなく、人間や社会における納得解のようなものだと捉えられる。そのような解を導き出すためには、問いを起点に人・チーム・組織の本質に迫る「知」を自ら創りだしていくような探究活動が求められる。
・異領域に見識を拡げる「知の探索」と、1つの領域を深堀りする「知の深化」によるT字型の学習によってより深い探究が実現する。
・何を探究するのかを決定するためには、自身の「探究テーマ」を見つける必要がある。探究を深める過程で探究テーマの抽象度や形式は変化していくものであり、同時に複数の探究テーマを持っていても良い。
・ただし、インプットとアウトプットがどちらかに偏ってしまったり、「自分探し」の沼にハマるあまり次の一歩を踏み出せなくなったりしまわないように、バランスを取っていくことは大切である。自分を軸にインプットとアウトプットを往復しながら、知と知を結びつけていくための戦略が「探究の戦略」である。
・探究の戦略は、「問いを起点とした『分散と修繕』戦略」を基盤としている。情報が氾濫する現代社会においては、目標設定を重視した戦略よりも、目の前の問いを手持ちの材料で紐解いていく「分散と修繕」によるブリコラージュ型の戦略が効果的である。
・他方で、自身の内側に目を向けることも重要である。「概念的関心」と「実用的関心」の往復の中でアイデンティティの言語化と問い直しを行いながら、探究テーマを形成していく。それが探究の戦略の一つ「アイデンティティ戦略」である。
・加えて今回新たに解説する「ブランディング戦略」では、自分がどんな関心を持っている人間なのかを周囲に記憶させる(発信する)ことで、探究を前進させる。思考の外化によってメタ認知と理解が促進し、同時にアイデンティティの形成を加速させる内省の機会になる。また、その発信によって関連する人・情報・機会など、数多の探究のリソースが自然と集まってくるようになる。
・例えば、SNSでの発信は探究を支えるブランディングであると同時に、テストマーケティングにもなりうる。粘り強く発信を続けながら、自分の関心を市場に記憶させていくことで探究に推進力を生んでいくことが可能となる。

「探究」はCULTIBASEを語る上で欠かせないキーワードであり、組織や個人の学習を支える最も重要な要素の一つに位置づけられる活動です。誰かが提唱する理論や考え方をただ受け取るだけでなく、自分自身が持つ別の知見と結びつけ、持論を形成し、試行錯誤を繰り返しながら、また新たな学びへと繋げていく。CULTIBASEでは、そのような創造と学習の往復による探究を続けていくことで、多様な状況に活用可能な「生きた」知見を身体化させることができると考えています。

人が新しい何かを生み出す時、多くの場合、何かしらの「偶然による良い出会い」が関係すると言われています。そして、それは探究という創造的な学習の営みにおいても例外ではないでしょう。今回初めて仔細に語られた「探究の戦略」の一つ、「ブランディング戦略」は、まさに探究の質を高める「偶然による良い出会い」がもたらされやすい状況をいかに創るか、という点で重要な示唆が得られる内容だったかと思います。

会議やワークショップなどで一つの発言が場に大きな影響を与えることがあるように、積極的な発信が、自身を取り巻く関係性や意味付けを少しづつ変容させていくことがあります。探究に適した状況を生み出していく上で、どのようなスタンスで自身の関心を伝えていくと良いのか。そのような試行錯誤も、ファシリテーターが日常的に行う「場づくり」の延長線上に捉えられるものだと言えるのではないでしょうか。本アーカイブ動画では、安斎が過去にどのような発信を通して自身のブランディングを戦略的に行ってきたのかが語られていますが、それらも含めて、ワークショップという創造と学習の場づくりの方法を研究してきた安斎のルーツに触れられるような一本となりました。すでに過去の探究の戦略の講義をご覧になった方は、アーカイブ動画の57:48あたりからブランディング戦略の解説が始まりますので、ぜひそちらをご視聴ください。

出演者

山崎 奈央
山崎 奈央
安斎 勇樹
安斎 勇樹

株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO

東京大学大学院 情報学環 客員研究員

1985年生まれ。東京都出身。私立武蔵高校、東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO/東京大学 特任助教授。

企業経営と研究活動を往復しながら、人と組織の可能性を活かした新しい経営・マネジメント論を探究している。主な著書に『問いのデザイン』、『問いかけの作法』、『パラドックス思考』、『リサーチ・ドリブン・イノベーション』、『ワークショップデザイン論』『チームレジリエンス』などがある。

https://x.com/YukiAnzai
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