ピックアップ:組織の多様性を活かすための3つの手がかり
ピックアップ:組織の多様性を活かすための3つの手がかり

ピックアップ:組織の多様性を活かすための3つの手がかり

2022.04.28/7

インターネットやSNSの発展をはじめとした技術革新により、私たちは今、かつてないほど豊かなモノと情報に溢れた時代を生きています。そして今後その流れはさらに加速し、人々のライフスタイルや価値観、ものの見方は今後ますます多様化していくことが予想されます。

企業もまた、こうした多様化の時代に対応すべく、多くの企業が働き方改革などの制度の見直しに努めています。しかしながら、特に日本の場合は同質性を高く保つことで成長してきた企業が多く、多様さを受け入れることで組織の求心力や生産性が低下するのではないかと不安視する声もいまだによく耳にします。

他方で、こうした多様さをイノベーション創出などの創造的な成果に繋げようとする動きも広がっています。ただし、昨今の創造性研究では、性別や在職年数、人種、年齢といった人口統計学的な属性の異なる人々を同じチームにするだけで創造性が向上するわけではなく、それらの違いをきっかけとしたコミュニケーションが活性化して初めて、創造性に寄与する可能性があるのだと言われています(参考:『「多様性のあるチームが創造的な成果を生む」は本当か:創造性研究にみるチームづくりのヒント』)。

深いコミュニケーションが多様性を創造性に変えていくのであれば、創造的な成果を生む組織やチームをつくるにあたっては、ミドルマネージャーのマネジメントやファシリテーションのあり方が重要な鍵を握っているはずです。今回の特集記事では、そうしたミドルマネージャーが組織・チームの多様性と向き合い、創造的に活用するための手がかりを、「関わり方(個人)」「場づくり(チーム)」「仕組みづくり(組織)」の3つの観点からお届けします。

メンバーの“多様さ”を活かす、ブリコラージュ型マネジメント

マネージャーとして、メンバーの一人ひとりとどのように関わっていけば、チームの多様さを創造性に結びつけることができるのでしょうか。今回はそのヒントとして、「ブリコラージュ(bricolage)」と呼ばれるものづくりの考え方に目を向けてみます。

ブリコラージュとは、文化人類学者のクロード・レヴィ=ストロースが、1962年に発表した書籍『野生の思考』で取り上げた概念です。事前に設計図を描き、そのとおりに組み立てるエンジニアリングと異なり、ブリコラージュによるものづくりは、まずは自身が持っている道具や材料を観察し、その道具にどんな可能性が眠っているのかを考えるところから始められます。目的を過不足なく達成できる理想のツールを探すのではなく、まずは自分がいま持っているツールが何かを把握し、それらを(たとえ本来の用途とは違ったとしても)組み合わせながら、“ありあわせ”で必要なものを作ることがブリコラージュの特徴であり、そのため「器用仕事」と訳されたり、「日曜大工」と例えられたりしています。

こうしたブリコラージュの考え方が、現代のマネジメントにも求められているのではないか。先日開催されたライブイベント『多様な個を生かすには?:“ブリコラージュ”型チームづくりの探究』の中で、株式会社MIMIGURIのファシリテーター・田幡祐斤は次のように語ります。

田幡 経験したことのないプロジェクトに挑むときは、ブリコラージュ的なアプローチが適していると思います。プロジェクトの目的自体に新規性があり、完成形の想像すらつかない仕事に取り組むとき。そういったシーンでは、手元にある“宝箱”を観察し、そこにある道具との対話を繰り返しながら試行錯誤していく必要があると考えます。(中略)

 

もちろん、理想のチームを思い描くことに意味がないわけではありません。しかし、ブリコラージュ的な発想で組織を考えるときにまず重要なのは、今ある素材、つまり「人材」の可能性を見つめ直すことです。これまでの話との繋がりを踏まえて、あえて「人材」という言葉を使わせください。

 

プロジェクトを達成に導く、既存の「人材」としっかりと対話ができているかが重要だということです。「対話はしているよ」と言う人の場合も、チームの理想像に人材をあてはめるための対話になってしまっているケースが少なくありません。「こういうチームにしていきたいから、君にはこんな役割を果たしてほしい」といった具合ですね。しかし、これはブリコラージュ的な態度とは言えません。

まずは目の前のメンバーとしっかりと向き合い、そのメンバーの可能性を起点として目的達成までのプロセスを描くこと。多様で不確実な今の時代においては、そのような自分たちの立っている足場を確認し、コミュニケーションを取りながら、より強固にしていくことが重要になってくるのではないでしょうか。

※ライブイベント「多様な個を生かすには?:“ブリコラージュ”型チームづくりの探究」のアーカイブ動画を公開中です。関心のある方はぜひご覧ください!

https://www.cultibase.jp/videos/7352


固着化した文化・風土を問い直す場づくり:ワークショップの活用

組織を取り巻く社会の価値観は、日々着実に変化し続けています。今回テーマとする「多様性」はその最たるもののひとつですが、昨今では「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」といった言葉とともに、多様性尊重を掲げる企業も増えています。

他方で実際の取り組みレベルではまだまだ社会全体として試行錯誤の段階にあります。特に、ジェンダーや障害、差別、ハラスメントに対する考え方などに関しては、センシティブな話題であるがゆえに話すこと自体がタブーとされてしまうケースも少なくなく、たとえ個人が組織の古い価値観に違和感を覚えたとしても、具体的にアクションを起こすまでには高いハードルがあるのが実情です。しかし、こうした違いから目を背けたままでは、本当の意味での信頼関係や、創造性に繋がりうる深いコミュニケーションなど、望むべくもありません。

組織の固着化した価値観や文化を問い直し、一人ひとりが自身の考えを語れるような機会を、組織として設けるにはどうすればよいのでしょうか。先日開催されたイベント『個人の“らしさ”が共生する組織をいかにつくるか? -「常識を考え直すワークショップ」の事例から考える』では、こうした問いについて、株式会社リブセンスの社内向けD&I研修「常識を考え直すワークショップ」の企画を務めた臼井隆志(株式会社MIMIGURI)と猫田耳子(同)が、リブセンス共同創業者の桂大介さんをゲストのお迎えし、ワークショップが持つ批判性の観点から、組織の中に自社の文化・風土を問い直す場を設けることの重要性について語り合う対談を実施しました。

 常識を考え直すとか、差別やハラスメントについて、僕らが何と一番戦っているか、何によって人々の”らしさ”が抑圧されているかというと、僕はやっぱり規範というものだと思うんですよね。そう考えたときに、ワークショップが生み出す多様性のようなものは、根本的にそういう問題と戦うのに適しているのだと感じました。レクチャーだけではどうしても新しい規範を教えることだけで終わってしまうと思うので。

日常とは切り離された場をデザインし、ボトムアップ的に参加者から語りを引き出していくワークショップという活動は、ある意味で安全かつ協同的に問い直しを行うための方法論だとも言えます。こうしたワークショップの定義や特性に関しては、ぜひ下記の記事をご覧ください。

イノベーションになぜ「ワークショップ」が重宝されるのか:100年の歴史から紐解くエッセンス

他方で、限られた人数しか参加できないワークショップでの成果をいかに組織全体に波及させていくかという問題も生じます。イベントではそれらの問題に対する桂さんの考えや、実際にどのようなワークショップを行ったのかなどのトピックについて語り合いながら、組織の価値観を揺さぶり、変え続けていくための取り組みについて、理解を深めていきました。対談の内容をフルでご覧になりたい方は、下記ページからご覧ください。

https://www.cultibase.jp/videos/9044

メルカリに学ぶ、多様性を体現する組織づくり

これまで個人・チームが多様性と向き合うための取り組みについて紹介してきましたが、組織としては、どのようなメッセージをチーム・個人に発信したり、それが体現される仕組みを作ったりする必要があるのでしょうか。先日CULTIBASEでは、株式会社メルカリ HR Business Partner・田井美可子さんをゲストにお招きし、グローバルテックカンパニーであるメルカリの多様性を尊重するカルチャーづくりの施策についてお話いただきました。

グローバル化に伴い、所属エンジニアの半分が外国籍だというメルカリ。急成長企業としてどうしても発生する言語の壁やバイアスの壁に対する具体的な取り組みについて話しながら、田井さんは特にトップが目指すカルチャーを言語化することが重要なのだと強調します。その一つとして、メルカリが統率の取れた多様性の高い組織の要件として掲げる「(1)カルチャーと仕組み」「(2)バリュー発揮行動」「(3)共通目標の達成」の3層の図を示しながら、これらが一貫して守られていることが重要なのだと語ります。

(3)共通目標の達成:
目指す方向性が共有されていて、多角的な価値観が存在する環境でも、皆が共通認識を持ちパフォーマンスを出している。
  ▲
(2)バリュー発揮行動:
属人化を排除し、個々がスキルと能力をベースに意思決定し、良いと思ったことを試してみることができる
  ▲
(1)カルチャーと仕組み:
社員の成果と成長を支える行動指針と仕組みが整っている

イベントでは各層における具体的な施策について紹介していただいたほか、後半のディスカッションパートでは、聞き手を務めたミナベらとともに、プロダクトづくりにおける事業部間のリードバランスなど、急成長企業の内側で今起きているリアルな課題や、それに向けた取り組みについて伺いました。

https://www.cultibase.jp/videos/6744

今回紹介した知見を概観すると、多様性とコミュニケーションが密接に関わり合っていることが改めて浮き彫りになったように感じます。そして「プレイヤー(現場)」「マネージャー」「経営層」のどこからどこにコミュニケーションを取るにしろ、まず目の前の人の個性や特性をまずは尊重することが、結果的にチームや組織の多様性や創造性に繋がっていくのだろう、と。皆様もぜひ今回の内容を手がかりに、自分や組織がの多様性との向き合い方やそこから生み出される創造性ついて、考えてみてはいかがでしょうか


会員制オンラインプログラム『CULTIBASE Lab』では、今回紹介したもののほかにも、創造的な組織のマネジメントやファシリテーションについて学べるコンテンツを多数公開中です。10日間の無料トライアル期間も設けておりますので、関心のある方はぜひこの機会に入会をご検討ください。

▼CULTIBASE Lab
https://db.cultibase.jp/lab/

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