組織の「タコツボ化」をどう防ぐ?──複数チームの対立を乗り越え、協働を促すリーダーシップ論
組織の「タコツボ化」をどう防ぐ?──複数チームの対立を乗り越え、協働を促すリーダーシップ論

組織の「タコツボ化」をどう防ぐ?──複数チームの対立を乗り越え、協働を促すリーダーシップ論

2022.05.10/10

一つひとつのチームのパフォーマンスを上げるだけでも、リーダーが考えなければならないことは数多く発生します。複数のチームが集まる企業において、連動しながらパフォーマンスを発揮できるようにするためには、どのような施策が考えられるのでしょうか。

今回、CULTIBASEではチームワークとリーダーシップを専門とする早稲田大学商学部准教授の村瀬俊朗さんをお招きし、複数のチームが協働し、かつ創造性が高まる組織開発のアプローチについてお話いただきました。

村瀬さんは「チーム運営を成功させるには、チーム外に目を向ける必要がある」と語ります。社内・社外の情報をなめらかに流通させることで、チームのパフォーマンスはどのように上がるのでしょうか。

チームの外に目を向け、組織の「タコツボ化」を防ぐ

2021年、Microsoft社は従業員6万1000人を対象に実施した調査にて、「パンデミックの時期に自宅からリモートワークをしていた人は、オフィスで仕事をしていた時と比べ、他のチームメンバーと話す頻度が少なくなり、社内での新しい人間関係を構築するのに時間がかかっていた」と結論づける研究を発表しました

リモートワークの弊害により、いま私たちはより“閉じた”グループの中で仕事が完結し、他のチームや同僚、馴染みの無い関係者とのコミュニケーションが減っています。自分の世界に閉じこもり、他の人や部門に関心がなくなってしまうことを「タコツボ化」と呼びますが、オンライン上のコミュニケーションは視野が狭まりやすい環境と考えられています。

こうした状況について、「市場環境の不確実性が高まり、企業活動に創造性が求められる現代において、いつも似たような人たちと議論することで起こる組織の『タコツボ化』は天敵だ」と村瀬さんは危機感を持ちます。

またチーム内だけで仕事が完結する弊害として、「各チームが個別の目標達成にエネルギーを注いでも、企業全体が良くならないことがある」と村瀬さんは語り、営業部門とマーケティング部門の連携不足を例に挙げます。

「営業は顧客のニーズを一番聞いていますが、自分の達成目標に向けて『売る』ことがゴールになると、得られた情報を他の部門へと伝える責任がなくなってしまう。もし営業がマーケティングと連携し、顧客のインサイトを届けることができれば、もっといい製品がつくれるかもしれないのに。KPIが達成できることと、全体のパフォーマンスが上がることは別なのです」

では、どうすれば「タコツボ化」を避けて、複数チーム全体のパフォーマンスを上げられるのでしょうか。村瀬さんは、チーム内において、他のチームや企業、業界全体で何が起こってるのか理解するための情報収集や、人間関係構築が重要だと語ります。

「チーム内では、お互いに顔が見える範囲で、似た価値観やコンテクストで情報を伝達します。信頼できる間柄でのコミュニケーションは快適ですが、創造的な発想は生まれにくい。一方で、外部知識の探索や、チーム外との連携は負担が大きいですが、チームのパフォーマンスを向上させる効果があると考えられます」

Twitterの「ハッシュタグ」すら最初は社内で受け入れられなかった

チーム外の情報がきちんと流通することで、チームのパフォーマンスは向上する。しかし、他のチームや、社外の人たちとのコミュニケーションに対してハードルが高いと感じる人もいます。

この点について、「私たちは普段から自分のチームを中心に思考している」と村瀬さんは説明します。人間は全く関係ない人たちでも「あなたたちは今からAチームです」と言われるだけで、仲間意識が芽生える。そしてチームで評価されるために自分のリソースを投入しはじめると言葉をつづけます。

さらに自分のチームに対する一体感が高まると、「あいつらと私たち」という認知が起こると村瀬さんは指摘します。

「自分たちのチームを強く意識するようになると、他チームに対する敵対心や偏見が生まれ、他チームの人びとへの理解が乏しくなります。そして、チーム間の協力や情報共有は少なくなり、チーム間での対立が高まる。特に目標達成に追い立てられる営業のように、ゴール達成へのプレッシャーが極度に高まると、他者を理解しようとする努力が失われるのです」

また、外部との交流によって新しい情報を得たとしても、それがチームや会社から受け入れられるとは限りません。私たちはそれぞれ異なる価値観・コンテクストを持っており、かつ会社やチームは似たような価値観で独自の思考をつくる傾向があります。それゆえに、新しい情報への解釈が正しくなされないと村瀬さんはいいます。

「社外から新しい知識を自社へ持ち込む際に、その考えが社内から拒絶される可能性が高いということを意味する『Not invented here syndrome(NIH症候群)』という言葉があります。社内には、社外情報を重要だと感じさせるコンテクストが欠如している。社内の伝統的知識のほうが重要だと認識されやすく、組織内で生み出された知識を採用する傾向にあるのです」

この具体例として村瀬さんは、Twitterのハッシュタグ機能を例に挙げます。あるTwitterのエンジニアは、2007年に「Yahooチャットルーム」でハッシュタグを活かした情報整理が行われているのを発見。「これは便利だから」と、自信たっぷりにプロトタイプをTwitterに実装しました。するとTwitter社内から「そんなのはオタクしかやらない」と批判が殺到し、アイデアを取り下げたそうです。ご存知の通り、いまやハッシュタグは、ほとんどのSNSで使用される基本機能になっています。

創造性が高く、新しいものであるほど、チームが「異物」だと感じる度合いは高まります。その結果、イノベーションが阻害されてしまう。社内の成功体験によって培われた「勝ちパターン」が、会社の衰退を招いてしまうのです。

他部署への「偏見」を払拭するためには?

「あいつらと私たち」という認知が生まれてしまうことが不可避だとすれば、チームで働く私たちは、どのように他者・他チームへの偏見を払拭すればよいのでしょうか。村瀬さんが提案するシンプルな方法は、「コンタクトポイントを増やす」こと。つまり、他チームの人と積極的にコミュニケーションすることが効果的だといいます。

たとえば、「ある他部署のAさんに冷たい態度を取られた」というだけで、その部署の人たち全員に苦手意識を持ってしまうことがあります。これは、無意識に他チームの人をひとくくりにして偏見を持ってしまった状態です。もしここで、日頃からその部署の他のメンバーと雑談していれば、「たまたまAさんは月末で忙しかった」という情報を知ることができるかもしれません。

このように、他部署との接触は、そのグループに所属している人たちへの偏見の減少につながります。「チーム全員が他部署との接触を増やす必要はありません。チーム内の誰かが他部署と仲良くなれば、自然にチーム全体が親近感を覚えるからです」と村瀬さんは言葉を付け加えます。

前章でも述べたように、各会社・各チームは独自の考えをつくるため、同じ情報を得ても異なった解釈をするため、チーム間の観点の相違が起こります。このギャップを埋めるのは、一人ひとりのコミュニケーションの積み重ねです。チーム間でのお互いへの認識が整って、各チームの専門性や、知識や経験に対する理解が深まることで、偏見や対立がない円滑な連携ができるようになるのです。

社外メンバーとの「名刺交換」だけでは意味がない

また社内の人間関係だけでなく、社外での人間関係構築はアイデアを生む観点から重要です。しかし、ここでの注意すべきポイントは「名刺交換だけでは意味がない」こと。いろいろな情報交換や相談ができる人間関係は、一度出会って話しただけでは構築できません。「自分の時間を使ってもいい」と思ってもらえる人間関係を、時間を投資して構築しているかが重要になるのです。

しかしながら、社外での活動ばかりに時間を費やすと、社内の人間関係構築が疎かになってしまいます。村瀬さんは社外だけでなく、社内でもバランスよく時間を費やして、人間関係を構築・維持することが重要だと語ります。

「アイデアを実現するためには、社内でいざという時に力になってくれる、『なんかよく分からないけど、あいつがやりたいならしょうがない』と思ってくれる仲間づくりが欠かせません。『NIH症候群』のように、新しいアイデアは社内で受け入れてもらうことが難しいからです。普段から他のチームや隣の部署の人たちとコミュニケーションし、『この人のためにだったら時間を使おう』と思ってもらえる社内の人間関係構築も重要なんです」

また、新奇性の高いアイデアを社内で受け入れてもらうには、「わかりやすい伝え方」も重要だと村瀬さんは語ります。

「かつて自動車産業の勃興とともに、『スチームエンジン』という当時は理解されづらい技術が登場しました。これをビジネスとして販売する際に、「馬力」という言葉を採用したことがよかったんです。大衆は『なるほど馬10頭分か』とすぐに理解し、スムーズに自動車が普及したからです。新しいものを語るときに、相手が知っている言葉で語ることは重要です」

他のチームと接触の機会を増やし、社内での豊かな人間関係を築き、社外でも積極的に情報収集をする。こうしたメンバーの工夫により、チームはより創造性豊かでパフォーマンスの高い動きができるようになるのです。

複数チームの協働を促すためのリーダーの役割

こうした、「メンバーが外を意識するチーム」は、ただ待っているだけでは生まれません。気を抜くとリーダーは自分のチームのことばかり考えてしまいがちですが、まずはリーダーから率先して外部と関わるチームづくりをする必要があります。

では、どうすれば外に目が向くチームを構築できるのでしょうか。最初にすべきことは、 組織・システム全体におけるチームの意義を明確化することだと村瀬さんは語ります。

「リーダーが自分たちの企業や、企業を取り巻く市場環境全体を理解し、チームに自分たちの位置づけや、自分の役割がどう貢献するのかをわかりやすく伝えることが大切です。全体像が理解できることで、チームのパフォーマンスは向上します」

村瀬さんによれば、次にリーダーがするべきなのは、他チームと連携する意味をメンバーに伝えること。メンバーが「他チームと接触する意味が見いだせない」状態では、連携が進まなくなるからです。ゴールや連携達成のために、お互いの重要性を認識させ、どのように連携すべきかを示すことがリーダーの役割です。

最後に、リーダーの大きな役割は「他チームのリーダーと友好関係を築くこと」だと村瀬さんは説きます。

「他チームのリーダーから尊敬されて好かれていることは、リーダー間の評判につながり、チーム間での支援の取り付けや連携精度に影響します。チームとしてお互いの足並みを揃えるために、リーダーは他チームのリーダーに対して変化の必要性を語り、危機意識に訴える。また新しい挑戦や、部門間の連携を積極的に促す。リーダーは、こうしたアクションを通じて、状況を大きく変えられる責務を担っているのです」


本記事は、会員制オンラインプログラム「CULTIBASE Lab」で開催されたイベント「チーム運営を成功させるにはチーム外に目を向けよ!複数チームを動かすためのリーダーシップ論」の内容を一部記事化したものです。90分におよぶイベントの模様は、下記のアーカイブ動画より全編ご視聴いただけます。
※本動画の公開は2022年9月末までとなります。お見逃しのないようお気をつけください。

チーム運営を成功させるにはチーム外に目を向けよ!複数チームを動かすためのリーダーシップ論

Text by Tetsuhiro Ishida

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