組織デザイン入門:集団がよりよく協働する仕組みと構造をつくるには?
組織デザイン入門:集団がよりよく協働する仕組みと構造をつくるには?

組織デザイン入門:集団がよりよく協働する仕組みと構造をつくるには?

2022.10.21/8

組織の構造や仕組み、制度を適切な形に設計する組織デザイン。組織に携わる一人ひとりの基盤を設計する方法論でありながら、マネジメント領域においてその知見が語られることは、それほど多くはありません。

本記事では、株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEOのミナベトモミによる、組織デザインの基本的な考え方と、代表的な方法論のひとつである「ハコとしての組織づくり」について解説した、CULTIBASE Labの動画コンテンツ『組織デザイン概論』の内容を一部抜粋してお届けします。

「組織デザイン」という名称を初めて見聞きしたという方から、自身の所属組織の組織構造について理解を深めたいという方、実際に組織の構造設計に取り組む経営者や事業部長など、幅広い方にとって組織デザインの基本的な知識が学べる内容です。ぜひ最後までお読みください。

■講師プロフィール

ミナベトモミ(株式会社MIMIGURI代表取締役 Co-CEO)

早稲田大学第一文学部 ロシア語ロシア文化専修卒。家電メーカーPM&GUIデザイナー経て、株式会社DONGURI創業。その後に株式会社ミミクリデザインと経営統合し、株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEOに就任。経営組織コンサルティング領域を専門とし、主にソフトウエア組織の構造設計・制度開発を手がける。


組織デザインの準備(1):組織の「捉え方」の違いを理解する

ミナベ 組織デザインの方法論について学ぶ前に、前段として、「組織」というものをどう捉えるのか、考えてみたいと思います。経営学や組織論においては、多くの先人たちによって、多様な組織の捉え方が提唱されています。例えば、経営学者・金井壽宏先生の書籍『経営組織』では、以下の10の捉え方が列挙されています。

ミナベ 組織を“ハコ”として捉える見方は、企業のホームページなどにも掲載されている組織図を思い浮かべるとわかりやすいかと思います。組織全体を部署や役割ごとにハコのようなブロックで分け、それをひとまとまりとして、指示や報告の経路を明確にするための考え方です。

あるいは、いち従業員の視点では、組織を“生涯発達の場”として捉えることもできます。つまり、入社して定年退職するまで、一人の人間として学習し続けるための場が組織だということです。

組織の捉え方が違えば、適切な組織デザインの方法論も異なります。そのため、まずはこれらの捉え方がどのような背景のもと提唱されたものであるかを知ることが重要です。今回は、組織デザインの具体的な方法論について解説する前に、まずはこれらの10の捉え方のうち、いくつか抜粋してその背景をごく簡単に紹介します。

まず、最初の組織をハコとして捉える見方は、ドイツの政治学者・社会学者であるマックス・ウェーバーによって提唱されました。彼が重視したのは、組織に秩序を与え、いかに曖昧さを排除して管理をしていくかという点でした。しかしながら、組織をハコとして見るだけでは、オペレーションをあまりにも固定化させた、柔軟さを失った血の通わない組織になってしまいます。

そうした中で、「いかに人同士の関係性を良くしていくか」といった視点から、「組織とは”インフォーマルなネットワーク”である」という捉え方が提唱されるようになります。また、「そもそも組織には共通となる目的が必要であり、その目的達成のためにともに働くとはどのようにすればよいのか」という点から、ビジョンやパーパスなどを構築し、それらを土台とした組織をいかに形成していくか、といった観点からも、様々な組織デザインの方法論が語られるようになりました。

さらにここ数十年では、個人やチームの「学習」を促進し、自律性を高めていく方法論も、大きな注目を集めています。経営学者・野中郁次郎先生が提唱した、組織内で学習のスパイラルを回し、知識を創造する「SECIモデル」などは、まさにその考え方に基づく代表的な理論だと言えるでしょう。

「組織デザイン」という言葉を耳にした時、もしかすると組織図を描く手法と考える方もいらっしゃるかもしれません。確かに組織デザインはそうした捉え方が起点となって生まれた方法論です。しかし、100年の時が経った現在においては、様々な捉え方に基づく多様な方法論が発達しています。それらの歴史を踏まえた上で、多様な側面を大切にし、多面的に組織をデザインしていくことが、組織デザインを学ぶ上でまず理解しておいてほしいポイントだと考えています。

組織デザインの準備(2):組織デザインはなぜ必要なのか?

ミナベ そもそも、組織デザインはなぜ必要なのでしょうか。この問いに答える上で、よく用いられるのが、雁の集団のたとえ話です。

ミナベ 雁の集団は、効率的に目的地に到着するために、V字型を描きながら飛んでいきます。そして、先頭の雁が疲れてくると、後方で休んでいた雁が先頭を交代し、それを交互に繰り返すことで、群れとしての速度を維持した状態で長時間飛び続けることができるのです。もし彼らが統制された動きができず、別々に飛んでしまっていたら、全員が目的地にたどり着けないかもしれません。そのような事態を回避し、目的実現のために効率的に力を使えるように集団におけるルールやプロセスをしっかり設計することが、組織デザインが必要な理由だと言えます。

特に人間社会では、基本的に全員が異なる価値観を持ち、それぞれが独自に考え、意思決定を下していくものです。それ自体は良いことでもある一方で、その状態のままでは、仮に10人が集まったとしても10人分の能力の総和を発揮することはできません。

ミナベ 上記の図は、集まった人数に応じて生じるコミュニケーションのライン数を示しています。3人だけ集まっている状態であれば、2人と話せばよいだけですので、それほど苦労はしないでしょう。しかし、人数が増えるほど、このラインは複雑化していきます。10人の組織ともなると、もはやがんじがらめになり、調整のためのコミュニケーションだけでも膨大な時間が取られてしまいます。このような組織体制では、効率的に物事を進めることは困難です。

組織デザインとは、10人の力を合わせて50、100にもする方法論であり、効率的に目標実現ができるように、力点を明確にする方法論でもあります。例えばサッカーでも、きちんとフォーメーションを組んだチームのほうが、そうでないチームと比べて、大きな力を発揮できます。同様に、全員の行動がしっかりと整合・連携するような状態をつくることが、組織においても大切です。組織デザインは、個人が利己的に動くのではなく、お互いの目的を理解した上で、協力し合うための方法論であるとも言えるのです。

組織デザインの基本戦略(1):“ハコ”としての組織をデザインする

ミナベ 組織デザインの方法論として、最初の入口となるのが、冒頭でも紹介した、ハコとしての組織を設計する考え方です。これは、誰が誰に対して指示・報告をしていくのか、その経路を明示した組織図を描くための捉え方でもあります。ハコとしての組織をデザインする際には、一つひとつのハコを設計すると同時に、複数のハコ同士の関係性や繋がりについても考え、配置する必要があります。

ハコとしての組織をデザインするには、「分業のデザイン」「調整のデザイン」という二つの基本戦略が存在します。

ミナベ 例えば上記の図のような一般的な組織図において、一つひとつのハコをつくることが「分業のデザイン」であり、それらの小さなハコ同士をつないでいる線をつくること、すなわちどのハコとどのハコが連携しているのかを設計するのが、「調整のデザイン」です。

組織デザインの基本戦略(2):分業のデザイン

ミナベ まずは「分業のデザイン」から、設計の目的や方法について解説します。前提として、分業の設計には、「垂直」「水平」という二つのかたちが存在します。「垂直の分業」というのは、やり方を考え指示を出すチームと、現場で手を動かし作業を行うチームとを分ける構造を指します。垂直な流れの中でいわゆる”上流”と”下流”とを分けようとする考え方であり、厳格な管理には適した設計となっています。他方で、ヒエラルキー化による意識低下が起こりやすく、その点には気をつける必要があります。

もう一つ、「水平の分業」という方法もあります。こちらは垂直の分業とは異なり、やり方を考えることと、作業することを同じチームが担います。ただし、作業の対象がチームごとに異なる点が大きな特徴です。例えば車のパーツで言えば、タイヤをつくるチームと、車の外装をつくるチーム、エンジンをつくるチームとで分けようとする考え方のことを言います。水平の分業では、チームが各自で考え作業するため、自発性を持って取り組みやすい一方で、異なるチーム同士の連携を取ることが難しく、いわゆるセクショナリズムと呼ばれる分断状態になってしまい、効率が下がることもあります。組織デザインにおいては、これらのメリットとデメリットを理解した上で、目的に応じて必要な構造設計を施す必要があります。


ミナベ また、分業のデザインに基づく組織の形態として、機能別組織・事業部制組織・マトリクス型組織・自己組成型組織の4種類が挙げられます。

ミナベ 機能別組織は、先ほどの垂直・水平でいうところの垂直の分業をベースとした組織の枠組みです。この形態には、人数を増やしやすいというメリットがあり、数万人以上の従業員を擁する大企業では、こういった組織形態が効果的に機能する場合があります。

ミナベ 逆に水平の分業をベースとした組織形態が、二つ目の事業部制組織です。一つのハコの中に人数が増えすぎてしまった際に、新たに小さなハコをつくり裁量権を渡してしまうことで、自律的に動いてもらうというかたちです。こうすることで、事業部それぞれが自主的に推進させることができるようになります。

しかしながら、事業部同士が適切に連携し、経営目線での全体最適化をし続けることが難しくなるデメリットも指摘されています。例えば、事業部Aで新たに作ったものが、実は事業部Bですでに作られていたなど、いわゆる”車輪の再発明”と呼ばれる事象が起こりやすい組織形態だとも言えます。

ミナベ 事業部制組織のこうしたデメリットを解消するために生まれたのが、3つ目のマトリクス型組織という組織形態です。これは、事業部ごとに分かれながらも、その中に横断組織をつくることによって、全社的な目線も忘れないようにしようとする考え方となっています。この組織形態では、事業規模の拡大や事業の多角化に適している一方で、個人やチームに対する調整負荷が高まるため、比較的設計と運営の難易度の高い組織形態だと言われています。

ミナベ 最後の自己組成型組織は、やや特殊な組織のデザインの考え方です。この組織形態は、先述の3つのような明確な設計意図に従って構成されるわけではないことが、大きな特徴です。すなわち、企業が自身にとって必要な管理手法を状況に応じて選択し続けた結果として、最終的にこの自己組成型組織にたどり着いているケースが多いのです。そのため、「分業のデザイン」の基本戦略としては、機能別組織と事業部型組織、マトリクス型組織の3つをまずは理解しておくことが肝要です。

ミナベ ただし、これらの組織形態も、そのどれかを単に導入すればよいというものではありません。事業部型組織をベースとしながらも部分的に機能別組織、マトリクス型組織のエッセンスを取り入れることでうまくいっている組織もあり、組み合わせによって、よりよい組織の設計が可能になることもあります。そのため、これらは基本ではあるものの、極めようとすると奥が深い領域でもあるのです。

組織デザインの基本戦略(3):調整のデザイン

ミナベ ハコとしての組織をデザインするにあたって、「分業のデザイン」と双璧をなす重要な観点が「調整のデザイン」です。

調整のデザインについて、「ハコ同士をつないでいる線をつくること、すなわちどことどこが連携しているのかを設計する」ことだと先ほど簡単に述べましたが、組織が効率的に機能するためには、指示や報告を誰と(あるいはどのチームと)行いながら仕事をするのか、役割分担が明確である必要があります。それらの役割に従って、誰とどんなふうに協力しあいながら業務を進めていけばよいのか、コミュニケーションのパスや中身に目を向けることが、調整の設計の第一歩です。

以下の図は、組織論研究者である高雄義明先生による書籍『はじめての経営組織論』から引用したものです。

ミナベ この図では、分業的に業務に取り組む個人を意味する点が複数描かれ、調整のパスで繋がれています。このように分業の点をいかに繋げていくかが、調整のデザインの基本的な考え方となります。

また、組織図のような簡略化された図では、パスといっても一本の線が引かれているだけですので、一見とてもシンプルに見えます。しかし、実際にはこの一本のパスの中に、無数の”調整すべき項目”が包含されています。これはマネージャーとその部下といった個人間のパスでもそうですし、事業部間のパスでも同様です。

ミナベ 一つのパスがあるだけで、限られた時間の中でこれだけ多くの項目について認識をすり合わせる必要が生じます。だからこそ、調整のデザインによって組織設計の段階からパスをしっかりと管理することが重要なのです。

ここまで聞いて、「だとすれば、組織ツリーの階層数を増やして、ハコの数を増やしてしまえばコミュニケーションパスの数を減らせてよいのでは?」と考える方もいるかもしれません。また、実際にそのような意図のもと、分厚い階層構造が描かれることもあるのですが、むやみに階層を増やしてしまうと、逆に調整パスが増えてしまうこともあり、注意が必要です。

ミナベ 例えば、上記の図の一番左の青チームと、一番右にある赤チームが連携するためには、非常に多くの調整パスを辿らなくてはならず、膨大な時間がかかってしまいます。そうなると、現場同士で意思決定を行い、協力し合うことが難しくなってしまい、物事の推進速度が遅くなってしまうのです。

分業と調整のデザインは、組織デザインにおいては基本中の基本ではありますが、だからこそ疎かにしてしまうと、組織に大きな損失を招きかねません。そのため、正しく理解した上で、自分たちの組織にとって何が適切なのかを考えた設計を施すことが大切です。

今回は組織デザインの代表例として、ハコとしての組織づくりについて解説しました。しかし、冒頭で紹介した10の捉え方のそれぞれに方法論が存在します。そのため、まだまだ学ぶべきことはたくさんあります。まずはその入口に立つための理論として、今回の内容を参考にしていただけると幸いです。


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参考文献

金井壽宏『経営組織』(1999)日経BPマーケティング.
高尾義明  『はじめての経営組織論』(2019)有斐閣.
野中郁次郎,  竹内弘高『知識創造企業(新装版)』(2020)東洋経済新報社.
沼上幹『組織デザイン』(2004)日経BPマーケティング.
牛島辰男『企業戦略論: 構造をデザインする 』(2022) 有斐閣.

執筆・水波洸

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