アートエデュケーションを組織開発へ活かすには?ー集団の「プロセス」や個人の「自己軸」に変化をもたらす
アートエデュケーションを組織開発へ活かすには?ー集団の「プロセス」や個人の「自己軸」に変化をもたらす

アートエデュケーションを組織開発へ活かすには?ー集団の「プロセス」や個人の「自己軸」に変化をもたらす

2021.02.19/12

企業の組織開発においては、事業や業務といった目に見えるものだけでなく、関係性の質や個人の認識といった目に見えないものにも働きかけることが重要だと言われます。社会心理学者であり、組織開発の源流の一人であるKurt Lewinは、前者を「コンテント」、後者を「プロセス」という言葉で説明しました。

参考記事:組織のイノベーションは「プロセス」から生まれる

この「プロセス」に働きかける上で有効であるとして、近年注目を集めているのが「アートエデュケーション」です。CULTIBASE Lab会員向けオンラインプログラム「アートゼミ」の第6回目では、アートエデュケーターとして企業の組織開発やアイデア創発を支援してきた臼井隆志と夏川真里奈が、それぞれの考えるアートエデュケーションの役割や組織開発への応用可能性を語りました。

目次
新しい選択肢への触発をもたらす「アートエデュケーション」
「座学と実践」や「鑑賞と創作」、多岐にわたる活動の形
“アートを組織の世界に持ち込む”ことの意義とは?
組織の“プロセス”に働きかけるアートエデュケーション実践例
組織のなかで、個人が“自分らしく生きる”ための方法


新しい選択肢への触発をもたらす「アートエデュケーション」

「アートエデュケーション」の定義は、研究者や実践者によって様々です。学校教育における美術・芸術教育から、公民館や美術館で行われる市民向けの講座やワークショップ、美術家・芸術家を育成する専門教育など、様々な定義のもとで研究や実践が行われています。

まずは臼井が、自身の考えるアートエデュケーションの定義や役割について語ります。

臼井「アートエデュケーションとは、アートの表現、鑑賞、批評などの方法を経験することだと考えています。

表現であれば、絵を描くとか演劇をする、彫刻を作る。鑑賞であれば、特定の視点から絵を見る、アーティストの心理的特徴を読み取る。批評であれば、歴史の文脈に合わせて絵画を理解する、特定の作品と社会的な現象を接続して考えるなど。様々な表現・鑑賞・批評方法を経験する活動だと捉えています」

臼井はアートエデュケーションによって「人々が生活や仕事において新しい行為の選択肢を生み出す力を養える」と考えています。

臼井「表現や鑑賞、批評を通して出会ったアートが、日常のなかで想起される。例えば、『この感情は、あの絵画を描いたときに抱いたものと似ているな』とか『この状況は、あの映画の主人公が置かれていたものと同じだな』とか。

すると「だったら、こう対処してみよう」と新しい行為の選択肢が思い浮かぶことがあると思うんです。そうした状況を生活や仕事のなかにつくっていくのが、アートエデュケーションの目的ではないかと考えています」

「新しい行為の選択肢をもたらす」アートエデュケーションを語った臼井に続き、夏川は、中学校の美術科教員として働いた経験にも触れながら、自身のアートエデュケーションの定義と役割を語りました。

夏川「アートエデュケーションのなかでも特に美術に注目すると、美術教育は、大きく『美術家教育』と『美術科教育』に分類できると思っています。前者はアーティストになるための技術や知識を学ぶ教育、後者は美術を活用して、個人の感情や情緒を育む教育です。

私は教員時代から現在まで、情操教育として美術科教育に携わってきました。情操教育とは感性や情緒を育み、創造的で個性的な心の働きを豊かにするための教育です。

心の働きを豊かにするとは、無意識を豊かにするということです。意識ではコントロールできない、ワクワクしたり、ドキドキしたり、ひらめいたりする心の働きをアートを通して豊かにして、他者と共有しながら、自分らしく生きることをサポートする。それがアートエデュケーションの役割だと思っています。」

「座学と実践」や「鑑賞と創作」、多岐にわたる活動の形

「新しい行為の選択肢をもたらす」あるいは「自分らしく生きる手助けをする」といったアートエデュケーションの輪郭が浮かび上がってきたところで、臼井は「具体的にアートエデュケーションの活動は、大まかに「座学と実践」と「鑑賞と創作」の2軸で整理できる」と説明します。

臼井「『座学』かつ『鑑賞する』活動としては、アートやアーティストについての知識を学ぶ講座やシンポジウム、アーティストトーク。あるいは、美術館や博物館の音声ガイドやギャラリーツアーなどが挙げられます。

『実践』寄りの『鑑賞する』活動だと、作品を鑑賞しながら複数人で対話をする『対話型鑑賞』があります。

参考記事:人の感性を耕す「対話型鑑賞」の可能性——事業開発や組織開発でいかに活用するか

『実践』寄りの『創作する』活動だと、絵画や彫刻の創作や演劇制作などを体験するワークショップなどが当てはまります。

『座学と実践』と『鑑賞と創作』の真ん中に位置する活動が『レジデンス』です。これは、アーティストが異なる土地や文化に身を置き、地元の市民や他のアーティストと交流しながら、作品を制作していくプログラム。その一環として、講座やシンポジウム、ワークショップが開かれるケースも多々あります」

このようにアートエデュケーションは多様な形をとり、学校や企業に限らず、美術館や博物館、あるいは特定の街全体において実践されてきました。

“アートを組織の世界に持ち込む”ことの意義とは?

アートエデュケーションの定義や役割、具体的な活動を踏まえ、組織開発にどのように応用できるのかを考えていきます。

説明する前提として、臼井は「アーティスティック・インターベンション(Artistic-Intervention」)」という概念を紹介しました。

臼井「アートを通して企業組織に学びを生み出す試みは『アーティスティック・インターベンション』と呼ばれ、欧米では30年以上前から実践と研究が重ねられてきました。

研究の第一人者であるBerthoin Antalは、アーティスティック・インターベンションを『人、実践、製品を、アートの世界から組織の世界に持ち込むこと』と定義しています。」

なぜ「組織の世界に持ち込むこと」が必要なのかについて、臼井は「アートが個人や組織の創造性の発揮を促すから」という視点を示します。

臼井「組織開発では、事業や業務を支える集団の関係性や、一人ひとりのメンバーの認識や感情などの“プロセス”への働きかけが重要だと言われます。プロセスに目を向けて対話をすることで、メンバー間の相互理解を深まったり、思わぬアイデアの創発が生まれたりする。

アートの表現や鑑賞、批評といった活動は、まさに個人の感情や感性を表現し、他者と共有するのを手助けし、先ほど述べたような『新しい行為の選択肢』をもたらします。

そうしたアートの力を組織開発に応用するうえで、アートエデュケーションを組織において実践することは、非常に有効であると考えています」

参考記事:なぜアートが有効なのか、アートによる組織開発

組織の“プロセス”に働きかけるアートエデュケーション実践例

では、実際の組織においてアートエデュケーションはどのように実践されているのでしょうか。臼井は先ほどの表における「対話型鑑賞」と「創作体験」「レジデンス」に沿って応用事例を紹介しました。

対話型鑑賞の事例として挙げたのは、ミミクリデザインがとある企業の理念浸透を目的に開催した「ArtScouterワークショップ」です。このワークショップでは、参加する社員が「企業理念を象徴する作品」を、アート作品のレンタル・販売プラットフォームArtScouterから選び、各作品の対話型鑑賞を行いました。

続いて「創作体験」の応用事例として、創作によって個人の認識変容や組織学習を促すワークショップを紹介しました。

一つ目に挙げたのはパロディー漫画を取り入れた事例です。

臼井 ニュージーランドのマッセー大学で行われた研究では、『サービスマネジメント』を学ぶためにパロディー漫画を制作するワークショップを行なっています。ファストフード店で顧客や従業員として経験したネガティブな出来事を、皮肉を交えて漫画として表現する内容です。

サービスマネジメントをめぐる課題を批評的に見直し、どう対処するか新たな視点を得る。また『サービスマネジメントとは何か』を言語以外で表現してみることで、知っているつもりの概念の学び直しを促しています」

近しい事例として挙げたのが、コンテンポラリーダンスを通してイノベーションスキルを身につけるためのワークショップです。臼井は「ダンスから得た知識を日常業務で実践し、対話によって言語することで、イノベーションスキルを身体的に理解していく試みです」と紹介します。

もう一つ、臼井自身が関わった事例として挙げたのが、リブセンスとNPO法人soar、ミミクリデザインが共同開催した「“常識”を考え直す対話のワークショップ」です。

臼井「このワークショップは『ジェンダーバイアス』をテーマに、『差別する側が差別的な言動を変えていく物語』のシナリオを制作します。それらを元に「あなたが差別する側の変容を助けるキャラクターになるとしたらどんなことができますか?」について対話を行いました。

物語の創作を通して、誰もが無意識のうちに持ち合わせている常識やバイアスと向き合うことを促すとともに、平等な組織や社会のために何ができるかを考えることを目的としています」

「レジデンス」の応用事例としては、アーティストと企業のメンバーの接点を増やすことで、個人の感性や非言語的思考の醸成、アイデア創発を促すプログラムを紹介しました。

臼井「スウェーデンのNPO『TILLT』では、アーティストが週に一度オフィスで勤務し、サービス開発などの業務をサポートするプログラムを行なっています。あるいは、ゼロックスのパロアルト研究所では、アーティストが研究所に滞在し、研究内容をベースにしたアート作品を制作するプログラムを取り入れているそうです」

出典:tre stiftelser(https://www.tillt.se/en-GB/what-we-do/projects/tre-stiftelser-40909299
RED SILK OF FATE(https://sputniko.com/Red-Silk-of-Fate)

組織のなかで、個人が“自分らしく生きる”ための方法

臼井の示した「新しい行為の選択肢をもたらす」アートエデュケーションは、組織の「プロセス」に働きかけ、個人や組織の創造性を促していました。

続いて、夏川が「自分らしく生きる手助けをする」アートエデュケーションの組織開発における応用可能性について、『夜と霧』で知られる精神科医・心理学者ヴィクトール・E・フランクルの言葉から紐解いていきました。

夏川「そもそも「自分らしく生きる」とはどのようなことなのでしょうか?例えば、フランクルは、人生の価値を決める基準には、『社会的な成功/失敗』の横軸と『心の充足/絶望』といった縦軸があると語りました。フランクルは、私たちは横軸を意識しがちであるが、縦軸を意識する重要性を説いています。この縦軸はいわゆる自分軸であり、この縦軸を大切にしていくことこそが、「自分らしく生きる」ことにつながると考えます。

近しい概念として、心理学では『社会的・文化的適応』と『心理的適応』という概念があります。前者は、社会や環境へ適応している状態、後者は幸福感や満足感を感じ、心理的に安定した状態です。

一般的に、ビジネスの場においては『社会的な成功/失敗』や『社会的・文化的適応』が重視されやすく、苦しんでいる人も少なくありません。例えば、企業の示す成功に沿って、指示通りに頑張って成果を上げても、自分の『こうしたい』という感情や衝動を置いてきぼりにしていたら幸せは感じづらいでしょう。

社会・文化的適応が強く求められる社会において、社会の評価軸とは別に『自分にとって何が心地良いのか』や『どういうときに心の充足を感じるのか』などの自己評価軸を失わないこと、“自分軸”に気づき、表現することは非常に意味のあることだと考えます。

それはまさにアートエデュケーションの活動そのものだと考えているんです」

組織のなかで個人が自分らしく生きるために、アートエデュケーションを応用できるのではと語る夏川。具体的にどのように実践できるのか、夏川は「明日からできる超入門編」を紹介しました。

夏川まずは自分の心の動きを意識すること。心地よいものや不快なもの、湧き上がる衝動をメモしてストックし続けていくと、きっと“自分軸”が見えてくると思います。

もう一つ、ささやかな自己表現もお勧めです。自分のデスクに花を一輪飾ってみるとかでも良い。自分の周りの環境を心地よく変えてみることです。例えば、以前学校に放置されている箱や物体を見つけ、アート作品などに置き換える研究を行ったんです。そうすると研究に参加して作品を創作した人から『自分の力で環境を変えていけるんだ』といった感想が挙がりました。

この『環境を変えられる』という実感を持つことは、人が組織とつながりながらも『自分自身であること』を諦めないでいるために、あるいは他の人が『自分自身であること』を尊重するために、欠かせない土台だと考えています」

社会と繋がりながらも、自分自身であることを諦めない。夏川の語った、組織におけるアートエデュケーションの応用可能性について、臼井は「『自分軸を持つ』話は『新しい行為の選択肢』とも接続するように感じた」と視点を示しました。

臼井「社会や組織のなかで『こうしないと評価されない』という思い込みがあって行き詰ったとき、ふと『あのアーティストは違うことを言ってたな』と想起し、別の選択肢を選ぶ。その瞬間その人は社会の評価軸ではなく自分軸で選択をしているわけですよね。

社会や組織に存在する『こうあるべき』から、個人の感性や衝動にもとづく『こう変えてみよう』へ意識が転換する。その刺激を与えるのもアートエデュケーションの意義だと改めて実感しました」

両者の話からはアートエデュケーションが個人の認識や組織の関係性に変容をもたらすだけでなく、個人や組織が創造性を発揮するための土台となるマインドセットを築くうえでも有効であることが窺えました。


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執筆:向晴香
編集:モリジュンヤ

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