2022年版「Creative Cultivation Model(CCM)」とは:組織の創造性をマネジメントするための見取り図
2022年版「Creative Cultivation Model(CCM)」とは:組織の創造性をマネジメントするための見取り図

2022年版「Creative Cultivation Model(CCM)」とは:組織の創造性をマネジメントするための見取り図

2022.03.09/15

なぜ、組織において個人やチームの創造性が失われてしまうのでしょうか。
また、それを取り戻すためには、何が求められるのでしょうか。

本メディア・CULTIBASEでは、2020年8月に発足して以降、一貫して「組織の創造性の土壌をいかに耕すのか?」というテーマを掲げながら探究を続けてきました。また、発足と同時に”組織が創造性を発揮している状態”を表すモデル図として、”Creative Cultivation Model”を提唱しました。

「Creative Cultivation Model(2020)」

CCMは、CULTIBASEが「組織の創造性」という抽象的な概念を捉える上での”見取り図”として、重要な役割を果たしてきました。しかしながら、いざ創造的な組織づくりに取り組むにあたって、「具体的に何をすればよいのか?」という点において、議論の余地が残されていました。

そうした中CULTIBASEでは、発足から1年半が経過した2022年1月、内容を大きくアップデートした”最新版のCCM”を会員制オンラインプログラム「CULTIBASE Lab」のイベント内で公開。

本記事では、その最新版のCCMについて、「実際に創造的な組織をマネジメントするための具体的なアクティビティ」の観点を中心に解説します。ぜひ最後までお読みください。

「創造性」とは何か

「組織の創造性はいかにマネジメント可能か」という問いに迫るため、まずは「創造性とは何か」という問いから考えてみたいと思います。一口に創造性と言っても、この概念の定義や考え方は、時代と共に変化してきました。

もっとも古典的な創造性の研究は心理学の領域から始まりました。研究対象となったのは、いわゆる「天才」と呼ばれる人たちです。世の中にまったく新しい価値を提示するアイデアを生み出すような人は、他の人と何が違うのか。そのような個人の心理的なプロセスを研究し、その源泉を「創造性」としたのです。

その時に注目を集めたのが、「内発的動機」や「モチベーション」と呼ばれる概念です。当時の心理学者たちは、「楽しい」「やりたい」という気持ち──19世紀後半から20世紀前半に活躍したアメリカの哲学者、ジョン・デューイの言葉を借りれば「創造的衝動」──が創造性と深く繋がっていることを明らかにしました。

個人が自らの好奇心に基づき学習を続け、それを通じて得た専門的な知識やスキルを活用し、楽しみながら何か作り出しているかどうか。デューイは創造性を育む学校教育のあり方を探究する中で、そのような点を重視していました。

2000年代に入ると、「個人」の観点ではなく、「集団の力でいかにクリエイティブになるか」という観点の研究が盛んに行われるようになりました。例えば、ジャズ・バンドのセッションや、熟練したスポーツチームの細やかな連携プレーなどは、個人の創造性では今ひとつ説明がつかないのです。こうした疑問をもとに集団の創造性研究に取り組んだ第一人者が、アメリカの心理学者、キース・ソーヤーです。

彼はジャズの即興セッションに着目し、「高い創造性を発揮しているチームは、個人ではなく、グループとしてフロー状態に入っているのではないか?」として、「グループフロー」という概念を提唱しました。ソーヤーによる洞察は著書である『Group Genius(邦題:凡才の集団は孤高の天才に勝る―「グループ・ジーニアス」が生み出すものすごいアイデア )』にまとめられ、チームレベルの創造性の可能性を広く社会に知らしめることとなりました。

こうしたソーヤーによる知見は「ワークショップ」や「ダイアローグ(対話)」といった集団知を生み出すためのアプローチの土台を作ったという点でも重要です。

そして、近年は「組織・社会企業の創造性」に関する研究が進んでいます。「パーパス」という言葉が最近注目を集めていることからも、組織として取り組む意味とは何なのか、改めて見つめ直そうという機運が高まっているように見受けられます。

また、「組織学習」という言葉もよく聞かれるようになりました。不確実性の高まるこれからの時代を迎える中で、強くしなやかな組織であるイノベーションを起こすためには、集団として学び続け、ルーティン(習慣)を刷新していくことが大切です。

創造性の枯渇した組織を襲う「4つの現代病」

組織の中で「個人・チーム・組織の創造性」が枯渇した場合、具体的にどのような問題が生じるのでしょうか。CULTIBASE編集長・安斎勇樹は、現代の多くの組織が罹患する「4つの現代病」の存在を指摘します。

<現在組織が罹患する「4つの現代病」>
1. 認識の固定化:暗黙に形成された固定観念によって発想が凝り固まる
2. 関係性の固定化:お互いをわかりあっていないまま、関係性が凝り固まる
3. 衝動の枯渇:内発的同期に蓋がされ、主体的な行動や発想が抑圧される
4. 理念の形骸化:作業が自己目的化し、仕事の意義が失われる

「4つの現代病」に関する詳しい解説はこちらの記事をご覧ください。

これらの「病」は、従来の経営者が問題を設定し、その問題を現場に解いてもらうトップダウン型の組織では、むしろ効率性を高める上で都合の良い特性として扱われてきました。しかし、企業が成長し、多角的に事業を展開し、理念の実現を目指すフェーズを迎えると、理念を実現するために自分たちは何をすべきか、主体的に考え、行動する必要が生じます。

安斎は、そのマネジメントの中心を担うのはミドルマネージャーだと語ります。現場の試行錯誤が組織の理念をどう紐づけるか。そのような問いを念頭に置き、メンバーと対話的に向き合いながら、組織の創造性が循環し高めていく関わり方がミドルマネージャーには求められるのだ、と。そして、その際に先ほど紹介した「4つの病」にメンバーやチームが罹患していないかどうか、注視する必要があるのです。

CULTIBASEではトップダウン式の組織を「ファクトリー型」、今回紹介したようなミドル起点のボトムアップ式の組織を「ワークショップ型」と定義した上で、それぞれの特性の違いについて論じています。関心のある方はこちらの記事をご覧ください。

2022年版「Creative Cultivation Model(CCM)」が示す、組織と創造性の生態系

では、どうすれば「4つの現代病」を乗り越え、ワークショップ型の組織へとスムーズに移行することができるのでしょうか。

CULTIBASEでは、メディア内のあらゆるコンテンツの基盤となる考え方として、「Creative Cultivation Model(CCM)」というモデルを提唱しています。CCMが最初に公にされたのは、メディアが発足した2020年8月。そして2022年1月、会員制オンラインプログラム「CULTIBASE Lab」内にて、“2022年版”とも言える、アップデートされた図を公開しました。次の図が、最新版のCCMです。

まず全体像に目を向けてみましょう。組織構造やプロダクトなどのコンテンツは目に見える「葉」や「枝」として、個人やチームの関係性といったプロセスは目に見えない「土壌」として描かれています。両者を生態系として捉え、木とそれを育む土壌としてその関係性を表現しているのが、CCMの大きな特徴です。


CCMでは組織全体をこの木のメタファーになぞらえて、「個人(下層)」「チーム(中層)」「組織(上層)」の3つの層で捉えています。また、この記事の冒頭でも解説したように、創造性というものは「個人」「チーム」「組織」でその捉え方が異なるため、創造性を高めるためのアプローチも層によって異なります。しかし、それらの層は決して独立しているのではなく、一本の木として繋がっていること、また、木が根から栄養を吸い上げ枝葉へと届けていくのと同様に、もっとも根源的なエネルギーは「個人の創造性」であり、その個人の創造性を活かして、チームや組織の創造性の活性化につなげていくというイメージで捉えると、理解しやすいかと思います。

「個人レベル」の創造性の発揮を促すアクティビティ:探究

まずは“根っこ”にあたる「個人レベル」の創造性から見ていきます。ここでは中心となるアクティビティとして、「探究」が掲げられています。そしてその前後には、「(Insideとしての)衝動」と「(Outsideとしての)専門性」が並んでいます。すなわち、自分の興味・関心による内的に湧き上がる動機(衝動)と、仕事などで外的に要求される価値(専門性)に基づきながら「探究」を行うことで、自身の価値観やアイデンティティ、スキルの形成へと繋げていく過程が描かれています。

「チームレベル」の創造性の発揮を促すアクティビティ:対話

続いて、中層にあたる「チームレベル」の創造性について。この層では「対話」という活動が中心に据えられています。そしてその前後には、チームメンバーの「多様な個性」と、チームの存在意義である「価値の創発」という言葉が並んでいます。個人が探究によって磨いてきた専門性やアイデンティティなどによる個性を活かしながら、組織にとって価値のある何かを生み出していく。そのためには、集団がお互いのこだわりやものの見方を共有する対話的なコミュニケーションが必要不可欠です。

「組織レベル」の創造性の発揮を促すアクティビティ:事業活動

最後に上層に位置する「組織レベル」の創造性を解説します。ここで中心となるアクティビティは「事業(事業活動)」です。すなわち社会や市場に価値を提供するための活動を指すのですが、CCMにとって着目すべきは「その事業が組織内部に根付く『理念』に基づいているか」という点です。組織としての存在意義やありたい姿、アイデンティティと照らし合わせ、特に葛藤しながら、自分たちらしい事業を展開しているかどうかを問い直し続けることが、組織の創造性を育む上ではとても重要です。

創造性の鍵を握る「葛藤」と「止揚」

ここまで、個人・チーム・組織が創造的であるために何が必要なのか、各階層の主要なアクティビティを中心に見てきました。また、3つの階層すべてに共通する点として、どのアクティビティも、外部から要求される価値と内側から湧き上がる動機の間で揺れ動くものとして描写されています。

あらゆる生命は、「外部に示すべき価値」と「内的な衝動」のバランスを取るために試行錯誤している。このバランスが崩れ、外か内のどちらかを捨ててしまったとき、その主体の「生」は失われてしまう。あくまで組織を有機体として捉えたいという意図も、CCMには込められているのです。

個人もチームも、組織も、常に様々な葛藤や矛盾を抱えています。まずは“いま、ここ”において葛藤があることを受け止めることが重要です。そして、それらの葛藤を創造性へと紹介していくにあたって鍵を握るのが「止揚」と呼ばれる概念です。辞書の記述を参考におおまかに説明すると、止揚とは、「二つの対立する概念を、より高次の段階において、新しい調和と秩序のもとに統一すること*」という意味を持つ、弁証法の専門用語です。ドイツ語の「アウフヘーベン」という言い方のほうが馴染みがあるかもしれません。

組織の活動は特に多くの意思決定を求められるものであり、つい「YESかNOか」や「良いか悪いか」といった二元論的なコミュニケーションをしてしまいがちです。しかし、創造的な組織づくりにおいては、そうした関わり方を一旦やめてみて、「内なる動機と外的な要求の中での運動」にじっくり取り組んでみることが大切なのです。

まとめると、

・個人による「衝動」と「専門性」が「探究」によって止揚され、「多様な個性」が生まれる。
・チーム内の「多様な個性」と外から求められる「価値の創発」による止揚の結果、「企業理念」が生まれる。
・組織内の「企業理念」と、外から求められる「社会的な価値」とが止揚することで、「創造的に社会的価値を提供している状態」が生まれる。

といった3つのステップによって、CCMは実現されると考えています。とはいえ、CCMも今回のモデルで完成というわけでは決してありません。今後もCULTIBASEでは、組織の創造性を促進する知見を集めながら、このモデルもアップデートし続けていく予定ですので、その探究のプロセスにお付き合いいただければ幸いです。


本記事は、安斎が登壇したCULTIBASE主催によるライブイベント「組織ファシリテーション論 最新講義:組織の創造性のマネジメント」の内容を一部記事化したものです。

CULTIBASE副編集長の東南裕美が聞き手を務めた本イベントのフルバージョンは以下からご覧いただけます。

参考
*精選版 日本国語大辞典(コトバンクより)

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