チームの学習を促進する「ミーティング・マネジメント」とは?:不確実性の時代を生き抜く「問いかけ・立て直し・語りかけ」の作法
チームの学習を促進する「ミーティング・マネジメント」とは?:不確実性の時代を生き抜く「問いかけ・立て直し・語りかけ」の作法

チームの学習を促進する「ミーティング・マネジメント」とは?:不確実性の時代を生き抜く「問いかけ・立て直し・語りかけ」の作法

2022.07.19/8

「不確実性の時代」とも言われる昨今、組織形態とともにマネジメントのあり方も大きな見直しが求められています。中でも日常的なマネジメント手法の一つである「ミーティング」は、重要な要素の一つであると言えるでしょう。

CULTIBASEでは、従来主流だったトップダウン方式の「ファクトリー型」の組織に代わる新たな組織のあり方として、外部環境の変化に柔軟に対応するボトムアップ方式の「ワークショップ型」に切り替えていくことを提唱しています。

CULTIBASE記事「チームと組織の在り方のパラダイムシフト:ファクトリー型からワークショップ型へ」より

個々のメンバーが自律的に機能するワークショップ型組織を目指すうえで、具体的に日々のミーティングの中でどのようなことに留意すれば良いのでしょうか。

本記事では、人と組織の創造性を高めるファシリテーションの方法論について研究する安斎勇樹(株式会社MIMIGURI代表取締役Co-CEO/CULTIBASE編集長)が、ミーティング・マネジメントの要諦に迫ります。フィードバック、ストーリーテリング、ファシリテーション──ミーティング・マネジメントの質を向上させる3つの「作法」を解説します。

プロフィール:
安斎 勇樹(株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO/CULTIBASE編集長)
1985年生まれ。東京都出身。東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。研究と実践を架橋させながら、人と組織の創造性を高めるファシリテーションの方法論について研究している。組織イノベーションの知を耕すウェブメディア「CULTIBASE」編集長を務める。主な著書に『問いかけの作法 -チームの魅力と才能を引き出す技術』『問いのデザイン – 創造的対話のファシリテーション』『リサーチ・ドリブン・イノベーション-「問い」を起点にアイデアを探究する』『ワークショップデザイン論 -創ることで学ぶ』がある。



マネージャーがメンバーの葛藤に寄り添うことで、「深い学習」は生み出される

ミーティング・マネジメント論を語る前提として、時代とともに変化するマネジメントに対する考え方について、安斎は次のように語ります。

「これまでのマネジメント論では『いかに生産的な組織であるか』に大きな比重が置かれており、『人を育てる』という観点が比較的軽視されてきました。

しかしながら、柔軟かつ自律的に機能する組織に生まれ変わることが求められる現代においては、『いかに付加価値の高い人材を育てるか』が、企業にとってより重要な課題となっています。中長期的な視点で人の成長を促すこと。その上で、生産性を高く保ち事業価値を最大化すること。その両立が求められているのです」

一方で、ここでいう成長は単なる行動の変容や情報・知識の理解にとどまらず、ものの見方や信念、アイデンティティの変容に至るような高次の学習を想定したものであり、容易に実現できるものではありません。学習は基本的に高次であればあるほど学習者個人の意志によるコントロールが難しくなり、外部からの支援も困難になります。

それでは、このような「深い学習」の獲得を目指す学習者に、マネージャーはいかにして向き合うとよいのでしょうか。安斎はその問いについて、学習過程で生じる「葛藤」に寄り添うことが重要だと指摘します。

「人間は誰でも、自分の内側から湧き上がるモチベーションや欲求、衝動を持っています。しかし、社会に出てからそうした内的な衝動だけで生きていくことは難しいでしょう。なぜならば、外部から何かを期待されたり、ルールによって制約を受けたり、何らかの価値付けや要求が存在したりするからです」

野球を続けたいけれど、受験勉強をしなければならない。本当は自分の好きな曲を作りたいけれど、売れる曲を作ることをレコード会社からは求められている……そのような例を挙げながら、マネージャーは「内的な衝動」と「外的な要求」との間でメンバーがどのような葛藤を抱えているのか、理解することが大切なのだと、安斎は語ります。

「人間は、内的衝動と外的価値とのパラドックスを一人で抱えている時には、“A or B”の二択で捉えてしまいがちです。そうではなく、『どうすれば内と外とを両立できるか』」をともに考え、方向性を見出せた時に、深い学習が起こるのです。メンバーの発達支援を行うマネージャーは、このことを念頭に置きながら、双方についてバランスよく考えていくための勘所や関わり方を、日常のミーティングでも意識する必要があるのです」

フィードバック、ストーリーテリング、ファシリテーション──ミーティング・マネジメントの3つの「作法」

それでは、人の成長・発達に寄り添うマネジメントを実現するにあたって、日常的な業務シーンであるミーティングの中では、どのようなことに留意するとよいのでしょうか。

安斎は、1on1や定例会議などを通してメンバーの学習を支援する方法として、「3つの作法」を提唱。それらをバランスよく実施することが重要だと語ります。

安斎が示すミーティング・マネジメントにおける作法は、以下の3つです。

①フィードバック(立て直し)の作法:
本人が見えていない改善点・評価を伝え、成長を立て直していくこと

②ストーリーテリング(語りかけ)の作法:
自分主語で物語っていくことによって、チームやメンバーに対して新しい意味付けをもたらす

③ファシリテーション(問いかけ)の作法:
問いかけによって相手のこだわりを深掘りし、とらわれを揺さぶる

フィードバックは自分主語で、“ハレ”と“ケ”を使い分ける

まず1つ目の作法「フィードバック」について。人材育成におけるフィードバックの大切さや方法論はすでに様々なところで語られていますが、安斎はその「タイミング」が重要だと語ります。

「フィードバックには、“ハレ”と“ケ”の大きく2つのタイミングがあります。例えば半期に1回などの節目で行われるような評価面談。これは“ハレ”のフィードバックにあたります。対して、日常の中における1on1や定例ミーティングなどで行われるのは“ケ”のフィードバックです。

例えば、“ハレ”のタイミングである評価面談の時にだけ、それまで溜めに溜めてきた指摘をいっぺんに行なって、『お前はダメだ』と告げるのは、マネージャーとして非常によくない振る舞いだと言えるでしょう。そうならないように、課題点が明らかになった時点ですぐに改善できるような、細やかなフィードバックを日常的に──つまり“ケ”のタイミングで──続けていくことが大事なのです」

一方で、“ハレ”のタイミングでは、その人の視座やアイデンティティ、ものの見方など、先述の「深い学習」に関わる要素について、じっくりとフィードバックできる機会を設けることができます。これらはどちらかに偏るのではなく、使い分けることが大切なのだと安斎は言います。

また、安斎はフィードバックの際の注意点として、以下の5つを挙げます。

中でも特に重要なのは「他人からの伝聞ではなく、事実に基づいて、自分主語で伝える」ことだと言います。

「マネージャーは情報のハブでもあるため、その分、他者の伝言係に終始してしまいがちです。しかし、例えば社長からの指示があったとしても『社長が〇〇と言っていたから』などと、社長を主語に語っているようでは、部下からの信頼は得られません。自分自身で情報を咀嚼して、自分の言葉で部下とコミュニケーションを取ることが重要なのです」

マネージャー主語のストーリーテリングが「腹落ち感」を生み出す

一方で安斎は「フィードバックだけではマネジメントとして不十分である」と語ります。なぜならば、フィードバックに偏重してしまうと、「上司に褒められたことをやろう」「上司に怒られたことは気をつけよう」という思考に偏り、結果としてトップダウン型の組織文化を脱却できない可能性があるからです。

ここで、2つ目の作法「ストーリーテリング」が重要な機能を果たすことになります。では、そもそも「ストーリー」とは何なのでしょうか。

人間のコミュニケーション様式は「ロジカルモード」と「ストーリーモード」の大きく2種類に分けられると安斎は言います。

ロジカルモードとは、普遍的な真理性と論理的一貫性を求める理路整然とした思考様式を、ストーリーモードとは、正しさよりも、人間としての「もっともらしさ」を取り扱う思考形式を指します。一般的に企業におけるコミュニケーションではロジカルモードばかりが推奨されていますが、実は企業やビジネスの場においてもストーリーモードが重要だと安斎。

「ストーリーモードでのコミュニケーションは相手の記憶や印象に残りやすく、かつ論理的な武装を解いて、相手の感情を動かしやすい。フィードバックに偏重するとどうしてもロジカルモードに支配されてしまうため、バランスを保つという意味でもマネージャーはストーリーテリングを活用することが重要なのです」

では、マネージャーは日々のマネジメントの中でストーリーテリングをどのように取り入れるべきなのでしょうか? 安斎は「組織や事業に大きな変化が起きている場合や、メンバーが現状に対して閉塞感を感じている場合などにストーリーテリングを取り入れることが有効」と語ります。

「例えば、所属する会社が合併吸収されることがわかった時、自分の目に見えない範囲で大きな変化があることに不安に感じる人は多いかと思います。そうした不安から余計な意味付けをしてしまうこともあるでしょう。

しかし、マネージャーはそこで過剰に不安がらずに、この事象に対するメンバーの理解を深めたり、感情的に腹落ちできるようにものの見方を変えることを促したりすることが大事なのです」

ここで重要なのが、「フィードバック」の作法と同様、単なる情報のレポート屋に陥らないこと。そしてもう一つが、メンバーの気持ちに共感を示すことだと言います。

「組織の大きな変化に対して、マネージャーは不安な気持ちを隠して平静を装う、すなわち“武装する”傾向にあります。しかし、実はそれではメンバーの共感を得られず、ストーリーテリングの機能を生かしきれません。マネージャー自身も不安な気持ちを持っていることを折り込みながら、自分たちの物語に落とし込み、『一緒に頑張っていこう』と前向きな語りをすることが、チームとしての求心力を高めることに繋がるのです」

ファシリテーションも組み合わせ、自らの“芸風”に応じたマネジメントを

ここまで「フィードバック」と「ストーリーテリング」の2つの作法を見てきました。しかし、実はこの2つ以外にもうひとつ、身に付けなければならない作法があります。

というのも、「フィードバック」や「ストーリーテリング」はトップダウン型の組織で組織や事業の変化が激しくなればなるほど、「これらの作法を使ってどうやってメンバーをコントロールしていくか」という発想に陥ってしまいかねません。そうならないように、メンバーの個性やアイデアをチーム・組織づくりに活かしていくための「ファシリテーション」の作法が必要なのだと安斎は言います。

こうした「ファシリテーション」の作法として安斎が提唱するのが、安斎の近刊『問いかけの作法』にもまとめられている「問いかけの作法」です。同書で安斎は、マネージャーによる「問いかけ」によって、メンバー自身が主体的に考え、成長を促すきっかけをつくることができるのだと、その重要性を説いています。

一方で、安斎は「問いかけだけで、マネジメントはできない」とも言います。

「マネジメントは、常にパラドックスに満ちています。トップダウンで行わなければいけない場面もありながら、ボトムアップ型への変容も求められ、目標を達成するだけでなく、逸脱をも求められる。こうした矛盾を抱えながらマネジメントを行うには、フィードバック、ストーリーテリング、ファシリテーションという、それぞれ相反するコミュニケーション様式を場面に応じて使い分ける必要があるのです」

日々、業務遂行状況をモニタリングする中で、目標の進捗が順調でない場合には、この3つの作法を編み合わせながらマネジメントとして介入することが求められると、安斎は語ります。

「マネージャーはそれぞれ“芸風”を持っているはずです。それゆえ、コミュニケーション様式の中でも得意・不得意があります。自分の得意とする作法は武器として育てながらも、苦手なものは鍛えて組み合わせていく。そんな感覚を持つことができれば、マネージャーとしての次の成長目標も立てやすくなるでしょう」

フィードバック、ストーリーテリング、ファシリテーションという3つの作法を念頭におきながらも、事業の成長だけでなく人の成長をも促すことができるマネジメント手法を身につけていく。それこそが、これからのワークショップ型組織のマネージャーに求められている振る舞いなのです。


本記事は、チームの創造性を高める「フィードバック」や「ストーリーテリング」など、”問いかけ”に続く新たな作法について探ったイベント「ミーティング・マネジメントの作法:問いかけ、立て直し、語りかける」の一部を記事化したものです。

CULTIBASE Labでは本イベントのアーカイブ動画を公開中です。今回記事にした内容のほか、

・20世紀に発明された「マネジメント」という概念が今日までどのように発展してきたか?
・「フィードバック」における現在の潮流の問題点とは?
・定例会議や1on1の中で部下をモニタリングする際に押さえておくべきポイントは?

などの点についても解説しています。関心のある方は、ぜひ下記よりご覧ください。

Text by Sae Ota
Edit by Masaki Koike 

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