「つくる」と「つかう」が混じりあう社会のなかで、コ・デザインのモデルをどう描くか?:連載「コ・デザインをめぐる問いかけ」第4回
「つくる」と「つかう」が混じりあう社会のなかで、コ・デザインのモデルをどう描くか?:連載「コ・デザインをめぐる問いかけ」第4回

「つくる」と「つかう」が混じりあう社会のなかで、コ・デザインのモデルをどう描くか?:連載「コ・デザインをめぐる問いかけ」第4回

2020.11.24/14

限られた専門家だけでなく、実際の利用者や利害に関わる人々が積極的に加わりながらデザインを進めていく「コ・デザイン(Co-Design)」というアプローチがあります。『コ・デザイン —デザインすることをみんなの手に』を今冬に出版予定の上平︎崇仁さんによる連載の第4回目では、コ・デザインの必要性を考えるときに検討するべき4つの視点のうち、「アプローチの違い」「ミッションの違い」について紹介していきます。

目次
「アプローチ」の違いからとらえてみる
デザインにおける3つのアプローチを視覚化する
「ミッション」の違いから考えてみる
「問題解決」と「問題発見」のダブルダイヤモンド
社会との強い接点を持ったコ・デザインのモデルを描くために


「アプローチ」の違いからとらえてみる

デザインする際には、どのように問題対象に接近していくか、そのための一連の取り組み過程や考え方となる「アプローチ」を検討することは重要です。同じ問題に取り組む場合でも、その背後にあるアプローチとその思想によってプロジェクトの進め方や成果物のめざす方向は大きく異なっていきます。

コ・デザインでは、人々をただつかう「ユーザ」ではなく、デザインの「パートナー」としてとらえます。「つかう側の人々のために(for)」デザインすることと、「つかう側の人々とともに(with)」デザインすることは、似ているようで少し違います。この表はデザインのアプローチの方向性の違いを整理したものです。

この図では、①「ユーザ中心のデザイン(for User)」と②「コ・デザイン(with People)」、そして③「当事者自身によるデザイン(by Ourselves)」の三つを併置して比較し、違いを浮かびあがらせています。実際はもう少し細分化することもできますが、比較の明快さのために、ここでは三つに絞ります。

左側のfor Userの列と、右側のby Ourselvesの列をそれぞれ眺めてみると、デザイナーの役割も、つかう人々の側の役割も大きく異なっていることが見えてくるでしょう。for Userの考え方では、人間を「ユーザ」として位置づけます。このユーザという言葉は、もともとはコンピュータシステムにおいて操作上の権限を管理者と区別するための用語です。本来、人間はそれぞれ顔と名前がありますが、個別性を省き、一括して「つかう人」と抽象化することでつくられました。

90年代以降、電子機器が複雑化していく中で、「つかう側」に着目したデザインの重要性が高まるとともに普及した概念です。転じて、現在ではユーザには「お客様」のようなビジネス上の関係を表す意味も含まれるようになりました。for Userはビジネスとしても確立しており、基本的には産業主導のデザインアプローチと言えるでしょう。

逆に、対極にあるby Ourselvesの列では、人間が変化の中で学びつつ自立していく姿が示されています。草の根的で、生活に密着したデザイン活動がここにあたります。そして非営利的な色合いが強く、言いかえれば市場にはなりにくい位置づけのものです。そして両者のあいだにあるwithPeopleの列は、両軸のグラデーションの中でギャップを埋めるような立場となっています。by Ourselvesは役割やスキルが未分化な状況に生まれる活動でもありますので、デザインの初学者が最初から実現していくというよりは、with Peopleから徐々に自立していった先の姿ととらえる方が自然でしょう。

また近年では、for Userのアプローチで不足していた部分が広く理解されるようになり、そのギャップを埋めるために、事業者が当事者の人々といっしょにデザインすることをめざす事例(オープンイノベーションや共創型サービス開発)も増えています。つまり、for UserからwithPeopleのアプローチに移行する試みです。したがって、中央のwith Peopleの列は、左側のfor Userを志向していくものと、右側のby  Ourselvesを志向していくものが両方含まれていると言えます。

デザインにおける3つのアプローチを視覚化する

次に、この3つのアプローチの視座の違いを空間的に理解するために、図解してみました。

画面中央に存在している同一の人間から、それぞれの見方によって視座がどのように異なるかを浮かびあがらせたものです。「ユーザ」の像は、スタジオにいるデザイナーの視座から、ある製品を通した写像として一定の期間だけ見えることを表しています。デザイナーはたくさんの人に何か提供したいことがあるからこそ、その届ける人をまとめて「ユーザ」という概念で認識します。その後ろに実際に存在している当事者がいます。立っている道は、生まれてから死ぬまでの自分の人生の中で、未来を考えたり過去をふりかえったりしながら変化しつづけていく存在であることを表しています。最後に、丸い地面部分はコミュニティとフィールドを表しています。パートナーシップを形成し、ともに耕して育てていく畑のメタファです。

やや強引な図ではありますが、こうして視覚化して一枚の図にすることで、デザインのアプローチの違いを見渡して比較してみることができます。また、図を眺める中で、自分が見てきたデザインの世界をふりかえり、自分はどこに立っていて、どこを向いているのか、そこから何を見ようとしているのか、自分自身の志向性をふりかえって見直すことができるでしょう。

なお、これらは、デザインする際のアプローチの「違い」を強調して示したものにすぎないことは強調しておきたいと思います。それぞれの立場から一長一短はあって当然です。短絡的に切り取って、どのアプローチが良いか悪いかの評価軸でとらえることは危険なことです。適切なアプローチは、対象となる課題や所属する組織によって選択されるべきですし、プロジェクトの大きさや要件次第で、進め方もそのつど柔軟に考えた方がよいでしょう。私も全部が全部、コ・デザインを取り入れるべきだとは決して言いません。本連載の第1回で紹介したことわざは、時と場合に応じた「つかい分け」が大事であることを教えてくれます。

「ミッション」の違いから考えてみる

では、プロジェクトの進め方を決める価値判断は、何によって立つべきでしょうか。もっとも広義には「ミッション(使命)」から考えるべきでしょう。そのデザインはなんのために行われるのか。そのミッションの違いがうかがえるものとして、ここではデザインプロセスのモデルを取り上げます。デザインは決して勘だけで進められているわけではなく、通常はいくつかのフェーズが組みあわさって行われます。それはどのように表されているかについてモデルを観察してみましょう。

まず現在、世界的に普及しているのは、人間中心デザイン(Human Centered Design、HCD)のプロセスです。これはヨーロッパ、特に英国の人間工学が起点になって広まり、標準化されていったものです。ISOによって国際規格(ISO9241-210:2019)となり、日本でも2019年に(JIS Z8530:2019)「人間工学│インタラクティブシステムの人間中心設計」としてガイドラインになりました。まだまだ普及してない!という声もあちこちから聞こえてきそうですが、JIS(日本工業規格)で制定されたことは、一つの区切りとして普及とみなしていいでしょう。このプロセスはプロダクトだけではなくサービス開発などでも数多く参照されています。この進め方は、通常、以下のような図で示されます。

この図によると、はじめにHCDを取り入れるという必要性を押さえたうえでプロセスの計画が行われます。そして利用状況を理解し明確化したうえで、ユーザの要求事項を明確化し、デザインによる解決案の作成を行います。解決案の評価を行ったうえで適切な段階へ反復し、繰り返しを経て最後に要求事項に適合する、というプロセスが描かれています。実際には業務は納期や工数の影響を受けるので、いつまでも反復することは難しいのですが、利用状況を調べることやデザインしたものを検証して改善していくことをサイクルとして位置づけていることは品質を高めるために重要なことと言えます。

「問題解決」と「問題発見」のダブルダイヤモンド

そして、もう一つよく知られているデザインの進め方に、ダブルダイヤモンド(2005-2019)があります。英国のデザインカウンシルによって、さまざまな企業への調査をもとにしてつくられたモデルです。二つのダイヤモンドを描くように発散と収束を行うという問題解決プロセスで、一つ目の問題発見のダイヤモンドと、二つ目の問題解決のダイヤモンドが並べられています。

問題発見のフェーズでは「探索(Discover)」で広げ、次の「定義(Define)」で収束し、問題を正しく定義する、そして要件を決めたうえで次の問題解決のフェーズでは「展開(Develop)」で広げ、「提供(Deliver)」で収束するプロセスを示しています。2019年の改訂では、二つのダイヤモンドに周囲の要素が追加され、組織的な視点が加えられました。

実際はこれほど単純ではないにせよ、思い切って抽象化することで、多くの問題で適用できるような汎用性を高めていると言えます。実はこの二つの図は、背景知識によって見え方が変わります。まず、デザインは神がかりなセンスで行っているものだと思っている人にとっては、とてもびっくりすることかもしれません。HCDのように利用状況を調べることや、ダブルダイヤモンドで一つ目のダイヤモンドのように、つくる以外のフェーズがあることはデザインにかかわる機会がないと知ることはないものです。

一方でデザイナーの側から見れば、「まあそうだよね」と腑に落ちるものでしょう。いきなり頭の中で思い描いてつくり始めるのではなくて、利用状況を観察することや、スケッチや試作を繰り返して解を模索するというやり方は従来から経験的に行われてきたことだからです。これまで暗黙だったことが見えているだけで、特段に画期的なことが示されているわけではありません。

しかしながら、組織にはさまざまな人が在籍しています。多様な職能を持つ人々によってデザインしていく場合には、進め方を共通言語にしているかどうかは、組織の生みだすモノやコトの品質の大きな差になってきます。そのため、20世紀後半からは特に先進的な企業ではデザインのプロセスに関する知識に光があたり、さまざまなモデルが検討されるようになっていきました。今紹介したこの二つはその中でも世界的に普及し、今ではスタンダードな知識になったものです。両方とも日本語でも多くの関連文献がでていますので、詳細な手法については本稿では省略します。

社会との強い接点を持ったコ・デザインのモデルを描くために

ここで二つのモデルを取りあげたのは、モデルそれ自体を解説するためではなく、その一段階上に、よく見ると「ミッション(使命)」が浮かびあがって見えるからです。端的に言えば、これらの進め方は主に事業者が「製品やサービスを開発する」中で洗練させてきたモデルです。つまり、「つくる」と「つかう」が混じりあう実際の社会の中での関係性は、それほど考慮されているわけではありません。

実際の人間や社会は日々少しずつ変化しており、それはモデルに書かれている矢印が進んでいる最中も急速に進んでいるはずです。しかし、そういった変化を考慮しているとキリがないので、モデルの外部、すなわち社会はある程度は静的なものとして扱うことになるのでしょう。

たとえば、人間中心デザインのモデルを企業が取り入れてデザインを行う場合、製造上の業務責任や秘密保持、知的財産権、工数管理などの点から、どうしても内部と外部を分けてクローズドな環境にしていく必要がでてきます。したがって組織の内部で反復プロセスを回して最適解を追求し、適合させてから市場に投入する形式を採らざるをえません。事業で扱う人間中心デザインのモデルには、組織の事業を完遂するという使命が色濃く表れていると指摘できます。デザインは人間や社会に貢献するはずのものであることを内部の人は理解しているとしても、です。事業者がデザインのイニシアチブをとる場合は、しばしばこのような葛藤がつきまといます。

そしてダブルダイヤモンドは、スタートとゴールが明確な線でつながれており、リリースでプロジェクトは終わっています。これは単発の問題解決型のプロジェクトと親和性が高いと言えます。モデルを構築する際に、やはり事業者である大企業の製品開発の進め方をもとにしているからでしょう。単発で直線的な取り組みでは、前節で見たように解が変化していくような厄介な問題に対処していくことは困難だと思われます。

その一方で、公共サービスや地域の中、リアルな人々の中にあるデザインは、さまざまな前提が異なっていることを改めて想像してみましょう。まず、クライアントにあたる強力な決定権を持つ存在がいない場合も多いはずです。そしてリリースまで外に漏れないように秘匿する必要もありません。公開することは、競合に利益をとられるのではなく、逆に相互に協力しあえる仲間が増える可能性もあります。このように、いくつかの前提を問い直せば、もっと社会との相互作用の中で洗練していくことを狙って、デザインする過程をオープンにしていくという方向性も見えてきます。そこで、社会とのより強い接点を持ったコ・デザインに向いたモデルを描くこともできるはずです。

「インフィニティモデル」のもつ可能性

下図は私たちが2016年のサービスデザインの国際会議で発表したモデルの一部です。

中島・藤井のFNSダイアグラムを拡張したもので、「インフィニティモデル」と名づけました。まず、二つの円が見えるでしょう。構想を具体化していくフェーズと、それをつかい社会化していくフェーズを二つのエリアにし、それぞれのフェーズは、「場」の状況の中で行われます。組織の内部の視点で回し、市場に投入するという形態の人間中心デザインのモデルに対して、実際に活用する人々とともに相互作用していく社会化フェーズの方を重視し、意図的に大きく描いてあることが大きなポイントです。

次に、「ラボラトリー」と「コミュニティ」のエリアは隣りあいつつも、別々に位置づけられています。もともと両者の場のしつらえは異なるものですが、これは視点を近づけ一体化しすぎると逆に見えなくなってしまうため、適度な距離が必要であることを示しています。『デザイン・ドリブン・イノベーション』を著したベルガンティもこの近さが生む問題を指摘していますが、日本でも古くから言われていることです。

「岡目八目」という言葉をご存知でしょうか。囲碁の用語から生まれたもので、実際に碁を打っている人よりも、わきから見ている人の方が八目も先まで手を見越す、そこから転じて「当事者よりも、第三者の方がものごとの真相や得失がよく見える」という意味でつかわれます。しかし、単に距離をとればいいという簡単な話ではなく、基本的なルールを理解しようという姿勢がないと、すぐわきに立っても対話することはできません。フェーズを相互に行き交い、それぞれの目から見えたことを交換しながらコミュニケーションを行うことが大事です。

そのうえに描かれたインフィニティ(無限大)のラインは、単発ではなく繰り返されることが表されています。つまり一直線に進むのではなく、明確な始点・明確な終点がないのです。ねじれているのは、前に通ったループを批判的に乗り越えていくことを示しています。プロセスごとのステップは厳密にクリアしていかなければならないものではなく、進める中で優先順位を決めて飛ばしたりしてもかまいません。

現在では、ソフトウェアやITサービスを中心に、「バージョン」や「アップデート」の概念が広まってきています。これらはコミュニティとの相互作用の中で起こっていることを考慮しながらデザインを行い、長期的に改善をつづけていくものです。こういったものでは、すでにデザインのゴールは固定されていません。プロセスをよく見渡してみれば、ウェブサイトなどもすでにこのようなインフィニティモデルの方が実態に即しているのではないでしょうか。

なお、このモデルは、上述したポイントを説明するだけでなく、それぞれのフェーズのどこで誰が加わるかのコラボレーションの類型を示すことを主目的としてつくられたものですので、また後ほど触れたいと思います。


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