リーダーシップを育むための「よい振り返り」とは?:連載「リーダーシップ教育の最前線」 第4回

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リーダーシップを育むための「よい振り返り」とは?:連載「リーダーシップ教育の最前線」 第4回

こんにちは、舘野泰一です。私は立教大学経営学部の准教授として、若年層を対象にしたリーダーシップ教育に関する研究・実践をしています。

本連載では「リーダーシップ教育の最前線」として、リーダーシップ教育の背景となる理論や、実践の手法について紹介します。

これまでの記事では、
第1回 新しいリーダーシップの考え方について知る
第2回 リーダーシップ教育の実践の概要について知る
第3回 学習者にとってちょうど良い「課題」を設計するための勘所
について取り扱ってきました。

第4回となる今回は、リーダーシップを育むための「振り返り」に焦点を当てます。学習において「振り返りは重要」という話は聞いたことがあるかもしれませんが、よい振り返りとはどのようなものなのでしょうか?

また、それはどうしてリーダーシップを育むために必要なのでしょうか。これらのポイントについて今回解説をしていきます。

経験学習型リーダーシップ教育の設計ポイントをおさらい

振り返りの話に入る前に「経験学習型リーダーシップ教育」の設計のポイントを再確認しましょう。この教育方法は、経験学習の考え方をベースとしており、

1. リーダーシップを発揮するしかない状況を作り出す
2. そこで発揮されたリーダーシップ行動をフィードバックの素材として、振り返りを通して自身の成長につなげてもらう

という2つが設計の鍵となります。前回は1つ目の「リーダーシップを発揮するための経験づくり」について説明をしました。

今回説明するのは、2つ目の部分「リーダーシップ行動をフィードバックの素材として、振り返りを通して自身の成長につなげてもらう」です。

リーダーシップを発揮するような経験をしたとしても、適切な振り返りがなされなければ学びにつながりません。一方で、私たちは、学生時代の文化祭や体育祭なども含めると何かしらリーダーシップを発揮する経験はしていますが、自分のリーダーシップに着目して、振り返った機会はかなり少ないのではないでしょうか?

「反省会」をした経験はあるかもしれませんが、リーダーシップの成長につながるような振り返りは経験をしたことがなかったり、そもそもどのようなことが「よい振り返り」なのか見当がつかなったりするのではないでしょうか。

今回はリーダーシップを育むためのよい振り返りについて説明をしていきたいと思います。

自分のリーダーシップに着目した振り返りをする

リーダーシップを育むために必要なのは「自分のリーダーシップ行動」についてメタに振り返ることです。メタというのは、言い換えるなら、一歩引いて、神様視点で自分の行動を見つめるということです。

「自分のリーダーシップ行動」をメタに見つめるというのは、当たり前のように感じるかもしれませんが、これがなかなかできません。難しい理由は、(1)ついついアウトプットの振り返りに着目してしまい、プロセスの振り返りがおろそかになってしまうこと、(2)プロセスの中でも自分のリーダーシップ行動に着目することが難しいこと、が挙げられます。

例えば、「ビジネスプランづくりの振り返りをしよう」となると、「プランのここがよかった、だめだった」という話は自然とするのですが、そのアウトプットが生まれる過程について考えるのは案外と難しいものです。「なぜそうしたアウトプットになったのか?」という過程にこそ、今後のリーダーシップ行動の改善ポイントがあるわけなのですが、ついついアウトプットの方に目がいってしまいます。

次に、プロセスに着目できたとしても、「自分のリーダーシップ行動」に着目するということも案外と難しい。リーダーシップ行動とは「チームの目標達成に資する行動全般」のことを指します。

例えば、「結局、チームとしてビジネスプランの大枠を決めるのが遅くなってしまったから、アウトプットの質を高めきれなかった」としましょう。その場合に、自分がどのような行動でこれに関わっていたかの視点から振り返りをおこないます。

「そもそもあまりビジネスプランのアイデアを出せていなかった。今後は早めに序盤にアイデアを複数提案できるようにすることが重要そうだ。」

「プランの方向性を決めるミーティングのときに、立場を曖昧にしてしまった。もっと自分の立場を明確に主張していれば、早めに方向性を決められた。」

このように、プロセスの中でも、「自分のリーダーシップ行動」に着目した振り返りをしていくと、経験を通して、よりよいリーダーシップ行動をおこなっていける可能性が高まります。

経験をもとに自分のリーダーシップ行動を高めるためには、アウトプットやチームプロセスだけではなく、自分がそれらに対してどのようなリーダーシップ行動をしていたのかという視点から振り返ることが重要なのです。

他者とともに振り返ることの重要性

こうした振り返りは、まず個人としておこなうことが大切になります。振り返りの習慣がある人は、1つ1つの経験からより多くのことを学んでいけるでしょう。

しかし、リーダーシップ教育という視点からは「他者とともに振り返ること」が大切になります。なぜなら、リーダーシップは「チームに対する影響力」であり、「他者がどのように感じているか」が振り返りの重要な素材となるからです。

自分がよいと思っていても、他者にプラスになっていなければリーダーシップの発揮にはなりませんし、自分が意識していないことが、思わぬかたちでチームにプラスの影響力を発揮していることもあります。

ジョハリの窓(図1)でいうところの「自分は気づいていないけれど、他者は気づいている自分」(盲点の窓)について知ることが、効果的なリーダーシップを発揮する上で、非常に重要になるということです。

「盲点の窓」は、「自分は知らない自分」なので、ひとりで振り返っていても絶対に到達できない領域です。つまり、リーダーシップを育むためには、「他者とともに振り返ること」が必須の要件となるわけです。

他者とともに「具体的に」振り返ることが大切

では他者とともに振り返るポイントとはどのようなものでしょうか。

個人でできることとして、簡単かつ重要な行動は「他者にフィードバックを求める」ということです。

「こないだの会議のとき、いつもより周りの人に意見を聞いてみようと思って、質問してみたんだけどどうだった?」

気軽にこうした質問ができるようになれば、日々の仕事や生活の中で他者の視点からリーダーシップ行動を育むことができます。例えば、こんな回答が返ってきたらどうでしょうか。

「質問してもらえたことで、自分の意見も求められているかんじがしてうれしかったです。でも、あんまりメンバーの意見を聞いていると、会議の進行が遅れていくので、1〜2人に聞くのでもいいかもしれませんね。」

この人の意見では、質問によって会議に対する関わりが主体的になっていることがわかります。ただ、その分時間がかかってしまうので、進行について工夫の余地がありそうです。もちろん、この人の意見はあくまで1つの素材です。もしかすると

「急に意見を求められても困るので、質問するなら事前に言っておいてほしい。」

という人もいるかもしれません。しかし、いずれにせよ、他者の意見は振り返りの質を高める良質な素材となります。

もしひとりで振り返りをしていたら、

「今日は会議で質問してみたけど、なんとなくあんまりみんな表情は変わってない気がしたからやってもしょうがないか。」

「質問をしたら、生き生きしていたかんじがするので、次の会議はもっとたくさんの人に質問しちゃおう!」

といった結論に至ったかもしれません。リーダーシップは他者に対する影響力なので、他者に気軽にフィードバックをもらえるように心がけることが近道です。

もちろん、他者のフィードバックというのは、人によって感じ方も違うため、時々矛盾したことを言われることもあるでしょう。例えば、さきほどの例でも「質問されてよかった」という意見と、「急に質問しないでほしい」という意見がありました。どちらから言われたことをそのままやろうとすると、かえって混乱してしまうでしょう。

他者のフィードバックは「言われたことをそのままやる」というわけではなく、「他者がそう感じた」という、あくまで考える素材です。それらを踏まえて、実際に何をやるかについては、個人で考えて、実行する必要があります。

例えば、あなたがメンバーの主体性をより育みたいと思っているとしましょう。その場合、質問によって参加感が高まるなら「質問をする」ことを前提に、「急に質問されても困る」という不満がでないように、「次の会議ではみんなにこういう意見をもらいたいと思っている」と、事前に伝えるといった方法ができるかもしれません。このように、他者の素材をもとに、次のリーダーシップ行動を決めることが大切です。

次に、こうしたフィードバックを職場やチームでおこなうときのコツについて説明します。

チームでフィードバックをおこなおうときには「具体的なフィードバックをおこなうこと」が大切です。「いつも助かっているよ」といった感謝のメッセージはとてもうれしいのですが、リーダーシップ行動をよりよくするという点では、これだけでは物足りません。

重要なことは「具体性」です。

・どのような状況で(Situation)
・どのような行動が(Behavior)
・どのような影響を与えたのか(Impact)

というSBIを意識することで、具体的なフィードバックにつながります。例えば、

・先日のミーティングの場面で
・あなたが自分の意見を補足するようなアイデアを話してくれたことで
・元々のアイデアが広がり、面白い企画になった

と伝えるのは、「いつも助かっているよ」という言葉よりも、より具体的なリーダーシップ行動へのフィードバックになります。こう言われたら、次もそのような行動をしようと思えるのではないでしょうか。

これは「改善点を伝えるとき」ももちろん有効です。「君って、いつも人の意見を聞かないよね」と言われたら、そのフィードバックを受け入れることはできるでしょうか?「いつもじゃないよ!」と反論してしまい、フィードバックの中身を受け入れてもらえないかもしれません。

しかし、

・先日のアイデア出しの場面で
・他の人が意見を言っているときにそれを遮って話をし続けたことで
・アイデアが広がらず、結局ミーティングで結論がでなかった

と言われれば、さきほどよりも受け入れることができるのではないでしょうか。このように、リーダーシップを育むためのフィードバックでは、そのときのリーダーシップ行動について、具体的に示すことが重要になるのです。

リーダーシップを育むためのフィードバックとは

ここまで説明してきたように、リーダーシップをよりよくするためのフィードバックでは、

・リーダーシップ行動について(プロセス)
・他者の視点をもとに
・具体的に振り返ること

が重要になります。しかし、多くの場合には、

・アウトプットの結果について
・人のフィードバックをもらわずに
・ざっくりと振り返る

ということになっているケースが多いのではないでしょうか。これでは同じリーダーシップ経験をしたとしても、学びにつながる要素が少なくなってしまいます。

リーダーシップを発揮する経験は、学校や企業での普段の仕事の中に実はいろいろと埋め込まれています。しかし、それらを成長につながるための振り返りの場の設計がなされていないことは非常に多いのではないでしょうか。

こうした状況を踏まえると、リーダーシップを育むために「プロジェクト学習」などの経験をつくらなくても、日常的な振り返りの機会を作るだけでも、日々の生活の中で、少しずつリーダーシップを育んでいけるともいえます。

振り返りの目的は「過去の反省会」ではなく、「未来のより良い行動」を目指すものです。変えられない過去について文句を言い合うのではなく、変えられる未来のために、「次はどうするか?」を他者とともに考えることが振り返りの本質です。

未来の行動をよりよくするための学びの本質が「振り返り」という活動に集約されているとも言えます。

「より振り返りとは何か」の認識を揃え、職場のメンバーと日常的によりよいフィードバックをおこなえる活動をデザインしてみませんか?

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リーダーシップ教育の最前線

こんにちは、舘野泰一です。私は立教大学経営学部の准教授として、若年層を対象にしたリーダーシップ教育に関する研究・実践をしています。本連載では「リーダーシップ教育の最前線」として、リーダーシップ教育の背景となる理論や、実践の手法について紹介します。

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著者

1983年生まれ。青山学院大学文学部教育学科卒業。東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学後、東京大学大学総合教育研究センター特任研究員、立教大学経営学部助教を経て、現職。博士(学際情報学)。専門はリーダーシップ教育。近著に『パラドックス思考 ─ 矛盾に満ちた世界で最適な問題解決をはかる』『これからのリーダーシップ 基本・最新理論から実践事例まで(共著)』(日本能率協会マネジメントセンター)など。

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