「不確実性の時代」の中でも大きな成果を出し、価値を社会に届け続けられる企業は、どのような組織づくりを実践しているのでしょうか。
CULTIBASEを運営する株式会社MIMIGURIが実際に取り組んだ組織変革プロジェクトを事例に、現代に求められる組織づくりの知見をお届けする「組織づくりCASE FILE」。
今回のゲストは、株式会社プロジェクトアドベンチャージャパン(通称・PAJ)の皆さまです。「器の大きな人間社会の実現」をミッションに掲げるPAJは、従来の教育事業、施工事業に加え、2017年には日本最大級のアドベンチャーパーク「PANZA」の運営を開始。現在も全国各地に拠点を増やし続けています。
一見順調な事業展開を見せる同社ですが、代表の小澤さんは、多角化の副作用として「組織全体の一体感が薄まってしまった」と語ります。実際、各事業部が力をつけることは喜ばしいことではあるものの、副作用として、企業全体の調和や連携が難しくなり、組織全体の統一感や効率性が損なわれてしまうリスクがあります。
PANZAという強力な事業を確立したからこそ直面した業部間の関係性の希薄化。その難題をPAJはいかにして乗り越えようとしているのでしょうか。株式会社MIMIGURI・塙達晴らをパートナーとして行われた組織変革プロジェクトを題材に、事業と組織の関係性を編み直すアプローチについて探究します。
※ PAJの皆さまには、以下記事でもお話を伺っています。ぜひ合わせてご覧ください。
分断した縦割り組織を繋げるのは、個人の認識変容──アドベンチャー業界の先駆者PAJにみる、「砂遊び」対話の意義とは。
前回はこちら
多角化戦略で人が育つ?!マネーフォワードCDOが語る組織づくりの最前線
「組織の“らしさ”を取り戻す。アドベンチャー業界の先駆者が挑む部門間連携の新機軸」のチャプター
00:00 イントロダクション
03:27 本日のテーマ:希薄化した組織の一体感を取り戻すには?
07:51 “砂遊び”で事業と組織のミッションの繋がりを探る
14:41 他の事業部との対話を通じて見えた景色とは
19:31 組織・事業部のらしさをわかち合う、2泊3日の全社研修
27:12 “積み木”を使って、無機質な数字への見方を変える
34:21 PAJの組織づくりプロジェクトを”CCM”で振り返る
42:47 プロジェクトを経て組織はどう変わったか?
52:42 まとめ:組織の「変化」と「整合」のバランスをどう取るか?
「組織の“らしさ”を取り戻す。アドベンチャー業界の先駆者が挑む部門間連携の新機軸」のポイント
組織の”らしさ”の浸透や、事業間のシナジー創出を目的にプロジェクトが発足
- 本プロジェクトは、PAJという組織の”らしさ”の浸透や、事業間のシナジー創出を目的に開始された。
- 当初PAJは、コーポレートサイトのリニューアルを考えていた。しかし、PAJとして自分たちのどこをコンセプトに語っていけば良いのかが見えにくいことに気づき「PAJとしてのブランディング」の課題に向き合うことに。組織全体のコンセプトや理念の検討、シナジーを生む形へのリデザイン、さらに、見えてきたコンセプトやミッションの具現化をするために事業計画やロードマップへの落とし込みを行なった。全社の組織開発まで含め、株式会社MIMIGURI コンサルタントの塙達晴(以下、塙)が伴走した。
- 株式会社プロジェクトアドベンチャージャパン 代表取締役 小澤新也さん(以下、小澤さん)は「各事業が独立採算をとる中で、それぞれの事業への帰属意識はあるものの、PAJとしての一体感がない状態があった」と振り返る。
それぞれが「砂遊び」で事業部の“らしさ”を描く
- 具体的な取り組みとして初めに行ったのは、ブランディングにあたり「PAJのコアは何か」「理念と事業のつながり」を整理することだった。
- 会社の理念や事業部のミッションなど「抽象度の高い概念」を扱う際に用いたアプローチとして、特徴的だったものとして「事業部のらしさを『砂遊び』で描く」取り組みがある。カラフルな「砂」で絵を描くことで感覚的に会社の理念や各事業のミッションを造形した。
- 「言葉で考えていたらなかなか進まなかったものを、感覚的にできる取り組みだったからこそ、潜在的な想いを表現できた。作りながらそれぞれが話すプロセスで、共通認識が持てた部分もあった」と振り返るのは、PAJの伊藤歩美さん(以下、伊藤さん)
事業のシナジーを考え、プロジェクト後には新規事業が誕生
- 事業のシナジーを考えたことについてPAJの高野哲郎さん(以下、高野さん)は「社会的なインパクトを考えた時に、施工部門はこれだけの数の施設を作ってきて、施設には年間何万人という人にアドベンチャーに触れてもらっている。『これを活かさない手はない』」という思考に発展していったという。
- 小澤さんは運営するアドベンチャー施設「PANZA」との関わり方について「既存の事業がどうPANZAに関わっていけば良いのかわからない」という認識から、PANZAだけではなく「我々同士がどう関わっていくとより良い組織になっていくのか」という視点に変わったと話す。
- 伊藤さんは「3つの事業をやっているからこそ生まれるシナジーが、まさに少しずつ事業になり始めている」と、このプロジェクト後にできた新規事業(アドベンチャーコンサルティング事業部)について紹介した。
理念や事業部ごとのミッションを2泊3日の合宿で伝える
- 理念や事業部ごとのミッションは「全社ワークショップ」として2泊3日の合宿を開催し、全社に改めて伝えていった。
- 合宿では「器の大きな人間社会の実現」という理念にまつわるエピソードを「ラジオ」として配信し、小澤さんと高野さんが出演。入社当時、小澤さんがアメリカの施工チームに派遣され、英語も話せない中で”アドベンチャーな経験”をしたことが「器が広がった経験」として語られた。聞き役を務めた塙は「個人主語の話が共有されたことがポイントだったのでは」と話した。
- 伊藤さんは「当初は内製で実施することも考えていたが…」という裏話を語っていただいた。検討する中で「自社だけでは凝り固まった考え方があると思うので外からの視点を入れたい」という思いがあったのだという。
理念やミッションを踏まえ、事業ロードマップや計画策定へ
- 高野さんは、現在行なっている「事業部ごとの2030年を考える」動きについて話した。施設運営の2030年を考える中心となっている高野さん。「各事業部のコンセプトやミッションが見えている上で考えているので、それだったらこういう事業や数字になりそうだ」と考えやすさがあると話した。
- 最近では”積み木”を用いて数字を考える取り組みを行なっている。伊藤さんは「ざっくり把握しやすく、他社との数値比較を積み木でやってみることで、ビジネスモデルの違いなどを想像できるのも楽しい」と話す。小澤さんは「3人(小澤さん、高野さん、伊藤さん)で時間かけながら作ったけど、あの時間は笑顔になったよね」と振り返る。伊藤さんは「ただの数字遊びではなく『想いが乗った数字づくり』になっていると感じる」と語った。
- 小澤さんはプロジェクトを振り返って「プロジェクトに伴走した塙さんが、PAJのことをしっかりと知ってくれたことが心強かった」と語る。高野さんは「徹底的に自分たちに”戻してくれた”」ことが印象的だったと加える。塙は「こうすべきです」というスタンスではなく、プロジェクトの中ではいつも「問い」が立つことを振り返った。
CCMでプロジェクトを分析/プロジェクトを経て、組織はどう変化したか?
続いて、塙と原(株式会社MIMIGURI 執行役員COO)が登場するパートでは、今回のプロジェクトをCCMを見取り図に振り返る。CCMの見方を解説した上で、まず事業構造としてシナジーを出していくために「砂遊び」のワークショップを開催したことを振り返った。ここでは「組織文化」と「事業構造」を行き来しながら価値の探究が行われたのではないかと原は考察する。
- 塙は砂遊びワークショップに加えて「シナジーマップづくり」をしたことを紹介。事業シナジーを考えるために5つの資本があり、アイデオロジカル資本といって”らしさ”の資本をもとに、組織文化側から事業構造を考える軌道があったのではないかと振り返った。
- 「積み木」でKPI/KGIを捉える取り組みについても振り返った。ここでは、組織文化と事業構造の両面から事業ケイパビリティの探究ができたのではないかと、塙は考察する。
- 最後のパートでは、PAJ代表の小澤さん、原、塙の3名でプロジェクトを振り返った。プロジェクトの中では、CCMを見取り図にして考えることで、潜在的にあったが言葉になっていないようなもの同士が結びついたような感覚があったと、小澤さんは話す。
- また小澤さんは、多角化の中で組織が分断する中で「部門をなくして一つにして、みんなが関わり合えればいいのではないか」と考えた時期もあったという。MIMIGURIとともに今回のプロジェクトを行う中で「部門をなくす」という言葉は「シナジーを生む」という言葉に変換できるのではと考え、逆に新規事業(アドベンチャーコンサルティング事業部)として部門を増やす選択になったと経緯を振り返った。
- 小澤さんは最後に、自分たちの事業を様々な視点から見れたことが大きく、プロジェクトの中でも今回の番組でも「問い」をきっかけに「言葉にしていくこと」によって整理が進んだと振り返った。
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映像撮影・編集:山崎 拓也