「オーセンティック・リーダーシップ」の誤解?自分らしさをつくるために、ときに壊す必要性:連載「リーダーシップ教育の最前線」第9回
「オーセンティック・リーダーシップ」の誤解?自分らしさをつくるために、ときに壊す必要性:連載「リーダーシップ教育の最前線」第9回

「オーセンティック・リーダーシップ」の誤解?自分らしさをつくるために、ときに壊す必要性:連載「リーダーシップ教育の最前線」第9回

2022.07.06/7

こんにちは、舘野泰一です。私は立教大学経営学部の准教授として、若年層を対象にしたリーダーシップ教育に関する研究・実践をしています。

本連載では「リーダーシップ教育の最前線」として、リーダーシップ教育の背景となる理論や、実践の手法について紹介します。

これまでの記事では、

第1回 新しいリーダーシップの考え方について知る
第2回 リーダーシップ教育の実践の概要について知る
第3回 学習者にとってちょうど良い「課題」を設計するための勘所
第4回 リーダーシップを育むための「より振り返り」とは?
第5回 「つい、リーダーシップを学んでしまう」環境をどうデザインするか?
第6回 「矛盾」を力に変える。新しい時代のリーダーシップとは?
第7回 「自分軸」を持ったリーダーシップを育むためには?
第8回 リーダーが「リーダーらしく」振る舞うためには?

について取り扱ってきました。

今回のテーマは、リーダーシップにおける「自分らしさ」についてです。

リーダーシップにおける「自分らしさ」の重要性

近年のリーダーシップ論において「自分らしさ」はひとつの大きなキーワードです。本連載でも「自分らしさを生かした全員発揮のリーダーシップ」をキーワードに、コラムを展開してきました。

「自分らしいリーダーシップを発揮する」とは、人の真似をしたり、他者から期待した役割を演じたりするのではなく、自分の強みを活かし、正直さをいかした行動することを指します。

本連載でも、「自分軸」を持つことの重要性を述べてきた通り、「自分らしさを生かしたリーダーシップ」とは、自分の価値観を明確に持って行動するリーダーシップ像ということができます。

このようにリーダーシップにおける「自分らしさ」の重要性が指摘される一方、やや「自分らしさ」を正しく理解・活用されていないと思われるケースも散見されるようになりました。

例えば、「自分らしさ」がある種の言い訳となり、自分のやり方を変えずに固執してしまったり、自分の成長を妨げていたりするケースもよくあるのではないでしょうか。

今回の記事では、あらためてリーダーシップにおける「自分らしさ」の重要性について述べ、その上で、時に「自分らしさを壊すこと」の重要性について説明したいと思います。

「自分らしさ」の理論的背景にあるオーセンティック・リーダーシップ

リーダーシップにおける「自分らしさ」を捉える理論的背景には、「オーセンティック・リーダーシップ」の考え方があります(注1)。「オーセンティック」とは「正真正銘の」「本物の」などの意味があります。

オーセンティック・リーダーシップの考え方の背景には、以下のような考えに対するアンチテーゼがあります。

・スーパーリーダーのふるまいを真似しなくてはならない
・外的な成功を追わなくてはならない

この2つからは「自分以外の何者かになり、外に設定された成功の基準を満たすことが大事」という価値観が見えてきます。こうした考え方が支配的だった2000年代前半はアメリカ企業の不祥事や破綻が続いた時代でした。

これらの事態に対する警鐘として、自らに正直に向き合う、倫理的で、自分らしいリーダーシップへの注目が集まったのでした。

「自分らしさとは何か?」を理解する

たしかに一般的にはリーダーシップ論というと「偉大なリーダーのふるまいを真似するもの」のようにも感じられるのではないでしょうか。偉大なリーダーでなくても、「自分の上司のやり方」を真似したくなるというのもあると思います。

しかし、自分のキャラと全然違うリーダーシップを突然発揮しようとしなくてもなかなかうまくいかないでしょう。自分には自分らしいやり方があるというのは、現場の感覚としても納得できるものではないでしょうか。

「自分らしいリーダーシップ」を発揮できるようになるためには、自分自身を振り返ることや、自己認識の高さが重要になります。たしかに、「自分らしさが大事」なのであれば、そもそも「自分らしさとは何か?」を理解しておく必要がありますよね。

よって、オーセンティック・リーダーシップを発揮する方法として、

・自分史に学ぶこと
・自己認識力を伸ばすこと
・価値観を体現すること

の3つが重要だと言われています(注1)。

実際、私がリーダーシップ教育をおこなうときにも、過去の自分の体験をグラフにして振り返ってみたり、他者からフィードバックをもらったりする方法を取り入れています。このように、過去の振り返りや他者からのフィードバックをもらうことで、自分らしいリーダーシップの理解を深めることは、リーダーシップ教育において重要な教育方法の1つとして捉えられています。

リーダーシップに「自分らしさ」が求められてきたことの弊害

ここまで「自分らしさの重要性」と「そのための教育方法」について述べてきました。一般的にはここでコラムが終わってもよいかもしれません。

しかし、今回議論したいのは「その一歩先」です。たしかにリーダーシップにおける「自分らしさ」は重要なのですが、これを誤解したまま活用しようとすると、時に弊害も大きくなると筆者は感じています。

実際、ハーミニア・イーバラ(2015)の中にも以下のような一節が書かれています。

「オーセンティシティ」(自分らしさ)はいまや、リーダーシップの鉄則となっている。しかし、その意味を安直に理解したままでは、成長が妨げられ、影響力も限定されかねない。

文献の中では、具体的な弊害として以下が挙げられています。

・「自分らしさ」を言い訳にして、過去の居心地の良い自分のやり方に固執してしまう
→本当はリーダーシップのスタイルを変化しなくてはならないが変化を恐れる

 

・正直さを重視するあまりに、自分の弱音や本音をすべて話してしまう
→実績がない中で自信がなさそうな発言をすると周りが不安になってしまうことも多い

これらは個人的な体験と照らし合わせても納得感があります。

リーダーシップを発揮する上で、自分軸はとても重要なのですが、「自分は変化せずに、過去のやり方にしがみついて、周りを変えようとしてしまうこと」は、自分にとっても組織にとっても成長につながりません。

また、リーダーが「弱みを見せること」は大事なことでありながらも、毎日「不安だ、不安だ」と正直に話していたら、周りは助けたいと思うでしょうか。「弱み」は人を動かす道具というよりも、一生懸命やっているにも関わらず、「つい出てしまうもの」ではないでしょうか。弱みは道具的に使うものというより、そうした自分があることを「認めるもの」のように感じています。

このように「自分らしさ」を安直に理解したままでは、かえって弊害も多いことが指摘されています。

「遊び心」をもってリーダーシップスタイルを変化させる

「自分らしさ」に固執することの弊害を軽減するためには何が必要でしょうか。さきほど紹介したハーミニア・イーバラ(2015)の文献の中では、「過度な内省の弊害」について述べた上で、「遊び心」の重要性について述べています。

幸いなことに、観察力を養い「状況に適応しながらも自分らしさを失わない」リーダーシップスタイルへと進化していく方法がある。ただし、そのためには遊び心が必要だ。

リーダーシップの育成を、自分の可能性を試すことというよりも、自己研鑽の取り組みだととらえると、正直なところ、つまらない課題のように思える。しかし遊び心を持って臨めば、可能性に対してよりオープンになれる。日によって態度が変わってもかまわない。それは偽っているのではなく、直面している新たな課題や状況において、何が適切かを見極めるための実験である。

ここで指摘されているのは「行動を伴う実験」の重要性です。過度に内省をおこない、自分らしさを考え、その考えに固執するのではなく、自分の可能性を、アクションをしながら実験的に探してみることを「遊び心」と表現しています。

私もこの連載の中で「プレイフルなリーダーシップ教育」の重要性について述べてきましたが、そうした考えとも非常にリンクするものです。

ハーミニア・イーバラ(2015)は文献の中で、遊び心を持った探究として以下の3つを紹介しています。

1. 幅広いロールモデルから学ぶ(一人ではなく多数のロールモデルを持つ)
2. 上達するために努力する(業績目標だけでなく、学習目標を持つ)
3. 「自分史」に固執しない(ストーリーは常に更新し続ける)

これらをあえてシンプルにまとめると以下のように言えるのではないでしょうか。

「状況に適応しながらも、自分らしさを失わないリーダーシップを発揮するためには、複数人のロールモデルを持ち、成果だけでなく自分の変化・成長に焦点を当て、過去の素材はあくまで一つの素材として使い、常に更新し続けることが重要」

より端的にいえば、このように表現できます。

「自分らしいリーダーシップスタイルは一度構築して終わりではなく、常に破壊と構築を繰り返していくものだ」

「自分らしさ」を追い求めると、1つの明確な自分らしさの構築と安定がゴールになってしまいがちですが、構築と破壊はセットであり、絶えず動き続けていくことが重要といえるでしょう。

まとめ

今回はリーダーシップにおける「自分らしさ」に焦点を当てました。自分らしいリーダーシップは重要ですが、自分の過去やスタイルに固執して変化しないと、個人・組織双方の成長を止めてしまいます。そうではなく、自分らしさは「遊び心」を持って、破壊と構築を繰り返して作り上げるものです。その意味で、私はリーダーシップの成長に、プレイフルは必須の要素であると考えています。

リーダーシップは「旅(ジャーニー)」に喩えられ、そのスタートは過去を振り返ることからはじめることが多くあります。自分の価値観を明確にするためです。もちろん、それは重要なことです。

しかし、旅は事前に全て計画通りにいくことはなく、想定外のことがたくさん起こります。そもそも旅をするということは、自分の日常から離れることだからです。過去の自分のやり方が通用しないこともたくさんあると思いますが、それこそが旅の醍醐味でもあります。

自分の持つルーツを大切にしながらも、旅先で起こるさまざまな状況の変化にプレイフルに乗っかってみる。こうしたアクションを続けていき、少し経った後に自分を振り返ったときに、なんとなく見えてくる共通点のようなものが「自分らしさ」なのではないでしょうか。

リーダーシップの旅は、予想不可能で事前準備できるものは限られているかもしれませんが、ぜひ「遊び心(プレイフル)」というアイテムだけは忘れずお持ちいただければと思います。


関連コンテンツはこちら

注1:
ハーバード・ビジネス・レビュー編集部(2021)『オーセンティック・リーダーシップ』第1章.
ビル・ジョージ、ピーター・シムズ、アンドリュー・N・マクリーン、ダイアナ・メイヤー(2007)「自分らしさ」を貫くリーダーシップ

注2:
ハーバード・ビジネス・レビュー編集部(2021)『オーセンティック・リーダーシップ』第6章.
ハーミニア・イーバラ(2015)「自分らしさ」があだになる時

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