ファシリテーターが問わずとも、問いが浮かび上がる身体や組織になるために──「問わずして問う」ための技法を、塩瀬隆之と安斎勇樹が考える
ファシリテーターが問わずとも、問いが浮かび上がる身体や組織になるために──「問わずして問う」ための技法を、塩瀬隆之と安斎勇樹が考える

ファシリテーターが問わずとも、問いが浮かび上がる身体や組織になるために──「問わずして問う」ための技法を、塩瀬隆之と安斎勇樹が考える

2020.12.22/11

問わずして問う。一見、矛盾するような表現ですが、問いのなかにも非言語なもの、人工物が誘発する問い、関係性によって生まれる問い……さまざまな問いの形式が存在します。では、「問わずして問う」とは一体どのような営為なのでしょうか? 

CULTIBASEが運営する有料オンラインコミュニティCULTIBASE Labの会員の方を対象として、「書籍『問いのデザイン』に第7章を書き足す」イベントを開催しました。

『問いのデザイン』読者が考える、“書き足すべき”第7章とは
『問いのデザイン』読者が考える、“書き足すべき”第7章とは

安斎勇樹(CULTIBASE編集長)と塩瀬隆之さん(京都大学総合博物館 准教授)の共著である『問いのデザイン』は、全6章で成り立っていますが、「自分が著者だとしたら何をテーマとして書き足すか」を参加者と議論しました。

そのイベントで挙がった30程度の案のうち、「著者に聞いてみたい第7章」として選ばれたのが「問わずして問う技術」でした。今回はこの第7章を提案した鳥海裕乃さんが、問わずして問うことの意義や方法について、安斎と塩瀬さんにインタビューしました。

目次
言語/非言語の問い、その両方が存在する
問うための言葉よりも、関係性を築くことが重要
違和感を用意して待つことで、問いが湧き上がる
「問わずして問う」身体を取り戻すために


言語/非言語の問い、その両方が存在する

──「問わずして問う」という言葉から最初に浮かぶのは、非言語の問いだと思うんです。でも、言語化された問いを用いる際にも「問わずして問う」アプローチが存在するかもしれない。そもそも、「問わずして問う」ってどんな行為だと考えていますか?

安斎:言葉になっていない問いと、言葉に埋め込まれている暗黙の問いの両方がありますよね。先日、あるメディアの取材を受けたのですが、ある質問に対して自分が「答えきった」と思ったのですが、「ほかにないですかね?」とその後に聞かれ、別の言い方で答えたんです。するとまた、「ほかにないですかね?」と再び問われたんです。これは、インタビュアーの問いのなかに、別の暗黙の問いが埋め込まれているケースだと思いました。

あと、何らかの人工物に問いが埋め込まれているケースは結構あると思うんです。たとえば、虫眼鏡が置いてあるとつい覗き込んでしまいますよね。このように人工物に誘発された行動は存在しますよね。この観点を拡張させると、物語やアート作品にも問いが埋め込まれているケースがあると思います。

──一種のアフォーダンス*1のようなものですよね。対話型鑑賞のような行為が、それを促してくれそうです。

安斎:対話型鑑賞を通じて、問われる側の好奇心や学習意欲が向上していくケースもあると思います。すべてのアート作品に問いが内在しているとは言いませんが、そこに埋め込まれた文脈や意図、あるいは鑑賞を通じて自分が感じたことに向き合うことは、対話的な活動だと思うんです。

対話型鑑賞を繰り返すことで、ファシリテーターがいなくとも自分のなかで問いが湧き上がり、鑑賞者として熟達していくことがあるのではないかと。そういった経験をもつ集団であれば、明示的に問いを投げなくても問い合える場をつくれると思うんですよね。

──塩瀬さんはいかがでしょうか?

塩瀬:わたしは2つのことが浮かびました。ひとつは、言語化されていないけれど問うている状態。わたしは大学時代に熟練技の伝承の研究をしていたのですが、「師匠が弟子に教えていないのに技が伝わるとはどういうことか」がテーマだったんです。言語化できない、あるいは言語化しないほうがいいけれども師匠から弟子に伝わっている技──「黙して語らず」とも言いますが、そのような行為は問わずして問うの一種ですよね。

もうひとつは、言語化しているものの問いの形式にはなっていないケース。夫婦が一緒に過ごしていて、ひとりが「お腹が空いた」と言ったとき、一緒に何か食べに行こうという誘いだったり、相手になにか料理を出してもらおうと思っていますよね。これは問うてはないけれども、何かを求めている行為です。

──面白いです。直接問うてはいないものの、会話において片方が「問われた」と感じる関係性が存在するわけですね。歪曲表現のようなもので、暗黙の問いとも言いかえられるかもしれません。そういう状態に到達するには、両者の間になにか特別な関係性が成り立っている必要がありますよね。

問うための言葉よりも、関係性を築くことが重要

塩瀬:先ほど熟達技の継承の話をしましたが、関係性という観点からも面白い事例があります。楽焼の仕事場にはたくさんの釉薬が並んでおり、その仕事場にどんな素材が必要で、どういった人が出入りするのか、どの時間にどんな作業をしているのか、これらは言語化されずとも周辺環境に埋め込まれた知として多く存在し、それが師匠から弟子に受け継がれていくことがあります。

それはつまり、問うための言葉というよりはむしろ関係性を構築することのほうが重要だったりする。雑誌『WIRED』に能楽師の安田登さんと理化学研究所の高橋恒一さんの対談が載っていたのですが、能楽の修行では10年間は質問してはならないというエピソードが紹介されていました。日常のなかで何かわからないことがあると検索して終わりにしてしまうので、だんだんと考えなくなっていく。師匠と弟子の関係においても、自分で考えて見つける力が重要だからこそ、質問に答えない。質問が大切だ、と学校で言われる中で、あえて質問をせずに考える時間をつくること、10年間も問うてはならないという関係性のなかにも、問わずして問うことの深みが存在する気がします。

安斎:問うほど成熟していない関係性というのもあり得ます。関係性が浅い状態で、「この会議、必要ですか?」と問い直すと相手をイラッとさせてしまう。その際に、問わずして問うアプローチは技のひとつとして有効な気がしますね。

塩瀬:立場上、言うと怒られるケースはありますよね。ちゃぶ台返しができるのは、「よそ者」「若者」「馬鹿者」の3種類とよく言われますが、それらは空気を読めない人だと思うんです。ただ、いつでもちゃぶ台をひっくり返していいわけではありません。最大の問題点に参加メンバーが気づいた瞬間が、ちゃぶ台をひっくり返す絶好のタイミングです。毎回のように天邪鬼思考で本質を問い直すのではなく、タイミングを理解することが大事ですよね。空気を読んだ上であえて読まない瞬間を見出す。

安斎:そうですね。いま問い直しても動かないだろうと考えたうえで、問うのを我慢することも必要です。『問いのデザイン』でも問題の本質を探り、本当に取り組むべき課題を定義するために「天邪鬼思考」の重要性を書きましたが、課題をリフレーミングすると「空気が読めない」とされるケースもあります。

あるカーアクセサリーメーカーが直面している「AI時代にカーナビが生き残るには?」という課題に対して、「AIを駆使した未来のカーナビの機能とは?」と問うのではなく、「未来の“移動の時間”はどんな過ごし方になるか?」とリフレーミングすることが有効だということを本には書きました。

しかし、そう思ったとしても、カーナビのワークショップをやるべきケースもあると思うんです。いきなりリフレーミングするのではなく、一緒に問い直せる場をつくっていくことで、リフレーミングを共同で行なう。それはファシリテーターが問わずして一緒に問うやり方のひとつかな、と思います。

塩瀬:普段から天邪鬼思考であることを示しておくのも一種の手かなと思っています。一緒にカフェに行ったときに、みんなのオススメではなく違うものを頼む様子を見せることで、「この人は天邪鬼な人だ」と示すとか……ついバラしてしまいましたが(笑)。

違和感を用意して待つことで、問いが湧き上がる

安斎:以前、ワークショップで参加者に対して「待つ」ことで問わずして問うアプローチを実践したことを思い出しました。あるワークショップが13時スタートだったのですが、その15分前に部屋を開けた際にちょっと変わった椅子の配置にしたんです。椅子をあちこち変な方向に置き、着いた人たちに何の案内もせず、そのうえ13時15分まで開始の挨拶をしなかった。すると、参加者は何かを察して、思い思いのところに座ったり、地べたに座ったりして……暗黙のうちに何かの実験なんだという合意のもとで振る舞っていたんです。

人間には問われたがっている側面があると思うんです。わからないことや違和感にぶち当たると、それを解消しようとして人は「問われるモード」になると思っていて、ワークショップではそんな状況が生まれていたんですよね。

──待つことで参加者の解釈を促し、新たな振る舞いが生じたわけですね。

安斎:もうひとつ事例を紹介させてください。ある地方の教育関係者が集まる場で「どうすれば生徒の主体性を引き出せるのか」をテーマに講演してほしいと言われて、話をしたんです。でも、わたしの講演を聞くこと自体が主体的な行為ではないと思ってしまったんですよね。

ただ、それを直接問い直すと角が立つと思ったので、アイスブレイクで「あなたは主体的ですか?具体的なエピソードについて話してください。時間は5時間で」と伝えて、ぼくは目を閉じて待っていたんです(笑)。

すると、思いのほか参加者同士のトークが盛り上がったのですが、45分くらい経ったときに恐る恐るツッコミをいれてくれて……東京からわざわざ来た講師がアイスブレイクで問いかけて5時間も放置するって違和感しかないですよね。

違和感だけ用意して待ってみると、自ずと問いが湧き上がってくる。それも問わずして問うファシリテーションの技術なのかな、と思いました。

──その場で生まれる創発を信じて待つ、あるいは委ねるところに、問わずして問うことの可能性が存在しそうです。ワークショップの設計にも活かせそうだと感じました。

「問わずして問う」身体を取り戻すために

──問いを発する人工物、問うための関係性、そして違和感を準備して待つこと……おふたりの話からは、問わずして問うためのさまざまな技が見えてきた気がします。素朴思考にも近いような問いかけかもしれませんが、そもそも問わずして問うことってなぜ重要だと思いますか?

塩瀬:いくつかの観点から話をしましたが、そもそも子どものときは問わずして問うことが当たり前だったと思うんです。一挙手一投足のすべてが問うているのと同じで、質問形式になっていようがいまいが、すべてが何かに違和感を覚え、何かを発見するきっかけになる。自分のなかにある違和感を、自然にどんなかたちでもいいから吐き出していたはずなのに、大人になるにつれて何か枠にはめられた質問という形式しか許されなくなり、問うことを止めてしまった。子供の頃に戻るような感覚で、問わなくても問えることを、みんな思い出そうよって。

安斎:ファシリテーションというものに魅力や可能性、そして手応えを感じながらも、その限界に対して無力感を覚えることがあります。たとえば、数万人の会社のなかでたった20人に対してワークショップをやったとしても影響力がないよな、とか。

ほかにもまちづくりのために2年間かけてワークショップを7回やったとしても、それが終わった後にもその街は続いていくわけで……一回一回のワークショップで投げかける問いの力は強力だとしても、すごく儚い。

課題解決や価値を生み出すことにチャレンジするには、ファシリテーターが問わずとも問いが浮かび上がってしまう身体や組織になる必要がある。それこそ塩瀬さんが言っているように、自然と問うていた状態に戻ろうよって。

塩瀬:そうですね。たった数日間で、たった数人を相手にするだけで何かを変えようと思うことがおこがましいと感じます。安斎さんのように、わたしも「問いそのもの」がずっと残るといいなと思うようになりましたね。

安斎:哲学者であり教育学者のジョン・デューイは『経験と教育』のなかで、学習者の「探求」や「表現」の原動力は本能的な欲望に近い「衝動」だと言っているんです。それに蓋をされている状態は不健全であり、古い習慣から逸脱するには探求が重要なんです。だからこそ、自分が殻を破って新しいものの見方を獲得していくプロセスにおいて、問うことは密接に関係してくる。

私がCEOを務めるミミクリデザイン(現・MIMIGURI)に相談をしてくださる企業の方は違和感や閉塞感を覚えているものの、何が課題なのかを上手く問えていないんです。ただ、問いの衝動はすぐ近くまで来ている。そんな「問えていない状況」に対して、ファシリテーターがいなくとも「問わずして問う」身体を取り戻すことは、人間が本来の創造的な姿に戻ることだと思うんですよね。

*1 アフォーダンス:アメリカの心理学者J・J・ギブソンが提唱した概念。「与える・提供する」を意味する「アフォード(afford)」 から生まれた造語。環境が人間や動物に対して与える意味ののこと。


CULTIBASE Labは、動画や音声配信、イベントの実施など豊富なコンテンツの提供を行なう一方で、それらの情報をただ受動的に受け取るだけでなく、会員さん自身が主体的に思考し、新たな知識を生み出し、アウトプットしていけるような学習環境の構築を目指しています。興味のある方は、まずは下記リンクより詳細をご確認ください。
https://cultibase.jp/lab/

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執筆:斎藤公也
編集:岡田弘太郎

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