人材の流動化が加速する現代。「人」と「組織」にまつわる課題や悩みも、いっそう多様化しています。そんな今だからこそ、今までのキャリア観をアップデートし、新たな組織づくりを模索したいと考えている人も多いのではないでしょうか。
本記事では、2025年4月16日に開催されたイベント『「信頼」でつながる組織のつくりかた──人材流動化時代に「冒険する組織」が描く新たな関係』の一部を紹介します。
以前から「ぜひ対談を」との声が多く寄せれらていたエール株式会社取締役の篠田 真貴子さんと『冒険する組織のつくりかた』著者・安斎との対話を通じて、これからの時代に必要な個人と組織の関係性のあり方を探ります。
前編では、安斎による話題提供とそれに対する篠田さんのコメントに端を発したディスカッションの様子をお届けします。
■登壇者プロフィール

安斎 勇樹
株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO
東京大学大学院 情報学環 客員研究員
1985年生まれ。東京都出身。私立武蔵高校、東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO/東京大学大学院 情報学環 客員研究員。
企業経営と研究活動を往復しながら、人と組織の可能性を活かした新しい経営・マネジメント論を探究している。主な著書に『問いのデザイン』、『問いかけの作法』、『パラドックス思考』、『リサーチ・ドリブン・イノベーション』、『ワークショップデザイン論』『チームレジリエンス』などがある。

篠田 真貴子
エール株式会社取締役
社外人材によるオンライン1on1を通じて、企業の組織改革を支援。2020年3月のエール参画以前は、日本長期信用銀行、マッキンゼー、ノバルティス、ネスレを経て、2008〜18年ほぼ日取締役CFO。慶應義塾大学経済学部卒、米ペンシルバニア大ウォートン校MBA、ジョンズ・ホプキンス大国際関係論修士。人と組織の関係や女性活躍に関心を寄せ続けている。『LISTEN――知性豊かで 創造力がある人になれる』監訳。『まず、ちゃんと聴く。』巻頭言
▼書籍の詳細はこちら

冒険する組織のつくりかた──「軍事的世界観」を抜け出す5つの思考法【読者が選ぶビジネス書グランプリ2026「マネジメント部門」受賞作!】
キャリア観の中心は「仕事」から「人生」へ
まずは安斎による書籍『冒険する組織のつくりかた「軍事的世界観」を抜け出す5つの思考法』の概要の紹介から。安斎は本書をこれまでのキャリアの「集大成」と表現したうえで、「組織づくり」に関する書籍を執筆することになった背景や問題意識を次のように語りました。
安斎 私は元々学習論の研究者で、ワークショップの現場を通じて、人が学んだり、普段は見せないような創造的な行動をとったりするプロセスを研究してきました。それらの活動をするうちに、やがて企業からの依頼も増え、組織の現場に関わるようになると、“三人寄れば文殊の知恵”どころか、人数が増えるほど誰も発言しなくなるような状況を頻繁に目にしました。なぜそうなるのかと考え、試行錯誤し続けたのち、2020年から2021年にかけてその成果を『問いのデザイン』『問いかけの作法』という二冊の本にまとめました。
ワークショップをしっかり設計し、問いの工夫をする。その結果、今までにないアイデアが生まれたり、対話が深まったりする──その手応えは確かに感じてきました。しかし、ワークショップのような非日常的な場の中では創造的に振る舞えていたのに、日常に戻ればまた意味を感じにくい目標を追わざるを得ない。そう考えたときに、「組織づくり」の本を書かなければならないと思い立ちました。その際、今まで取り組んできた「問い」──すなわち「クエスチョン」を「クエスト」と言葉遊びのように言い換えて、「冒険」というキーワードを掲げました。
僕はどちらかというと会社や組織が嫌いだったタイプでしたが、今回組織づくりの本を書くにあたって、「今まで何にそんなにモヤモヤしているのだろう」と、今までの人生を振り返ってみたんです。その結果、もっとも強い問題意識として思い至ったのが、書籍のサブタイトルにもある「軍事的世界観」に象徴される、人を道具のように扱う組織のパラダイムでした。
僕は学習論の研究者としてキャリアをスタートし、その後MIMIGURIという会社を立ち上げました。そのなかで経営の教科書なども読むようになったのですが、学習論の話であれば自然と理解できるのに、経営学の理論はなぜかまったく頭に入ってこない。なぜだろうと考えているうちに、経営や組織論の多くが、戦争のメタファーを前提に発展してきた「軍事的」な世界観に立脚していることに気がついたんです。「戦略」や「戦術」という言葉が嫌いなわけではありません。私自身使うこともよくあります。ただ、一方で学習論の人間としてその捉え方にモヤモヤしている自分もいたんですね。

安斎 こんな話は、長年経営学を研究されてきた方が聞いたら「何を当たり前のことを言っているんだ」と思うかもしれません。ただ、同じ話をたとえばZ世代の若い方に話すと「え、怖、キモ...」といった反応が返ってくることもあります(笑)。それぐらい価値観が大きく変わってきている。もちろん、これまでビジネスやマーケティングノウハウが軍事的世界観を中心に発展してきたことは、経済成長という目的に対して重要なフェーズだったことは間違いありませんし、それを否定しているわけではありません。ただ、そういう時代を経て、今どのような変化が起こっているのかを捉えることが大切なのではないかと考えています。

安斎 そのなかでまず大きく変わっているものが、働き方や仕事における「キャリア観」です。
一昔前までは、ひとつの会社で出世し給料を上げながら退職まで勤め上げて、家族を養っていくような、いわば「会社中心のキャリア観」が主流でしたよね。しかしながら、今はそのように考えている人はものすごく減っている。人生100年時代、定年までも長いですし、長く働いても給料がどんどん上がるわけではない。兼業、復業、リモートワークなど、働き方にも選択肢がたくさんあります。つまり、会社を100年続く不確実な人生の中にある構成要素のひとつとして捉える、「人生中心のキャリア観」へとシフトしつつあります。

安斎 組織を取り巻く変化はそれだけではありません。軍事的な世界観では、ビジネスやマーケティングは基本的に領土の奪い合いです。しかし、資源の有限性が叫ばれる昨今においては、多様なステークホルダーと協力しながら社会の新たな可能性を探究しなければ、行き詰まってしまうようにも思えます。
そうした中で、「勝つための組織づくり」ではなく「新たな可能性を探り続ける組織づくり」を実践しようと思うと、「私は何のために働くのか」や「この組織を経営する目的は何か?」といった仕事の意味を問い直し続けることが大切になリます。

安斎 ただ、それは決して楽なことではありません。特に不確実性が高まるこれからの社会では、中期計画を立てても毎年見直しが必要になりますし、経営者自身も、自社を社会の中でどのように位置づけるのかを悩み続けなければなりません。同時に、組織で働く一人ひとりもまた、人生100年時代をもがきながら進んでいます。
そうした経営と個人双方のレベルの探究をうまく響き合わせ、両立させていく。マネジメントや組織づくりの定義をアップデートしていかなければ、これからの時代では機能しないのではないか──そうした問題意識をまとめたのがこの本です。

冒険する組織のつくりかた 「軍事的世界観」を抜け出す5つの思考法
「冒険的世界観」につながる「個人」「組織のOS」「時間」の視点
それを受け、次のパートでは篠田さんがマイクをとり、『冒険する組織のつくりかた』を読んだ感想を語りました。
篠田 今回、書籍の推薦文を寄せさせていただいたのですが、「人的資本経営ってこういうことなのかも」という素朴なつぶやきを採用いただきました。
2年ほど前から上場企業は「人的資本経営」、つまり「資産」である会社のメンバーをどのように活用しているかを有価証券報告書に必ず記載し、世の中にしっかり示すことが求められるようになりました。また任意ではありますが、多くの企業が会社の様子がわかる書類「統合報告書」にそういった内容を詳しく示すようになりました。
それを見て逆に「人的資本経営=開示を書くこと」といった誤解が流布している気もするのですが、その本質は、経営者から見たら大切な経営資源である「人」が最大限に力を発揮することなしに、会社の価値は上がっていかないという点にあります。

篠田 ある計算方法では、欧米の会社の企業価値は、人などの無形資産が作り出す──つまり財務諸表には記載されない価値が、アメリカの平均だと約9割を占めています。しかし日本企業だと、無形資産の割合は平均で3割ぐらい。まだまだ価値が発揮されていないんです。
そうした中で、安斎さんの『冒険する組織のつくりかた』は、まさに働く私たち一人ひとりが組織の中でより伸びやかに力を発揮することが会社全体の事業改善にもつながるということをつぶさに書いてくださっている本だなと思ったので、推薦文でもそのような感想を寄せました。
本書を拝読し、どのページを開いてもそのパートについて話せると思うくらい、安斎さんが書かれた一言一言に共感したり、考えさせられたり、感銘を受けたりしていたのですが、そのなかから「個人」「組織のOS」「時間」の3つについてお話ししようと思います。
まずは個人、「人」について。この本を通してずっと登場しているのが、いかに“生身”のその人がチームや組織に繋がっていくか。それをその人の個性ではなく、どうやって仕組みでつくるのか。そんな問いが繰り返し投げかけられていたと感じています。
特に私が関心を寄せる「聴く」と繋げて考えて何かを言うとするなら、それは「無意識に『聴いてもらえている』と感じて初めて人は話す」ということです。
前職を辞めて1年ほど、特に決まった仕事もせずに過ごしていた時期がありました。その頃、食事に誘ってくれた知人に「これからどうするの?」と聞かれ、自分でも考えながら話していると、相手の方もとても一生懸命に耳を傾けてくださるんです。また、そうするうちに、相手の方が、私は何の質問もしていないのに、今まで聞いたことがなかった人生の大事な岐路の話をしてくれたりするんですよね。

篠田 それが一度や二度ではなかったので、理由を考えてみた事がありました。おそらく、その時の私が誰とも利害関係がないような立ち位置だったことや、私自身が人生のターニングポイントにいるように受け取られたことが大きかったのだと思います。そんな私を見て相手も無意識のうちに、「今の篠田さんだったら聞いてくれるかも」と感じたのでしょう。人ってそういうものなのではないでしょうか。
そして2つ目が「組織のOS」というキーワードです。本のなかであの言葉に触れた瞬間、会ったことがない安斎さんと心のなかでハグをしてしまいました(笑)。私自身もまさに同様の表現を使っているのですが、人は機械ではないのだから、アプリケーションをインストールしたら変わるわけではないのだとよく思っていました。
人的資本経営を目指すのであれば、「OSを変える」ことは不可欠である──私の考えと同じことを安斎さんもお話されていて、本当にその通りだと思っていました。
本でも触れられているとおり、組織は「システム」なんですよね。たくさんの要素がお互いに関係し合っていますし、なにかひとつだけを変えても他の要素が伴っていなければすぐに戻ってしまいます。また、予想と違うものが出てくるものでもあります。
そのため、システムを扱うときは「絶対にすべては見きれないもの」であることを理解することが大切だと思います。どういった要素があるかを理解したり、反応をみながら少しずつ調整していく。そうでなければ変化をつくることはできない。そんなふうな私の考えと通底するものを感じて、楽しいなと思いながら拝読しました。

最後に挙がったのが「時間」について。篠田さんは「まだまだ私の仮説ではあるのですが、この機会に皆さんに投げかけてみたい」と前置きし、次のように語りました。
篠田 時間の流れ方を場や状況、あるいは組織によってコントロールすることも、「探究」においてはとても重要なのではないかと思っています。
「話を聴くこと」をコンセプトとしたサービスを提供するエールで働いていることもあり、日常の仕事に「聴く」を取り入れていきたいと考えている方々とお話をする機会がよくあります。そのときに高確率で言われるのが「『聴く』が大事なのはわかるのですが、忙しいからできない」という言葉です。
その問いに対して私は、「お忙しいですよね。でも30分ずっと聴かなくても、冒頭の3分だけ、耳を傾けるだけでも変わると思いますよ」と答えたりします。でも、本当はその枠組みは見せかけなのではないかとも思っているんです。
忙しさを理由に人の話を十分に聴かないことが、判断ミスやコミュニケーションの行き違いを生み、結果として新たなトラブルを招いてしまう。さらに、そのトラブルを解消するための仕事が増えることで、ますます忙しくなっていく──そんな悪循環が起きているのではないかと感じたんです。
特に人はトラブルを解決する場面ではアドレナリンが出ますよね。トラブルの解決は明確がゴールがあるから、“仕事をした”という感覚を持ちやすい。だからこそ、そのサイクルから抜け出しにくい構造もあるのだと思います。
この書籍がいう「軍事的世界観」の組織にいる人たちにとっては、「冒険的世界観」の対話を中心とした組織は、達成感がないからまどろっこしくて仕方がないと感じるかもしれません。頭の片隅で常に売上に繋がるのかが気になってしまうせいで、全部が時間の無駄に思えてきてしまう。そして、それが行き過ぎると、無意識のうちにトラブルとその解決のサイクルを自ら好んで回すようになってしまう。書籍のなかでわかりやすく明示されているわけではないけれども、そうした多くの組織が軍事的世界観から抜けにくくなっている根っこには、そのような「時間管理」の問題があるのではないか、という問いにたどり着きました。
組織における「時間」が持つ意義と重要性
篠田さんの感想をふまえ、安斎が特に関心を寄せたのが、最後に語られた「時間」について。そのトピックを起点に、ふたりは議論を深めていきました。
安斎 時間の問題は本当に大きいと思いますね。この本を出版してからさまざまなフィードバックをいただくのですが、その中でたとえば「3ヶ月単位でPDCAを回さなければならない」「株主への説明責任を果たす中でどう実践すればいいのか」など、短期的で具体的な課題に意識が向いてしまうという声も多くありました。その結果、篠田さんがお話されていた「人的資本」、つまり目に見えない無形資産に対するまなざしのようなものが、奪われてしまっているのではないかと感じました。
篠田 約20年前に、ノバルティスというスイスの製薬会社に在籍していたのですが、所属していた事業部が丸ごとネスレに売却され、それに伴って私も移籍することになりました。業態は違うにしても同じスイスに本社を置くグローバル企業ですし、それほど大きな差はないだろうと思っていたのですが、実際には驚くほど違っていた。それがとても面白かったんです。

篠田 その違いのひとつがまさに「時間」に対する考え方でした。ノバルティスはスイスの企業ですが、ニューヨーク証券取引所に上場しており、四半期開示が求められます。決算もできる限り早く発表する必要があり、12月決算の場合、1月中旬には発表するという非常に速いペースで、ノバルティはそういったスピード感の企業だったんですね。
一方でネスレはあれだけ圧倒的な食品会社でありながら、そもそもニューヨーク市場に上場しておらず、スイスのチューリッヒ市場のみの上場でした。そして当時のチューリッヒ市場は半年ごとの開示で、第一・第三四半期については売上の報告だけでよく、基本的には「大きな変化があれば報告してください」という程度のルールだったんです。
そうなると、組織のなかの時間の流れ方も変わるんですよね。それまでのノバルティスでの慌ただしい時間感覚に慣れていた私からすると、正直そのゆっくりした時間の流れに戸惑うことも多くありました。
ただ、次第にその理由も理解できるようになりました。ネスレのような食品事業は世界中で展開されていますが、人は生きている限り食べ続けます。つまり、極めて長い時間軸で成り立つビジネスなんです。ネスレはひとつのブランドを何十年、場合によっては100年以上かけて育て続けています。すでに確固たる地位を築いているからこそ、短期的な成果を求めるニューヨーク市場に無理に合わせる必要がない。自分たちの事業にとって最適な時間軸を守っているのだと気がつきました。それほど、「時間」の使い方は経営にとって本質的に重要なのではないかと思います。
安斎 そうかもしれないですね。僕はサラリーマンの経験はなく、30歳ぐらいまでずっと大学で研究者をしていたので、その感覚はよくわかります。未だに大学の門をくぐると時間の流れが一気にゆっくりになるんですよね。
アカデミックな環境においては、一本の論文の執筆に2年以上の年月をかけることも珍しくありません。そしてその中には、「3ヶ月単位で書いて」と言われていたら絶対に出てこないような成果もあります。つまり、「時間」を緩めることによって生まれるアウトプットもあるということですね。僕はそれをどうにかして資本主義に搭載できないかと考えていて、それが反映された結果、『冒険する組織のつくりかた』には、「冒険」と同じくらい「探究」という言葉が登場します。
また本では少ししか触れることができなかったのですが、MIMIGURIの重要な工夫のひとつに、自分たちのカレンダーをどのようにデザインするか、つまり「カレンダーデザイン」があります。
篠田 「カレンダーデザイン」とはどういう意味ですか?
安斎 簡単に言えば、定例会議の日程や頻度などを全体を俯瞰して設計することです。たとえばチームの中で「1on1はこの曜日に集中させる」というようにルールを決めておくと、チームメンバーが多く関わるプロジェクトの定例会議と1on1がバッティングしづらくなり、日程調整がスムーズになります。MIMIGURIでは、そういった会議の枠組みの設計が組織デザインと密接に関係しているという価値観があります。また、部屋のレイアウト同様、そうはいっても時間が立つと自然と乱れてきてしまうので、半年に一度、業務カレンダーを見直してチームで話し合いながら再設計することが推奨されています。
そしてその一環から、経営チームでは驚くほど先まで対話の時間があらかじめスケジューリングされています。四半期に一度、3日間にわたって完全にブロックされている期間があり、アジェンダよりも先に「ここで対話するように」と決まっているわけです。もちろんその間通常の業務はほぼできませんから、普段の生産性を最大限あげなければなりません。ある意味、働く時間とじっくり対話する時間のメリハリをつけるための仕組みだとも言えます。
篠田 それは効果がありそうですね。「カレンダーデザイン」という文化は、どこから生まれたものなのでしょうか。
安斎 MIMIGURIのもう一人の共同代表であるミナベトモミが、組織デザインの専門家であり、コンサルタントだったんです。その中で、うまくいっていない企業の多くがカレンダーがぐちゃぐちゃだということに気がついたんだと思います。カレンダーデザインは元々彼のこだわりに依るところが大きかったのですが、実際、その日のチーム全体で行われているミーティングや1on1の粒度が揃っている方が、生産性が何倍も上がる感覚がありますね。
篠田 たしかに新しいプロジェクトを始めるにあたって、参加メンバーが決まったなら次はミーティングの頻度ですよね。定例会議が週一回なのか週二回なのかでは、プロジェクトのスピード感もまったく違いますし...。
安斎 イベントが始まる前、篠田さんに「毎年本を書いていてすごいね」と言っていただきましたが、それも僕なりの工夫のひとつで。

安斎 たとえば僕の場合は、毎週火曜に会議を集中させているのでアドレナリンを出して次々とミーティングに参加するのですが、水曜日は何も予定が入らないようにしています。そういった日は、大学にいた頃のように自分の研究活動にじっくり向き合ったりしていて、そのような時間間隔のモードを使い分けが、個人としても組織としても「冒険」する文化を支えているのかもしれません。
篠田 私が「組織の時間」について考えるようになったのは、組織論の若手研究者の方にいろいろ教えてもらったことがきっかけでした。
組織論の用語に「官僚組織」という概念があり、多くの企業はその官僚組織の型を採用しています。官僚組織では「現在は未来のためにある」という考え方のもと、過去に起きた出来事を振り返って、うまくいったこととそうでなかったことを峻別し、成果が出たことを再現できるように現在を見つめる姿勢が重要とされています。当たり前のことを話しているかのように思われるかもしれませんが、その時お話した経営学者の方から、「ただし、それは近代から現代の組織における、あるひとつの『型』でしかない」と言われたとき、「たしかにな」と思ったんです。
私が過去に経験した職場では、いつもではないにせよ、場面によってはその「型」に当てはまらない意思決定をする場面が確かにありました。そしてその場面では、「今どう感じているか」や「今どうなんだ」という観点が重視されていたんですよね。その対比について考えさせられたことがきっかけで、私にとって組織や社会の時間間隔は、うっすらと探究テーマのひとつになっています。
(後編へ続く)
イベントのアーカイブ動画の視聴はこちら ※2026年6月3日までの期間限定公開



