「というか、そんなヒマがない」すべての人へ|おとな創造性Q&A 第5回
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「というか、そんなヒマがない」すべての人へ|おとな創造性Q&A 第5回

MIMIGURI安斎勇樹さんと、創造性研究の第一人者でMIMIGURIシニアリサーチフェローに就任した岡田猛さんの対談シリーズ「おとな創造性Q&A」。創造性をめぐるさまざまな「お悩み」を起点にしながら、ビジネス×アカデミアの知見をお二人にぶつけていただきます。第5回のテーマは「余裕と創造性」。

【今回のお悩み】

時間に追われていて、腰を据えて考える余裕がありません。忙しい人でも創造的になれる方法はありますか?

岡田猛(以下、岡田):以前、「身体を鍛えたい!」と思ってジムの会員になったことがありました。ですが、ちょっと忙しかったりするとやっぱり行けなくなって、結局、何カ月も会費だけを払い続ける状態になったことがあります。

で、いまはどうしているかというと、日常生活のなかで身体を鍛えるようにしています。たとえば、電車で移動するときには駅のエスカレーターとかエレベーターをなるべく使わないで、階段を昇り降りする。あるいは、目的地の1駅手前で降りて、1駅分を歩いてみる。

創造性についても、これと同じようなことが言えるんじゃないかと思います。ふだん出かけるときに、ちょっとだけ回り道をしていつもとは違うルートを通ってみるとか、いつもとは違う人に話を聞きに行ってみるとか。「日常」と「創造」が別々にあるのではなく、日常生活そのものを創造的にできないかという発想ですね。

「創造性をどうやって生活のなかに組み込んでいくか?」という考え方ができれば、時間に追われている人でも、いろいろとパースペクティブ(視点)が広がる余地はつくれるかなと思います。

安斎勇樹(以下、安斎):ぼくもまさに時間に追われまくって悩んでいるので、この方の気持ちはよくわかります。

一方で、まず確認しておきたいのが、机に向かって「よーし、考えるぞ〜」と集中しているときにアイデアが浮かぶのかといったら、必ずしもそうじゃないということですね。むしろ、昔からよく言われるように、シャワー浴びているときなんかのほうがアイデアって思いつきやすい。ぼく自身も、何かほかの仕事に追われている時間とか、ぐーっと集中した状態から離れたときに、ふと思いつくことがあります。

それを踏まえるなら、大事なのは「どうやって時間を確保するか?」ではなく、「どうすればふとしたスキマ時間に思いつきやすい身体になれるか?」ではないかと思いますね。どんなに忙しくても、力尽きるタイミング・休憩するタイミングはあるはずですから。

そこで心がけているのが、気長に考えていきたい「良質な問い」をたくさん持っておく習慣です。これはぼくの多動傾向とも関わってくるのですが、ぼくは1冊の本のことだけを考えるのってあんまり得意じゃなくて、つねに複数の書きたいテーマが頭の中にある。

たとえば、いまだったら「いつか『問いのデザイン』の続編として、『場のデザイン』っていう本を書きたいな」と思っているので、つねに世の中を「場のデザイン」というフィルタで見てしまうようになっているんです。だから今日も、この場にやってきたときに「対談取材用にこうやって机と椅子をレイアウトするのか。これって場づくりのためのヒントになるかも……」って瞬時に思っている。

こんなふうに、なんらかの「良質な問い」が自分の中にあることで、ある種のカラーバス効果(特定の物事を意識し始めると、それに関連する情報が自然と多く目に留まるようになる心理現象)が作用して、ふとしたときに着想が湧きやすくなる「体質」になっていくんです。あいにく今日も一日中ぎっちり予定が詰まっているので、逆にこういうフィルターがないと、忙しいなかで何かを思いつくことはなくなるでしょうね。

岡田:安斎さんのように忙しい人にとっては、ものすごく納得感のあるお話なんだろうなと思って聞いていました。他方で、一般論としていえば、やはり人が創造性を発揮するうえでは「余白」の時間が必要だと言われていますね。

実際に、私も定年になってよかったなと思うのは、日中に教授会も委員会も入試もないってことですね(笑)。授業はまだいくつかやっていますが、やっぱりこれまでと比べると、3〜4割くらいの空き時間が手に入った感覚があるんですよ。

こうやって心の余裕ができてくると、「じゃあ、久しぶりにデューイの本でも読み直してみようか!」という気持ちになる。で、実際に読んでみると、これがめちゃくちゃおもしろいんです。最近は今さらながらデューイにすっかりハマっていて、「この人、90年も前にこんなすごいことを言っていたのか!」みたいな日々を送っています。

安斎:うらやましい!

岡田:他方で、創造性研究における「余白」というのは、「ただ時間がある」というだけの話ではありません。とくに重要だと言われているのが「インキュベーション(Incubation)」、つまり、じっくり考えたあとに放っておく「孵化」の時間ですね。

安斎:多くの人は「考えるための余白」を求めがちだけど、むしろ創造性を発揮するには、考えたあとに「ほったらかしにしておく余白」が必要なんですね。これ、実感としてもよくわかります。

最近、とくに効果を感じているのが「プール」です。ぼくは泳げないので、小学校とかの「水泳」の時間がめちゃくちゃ苦手でした。いまでも学校のプールを見るだけで、思いっきり嫌な気持ちになれる自信があります。それにもかかわらず、じつはいま、近所の区民プールに通っていまして……。

岡田:へえ、そんなに嫌いなプールにあえて行ってみようと思ったのは、どうしてなんですか? 何が安斎さんをそうさせたんでしょう?

安斎:ふつうに効率的にカロリー消費できるとかもあるんですが、40代になって羞恥心とかがなくなってきたんでしょうかね。

でも、なんかうれしいんですよ、人生の中でいちばん恨んでいた「プール」に今の自分が向き合えているって感覚が。「まさかあのぼくが40代になってからプールに行くようになるとは……」みたいに俯瞰して、一人で愉快になっています。

岡田:すごくいいですね! 私も夏ぐらいから水泳を始めたんですよ。身体を動かしながら、頭をからっぽにする時間があるとやっぱりいいですよね。

安斎:もちろん、ぼくの場合はプールで泳ぐわけではなく、水泳帽を被ってひたすらウォーキングで往復するだけです。背泳ぎのお年寄りとかにガンガン追い抜かれていくなかで、物理的にスマホとかも使えない環境に身を置いていると、それこそふだんは出てこないような考えやアイデアがいろいろ湧いてきます。

プールを歩いているあいだは、「本の著者として◯万部を目指すぞ!」とか「経営者として売上を伸ばす!」みたいな資本主義社会のスコア競争から切り離されて、「何者でもなく何もできない自分」になれる。インキュベーションの時間というより、瞑想とかリハビリテーションの時間に近い気もしますが、とにかく週に2〜3回はプールに出かけているんです。

創造的な余白になるのはもちろんですが、健康にもいいしリフレッシュできるので、プールはおすすめです。いずれにせよ、そういう生活デザインを組み込むことが大事なんじゃないかと思いますね。

(第6回に続く)
聞き手・編集:藤田悠

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