優れたリーダーが行う「5つの実践」とはなにか?わかりやすい行動リストの利点とその落とし穴:連載「リーダーシップ教育の最前線」 第7回
優れたリーダーが行う「5つの実践」とはなにか?わかりやすい行動リストの利点とその落とし穴:連載「リーダーシップ教育の最前線」 第7回

優れたリーダーが行う「5つの実践」とはなにか?わかりやすい行動リストの利点とその落とし穴:連載「リーダーシップ教育の最前線」 第7回

2022.04.14/8

こんにちは、舘野泰一です。私は立教大学経営学部の准教授として、若年層を対象にしたリーダーシップ教育に関する研究・実践をしています。

本連載では「リーダーシップ教育の最前線」として、リーダーシップ教育の背景となる理論や、実践の手法について紹介します。
これまでの記事では、

第1回 新しいリーダーシップの考え方について知る
第2回 リーダーシップ教育の実践の概要について知る
第3回 学習者にとってちょうど良い「課題」を設計するための勘所
第4回 リーダーシップを育むための「より振り返り」とは?
第5回 「つい、リーダーシップを学んでしまう」環境をどうデザインするか?
第6回 「矛盾」を力に変える。新しい時代のリーダーシップとは?

について取り扱ってきました。

直近更新した第5・6回では「プレイフルなリーダーシップ論」として、現在まさに検討している試論的な内容を更新してきました。

第7回となる今回の記事では、少しリーダーシップ教育の基本に戻ります。具体的には「優れたリーダーがおこなっている行動とはどのようなものか?」を紹介しながら、「自分軸」を持つことの重要性について述べていきます。

今回のコラムでは、リーダーシップの知見を紹介するとともに、私がリーダーシップ教育の実践をおこなっている問題意識をもとに、これからのリーダーシップ教育のポイントについて探ります。

リーダーシップに関するテキストの王道とは?

優れたリーダーの行動については、書籍『リーダーシップ・チャレンジ』に登場する「5つの実践・10の原則」が非常に参考になります。この内容は、世界的な大規模調査をもとに、優れたリーダーがおこなう行動についてまとめたものです。

書籍の紹介として「世界で最も信頼され、最も読まれているリーダーシップテキストの最高峰」と書かれていますが、それは伊達ではありません。調査に基づいた内容でありながら、具体的な実践事例をイメージしやすく書かれているので、リーダーシップについて学ぶ際の参考書籍として支持されるのもわかります。

立教大学のリーダーシップ教育の授業も、この「5つの実践」をカスタマイズして実践をおこなっています。優れたリーダーがおこなっている行動リストのようなものがあると、「テキストを読んだ学習者が実際に真似をしてみることができる」「授業をおこなうときに教育目標として設定しやすい」というメリットがあります。

「リーダーシップを発揮しよう!」と言われても、「具体的に何をするのがリーダーシップなんだろう?」という疑問が湧くのは当然です。こうした疑問についてわかりやすく答えているのが本書の特徴といえます。

優れたリーダーがおこなう「5つの実践」

では、具体的にどのような行動が模範的なリーダーシップ行動なのでしょうか。『リーダーシップ・チャレンジ』に登場する「5つの実践と10の原則」を図表にまとめてみました。

「5つの実践と10の原則」を一言でシンプルに表現するとすれば、「自分が模範となって、ビジョンを描き共有する。自発的に挑戦し、信頼によって周りを巻き込み、成長させ、メンバーの貢献を認めることで成果を挙げる」といったイメージでしょうか。

こうしてまとまっていると、抽象と具体のバランスも程よく、具体的に自分がリーダーとして行動するイメージが湧いてきます。「他者の模範となる行動ができているかな?」「ビジョンを語れているかな?」など、自分の行動を振り返る際のチェックリストとしても機能するでしょう。

書籍の中では、実際の企業の事例をもとに、それぞれの行動が紹介されているので、よりイメージが湧きやすいようになっています。もちろん、リーダーシップについて語るときに、他に必要な要素はあるかもしれません。しかし、最初の一歩として十分に機能する内容となっています。

ではこれらを使ってリーダーシップ教育をおこなう際にどのようなことを、気をつけるとよいのでしょうか。

次節からは、私が立教大学経営学部のBLP(ビジネス・リーダーシップ・プログラム)でリーダーシップ教育を行う中で、いままさに同僚の教員のみなさん(宇田武文 客員准教授・田中聡 助教)と議論している内容の一部を紹介します。

「自分軸」に裏打ちされたリーダーシップ行動を目指す

さきほど示した通り、学習者に対して「こういうリーダーシップ行動をしましょう!」と行動のリストを提示することは、とてもわかりやすいという利点があります。

例えば、「率先して行動して、他者の模範になることが大切です。具体的には、授業でわからないことがあったときに、だれかが最初に質問することで、他の人が質問しやすくなりますよね。こういう行動を意識して、授業にのぞみましょう」といったことが伝えられます。

一方で、行動のリストがシンプルになり、わかりやすさを重視していくと、ともすると「授業中に手を挙げることが大切」というように、具体的でわかりやすい行動の奨励のようになってきます。もちろん、これも最初の一歩としては悪くありません。

しかし、これだけをしていると、「そもそも自分はどのようなリーダーとして、どのようにチームに関わりたいのか?」といった「自分軸」の探究が疎かになる部分があります。

なぜ「自分軸」の探究が重要なのでしょうか。それは「自分軸」こそが、自らが模範となって「どのような行動(何をするのか)」を示すのかを決めるものとなり、語るべきビジョンの「内容(何を語るのか?)」を構成するからです。

「優れたリーダーはビジョンを語っている」と聞いても、「じゃあどのようなビジョンを語るのか?」は、その人の価値観によります。すなわち、他者の模範となること・ビジョンを語ることが大事とわかっても、「何をするのか?」「なぜするのか?」については、自らの軸となる価値観が鍵となるのです。

実際「リーダーシップ・チャレンジ」の書籍の中でも「自分自身の軸・価値観」の重要性は繰り返し主張されています。具体的には以下のような記述が見られます。

<他者の模範となるためには?>
・人々の模範となるためには、自分自身の行動原則を明確にする必要がある
・信頼されるリーダーへの第一歩は、あなたの価値観をあきらかにすることである。
 
<そのために>
・これまでの経験では、どのような価値観のもとで選択や判断をしてきたか振り返る
・あなたにとってなにが大切かを自分の言葉で語る
・チームメンバーに価値観を語る機会を与える

このように「自分自身の価値観の明確化」に関する記述が多数あります。

優れたリーダーシップ行動は「自分軸」に支えられたときに、もっとも効果を発揮します。そのためには、優れたリーダーシップ行動を学ぶとともに、自分自身がどのような価値観を持っているのかという「自分軸の探究」をセットでおこなう必要があります。

しかし、リーダーシップ教育を行う際に、リーダーシップの行動リストはそのわかりやすさゆえに一人歩きしてしまう可能性があります。

そうすると、学習者は「自分軸」という裏打ちのない、「足腰の弱いリーダーシップ」を学んでしまいます。自分軸がないと、いざとなったときに自分の言葉で語ることができなかったり、逆境の中で道を示したりする行動が難しくなります。

チームが困難に陥ったときなど、肝心なときに「つよさ」を発揮することができるためには、「自分軸」に支えられたリーダーシップ行動を促すことこそが、大切な視点になります。

・リーダーシップ行動のリスト
・自分軸の探究

の2つをセットで学べる環境をつくることが、今後のリーダーシップ教育における重要な視座であると考えています。

リーダーシップの知見を学び、「あなたなりの言葉や行動」で活かす

今回はリーダーシップ教育の王道テキストである「リーダーシップ・チャレンジ」を紹介しながら、授業や研修で気をつけるべきポイントについて書いてきました。

優れたリーダーシップ行動を提示することは大きな利点がありながらも、「こうした行動をすればよい」といった、「行動リスト」だけが一人歩きしまう可能性について書きました。

「自分軸」の裏打ちのないリーダーシップ行動は、肝心なときに「つよさ」を発揮することができません。模範的な行動や、あなたが語るビジョンが人を動かすのは、あなた自身が「自分軸」を理解し、その軸をもとに「あなたなりの言葉や行動」で示すからといえます。

「自分軸」が明確であれば、チームが困難なときや、メンバーから反対があったときに、「こっちに進もう!」と力強く行動できるでしょう。

つまり、

・優れたリーダーはどのような行動をしているのか?(知見を学ぶ)
・あなたの自分軸はどのようなものなのか?(自己を知る)

という2つは切り離すことができず、これらを関連づけながら学んでいくことが重要ということです。しかし、リーダーシップ教育の実践をおこなうと、どうしてもいずれかに偏る、もしくは、それぞれを紐づけて考える機会が少ないといった場面がでてきます。

そうならないように、自分軸に支えられたリーダーシップ行動こそが効果的であり、それを促す環境の構築をしていくことを意識していくことが大切です。

私たちが行なっている立教大学経営学部のBLP(ビジネス・リーダーシップ・プログラム)でも、これらの往還がおこりやすい授業設計について議論をしています。またよりよい方法が開発できたら、コラムでも紹介したいと思います。


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