問いとアナロジーで、アイデアに磨きをかける:連載「アナロジー思考の秘訣」第6回
問いとアナロジーで、アイデアに磨きをかける:連載「アナロジー思考の秘訣」第6回

問いとアナロジーで、アイデアに磨きをかける:連載「アナロジー思考の秘訣」第6回

2021.02.23/4

連載「アナロジー思考の秘訣」では、論理的思考では辿り着けない、飛躍した発想を得るための思考法「アナロジー思考(analogical thinking)」について、その特徴や手順について解説してきました。

今回は応用編。イノベーションプロジェクトの設計手法である「リサーチ・ドリブン・イノベーション」の考え方と組み合わせて、問いとアナロジーを往復しながらアイデアを磨きあげるアプローチについて解説します。


探究型の問いを起点としたイノベーションプロジェクト

リサーチ・ドリブン・イノベーションとは、デザイン思考をはじめとする「内から外へ(インサイド・アウト)」アプローチと、アート思考や意味のイノベーションをはじめとする「外から内へ(アウトサイド・イン)」アプローチを共存させることを目指した考え方です。

出発点として人間と社会の本質に迫る「価値探究型の問い」を設定し、「探究」を中心的な活動としたプロジェクト設計を推進していく手法です。

https://cultibase.jp/features/rdi/

このリサーチ・ドリブン・イノベーションのプロセスにおいて、実はアナロジーを積極的に活用すると、起点となる「問い」の探究が深まり、洞察が拡がっていきます。以下、具体的な事例をもとにみていきましょう。

オフィスとは、神社である!?

筆者が責任者を務めた「オフィス家具」の開発プロジェクトをご紹介します。このプロジェクトは、金属のレーザー加工を專門とする株式会社インスメタル様のご依頼で、自分だけの理想の空間をカスタマイズできる結界型オフィス家具「ADDMA(アドマ)」と呼ばれるプロダクトを生み出したプロジェクトです。プロジェクトのドキュメンテーションは、プロダクトのウェブサイトの下部に掲載しています。

ADDMA:https://addma.jp/

このプロジェクトは、オフィス家具のそもそもの前提として、「“オフィス”とは何か?」という価値探究型の問いを大きなテーマとして掲げ、リサーチ・ドリブン・イノベーションのプロジェクトとして設計しました。

また、関連する問いとして「良いオフィスとは何か?」「なぜ“働き方”が問い直されているのか?」「ベンチャーにおけるオフィスの役割とは何か?」など、いくつかのリサーチ・クエスチョンを掲げ、それについてワークショップで対話を重ねるところから、プロジェクトを始動させました。

ワークショップではさまざまな洞察が生まれましたが、なかでもブレイクスルーにつながったきっかけが、「“オフィス”とは何か?」という問いに対する「神社」というアナロジーによる回答でした。

オフィスとは、会社のアイデンティティや所属意識を感じられる「シンボル」のようなものではないか。デスクでパソコンに向かって働くことが重要なのではなく、オフィスがあることによって「この会社で働いてるんだ」と感じられ、会社に宿った理念や思想を感じられるることが、オフィスの意味なのではないか。オフィスとは“神社”のようなものなのではないか。

このアナロジーを媒介とした洞察がきっかけとなって、再び「神道とは?」「人はなぜ祈るのか?」「神社が持っている場の力とは?」といった、新しい問いが立ち上がりました。そして、これらの問いに対して、リサーチとワークショップを通して思考を巡らせていきました。

最終的に、ワークショップで到達したキーワードは「結界」というアナロジーでした。神社は、他の宗教とは違い、建物に意味があるのではなく、「鳥居」というシンボリックな結界をまたぐことで、意味が生まれている。オフィスにおいてもまた、“結界”的な境界を作りだすことで、違った意味を作り出すことができるのではないか。そんな洞察に行き着いたのです。

これが、結界の力で自分だけの空間を構成できる「ADDMA」のコンセプトの核となりました。振り返ると、「問い」と「アナロジー」を往復することで、アイデアを磨き上げるプロセスでした。

【問い】オフィスとは何か?ベンチャーにおけるオフィスの役割とは何か?
 ↓
【アナロジー】ベンチャーにとってオフィスとは“神社”のようなものである
 ↓
【問い】神社が持っている場の力とは何か?
 ↓
【アナロジー】人は“結界”から空間の意味や境界を見出すことができる

このようなアイデア発想のプロセスは、いわゆるユーザー中心主義的な考え方で「オフィス家具のニーズ調査」などをしていても、なかなか辿り着けない着想です。

プロジェクトの本質に迫る「価値探究型の問い」を立て、リサーチ・ドリブン・イノベーション型のプロジェクトとして設計する。そして探究の触媒として、見立ての遊び心を備えたアナロジーを使って、アイデアに磨きをかけていく。これまで解説してきたアナロジーの手法に比べてやや応用的ではありますが、リサーチ・ドリブン・イノベーションの手法とあわせて習熟すると、革新的なプロダクトをデザインする上で、有効な手段になるはずです。


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