人材の流動化が加速する現代。「人」と「組織」にまつわる課題や悩みも、いっそう多様化しています。そんな今だからこそ、今までのキャリア観をアップデートし、新たな組織づくりを模索したいと考えている人も多いのではないでしょうか。
本記事では、2025年4月16日に開催されたイベント『「信頼」でつながる組織のつくりかた──人材流動化時代に「冒険する組織」が描く新たな関係』の一部を紹介します。ゲストは、ぜひ対談をしてほしいとMIMIGURIにも多くの要望が寄せられていた、エール株式会社取締役の篠田 真貴子さん。書籍『冒険する組織のつくりかた』著者の安斎との対話をとおして、これからの時代に必要な個人と組織の関係性のあり方を探ります。後編では、4つのトークテーマをもとにしたふたりのディスカッションをお届けします。
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「信頼」が崩れたときの対処法
イベント後半で行われたパネルトークでは、事前に用意したものに、会場の参加者から寄せられた質問を加えて、合わせて以下の4つのテーマについておふたりからお話を伺いました。
Q. 信頼や期待が裏切られたと感じるときはありますか? またそうした時はどうしていますか?
Q. 退職・転職したあとも、組織が個人の活動を応援できる心地よい関係をつくるには?
Q. 誰かの冒険的、探究的なチャレンジを信頼して見守れる組織文化づくりのポイントとは?
Q. 一緒に働く仲間を見つけるためにどんな採用プロセスや基準を設けていますか?
まずは篠田さんがビビッときたという、こちらの問いからです。
Q. 信頼や期待が裏切られたと感じるときはありますか?またそうした時はどうしていますか?
篠田 仕事をしていると、頻繁にありますよね。むしろ「違った!」と思うことのほうが多いくらい。
それに対してどう対処しようかと考えると、そもそも期待をしているのは、私の勝手ですよね。「あなたにこういうことを期待しています」と言ったことを、その人がその通りに受け取ってくれているかはわかりません。こちらが「違っていそうだけど...」と思っていても、相手は「違っていない」と思っていることもあります。基本的にはズレるものだと思っています。
その上で、「裏切られた!」と感じたりするくらい強く感情が動くときって、私が大事にしている何かに抵触しているからだと思うんですよね。なので、相手に向けている期待について考えるのと同じくらい、「なんでこんなに期待を裏切られたと感じるんだろう。なんで自分はイライラするんだろう」と、自分の気持ちを見にいく必要があると感じています。
これをひとりで行うのはめちゃくちゃ大変です。私もヒートアップしているわけですから。ただ私が働くエールという組織では、そういった内面への理解が深い同僚がたくさんいます。なので、気持ちが高ぶってしまいそうなときは、「ごめんちょっと私、誰かに聴いてもらってからにするわ」と言ってみる。すると、「そのほうがいいかもしれませんね」と受け取ってくれる。誰かに話を聴いてもらうことで、気持ちが落ち着いたり、考えが整理されたりするものだという共通理解があるわけです。
また、状況によっては「私が聴き手になると、あなたと同じく気持ちが高ぶってしまうから、ちょっと誰かに話を聴いてきてもらってよいですか?お互い整理してからもう一回話そうよ」と相手の方に言ったりもします。
安斎 怒りやイライラの感情が動いているときは、自分の大切にしているものが傷ついているのかもしれません。なので、裏切られたと感じたときに、「なんで傷ついているんだろう」と一度自分に問いかけてみることはとても大事だと思います。勝手に期待していただけなのかもしれないですし、自分の中で欲しいリアクションがあったのかもしれない。そういったことはたくさんありますよね。
篠田 本当にそうだと思います。私も聖人君主ではないので、期待が裏切られた結果、とても傷ついてしまい、しばらくその人と交流できなくなってしまうこともあります。そういうのって一緒に働く仲間にはバレてしまいますよね。ただ、だからこそ自覚ができているときは、周りに「ちょっと交代してもらっていい?」とお願いすることもあります。仕事を止めたくはないんだけれど、「ちょっと私のコンディションが崩れちゃって、あの人とやりとりをするたびにモヤモヤしてしまいそうだから...」と相談することはありますね。
どうなんでしょう。『冒険する組織のつくりかた』のコンセプトでは、それぐらい生々しいものも出す前提なのでしょうか?
安斎 これはけっこう難しいんですよね。人間を人間として尊重する組織づくりを提案しているので、相性もあるし、イラッとすることもある。無理にそのすべてを対話によって解消しなくてもよいという考え方もあります。今のところ、そういった問題が生じたときは、少しチームを変えたり、役割上の関係性を変えたり、組織のなかをゆるくかき混ぜるようなことをして、忘れたころに「あ、なんかよくなってる」というふうになればと思っていますね。
一方で、そういう問題が何度も起こり続けるのであれば、もしかすると自身の中で抑圧しているものを無自覚に投影したい欲求があるのかもしれません。そういった場合は「どこかで乗り越えないとマネジメントのキャパシティが上がっていかないな」と考えたり、「苦手だと感じるメンバーは自分のマネジメントを振り返る良いきっかけになる」と捉えたりするようにしています。

安斎 先日、とある会社でとてもうまくいった管理職向けの研修がありました。ミドルマネージャーしかいないその場で、アイスブレイクとして、あえてマネジメントの愚痴や悩みを一気に吐き出してもらったんです。それから、もっとも手を焼いているメンバーのことをみんなで共有してもらい、その人を“期待のメンバー”に変えるためにはどうしたら良いのか、そして、その期待には自分の何が投影されているのかを半日ほどかけて対話してもらったんです。さらにそのあと約2週間を使ってそのメンバーを観察してもらい、後日その人のポテンシャルについて話してもらいました。そしたら、すごくよい関係性づくりの機会になったんですよね。
篠田 きっとそうなんだと思います。組織としてそういう愚痴は言ってはいけない。大人として人の悪口はそんなに言うものではない──日々いろいろことにブレーキをかけていますよね。ですがそれを口に出しただけでもちょっと落ち着くことができますし、「でもあの人にもこういうところがあるかも」と、客観視できるモードに変わるきっかけになることだってあると思います。
エールのサービスだと、企業で働かれている方々に1on1で社外から関わるのですが、セッションの場合、短いと4回、多いと8回ほど続きます。そうすると、最初の2~3回は愚痴ばかりだとしても、あるタイミングで愚痴が言い終わるんです。たとえば「部下が私の言うことを全然理解してくれない」とおっしゃっていた方が、ふとしたときに「その部下は私のことをどう見ているんでしょうね」という問いをぽろっと出したりする。そんなふうに変わっていくんですよね。
安斎 それは大いにあるかもしれないですね。たとえばマネージャーが特定のメンバーについて「苦手です」と言えない雰囲気ってありますよね。組織の中にはそういった暗黙のタブーがたくさんあると思うんです。
そういった抑圧的なタブーをどうポジティブに転換するかという点で、『冒険する組織のつくりかた』では「社内勉強会が変革のきっかけになる」という話を書いています。たとえば、ある大企業では、社内勉強会やタウンホールミーティングを行うと、熱量の高い社員さんがいろいろな部署からオンライン参加してきて、チャット上で会社や経営への文句を言うような状態になってしまう。なのでそういった会が開催されるたびに担当者からは「今日のミーティングでは誹謗中傷をお控えください」といったアナウンスがされていました。
ただある勉強会で、僕からそういった不平不満をあえてどんどん言ってもらうように促して、そのあとオンライン会議ツールのアンケート機能で「この会社は好きですか?」と問いかけてみたことがあったんです。すると100%に近い人が「好きだ」と答えていました。その瞬間、チャットの明らかに空気が変わったのがわかりました。それまではずっと文句を言っていたのに、アンケートの結果をみたら「そうだよね、俺たち好きだから怒ってるんだよね」と急に前向きな雰囲気になったんです。
「誹謗中傷を言わないでください」とNGを出すことは簡単です。しかし、その膿みをポジティブな力に変えるためには、いったん出しきらないといけないときもあると思います。
篠田 そうですよね。今のお話を聞いて改めてこの質問を見ると、信頼や期待には、幻想が混ざっているのかもしれないですね。たとえば恋愛でも、あまり話したことがない人を好きになることはあって、それも幻想を見ているからじゃないですか。組織のなかでの期待にもその成分は多少なりとも混ざっているように思います。それ自体は悪いことではありませんが、ただ、私のこの信頼には幻想の投影もある程度混ざっているのだと知っておくと、自分の期待の扱い方や、人に期待されたときの捉え方も少し冷静になれるのではないでしょうか。
組織の内と外をつなぐ関係性のデザイン
Q. 退職・転職したあとも、組織が個人の活動を応援できる心地よい関係をつくるには?
篠田 これも決して簡単ではないと思うんですよね。組織が個人の活動を応援できる心地よい関係は、組織としてそれが大事だと決めなければ、自然にはできないのだと思います。
基本的に組織というものには特定の目的があって、そのために人やお金などの資源を集めている。つまり、中と外の境界線をつくる構造になっています。そうすると、組織の中にいる人たちのあいだでは、固有の文脈がどんどん積み上げられていきます。逆に組織の外にいる人とは文脈を共有しないので、共通項が少なくなった人と距離が離れてしまうのは普通ですよね。そう考えると、「(退職後も心地よい関係性を保つためには)心地よい関係をつくろうという意思決定が組織としてなされていない限りは、まずできない」というのが出発点としてまずあるのではないかと思いました。どうですか?
安斎 なるほどですね。ちょっと切り口変えてしまうかもしれませんが、組織には、その組織の中心を好むタイプと、周縁を好むタイプの両方がいますよね。いわば、教室の真ん中にいて学級委員長のような中心的な役割を率先してやってくれる、あるいは任されたらやれる人もいれば、なるべく窓際にいたい──なんなら廊下にまではみ出していたいという人もいると思っていて。
その上でマネジメントや組織の求心力を強めようとすると、中心型の人が活躍したり、重責を担ったりするようになります。また、それが周縁の人たちにとっても居心地のよい環境のままであれば問題ないのですが、そうでなくなってしまったとき、周縁の人が抜けていってしまう場合があります。
そのときに「中心VS.周縁」といった構造で対立してしまうと、あるフェーズで居心地が悪くなって辞めてしまった人と関係を維持するのが難しくなってしまいます。そのため、求心力をつくりながらも、周縁の人も包括できるように、組織の境界線を少し広くとらえておくような感覚を持つ必要があると感じています。
MIMIGURIではよく僕と(同じく共同代表の)ミナベトモミとで、「中空構造をつくる感覚で経営しよう」と話しています。真ん中にぎゅっと固まるのではなく、ドーナツのような構造で組織の関係性を作っていく。それができれば織と個人のキャリアの関係を捉える時間軸も変わってくると思いますし、その組織で働くキャリアがいったん終わったとしても、関係は繋がり続けるのではないでしょうか。
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篠田 そうですね。その通りだと思いますし、組織の代表のひとりである安斎さんがそう決めているということが重要なのではないかと思いました。私が過去に所属した会社を振り返ると、辞めたあとでもその人との繋がりを一番わかりやすく応援していた組織は、マッキンゼーでした。
マッキンゼーでは、会社を辞めた卒業生たちとの定期的な交流会が、同社がサポートするかたちで行われています。それって実はとても合目的な活動でもあると思うんです。経営コンサルティングでは、守秘義務がものすごく大事にされています。どの会社にどういったテーマで関わっていたかなどの情報を出すことはありません。それってつまり、広告宣伝ができないんですよね。だからこそ次のお客さんにお会いする機会としても、会社を去っていった卒業生たちの存在は非常に大切なんです。
私はうだつが上がらない社員として3~4年在籍したのち退職しましたが、そんな私のような人でも別の場所で活躍し、いずれはクライアントになるかもしれません。誰か紹介してほしいと言われることもあるでしょう。もちろんそんな合目的的な側面だけでなく、カルチャーや恩義、師弟関係に近い、人間らしい要素もあるのですが、それだけで組織が個人の活動を応援するようになるかというと、ちょっと難しいようにも思います。
...あくまで仮説ですが、MIMIGURIさんの場合は、この組織の思想やスタンスを持った人が、(退職というかたちでも)社会に広がっていくことが、MIMIGURIという組織の何かしらの存在価値とフィットしているから、見送る側にとっても好ましいと感じられるのではないのでしょうか?
安斎 その通りですね。MIMIGURIはコンサルティング会社ですが、全社会などで理念を話すときに、「我々は個社を勝たせるコンサルティングファームに成り下がってはいけない」などと偉そうなことを言ったりもしています(笑)。つまり「『冒険する組織のつくりかた』に共感する会社を勝たせる」というよりかは、「業界や社会全体といった、生態系の単位で冒険的世界観を実現する会社になるんだ」と。
また、それを実現しようと思うと、社内にナレッジや思想を共有しているだけでは足りなくて、だからこそ、我々の思想に共感するクライアントさんとの関係や、共同的に学び合うメディアである「CULTIBASE」の運営を大事にしているんですよね。
篠田 私たちエールも、会社を離れていく人とは、日常的に一緒に仕事はしなくなるけれど、離れてしまう感覚は薄いんですよね。なぜかというと、エールのコンセプトであるお互いに「聴く」というフラットなコミュニケーションを大切にしようと思うと、所属が近い人だとむしろ難しくて、第三者的に関わり合う方のほうが適している場合があるんです。たとえば、ちょっと離れているAさんがBさんの話を聴き、BさんがCさんの話を聴く──そうやって連鎖していくほうが、みんなが誰かに話を聴いてもらえるし、ちゃんと話を聴ける人が対応できるので、円滑にコミュニケーションが回っていきます。

篠田 そんなふうに「今エールに在籍しているかどうかはどちらでもいい」という共通理解があるから、離れていった人たちとも組織として繋がり、新しい関係になれるのだと思います。MIMIGURIさんもエールもそれぞれ違ったコンセプトを持っていますが、どちらもそのコンセプトが社会に広がるとよいよねと思っている。そうすると、組織を離れた人の活動も応援しやすくなるのかなと思いました。
安斎 今の話でとても大事かつ誤解を招きやすいポイントは、人材が流動的な現代において、「ひとつの会社に長くとどまるのではなく、3年ぐらいで辞めてしまう前提で取り組んだほうがいい」という考えに“なりすぎる”のも違うのではないか、という点ですね。長いスパンで、捉えて離れたあとも関係性を築いていくことと、どうせこの人は3年で辞めるだろうと思うことは全然違いますよね。
ちょうど先日も創業期から一緒に取り組んできたメンバーから「起業したいので退職したい」と相談を受けることがありました。個人としてめちゃくちゃ応援しますし、組織的にもそういった挑戦はむしろウェルカムです。ただ、MIMIGURIのコーポレート部門はメンバー全員が90歳まで働く前提で制度をつくっているんですよ(笑)。終身雇用のつもりでやるけれど、いつ独立しても構わないという矛盾が大切にされている。でもこんな時代だからこそ、辞めたあとも仲良くしようというのは大事なマインドセットかもしれないと思いました。
自由な探究を組織の航路に接続する
Q. 誰かの冒険的、探究的なチャレンジを信頼して見守れる組織文化づくりのポイントは?
篠田 これは安斎さんにもご意見を伺いたいんですが、私はメンバーの探究テーマを何でもかんでも受け入れるかというと、少し懐疑的です。たとえば「パティシエになりたくて、小麦粉の探究をしようと思うんです」と言われたら、趣味の時間にやってくださいという話になりますよね(笑)。
人である以上様々なものに興味・関心を持つのはそうだと思うのですが、「この組織でそれを探究する意味づけをともにする」というステップがめちゃくちゃ大事なのではないかと思いました。
そしてそれは私も例外ではなくて、私が探究したいテーマを掲げたときに、同時に「私が所属しているこの組織はどういう冒険をしたい船なのか」を意識する必要があるはずです。またそういった組織の方向性も少しずつ変わっていくものですから、その時々で理解し直す努力を続けなければいけません。
先ほどの例でも、「パティシエになって探究をしたい」と言われたときに、なぜパティシエなのかと聞いてみると、実は必ずしもパティシエである必要はなく、別のところに重なるテーマが見つかるかもしれません。また、それができる素地こそが大事なのだと思います。この『冒険する組織のつくりかた』でも、そういった個人の探究を取り巻く構造の話もたくさんされていますよね。
安斎 まさにそうですね。この本の第2章では「新時代の整合性モデル」という図を載せているのですが、その主軸では「個々の自己実現の探究」「組織アイデンティティの探究」「事業ケイパビリティの探究」「社会的価値の探究」という4種類の探究を繋ぐことの重要性について語っています。

参考: CCMとは何か? 新時代の整合性モデル “Creative Cultivation Model”は、冒険的組織づくりの羅針盤
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【3分解説】Creative Cultivation Model(CCM)とは何か?
![組織づくりの基本原則[前編]|CCM総合実践講座](/_next/image?url=https%3A%2F%2Fcdn.sanity.io%2Fimages%2Feakefsaf%2Fproduction%2F107b30813c2abc87c855ce02dafa8b11cd62c2b2-1460x820.jpg&w=3840&q=75)
組織づくりの基本原則[前編]|CCM総合実践講座
安斎 先ほどの「パティシエになりたい」もそうですし、あるいは「自分の営業スタイルを確立させたい」などもそうですが、その探究の当事者であれ、マネージャーであれ、その人の内発的な自己実現欲求が組織内で行われているどんな探究に響き合うのかをうまく整合させなければいけません。
つまり、「今この会社はこの事業で成り立っていて、現状のロードマップを考えるとこういったケイパビリティを磨くことが大事になりそうだよね」と前提を整理したうえで、「私(あなた)がやりたいことは5年ぐらいに役立つ得意技を先回りして磨いていると言えるのかもしれない」といったふうに整合性を取っていかないと、当人をアクセルを踏み切れず、周りとしてもうまく支援することができないと思います。
たとえば、探究と役割や業務とを切り離して「全然繋がらないと思うけど、君がやりたいんだったらいんじゃない?見守っててあげるから」というような姿勢では、少しうまくいかなかったときに「ほらね」と言われるような組織になってしまうかもしれません。どうやってその整合性を取っていくのかは、『冒険する組織のつくりかた』が目指す組織づくりの肝ですね。
篠田 やはり大きい会社ですと、この縦軸(4種類の探究の軸)を通すのはかなり骨が折れると思います。それこそ経営トップであれば可能ですが、一つの部門にいて、当然他の部門とも関わり合いながら仕事をしているなかで、同じ部門内の上司とは整合性がとれていたとしても、他の部門の方針まで確認して整合を取るのは、構造的に難しいと思います。そういったケースは比較的よくあるのではないでしょうか。
そこでおそらく大事になるのが、この本でも何度も出てくる「対話的なアプローチ」なのだと思います。ただ、たとえば上司の方から見て、自分は見守りたいし、権限の範囲で部門内での整合性は取ったけれど、上からは「いいから売上上げてこいや」という圧がかかったりする。そういった状況は十分あり得ると思うのですが、どのように考えたらよいのでしょうか。
安斎 そうですよね。「私の探究ってここに繋がるよな」と本人が思っていたとしても、それが長期的な話だった場合、「いや、今そこをあなたが繋げようとしなくてもいいから」と言われてしまったり、いろいろなハードルが出てくると思います。
そういうときは──先ほどの内容と少し矛盾するかもしれませんが──すべての探究が組織から公式的な承認フローを経て認められる必要はないのではないかと思っています。
たとえば、日本のメーカーの過去の発明のいくつかは「闇研究」から生まれたと言われています。また、経営学でも「創造的逸脱」という言葉があります。たとえば大企業内でうまくいっている新規事業の中には、本来ならストップがかかって然るべきだった取り組みだったにも拘らず、実はマネージャーが見てみぬふりをしてくれていたり、非公式に容認してくれていることがあります。
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安斎 そのような“半非公式的な闇研究”が、実際に成果を上げ始めたときに、どうやってそれに光が当たるようにしていくかを考える。そんな悪巧みができる共闘関係を身近な人と築くことが大事なのかもしれません。
篠田 この本のなかでちゃんと書いてくださって本当にありがたいと思ったのが、「冒険的組織」はハッピーなものに見えがちだけれど、実はめちゃくちゃハードだということ。その一例が、今のお話だと思うんです。
自分の冒険だけでも大変なのに、人の冒険を見守る──つまりはお互いがお互いの防波堤となることを受け入れるのって、かなりハードな生き方ですよね。
安斎 そうですね。でも、うまくやれるだろうとも思うんですよね。たとえば評価制度などは一見すると絶対的なものですが、「評価制度でいかに遊ぶか」という感覚を持つことは可能ではないかと思います。僕自身の場合でも、自分がマネジメントしているメンバーと期待値のすりあわせを行うと、メンバーから「こういうことがやりたいし、これをミッションにしたい」と相談されることがあります。そしてそういうときに「それが期待値に入っていると、成果がでなかったときに誰かからつつかれるかもしれないから、今は期待値には入れずに、成果が出始めたときに入れるほうがいいんじゃない?」と入れ知恵することもあります。
つまり評価制度はあくまでツールでしかないので、人間がうまく探究やコミュニケーションができるように上手にハックすればよい。そんな感覚がとても大事なのかもしれません。また、まだ成果の出ていない闇研究に対する「寛容さ」のような空気感の形成が、とても重要なのではないかと思います。
「相互理解の場」としての採用プロセス
Q. 一緒に働く仲間を見つけるためにどんな採用プロセスや基準を設けていますか?
篠田 エールの採用はですね...ちょっと自慢してもいいですか?
安斎 ぜひぜひ。
篠田 エールで一緒に働くご縁はなかった候補者の方から、結果が出た後に「話を聴いてくださって本当にありがとうございました」と言っていただくことがよくあります。特にそう言ってもらえるように意識しているわけではないのですが、面接のプロセスのなかでそのように感じていただくということは、我々採用側の関心がそこに向いているのが自然と表れているのかなと感じています。
たとえば「あなたは本当はどういう人なんですか?」「どういう状況があって今ここに来てくださっているんですか?」ということに興味が向きがちで、「何ができるのか」や「このプロジェクトでの苦労話は?」といったことをあまり聴かない。それが結果的に、エールという冒険に乗るかどうかを、お互いに確かめ合うプロセスになっているのかなと思います。
安斎 組織的にちゃんと体現できているということですよね。我々MIMIGURIも採用にはめちゃくちゃ時間をかけていますし、ものすごく対話を重ねています。
採用プロセスの手前の話にはなりますが、MIMIGURIは発信に力を入れている会社でもあります。1人ひとりのメンバーもそうですし、僕自身もほぼ毎日VOICYで話したりしています。また、僕とミナベが毎週1on1の時間を半分使って収録している「CLUTIBASE Radio」というPodcastがあるのですが、そこではどんなにスベって「これはダメだ」と思っても、全部公開するようにしています。そのようにあまり取り繕わない方針を取っていることもあり、「社内と社外で話していることが変わらないですね」と候補者の方からはよく言われます。結果として、共感してくれる人たちが来てくださっているように感じます。

あとは、MIMIGURIの採用面談は回数が非常に多いとよく言われるのですが、それは人事だけでなく、さまざまなメンバーが交代で面談をしているからです。またそのように多様な面談を経て入社してくれたその方も、入社後に採用に協力してくれるようになります。そうした好循環のなか、かなりカルチャーフィットを重視し、また誰もがそのプロセスにフルコミットしながら、仲間探しを行ってますね。
ここまででディスカッションは終了。篠田さんが本イベントの感想を次のように語り、締めくくられました。
篠田 今日のイベントではそもそも「パキッと答えが出るものではない」ということを、皆さんと共有できたなと思います。たしかにアプローチのしようはありますし、安斎さんも私も「一歩目のアイデア」はお伝えしました。ただ「組織」も「人」も、信頼すればそうなるというものではありません。また、組織はシステムなので、自分も組織内の問題の一部を担っているのだということを、お話しながら改めて感じました。皆さん本当にありがとうございました。楽しかったです。
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イベントのアーカイブ動画の視聴はこちら ※2026年6月3日までの期間限定公開

「信頼」でつながる組織のつくりかた:人材流動化時代に『冒険する組織』が描く新たな関係【篠田真貴子×安斎勇樹 対談】
主催・会場:Vlag yokohama



