なぜ人は協働に参加するのか?バーナードが問い直した個人から始める組織論──【連載】転換しつづける経営観 第6回
/

13分

なぜ人は協働に参加するのか?バーナードが問い直した個人から始める組織論──【連載】転換しつづける経営観 第6回

様々な時代の経営をめぐる言説(理論や概念など)において、経営がどのように捉えられてきたのか──「経営観」の変遷を近畿大学経営学部教授・山縣正幸さんとたどる本シリーズ。第4回以降は、個人と協働を大きなテーマとして、第5回以降では、チェスター・バーナードの議論を中心にしながら、組織全体のマクロ的な観点を扱っています。

前回は、バーナードに影響をあたえたフォレットの経営論でした。

それぞれの欲求を織り合わせ協働で創造性を発揮するフォレットの経営論──【連載】転換しつづける経営観 第5回

それぞれの欲求を織り合わせ協働で創造性を発揮するフォレットの経営論──【連載】転換しつづける経営観 第5回

第6,7,8回に渡っては、バーナードの論について、丁寧に触れていきます。というのも、経営学史において、バーナードが占める位置はきわめて大きいものがあるからです。
最近のビジネス書でバーナードの名前を見ることは、正直あまり多くないかもしれません。しかし、バーナードが示した個人とその協働を軸に経営を考えるというスタンス、そのための中核概念として“組織”を置いたこと、これはそれまでの経営学の知見を一段高めたといって差し支えありません。

山縣 正幸

山縣 正幸

近畿大学経営学部教授/デザイン・クリエイティブ研究所/経営イノベーション研究所

1976年生まれ。関西学院大学大学院商学研究科博士課程後期課程をへて、2008年に同大学より博士(商学)を授与される。専門は、経営学史・経営学原理。ドイツ語圏の経営学の展開について研究。2016年ごろから、サービスデザイン、デザイン経営についても研究や実践にかかわるようになる。最近はアントレプレナーシップへの美学的アプローチにも関心を抱いている。2017年から2024年まで経営学史学会理事。同学会による経営学史叢書第II期編集委員を務める。

それ以外に、国立能楽堂の解説パンフレットの執筆を2016年から継続。八尾市産業振興会議の座長(2020年〜現在)なども務めている。

著書に『企業発展の経営学』(千倉書房、2007年)、『バーナード』(藤井一弘編、経営学史叢書第VI巻、文眞堂、2011年、共著)『DX時代のサービスデザイン』(廣田章光/布施匡章編、丸善出版、2021、共著)、『経営学の基礎』(片岡信之編、経営学史叢書第II期第1巻、文眞堂、2022年、共著)、『ドイツ経営学入門』(海道ノブチカ/山縣正幸、文眞堂、2026年)など。

ちなみに、バーナードは経営学者ではありません。

現在のAT&T(当時はベルシステム)の子会社に当たるニュージャージー・ベル電話会社(現在はベライゾン・ニュージャージー株式会社)の社長を20年にわたって務めた経営者です。この社長時代の1937年にハーバード大学のローウェル研究所で連続講義をおこないました。それをもとに著されたのが彼の主著である『経営者の役割 The Function of the Executive』(1938)です。
バーナードは自らの経験をそのまま語るのではなく、自らの経験を学問的に捉え返して言語化しました。だからこそ、彼の考え方は今なお経営にとって有益な知見をもたらし続けているのです。

まずはバーナードが展開した個人と協働に注目する経営の考え方についてみていくことにしましょう。

(1)個人を起点にした協働:個人でできないからこそ、協働が生まれる

バーナードの『経営者の役割』は、個人という存在について考えるところから始まります。これは、経営学の文献として珍しい。
多くの場合、いきなり企業や組織について論じるところから始めるからです。言ってみれば、個人という存在は所与だという理解に立っているわけです。

ところが、バーナードは個人という存在から問うているのです。
これは、一人ひとりの人間がそれぞれに異なる肉体的特徴を持ち、それぞれにさまざまな人との関係性のなかで生き、そのなかでそれぞれに異なる欲望や動機などを抱いているという点を視野に入れることを意味しています。

この前提に立つと、組織や協働の問題を考えるのはかなり難儀になります。なぜなら、それぞれに異なる個人をいかにして協働へと方向づけていくのかを考えなければならなくなるからです。しかし、バーナードは一人ひとり異なる存在としての個人に目を向けました。これがバーナード以降の経営学に大きな転機をもたらすことになります

個人から組織や協働を論じ始めると、まず「なぜ、個人は協働に参加するのか」という問いが浮上してきます。結論から言えば、「一人ではできないが、複数が協力すれば実現できる場合、人は協働する可能性がある」のです。

ただ、その際にある人にとって実現したいことが、他の人にとって同じように実現したいことであるかどうかはわかりません。例えば、協力を必要とする課題があって、それによりそこにいる人々それぞれの実現したいことへの道が開かれるのであれば、人々は協力する可能性が高まります。「協力を必要とする課題」を解決することは、そこにいる人々によって共有されうる目的となります。

これを共通目的と呼びます。

一方、それぞれの人が実現したいことは、それぞれに異なります。ただここでは「協力を必要とする課題」を一緒に解決すれば、それぞれが実現したいことも実現可能になるという関係にあります。このように、協働という現象を通してみてみると、個人それぞれの欲望や動機は、協働における共通目的の達成を通じて“迂回的に”実現される、ということができるのです。

なぜ、わざわざこんなまわりくどい説明を、と思われる方もおられるかと思います。
けれども、一人ひとりの個人が協働に参加するという現象を捉えようとするとき、ここは無視できない点なのです。というのも、バーナードは参加する個人の動機が充たされなければ、協働は持続できないということに気づいていたからです。

この点は、それまでの経営学において、ごくわずかにしか注目されてきませんでした。前回とりあげたフォレット、あるいは同時期にドイツで活動していた経営学者ハインリッヒ・ニックリッシュなど、わずかな人たちだけです。

現代的な視点からすれば、参加する個人 ——ステイクホルダーと呼んでも差し支えありません——の動機が充たされなければ、協働や組織を維持できないというのは、それほど不思議に思われる話ではないでしょう(それを失念しているのではないか、と思われる事象もちょくちょく見受けられますが…)。
この点に注目して議論を展開しているところに、バーナード学説の非常に重要な意義があるのです。

この考え方に立って協働に参加する個人をみるとき、いわゆる個人としての側面と、協働に参加しているメンバーの一員としての側面があります。

これは、みなさんにとっても容易に思い浮かべることができるのではないでしょうか。
バーナードは前者を「個人人格」、後者を「組織人格」と呼びました。人は時として個人人格と組織人格とのあいだの葛藤に悩むこともあります。
この点について、バーナードは道徳(moral)という概念でもって、その創造的解決をめざそうとするのですが、それについて次回以降でふれることにしましょう。

(2)協働における有効性(目的の達成度合い)と能率(個人動機の満足)

協働にとって、そこに参加する人々が共有できる目的=共通目的が必要不可欠であることを見てきました。
ということは、協働にとって最も重要な点は共通目的の実現ということになります。協働は、共通目的が実現不可能だと判明したとき、解体される可能性が高まります。その場合、協働を持続させようとする意思があるときは、共通目的を変更したり、実現可能な共通目的を再設定したりすることになります。ここまでは、考え方として自然に受け入れられるかと思います。

一方で、バーナードは「共通目的が達成され終わったときにも、協働は終了する」とも述べています。一瞬「え?」と思うかもしれませんが、プロジェクトを想定してもらえれば、納得できるでしょう。プロジェクトは、そこで設定された共通目的が実現・達成されたときに解散されます。

もし、そのメンバーでの協働を持続させたいと考えるなら、新たな共通目的の設定が必要になります。実際、仲のいいメンバーで何ごとかをするときに、あることが達成されたら、新たな目的を設定するというのは、そう珍しいことではありません。
だからこそ、協働を持続させたい場合には、時として抽象度の高い共通目的が設定されることになります。その典型的な例が、パーパスやビジョンなどに代表される企業理念です。
企業理念の抽象度が高いのは、具体的な目標を設定できないからではなく、状況が変化しても協働を持続させるためには抽象度の高さが必要になるからなのです。

さて、このような共通目的の達成度合いを、バーナードは協働の有効性と呼びます。普通なら、これだけで十分そうなものですが、個人が協働に参加するというところから出発するならば、参加する個人の動機がどれだけ充たされたかについても目を向けなければなりません

個人の動機が充たされなければ、その個人は協働から離脱してしまう恐れがあるからです。つまり、参加する諸個人の動機を充たしうる何かがなければ、協働を維持できないということです。ここに目を向けたのは、バーナードの慧眼でした。これを、バーナードは協働の能率と名づけました。

有効性と能率、やや日常的な用法と意味合いが異なるところもありますが、ここでみなさんに知っておいていただきたいのは「協働の共通目的の実現」と「参加者の動機の充足」という2つの面をバーナードが重視したという点です。

となると、参加者が協働への参加に際して何を期待しているのか、ちゃんと捉えようとすることが重要になります。これをバーナードは誘因という言葉を用いて説明しますが、これについても次回以降で見ていくことにします。

(3)協働体系と組織:諸活動が意識的に結びつけられている動態としての組織

さて、いよいよ本題の組織です。

組織と聞くと、多くの方が想起されるのは「組織図」で示されるような組織構造でしょうか。あるいは、企業や学校、NPOをはじめとして、現実に存在する組織体/集団をイメージされるかもしれません。

バーナードは、具体的に存在する組織体/集団には、協働体系(coöperative system)という概念をあてます。これは、「少なくとも一つの明確な目的のために二人以上の人々が協働することによって、ある特定のシステム的関係にある物的、生物的、個人的、社会的構成要素の複合体」と定義されます。

小難しく感じられるかもしれませんが、分解すると
(1)何らかの共通目的がある
(2)二人以上の個人が共同している
(3)物や生物、個人、個人間の関係性としての社会的関係が結びつきあっている
ということです。そういう状態にある存在を、組織ではなく、協働体系と呼んだわけです。

では、組織とは何なのでしょうか。

バーナードは「二人以上の人々の、意識的に調整された活動のシステム」を組織と呼びました。これまた何やらわかったようなわからないような説明です。バーナードは、具体的な存在としての協働体系に共通して存在するしくみを抽出して、組織として概念化しようとしました。

具体的な協働体系は、それぞれに異なる目的を持ちますし、そのために必要な物的資源も、参加する個人も、そこに生じる社会的関係性も異なっています。しかし、そこには二人以上の個人が活動を提供し、その活動は意識的に調整され、結びつけられているという事態が必ず生じていますこの必ず生じている事態に、バーナードは組織という概念を与えたのです。

バーナードは、組織という事象をこのように捉えていたがゆえに、顧客の活動も組織を構成すると考えました。「顧客も組織の一員である」といわれると、多くの方は違和感をもたれるかと思いますが、さまざまなアクターがエコシステム的に価値の共創をおこない、そこで価値の循環が生じるとみる考え方と、きわめて近いものがあります。

この考え方の代表的なものの一つであるサービスドミナント・ロジックは、サービスを提供する側だけでなく受ける側が生産活動にも入り込み、企業と顧客とのやりとりのなかで価値が創造されるような営みであり、価値創造が必ず“共創(Co-creation)”となると主張しています。というのも、提供者によって生み出される価値提案は、受益者/享受者がそれを受け取って、自らのプロセスに摂り込んだときに初めて、「価値が創造される」からです。ここでは、提供者と受益者/享受者の両方が存在し、かつ両者がサービスの交換によってつながるということが重要です。

この「つながっている」状態こそ、バーナードのいう組織なのです。

組織という言葉を、例えば企業内での役割構造というイメージで捉えると、「え、どういうこと?お客さんは組織(企業)のメンバーじゃなかろう」ということになるでしょう。しかし、バーナードの組織という概念においては、顧客の活動も組織を構成していると捉えるのです。その意味で、バーナードは組織という現象をきわめて広範かつ動的に捉えていたことがわかります。これは、エコシステム的な見方が重要になっている現代において、あらためて注目されるべき考え方です。

今回は、バーナードが展開した個人と協働に注目する経営の考え方について、まずは中核となる考え方を紹介してきました。つづく第7回では組織について、そして第8回では組織経済という考え方と道徳(moral)や誘因について深堀っていきたいと思いますので、お楽しみに。


参考文献リスト

  • バーナード, C. I.『新訳 経営者の役割』(原著1938年、山本安次郎/田杉競/飯野春樹訳、ダイヤモンド社、新訳版1968年)
  • バーナード, C. I.『組織と管理』(原著1948年、飯野春樹監訳、文眞堂、1990年)
  • 飯野春樹編『古典入門 バーナード 経営者の役割』有斐閣新書、1979年
  • 藤井一弘編『バーナード』(経営学史叢書VI)文眞堂、2011年
  • ラッシュ, R. F./ ヴァーゴ, S. L.『サービス・ドミナント・ロジックの発想と応用』(原著2014年、井上崇通監訳、庄司真人/田口尚史訳、同文舘出版、2016年)


学びをシェアする

著者

MIMIGURI

CULTIBASE運営会社について

運営会社である株式会社MIMIGURIでは、 人と組織の可能性を活かした多角化経営を実現する、ファシリテーション型コンサルティングサービスを提供しています。
Background
Banner Image
CULTIBASE Icon

LINEでCULTIBASEの最新情報を受け取りませんか?

組織づくりにおける「探究」のパートナーとして、LINE公式アカウントではピックアップコンテンツやイベント・セミナー等の情報発信を行っています

MIMIGURI

CULTIBASE運営会社について

運営会社である株式会社MIMIGURIでは、 人と組織の可能性を活かした多角化経営を実現する、ファシリテーション型コンサルティングサービスを提供しています。

CULTIBASEについて

CULTIBASE(カルティベース)は、
人と組織の可能性を 見つめなおし、
これからの経営・マネジメントを探究するメディアです。

もっと知る

CULTIBASEをもっと楽しむために

無料の会員登録を行うことで、マネジメント、経営学、デザイン、ファシリテーションなど、組織づくりに関する1000本以上のオリジナルコンテンツと会員向け機能をご利用いただけます。

無料で会員登録する