組織を変えても、人は変わらないのか──安斎勇樹が語る『静かな時間の使い方』の背景
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組織を変えても、人は変わらないのか──安斎勇樹が語る『静かな時間の使い方』の背景

※本記事は、安斎勇樹著『静かな時間の使い方──自分の解像度を上げる「独りの思索」の全技法』(朝日新聞出版)の早期予約特典として配布された事前解説動画の内容をもとに、編集部が一部を再構成したものです。

安斎 勇樹

安斎 勇樹

株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO

東京大学大学院 情報学環 客員研究員

1985年生まれ。東京都出身。私立武蔵高校、東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO/東京大学大学院 情報学環 客員研究員。

企業経営と研究活動を往復しながら、人と組織の可能性を活かした新しい経営・マネジメント論を探究している。主な著書に『静かな時間の使い方』『冒険する組織のつくりかた』『問いのデザイン』、『問いかけの作法』、『パラドックス思考』、『リサーチ・ドリブン・イノベーション』、『ワークショップデザイン論』『チームレジリエンス』などがある。

https://lit.link/YukiAnzaiVoicy

2025年1月に刊行された安斎の前著『冒険する組織のつくりかた 「軍事的世界観」を抜け出す5つの思考法』(テオリア)では、個人の内発的動機を活かす組織のあり方が提案されました。

組織の中で働く私たちは、「自分がやりたいこと」と「組織から求められること」のあいだで揺れ動きます。

内側から湧き上がる動機と、外側から与えられる期待や評価。この二つは、簡単には重なりません。

それでも、その接続をあきらめない。たとえ完全に一致しなくても、少しでも重なり合う部分を見つけていく。

そうした探究的な営みこそが、組織をよりよくしていく鍵になるはずだ。
前著は、そうした問題意識から書かれたものでした。

ところが、その実践が広がる中で、ある違和感が残ります。

組織を変えれば、人はもっと自由に働けるはずではなかったのか。
なぜ、それでもなお、息苦しさは消えないのか。

現場の人に話を聞くと、「マネージャーが変わればよくなる」と言う。
マネージャーに聞くと、「経営が変わらないと難しい」と言う。
経営に聞くと、「現場の意識が問題だ」と言う。

誰もが、どこか別の場所に原因を見出している。
この構図が、繰り返し現れます。

問題は、構造の側だけにあるのではないのかもしれない。
そうした疑問が、少しずつ立ち上がってきます。

自由に耐えられない私たちと、外の声の正体

その疑問を解く手がかりが、エーリッヒ・フロムの『自由からの逃走』にありました。人は自由を求めながらも、その自由に不安を覚え、何かに従うことで安定を得ようとする。そうした人間観に立ったとき、組織の問題は少し違った輪郭を帯びてきます。

私たちは、単に「上司が怖いから従っている」だけではないのかもしれません。むしろ、自分を従わせてくれる対象を、どこかで求めてしまっている。そう考えると、問題はもう一段、個人の側に引き寄せられてきます。

私たちは、日々、さまざまな「外の声」に囲まれて生きています。

こうするべきだという社会の規範。
成果を求める市場のスコア。
場の空気や役割を前提とした共同体からの期待。

それらは社会を支えるために必要なものでもあります。しかし、強くなりすぎると、別の働きをしはじめます。気づけば、空気を読み、期待に応え、無難な選択を重ねている。逸脱しないことが、いつの間にか最適な戦略になっている。

そうした状態の中で、自分の内側にあったはずの動機は、少しずつ押し込められていきます。同時に、外から与えられる評価やスコアには、強く引き寄せられていく。

その結果として起こるのが、「やりたいことが分からない」という感覚です。

本当にやりたいことが“ない”のか。
それとも、見えなくなっているだけなのか。

自分が語っている言葉が、本音なのかどうか。その境界が、少しずつ曖昧になっていく。そうした感覚に、覚えがある人もいるかもしれません。こうした状態を、どのように捉え直せばよいのでしょうか。

いま必要なのは、速さではなく「静かな時間」

ここで必要になるのは、さらに速く動くことでも、より多くの成果を出すことでもありません。むしろ、一度立ち止まることです。

外からの声に反応し続ける状態から、少しだけ距離を取る。
そのための時間を、意図的につくること。

本書で語られる「静かな時間」とは、そうした状態を指しています。

規範に従わなくてもいい時間。
評価を気にしなくてもいい時間。
期待に応えなくてもいい時間。

他人のことではなく、自分のことについて考えるための時間。
そうした時間が、いまの私たちには決定的に不足しています。

『冒険する組織のつくりかた』が、組織という外側の環境を問い直す本だったとすれば、『静かな時間の使い方』は、その環境の中で働く個人が、自分を見失わないための本です。

組織を変えることは重要です。しかし、それだけでは足りないのかもしれません。

自分の内側にあるものを見つめ直す時間を持たなければ、私たちはまた別の「正しさ」や「評価」に従ってしまう。

ゴールデンウィークのように、少しだけ外のノイズが弱まる時間は、その第一歩を踏み出す機会になるはずです。

この連休を、予定で埋め尽くすだけで終えてしまうのか。
それとも、自分の声に耳を傾ける時間にするのか。

その選択が、これからの働き方や生き方に、静かに影響していくのかもしれません。

ソーシャルノイズの喧騒から一時的に逃れ、自らの解像度を上げる静かな時間を持つこと。それが、自分の「人生の手綱」を取り戻し、予測不可能な時代において自らの内発的動機に基づく創造的なキャリアを歩んでいくためのアプローチなのです。

静かな時間の使い方ーー自分の解像度を上げる「独りの思索」の全技法
著者:安斎 勇樹|発行・発売:朝日新聞出版

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書籍紹介|『静かな時間の使い方──自分の解像度を上げる「独りの思索」の全技法』

『静かな時間の使い方──自分の解像度を上げる「独りの施策」の全技法』

SNSや仕事の評価、周囲からの期待に追われる日々のなかで、「自分が何をやりたいのか分からない」と感じたことはないでしょうか。

『静かな時間の使い方』は、そうした感覚の背景にある構造を捉え直し、他者の声ではなく自分自身の内側に立ち戻るための方法を提示する一冊です。

本書の鍵となるのは、「ソーシャルノイズ(社会的騒音)」という概念です。
社会の規範、市場のスコア、共同体の空気。私たちは日常的にこうした外部からの声に晒され、それに応え続けることで、自分の内発的動機を見失いがちになります。

著者は、この状態を単なる個人の問題としてではなく、現代社会における構造的な現象として捉えます。そして、その状況から距離を取り、自分自身の感情や興味、価値観を見つめ直すための時間を「静かな時間」と呼びます。

本書では、この「静かな時間」を確保するための具体的な工夫とともに、自分の内面を言語化する「リフレクション(内省)」の方法が体系的に解説されています。
感情、技術、興味、信念といった複数の観点から自分を振り返ることで、自分の思考や行動の背景にある意味づけを捉え直し、「自分の解像度」を高めていくプロセスが提示されます。

単なる時間術や自己管理の本ではなく、外部の評価や期待に振り回されがちな現代において、自分の軸を取り戻すための実践書。忙しさのなかで立ち止まることが難しくなっている人にとって、新たな視点を与えてくれる一冊です。

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