リフレクションの質を高め、未来の可能性を探る「欲望のセンサー」の磨き方
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リフレクションの質を高め、未来の可能性を探る「欲望のセンサー」の磨き方

現代のビジネスパーソンは、スマートフォンの常時接続やSNSの普及などにより、絶え間ない情報の波と他者からの評価にさらされています。安斎勇樹の著書『静かな時間の使い方──自分の解像度を上げる「独りの施策」の全技法の中では、こうしたわたしたちの思考と行動を縛る外部の規範、評価、期待を「ソーシャルノイズ」と定義し、それらを「社会の規範」「市場のスコア」「共同体の空気」の3つに分類して警鐘を鳴らしています。

私たちを縛る「ソーシャルノイズ」の正体──常時監視社会で手綱を取り戻す

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わたしたちはこのソーシャルノイズに過剰に適応しようとするあまり、日々の仕事や生活の中で生じる「なんか違う気がする」「これで本当にいいのだろうか」といった漠然とした「モヤモヤ」を、単なる気の迷いやネガティブなストレスとして排除したり、抑圧したりしてしまいがちです。

しかし、この言葉にならない「モヤモヤ」を無視せず、むしろ創造の種として前向きに活かすアプローチもあるのではないでしょうか。

「モヤモヤ」は自分の価値観が揺さぶられているサイン

忙しい日常の中で自らの価値観を取り戻し、ソーシャルノイズから主導権を取り戻すためには、外部のノイズから一時的に距離を置き、「静かな時間」を確保して自身の内面に向き合う「リフレクション(内省)」が有効な手段となります。

リフレクションとは、単なる過去の失敗の「反省」にとどまるものではありません。自分の行動・思考・感情について振り返り、自分を見つめ直すことであり、過去の経験の意味づけを変え、未来の自分を再構築するための創造的な行為であると捉えることができます。

リフレクションの技法の記事の中で、リフレクションを「反省会」と捉えてしまう誤解についても触れていますので、合わせてご参照ください。

リフレクションの3つの誤解:連載「リフレクションの技法」第2回

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このリフレクションを効果的に行うために注目したいのが、日常の中で感じる「モヤモヤ」です。仕事や生活の中で「なんかモヤモヤする」「いまのひと言、ちょっと気にかかるな」と感じる瞬間は、自身の根底にある価値観が揺さぶられているサインである可能性が高いと考えられます。つまり、「モヤモヤ」とは、自分が本当に大切にしている価値観に気づくための最高の素材であり、自己を知るためのセンサーになり得るのです。

日常のさまざまな場面で感じる「モヤモヤ」

ただし、モヤモヤを感じる際、その背後には大抵「他者」が存在しています。家族の何気ないひと言や上司の態度、同僚の振る舞いなどがトリガーとなり、わたしたちは「あいつが悪い」「あの言い方はひどい」と他者を非難することで感情を処理してしまいがちです。ですが、大切なことは、「モヤモヤ」からいったん他者を切り離し、ベクトルを自分に向け直すことです。社会の規範や周囲の空気に適応しようとする中で生じる言葉にならない「モヤモヤ」を、自分が本当に大切にしている価値観に気づくためのセンサーとして扱うことが、自己理解を深める重要な手がかりになっていきます。

リフレクションの質を高める「欲望のセンサー」

では、多忙な日常の中で、こうした些細な「モヤモヤ」を見逃さずにキャッチし、リフレクションを深めるためにはどうすればよいのでしょうか。「自分にはモヤモヤなんてない」と感じる人もいるかもしれませんが、実際には全く「モヤモヤ」を持たない人はおらず、多忙さの中で見過ごしてしまっているだけであることが多いと考えられます。

リフレクションの質を高め、「モヤモヤ」に敏感になるための有効なアプローチとして、自分自身の「欲望のセンサー」を鋭敏にしておくことがあげられます。

具体的には、

  • 「もっと自分の才能を磨きたい」
  • 「面白い仕事がしたい」
  • 「新しいことに挑戦したい」
  • 「もっと幸せになりたい」

といった自己実現に対する健全な欲望を持つことです。言い換えれば、これは自己実現に対して貪欲になることであり、「自分を大切にする」「ちゃんとセルフケアをする」ことでもあると言えます。

「欲望のセンサー」を鋭敏にするための、日常で意識したいポイントを整理すると、このようになります。

自己実現に対して「健全な欲望」を持つ

「もっとこうなりたい」という欲の深さを持つことは、自分を大切にし、適切にセルフケアを行うことにもつながります。

日常の体験に対して「もっと良くしたい」と願う

例えば「毎日の食事をより素晴らしい時間にしたい」といった具体的な欲求を持つことで、細かな違いを感じ取る注意力が向上し、センサーが鋭敏になる傾向があります。

社会の規範を少しゆるめてみる

「謙虚であるべき」といった規範を一時的にゆるめ、リフレクションの場においては「いつもより少しワガママになってみる」ことが、内面を深く探る助けになります。

自分自身に「許可」を出す

「もっと楽しく働いていい」「自分を満たしていい」と自分に許可を出すことで、鈍っていたセンサーを取り戻し、解像度の高いリフレクションが可能になると考えられます。

自身の仕事や日常に対しても「もっと良くしたい」という貪欲な姿勢を持つことで、現状に対する解像度が高まり、小さな「モヤモヤ」に気づきやすくなるでしょう。

未来の可能性を探り当てる知性「じゃない感」

このように、欲望のセンサーを磨くことで感じとった「モヤモヤ」という違和感を、単なる不満として処理するのではなく、より前向きで創造的なもの、未来へのポテンシャルとして捉え直してみるとどうなるでしょうか。ここで、デザイナーの創作過程で生じる「じゃない感」という概念を参照してみましょう。

デザイン研究者の須永剛司は、デザイナーが多くのアイデアを描き出す中で「これじゃない」という違和感を見出す独特の知性を「じゃない感」と名付けました。重要なのは、デザイナーはその「じゃない」という否定の中に、「次に描くべきものの可能的世界」を見出しているという点です。

たくさんのアイデアを描き、描いたもののなかに違和感を感じとり「これじゃない」ところを見出している。そしてその「じゃない」のなかに次に描くべきものの可能的世界を見出している。デザイニングにおけるそういう方略を駆動する知性を「じゃない感」と名付けた。
(引用)須永剛司, 実践するデザイナーたちのデザイン知とはなにか?, デザイン学研究特集号 第21巻3号通巻83号, 日本デザイン学会, 2014

つまり「じゃない感」とは、現状への否定にとどまらず、次の可能性を探り当てるための未来志向の感覚であると解釈できます。デザイナーは、1ミリのわずかな形のズレに対しても違和感を感じ取り、より良い表現を求めて試行錯誤を繰り返します。こうした細部のクオリティへの強いこだわりは、ある意味で「より良いものを創り出したい」という自らの欲望に貪欲であるからこそ成り立つものだと言えます。

わたしたちが日常で感じる「モヤモヤ」も、これと同様の性質を持っているのではないでしょうか。現状の自分の価値観とのズレを知らせる「モヤモヤ」は、より良い未来の自分を再構築するための「可能的世界」を指し示すサインとして捉え直すことができるのです。

自身の欲望に貪欲になり、セルフケアをしながら、未来を描き出す

ここまで、書籍『静かな時間の使い方』で触れられている「モヤモヤ」と「欲望のセンサー」の関係性と、「じゃない感」の概念を紹介してきました。この「じゃない感」が持つ未来志向の性質を参照しながら、「モヤモヤ」との付き合い方を解釈し直してみると、個人のリフレクションは、単なる自己理解やメンタルケアの枠を超えた意味を持っていると言えるのではないでしょうか。

デザイナーが自らの欲望に貪欲になり、細部の違和感を見逃さずに「可能的世界」を探究するように、デザイナーに限らず、わたしたちは「謙虚は美徳」といった規範を少しゆるめ、自己実現に対する「欲望のセンサー」を研ぎ澄ますことで、日常に潜む「モヤモヤ」を解像度高く捉えることができるはずです。

自分の仕事やキャリア、人間関係に対して「もっとこうありたい」という健全な欲望を持ち、それに照らし合わせて現状の「なんか違う」という部分に敏感になること。そして、その「モヤモヤ」の原因を安易に他者に求めたり、ソーシャルノイズに迎合して抑圧したりするのではなく、自分が本当に大切にしている価値観が揺さぶられているサインとして真正面から向き合うこと。

一見見逃してしまうような些細な「モヤモヤ」に敏感になり、感覚を研ぎ澄ましていくリフレクションは、正体不明なストレスを抱え続けることを減らすセルフケアになるだけでなく、自分自身の次に描くべき未来(本当にやりたいこと、ありたい姿)を探り当てるための、創造的で未来志向な探究の営みです。

欲望のセンサーを研ぎ澄まし、「モヤモヤ」を解像度高く捉えることで、未来志向の探究的な営みへ

多忙で不確実な現代において、自身の欲望に少しワガママになり、「モヤモヤ」という違和感を歓迎する姿勢で向き合ってみることが、自分らしい価値を創出していくことにつながっていくのではないでしょうか。


参考文献

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