経営観の歴史:軍事的世界観の起源を探る

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約61分

学術知の探究

#経営人材
安斎 勇樹
安斎 勇樹
山縣 正幸
山縣 正幸

グローバル化や技術革新などによる環境変化が加速する中、従来の上意下達の指揮系を中心とする組織体制では対応が困難化しつつあります。CULTIBASEでは、前世紀から続くこの「軍事的な世界観」を脱却し、一人ひとりが自身の内的動機から自律的に組織のために行動する「冒険的な世界観」へと転換する術を探究しています。

参考|軍事的世界観から冒険的世界観へ。3,200人以上が登録・視聴した『新時代の組織づくり』ウェビナー開催レポート

経営学は工業や心理学をはじめとした様々な領域と密接に関わり合いながら発展してきた学問です。この歴史を紐解くことは、「時代の流れにいかに適応し、価値観を転換させていくか?」という点について、非常に多くの示唆を与えてくれます。

こうした観点から、今回の動画コンテンツでは、近畿大学経営学部教授・山縣正幸さんをゲストに迎え、「経営観の歴史」というテーマについて理解を深めていきます。経営学史や主要な経営観の変遷を俯瞰的に捉えた、約1時間の講義とディスカッションをお届けします。

「経営観の歴史:軍事的世界観の起源を探る」のチャプター

00:00:11 18世紀以前:”経営”と”冒険”が結びつくルーツを辿る
00:11:13 1900年代~1960年代:近代の経営学の確立と発展
00:38:12 1970年代以降:多様化する経営学

「経営観の歴史:軍事的世界観の起源を探る」のポイント

■18世紀以前の経営学:”経営”と”冒険”が結びつくルーツを辿る

  • 今回のゲストは、経営学者・山縣正幸さん。経営学の歴史を概説いただきながら、特に去年から安斎が掲げる「軍事的世界観を脱却した、冒険的世界観に基づく組織づくり」に関連するポイントを中心に、経営にまつわる多様な観点や価値観について紐解いていく。
  • 冒頭の山縣さんの話によると、経営論は最初から”軍事的”だったのか?というと、必ずしもそういうわけではなかったという。経営学の起源を正確に捉えるのは困難だが、古くまで遡ると、古代ギリシアの財産管理の考え方にまで至るなど、人間の文面の発祥当初から関連を見て取ることができる。その後、15~16世紀に現代の簿記や会社制度の元祖のような考え方が生まれ、産業革命以降急速に発展していく。
  • 安斎が主張する「冒険的世界観」については、古くは大航海時代に”冒険によって財を為す”という点から関連を見て取れる。その後複数人による”会社”の概念が生まれ、同時に起業家(アントレプレナー)も誕生する。19世紀の経営学者の中には、「リスクをとって資産を形成する」という点から、こうした動きを”冒険”と表現する者もいた。

■1900年代~1920年代の経営学:科学的管理の台頭

  • 一般的に現代の経営学の出発点として挙げられるのが、アメリカの経営学者であり、同時に技士でもあるテイラーによる科学的管理の主張である。産業革命を経て浮き彫りになったさまざまな組織課題を合理的に解決するための手段として提唱された。こうした理論は欧州に持ち込まれ、特にドイツでは重要性は認められながらも、「ただの金儲けの方法を大学で教えるのか」という批判から、学問としての基礎づくりと発展を遂げた。
  • この頃の大きな社会的な出来事として、社会主義国家の誕生が挙げられる。こうした動きを受けて、ドイツを中心に従業員と経営者、組織と組織、そして従業員と従業員など、立場や価値観の異なる他者との「協働(cooperation)」が強い問題意識として立ち現れた。いかに協調し、成果を生み、分配するか。こうした問いを起点として、現代でいうステイクホルダーに近い概念が生まれるなど、関わる人やモノすべてとうまくやっていくための方法が様々に模索された。
  • また、1900年代初頭には、働く人の行動に着目した心理学や、他者との協働の観点から政治学・社会学との結びつきが強まった時期でもある。こうした他領域と結びつきながら発展していく様子は今回の講義を通してたびたび語られる現象であり、経営学の大きな特徴のひとつと言える。

■1930年代~1950年代の経営学史:第二次世界大戦による発展

  • 第二次世界大戦の前後は、コンピュータ関連をはじめ、世界的に技術が大きく飛躍した。また、大戦後にはサイモンの『経営行動』などにも見られるように、組織活動の目的を設定し、それを実現するための戦略を立案するという考え方が広く普及した。また、こうした経営学の理論的な積み上げに軍事的技術の流入がオーバーラップし、様々な研究者・理論家によって経営論が大きく発展した。その際、先の戦争の経験から軍事的なメタファーも多く用いられた。
  • またこの時期、戦争から逃れ渡米したクルト・レヴィンがグループ・ダイナミクスやリーダーシップ論を提唱するなど、心理学が本格的に導入され始めた。戦争によって軍事的な考え方に基づく経営論が確かに確立されていった一方で、それとは影響を与え合いつつも並走を続け異なる発展の系譜も存在した。

■1960年代~1970年代:軍事的な経営観に対する揺り戻し

  • ベトナム戦争や文化大革命、学生運動など、国家的・体制的な抑圧に対する抵抗運動が行われたこの時代。経営においても、主流とは決して言えないながらも、既存のトップダウン変調型の経営観に対する”ゆり戻り”が起こり、新たな視点がもたらされたことが大きな特徴と言える。
  • その動きに同調して、ステイクホルダーという概念が注目を浴びる。このステイクホルダーを中心とした考え方は、このあとの新自由主義の隆興を経て、現代における主要な経営の価値観のひとつとなっている。

■1980年代~1990年代:社会主義の崩壊と経営戦略論の提唱・普及

  • ソ連の崩壊など、社会主義が退潮し、資本主義・新自由主義が相対的に大きく隆興する。経営学ではポーターによる経営戦略論などが提唱され、競争を煽るような考え方が広く普及した。
  • 他方で、経営学領域においては、先の時代のステイクホルダーを重視する考え方の誕生によって、対象とする組織事象が多様化する。結果、生態学や認知科学(学習論)など、他の領域による概念も多く援用された。こうした動きは2008年のリーマン・ショック以降の多くの組織の経営観に影響していく。

■2000年代~2020年代:リーマン・ショックと新自由主義に対する揺り戻し

  • 2008年に発生したリーマン・ショックによる世界的不況によって、それまで支配的だった新自由主義的な考え方に対する揺り戻しが起こり、ステイクホルダー重心の経営観が広がりを見せる。
  • また、現代においては再びアントレプレナーシップ研究の拡張が特徴的だと山縣さん。安斎の提唱する冒険的世界観にも類似する考え方である。経営学では20~30年の周期で、以前に脚光を浴びた概念が再注目されることがある。しかし、前の流行時と再注目時では社会的な状況は大きく異なるため、必ずしもその性質が同じとは限らない。山縣さんは個人的な直感として、と断りを入れながら、一人ひとりが新しい可能性を切り開いていくことが求められているのではないか、と語る。

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出演者

安斎 勇樹
安斎 勇樹

株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO

東京大学大学院 情報学環 客員研究員

1985年生まれ。東京都出身。私立武蔵高校、東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO/東京大学 特任助教授。

企業経営と研究活動を往復しながら、人と組織の可能性を活かした新しい経営・マネジメント論を探究している。主な著書に『問いのデザイン』、『問いかけの作法』、『パラドックス思考』、『リサーチ・ドリブン・イノベーション』、『ワークショップデザイン論』『チームレジリエンス』などがある。

https://x.com/YukiAnzai
https://note.com/yuki_anzai
https://voicy.jp/channel/4331
http://yukianzai.com/

山縣 正幸
山縣 正幸

近畿大学経営学部 教授