凡人には「クリエイティブ」なんてどうでもいい?|おとな創造性Q&A 第1回
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凡人には「クリエイティブ」なんてどうでもいい?|おとな創造性Q&A 第1回

MIMIGURI安斎勇樹さんと、創造性研究の第一人者でMIMIGURIシニアリサーチフェローに就任した岡田猛さんの対談シリーズ「おとな創造性Q&A」。 創造性をめぐるさまざまな「お悩み」を起点にしながら、ビジネス×アカデミアの知見をお二人にぶつけていただきます。 第1回のテーマは「人生と創造性」。

【PROFILE】

「大学院時代には、博士論文の副指導教官として、岡田先生にご指導いただきました!」

安斎 勇樹

安斎 勇樹

株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO

東京大学大学院 情報学環 客員研究員

1985年生まれ。東京都出身。私立武蔵高校、東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO/東京大学大学院 情報学環 客員研究員。

企業経営と研究活動を往復しながら、人と組織の可能性を活かした新しい経営・マネジメント論を探究している。主な著書に『問いのデザイン』、『問いかけの作法』、『パラドックス思考』、『リサーチ・ドリブン・イノベーション』、『ワークショップデザイン論』『チームレジリエンス』などがある。

https://lit.link/YukiAnzaiVoicy

「安斎さんは院生の頃から、他者を巻き込んで実践を企画・実施する力が際立って高かったという印象があります。安斎さんやMIMIGURIのみなさんと一緒に『創造性』について探究できるのを楽しみにしています!」

岡田 猛

岡田 猛

東京大学名誉教授、大学院 教育学研究科 客員教授
東京大学 芸術創造連携研究機構 客員フェロー
株式会社MIMIGURI シニアリサーチフェロー

認知科学者、東京大学名誉教授。1994年に米カーネギーメロン大学にてPh.D.(心理学)を取得。名古屋大学教授などを経て、2008年より東京大学教授、2025年より名誉教授。専門は教育心理学、認知科学、芸術教育。フィールドワークや心理実験による実証的研究と、大学や美術館での実践研究を往還しながら、芸術の創作プロセスや熟達化、創造性を高める教育支援方法の解明に取り組む。特に、アーティストが創作プロセスの要素を意図的に変動させる「ずらし」の理論や、アート鑑賞が創造意欲を高める「触発」のメカニズムに関する研究で知られる。2024年、日本認知科学会フェローに選出。研究知見を基に、社会に「創造的教養人」を広げる教育・社会実践にも力を注ぐ。

 

【今回のお悩み】

芸術家や研究者、あるいは企業の開発担当者でもないかぎり、ふつうの人には創造性なんて関係ないのでは? 創造性を磨く意味なんてありますか?

安斎勇樹(以下、安斎):これは「創造性をどう捉えるか?」という問題とも関わってきそうなので、まずは岡田先生から「創造性」の定義をお伺いできるとよさそうですね。

この相談者は、前提として「いまの世の中にない大きな発明」みたいなことを創造性だと捉えているんだと思います。ですが学術的には、創造性って必ずしもそれだけではないですよね?

岡田猛(以下、岡田):たしかにそうですね。まず学問の世界では、創造性は長いあいだ「拡散的思考」と結びつけて考えられてきました。知能テストとか入試問題のように、答えを一つに絞り込む「収束的思考」に対して、拡散的思考のほうは「多様な可能性を考えられる」という話ですね。

世の中、答えが一つになるものだけじゃないので、やっぱりいろんな可能性を考えてみることがすごく大事で。「拡散的思考を通じて、新しくて価値があるものを生み出しましょう」という文脈において、創造性が語られてきたわけです。

ところが、この話はけっこう難しくて……。たとえば、ひと口に「新しい」とか「価値がある」といっても、「“誰にとって”新しかったり価値があったりするのか?」という問題があります。

そこで出てきたのがボーデン(Margaret Boden)という研究者が提唱した「歴史的創造性(Historical Creativity)」、つまり、これまでの歴史にない新しいものを生み出すような創造性と、「心理的創造性(Psychological Creativity)」、つまり、本人にとって新しいもの・価値あるものを生み出す創造性とを分ける考え方です。

「歴史的に新しいものだけがクリエイティブだ」と言ってしまうと、ふつうの人がやっていることはたいてい創造的ではないことになってしまいます。でも実際には、そんなことはないですよね。そこをすくい上げようとする中で、本人にとって新しいものを生み出す心理的創造性が語られるようになりました。

安斎:「心理的創造性=本人にとって新しいか」という考え方は、ふつうの生活者にとってもめちゃくちゃ大切ですよね。

ぼくは毎日の朝ごはんに冷ややっこを食べるんですが、最近、冷ややっこって生姜よりも山わさびのほうが合うことに気づいたんです。そんなことはもうすでにいろんな人が発見しているのかもしれないのですが、ぼくにとってこれはけっこうな大発見で、朝ごはんにおける大事なひと工夫になっています。

こういうふうに「世の中的に新しいかどうかは知らないけれど、私自身にとっては新鮮なこと」って、単純に生活の中の喜びになりますし、いわゆるジョブクラフティング(仕事の意味づけを主体的に再構築し、やりがいなどを高めていく活動)などを通じて仕事を楽しんでいこうとする文脈でも、重要になってくるなと思いますね。

岡田:そのとおりです。さらに近年、といっても10年くらい経っていますが、グラヴェアヌ(Vlad Glăveanu)という研究者が、創造性を捉えるときに「パースペクティブ(Perspective)」という概念を持ち出しました。

たとえば、「レンガの使い方をたくさん考えましょう」というお題があったとします。ふつうならレンガは、家を造ったりするのに使うわけですけど、金づちとして代用したり、重しにしたりというふうに、ほかにもいろんな使い方が考えられますよね。従来であれば、そうやって多様な使い方を考えるとき、そのアイデアの「数」が多ければ多いほど「創造的」であることになるわけです。

安斎:それが「拡散的思考=創造性」という従来的な理解ですよね。

岡田:そうです。しかしグラヴェアヌは、そうは考えませんでした。われわれはふだん、一定の視点、つまり「あるパースペクティブ」においてものを見ているわけですが、その外側にある「別のパースペクティブ」にシフトできたときに初めて創造的だと言える、というのが彼の主張なんです。

今度は「新聞」を例に取りましょうか。ものを包むのに使ったり、断熱のために使ったりというように、新聞にも本来の用途とは違ったいろんな使い道が考えられますよね。そのときに出てくるアイデアというのは、その人が今までの生活の中で身に付けた「パースペクティブ」に根づいている。

しかし、本当の意味でクリエイティブな人は、そうしたパースペクティブの外側に立って、いままでとは違う見方でその用途を考えることができるというわけです。そして、他者のパースペクティブに触れることによって、そのような新しい見方の獲得が促進されるとも述べています。これもまた、きわめて妥当な話だと思います。

安斎:なるほど、生み出した答えの「数」が多いだけでは、必ずしも創造的とは言えないわけですね。その答えの背後にある「視点」が広がっていないと、本当の意味でクリエイティブではないと。

岡田:おっしゃるとおりです。そこで、ようやくご相談への回答になるわけですが……。

芸術家や研究者にかぎらず、ビジネスパーソンも含めたわれわれは、仕事とか生活の中で行き詰まることがいっぱいあるじゃないですか。そういうときに、「もうこれしかない!」って思ってしまうと、なかなかそこから抜け出せなくなるんですよね。ひどいときには自殺にまで追い込まれてしまうこともあったりする。

そういうときに大事なのは、「別のパースペクティブ」にシフトできるかどうかだと思うんですよね。要するに、「ちょっと違う視点」に立てるかどうか。そして、いまお話ししてきたように、そこでカギを握っているのが創造性なんです。

こういうふうに創造性を捉えてみると、芸術家や研究者じゃなくても、基本的な創造性を身につけておくことには、やっぱり大きな意味があるんじゃないでしょうか?

安斎:なるほど! もはや答えは出てしまった気もしますが、ぼくもビジネスの観点から考えたことを補足させてください。

これは拙著冒険する組織のつくりかたにも書いたことなんですが、これまでの会社経営は、基本的には軍事的な考え方をベースしていました。

ですから、旧来のマネジメントが目指してきたのは、「一人ひとりの“従業員=兵隊”に目の前のことだけをやらせておけば、全体としてもうまくいく」という状態だったわけです。兵隊が「あれ? あっちの戦局ってどうなっているんだろう……?」とか「うーん、3年後はどうしようかな……?」などと注意散漫になったりせず、狙うべき敵・落とすべき陣地のことだけを考えてひたすら直進していくのが成功状態だとされていた。

つまり、「できるだけ人々のパースペクティブ(視点)をなるべく固定化させよう」としていたという意味では、旧来のマネジメント論は、「メンバーから創造性を奪い取ること」と表裏一体だったと言ってもいいかなと。

岡田:そうでしょうね。

安斎:でも、いまの世の中では、そういうやり方が立ち行かなくなってきています。そもそも状況がどんどん変わるし、短期的に勝ち負けが決められなくなっている。

これまでなら、たとえば何かの特許を一回取ってしまえば、しばらくはそれで食っていけたりしましたが、いまでは「ハイパーコンペティション」と言って、一度獲得した競争優位性の賞味期限が短くなり、勝ち逃げもしづらくなっています。だから、既存事業が少し儲かったからといって、そこに安住するわけにもいかず、改善しながらも新しいことを仕込んでいかなければなりません。もうちょっと長い目線で価値を生み出していく必要が出てきているんです。

これらを進めようとしたとき、兵隊たちのパースペクティブを固定化させてまっすぐ進ませるやり方って、めちゃくちゃ相性が悪いんですよね。むしろ、状況に応じてパースペクティブをどんどん変化してもらわないと困ります。

新規事業担当者とか開発担当者のようにクリエーションに関係する職種の人でなくても、組織全体にそういう「視点の柔軟性」が求められるようになっている。その意味で、創造性は「誰にとっても必要なもの」になっているのは間違いないと思いますね。

(第2回に続く)

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