暗黙知の誤解と本質

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約62分

8/1(火)に開催した「暗黙知の誤解と本質」のアーカイブ動画です。本イベントでは、暗黙知について取り上げ、基本知識はもちろんのこと、現代組織において暗黙知をどのように捉えたらよいのか、源流となる古典理論から最新の知見まで幅広く横断しながら解説しました。

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「暗黙知の誤解と本質」のチャプター

8:44 チェックイン:同僚や上司から盗みたいと思った技や知
11:48 そもそも暗黙知って何?
19:04 ケース「人相判別」
27:59 暗黙知と形式知の相互作用を論じた著書
35:08 暗黙知の形式知化は本当に可能か
39:21 暗黙知の形式知化は理解の単純化を生む?
45:42 組織において「暗黙知」とどのように向き合っていくべきか?

「暗黙知の誤解と本質」のポイント

  • 今回登壇する株式会社MIMIGURIリサーチャーの西村は、ナレッジマネジメントや組織内の人材開発における「探究」の意義に関する研究活動に従事している。今回は「学術的な知見を紐解きながら、さらに深堀りし、探究を進める場」であるDIGTIONARYで、改めて暗黙知について捉え直した。
  • マイケル・ポランニーによると、暗黙知とは個人の経験個人の経験、直感、感情、技能など、意識されていない知識やスキルであり個人の行動や判断に影響を与えるものだという。暗黙知を保有するものの代表格に職人があるが、ビジネスにおいても職人技が企業のケイパビリティにつながると西村は語る。
  • 暗黙知に対比される言葉として「形式知」があり、形式知は言語化や可視化などにより他者間や組織内に流通可能になっている。特にビジネスの場では暗黙知を形式知に変換することの重要性が強調されるがゆえに、暗黙知は「そのままにすると大変なことになる病理」「形式知に変換すべきもの」と思われている節があると西村は指摘する。
  • しかし暗黙知は本当に忌み嫌割れるべきものなのだろうか?今回は暗黙知について踏み込んで考える(Digる)ことで、暗黙知の再定義を試みる。
  • 西村は「人相判別」を例に取り、人間の顔を把握するときは眼、鼻、口といった近接項を一つ一つ判断するというよりは包括的全体に注目しており、近接項は無意識に行われている状態だと述べる。歩くという行為も同様に、いちいち近接項である足、腰、腕の動かし方を意識しないのは歩く行為の統合的理解が進んでいるからである。
  • 暗黙知と形式知の循環について述べた野中郁次郎は、暗黙知が形式知に転換され知識が形成・共有・深化するプロセスとしてSECIモデルを理論化し、暗黙知と形式知を相互補完的なものとして捉えた。
  • 野中は暗黙知を表出可能と捉えている一方、ポランニーは表出伝達不能な身体を用いた技能・認識・知覚を想定しており形式知で代替されたいものと捉えている。このように、ポランニーと野中郁次郎の暗黙知概念には差異がある。
  • もし暗黙知を「語ることが出来ないもの」とするのであれば、身体化された暗黙知について語ったとしてもそこで生まれた形式知は暗黙知を表現できたことになるのかどうか、懐疑的であると西村は述べる。また、暗黙知の形式知化は従業員のオリジナリティ(独自性/独創性)を奪いかねないのではないかと述べる。加えて、暗黙知の形式知化は理解の単純化を生み、暗黙知の形式知はパラドックス構造をはらむと述べる。
  • 西村は暗黙知を形式化するメリット、形式化しないデメリットだけではなく、暗黙知を形式化するデメリットと形式化しないメリットについても言及し、ナレッジマネジメントの制度を持続化していく上では後者にも目を向ける必要があると述べた。
  • 組織は暗黙知とどう向き合うべきかという問いに対して、小田は軍事的世界観と冒険的世界観で形式知化が持つ意味が違うのではないかと語り、前者は再現性を高めて誰もが同じことをできるようにする意味が強いが、後者は形式知化したことによって新しい探求を促す意味が強い。どちらのスタンスに立っているかの前提についても自覚的になると良いのではないかと語った。

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西村 歩
西村 歩

東京大学大学院情報学環客員研究員。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。実践研究方法論が専門家。現在はコンサルティングファームに内在する実践知の形式知化やナレッジマネジメントに関する研究活動に従事。電子情報通信学会HCGシンポジウム2020にて「学生優秀インタラクティブ発表賞」、電子情報通信学会メディアエクスペリエンス・バーチャル環境基礎研究会にて「MVE賞」を受賞。

小田 裕和
小田 裕和

千葉工業大学工学部デザイン科学科卒。千葉工業大学大学院工学研究科工学専攻博士課程修了。博士(工学)。デザインにまつわる知を起点に、新たな価値を創り出すための方法論や、そのための教育や組織のあり方について研究を行っている。特定の領域の専門知よりも、横断的な複合知を扱う必要があるようなプロジェクトを得意とし、事業開発から組織開発まで、幅広い案件のコンサルテーション、ファシリテーションを担当する。主な著書に『リサーチ・ドリブン・イノベーション-「問い」を起点にアイデアを探究する』(共著・翔泳社)がある。