「心理学的経営」のアップデートを探る:新生リクルートが掲げる新しいマネジメント論

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約75分

組織をつくる

#組織文化
#ナレッジマネジメント
#心理的安全性
#リーダーシップ
安斎 勇樹
安斎 勇樹
堀川 拓郎
堀川 拓郎

2021年4月、多領域に展開してきた国内7つの事業会社を統合し、社内外の垣根を超えた協働・協創を生み出すための新たな人材マネジメントのコンセプトとして、「CO-EN」(公園、Co-Encounter)構想を掲げた株式会社リクルート(以下、リクルート)。また2022年には、社内外のステークホルダーが、この新たな構想に対する理解を十分に深めていくことを目的とした、「CO-EN Bookプロジェクト」が発足しました。

「CO-EN Bookプロジェクト」は、新構想の思想や理論、施策を有機的に整理・ビジュアル化することを目的としながら、同時に、リクルートを創業期から支える経営論である「心理学的経営」を現代の学術的な経営論・学習論の観点から再解釈し、アップデートを試みる取り組みでもありました。

▼「CO-EN Book」はこちらからご覧いただけます。
https://www.recruit.co.jp/blog/assets/CO-ENBOOK.pdf

本動画では、堀川拓郎さん(株式会社リクルート 人材・組織開発室室長 /ヒトラボ ラボ長)と安斎勇樹(株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO)による対談をお届けします。プロジェクトの中心を担った両者が語る、現代組織に求められる新たな人材マネジメントのあり方とは。ぜひ最後までご覧ください。

▼「心理学的経営」について詳しく学びたい方は、ぜひ下記の動画も合わせてご覧ください。

リクルートの「心理学的経営」に学ぶ:個の衝動を活かす組織マネジメントの真髄

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『「心理学的経営」のアップデートを探る:新生リクルートが掲げる新しいマネジメント論』のチャプター

00:11 イントロダクション
01:32 リクルートのマネジメントの源流「心理学的経営」とは何か?
04:34 「CO-EN Bookプロジェクト」の背景
09:53 リクルートの組織構造
12:07 新生リクルートの人材開発と組織開発の考え方
25:30 リクルートの人材/組織マネジメントの構造
36:16 心理学的経営の再解釈:誤解と本質
46:02 自己組織化とは何か?
53:58 心理学的経営を再モデル化する
1:00:07 ディスカッション:”好奇心”と”Will”の誤解と本質

『「心理学的経営」のアップデートを探る:新生リクルートが掲げる新しいマネジメント論』のポイント

「CO-EN Bookプロジェクト」の背景

  • リクルートは2021年の経営統合に伴い、社内外の垣根を超えた協働・協創を生み出すための人材マネジメントのコンセプト・「CO-EN」構想を立ち上げた。また、このコンセプトを社内外のステークホルダーとわかち合うために発足したのが、「CO-EN Bookプロジェクト」である。
  • このプロジェクトは、創業期からリクルートを支えた基本思想であり、新コンセプトにおいても軸となる「心理学的経営」の本質を、誰でも手軽に学べるようにストーリー仕立ての小冊子にまとめていく取り組みである。リクルートとの協働のもと、安斎をはじめとした株式会社MIMIGURIのメンバーがマネジメントモデルの考察、理論・ストーリーの構築、クリエイティブなどのプロセスに伴走した。
  • 元来リクルートでは「価値の源泉は”人”」という考え方が重んじられている。リクルート創業者であり、書籍『心理学的経営─個をあるがままに生かす』の著者・大沢武志氏は「人は自律的に行動し自分らしく生きたい(≒内発的動機)と思う生き物である」と語り、「個の尊重」の大切さを説いた。そして、内発的動機の起点として「好奇心」の重要性を述べている。

リクルートの人材育成と組織開発

  • 新たな人材マネジメントポリシーでは、「価値の源泉は”人”」という点に変更はないものの、「個人に求めるもの」と「会社が用意するもの」は刷新された。前者の「個人に求めるもの」では「自律・チーム・進化」の3つが挙げられ、働き方の多様化などを背景に、個人として強くあることばかりを求めるのではなく、「一人ひとりが状況に合わせて自律的に判断・行動すること」や、「強みを活かしあいながら、個人とチームが相互的に進化し続けること」などを重んじる方針が具体化された。後者の「会社が用意するもの」としては、「能力を発揮する環境・機会の提供」「柔軟な働き方」「Pay For Performance」の3つが掲げられている。
  • これらの人材マネジメントポリシーを掲げながら、現在のリクルートの人材開発の方針は「強みを解放する」ことだと堀川さんは語る。そして、真の意味でこれを実現するには、「今自分が認識している個」と「まだ自分が出会っていない潜在的な個」の両方を尊重することが大切なのだという。
  • また、組織開発の方針は「強みを活かし合う関係をつくる」であり、多様な人が集い、個の限界を超えられる組織づくりを目指していく。また、こうした思想を実現するマネジメント体制の構築なども盛んに行われている。それに伴い、会社を「好奇心と情熱の集合体」と位置づけ、CO-EN構想はそれら全体を包含するコンセプトとして掲げられている。

心理学的経営の再解釈:誤解と本質

  • 「CO-EN Bookプロジェクト」にあたって、安斎は『心理学的経営』を何度も読み返したという。特に、人間や組織の矛盾に満ちた性質をあるがままに捉えたり、あえて矛盾をしようとし続ける姿勢の重要さが述べられていることについて、当時執筆中だった『パラドックス思考』とも親和性が高く、驚いたという。
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  • リクルートを象徴する有名な問いかけのひとつに「あなたはどうしたいの?」という、相手の意志を問うものがある。これは一見すると「やりたいようにやってよい」というふうにも捉えられるが、『心理学的経営』の考えに基づくと、そのようなすでに顕在化された意志を問うだけでは不十分であり、それらの「論理」や「意識」などの合理性に基づく「表のマネジメント」だけでなく、人間としての非合理的な「矛盾」や「カオス」などによる「裏のマネジメント」にも目を向け、それらの表裏一体のマネジメント観を往復し、止揚させようとし続ける姿勢が重要なのである。
  • つまり、個人の意志を尊重しながらも、同時に当人の意志だけでは説明できない不合理性をあるがままに受け入れて、眠っている個性を覚醒させることが、心理学的経営が目指す「個の自己実現」のあり方なのだと安斎は語る。
  • また、この「個の自己実現」と対をなすのが「組織の活性化」であり、『心理学的経営』では、両者をダイナミックに往復していくことの大切さが説かれている。そして安斎は、これら両立させていく上では「自己組織化」の基盤の有無が鍵になるという。

自己組織化とは何か?

  • 自己組織化とは、「物質や個体が(中略)個々の自律的な振る舞いの結果として、秩序を持つ大きな構造を作り出す現象」と定義され、たとえば人間のからだが自然治癒能力を持っているように、自分で自分の秩序を保つことである。そして、この自己組織化の活発化は、秩序の破壊によってもたらされ、破壊された秩序がもとに戻ろうとする”ゆらぎ”の中で促進される。
  • この自己組織化の考え方を組織づくりに当てはめると、合理性などによって構成される「表のマネジメント」と、無意識の欲求などによって構成される「裏のマネジメント」が往還されることによって、既存の秩序に”ゆらぎ”が生じ、結果的に組織の活性化に繋がっていくのだと安斎。また、個の自己実現においても、自覚的であり秩序だった意識(=自我)と、無自覚で秩序のない無意識の両側面の往還によって促進されていくことを示した。

心理学的経営のアップデートを探る

  • 安斎はプロジェクトを進める中で、こうした「ゆらぎ」や「二面性」などの心理学的経営の本質的要素を取り入れた新たな経営モデルの構築に取り組んだ。「個の自己実現」と「組織の活性化」の縦軸に、「均衡化」と「不均衡化」の横軸を加えた下記のマトリクス図を描き、心理学的経営のエッセンスを読み解いた。
  • そしてこのモデルに基づき制作された「CO-EN Book」では、個の自己実現と組織の活性化の両方における”ゆらぎ”のプロセスがストーリー形式で描かれている。また、安斎のマトリクス図は、すでに構築されていたリクルートの新たな人材マネジメントポリシーのモデルとも合致し、現代のリクルートに心理学的経営がどのように継承されているかを示すものにもなっている。

ディスカッション:”好奇心”と”will”の誤解と本質

  • 内発的動機の起点となる「好奇心」だが、注意すべきこととして、必ずしもポジティブなものだけを意味するわけではない。たとえば違和感やイライラなどの負の感情も、好奇心のひとつのかたちである。また、堀川さんは、好奇心は常に移り変わったり、他者との関わり合いの中で育まれたりする流動的なものであり、その動きも含めて尊重していくことが大切だという。
  • また、その好奇心を掻き立てるものとしてWill(意志)がある。昨今よく見られる誤解として、「Willは立派なものでなければいけない」あるいは、「安易に変えてはいけない」といったふうに考える人が増えてきたと堀川さん。しかし、今回のプロジェクトを通じて議論を重ねる中で、Willとは誰しもが生来持っているもので、Willを問うのは、好奇心が行動に移るまでのきっかけや原動力が何かを探ることなのだと再確認できたという。
  • 最後に、堀川さんは今回のプロジェクトはまさに”CO-EN”的な仕事で、リクルートの社内外でこうした共創が広がっていくことや、さらに一人ひとりが自分らしく生きられるような社会にしていくことに繋げていきたいと、今後の展望について語った。

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出演者

安斎 勇樹
安斎 勇樹

株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO

東京大学大学院 情報学環 客員研究員

1985年生まれ。東京都出身。私立武蔵高校、東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO/東京大学 特任助教授。

企業経営と研究活動を往復しながら、人と組織の可能性を活かした新しい経営・マネジメント論を探究している。主な著書に『問いのデザイン』、『問いかけの作法』、『パラドックス思考』、『リサーチ・ドリブン・イノベーション』、『ワークショップデザイン論』『チームレジリエンス』などがある。

https://x.com/YukiAnzai
https://note.com/yuki_anzai
https://voicy.jp/channel/4331
http://yukianzai.com/

堀川 拓郎
堀川 拓郎

株式会社リクルート 人材・組織開発室室長 /ヒトラボ ラボ長