MIMIGURI安斎勇樹さんと、創造性研究の第一人者でMIMIGURIシニアリサーチフェローに就任した岡田猛さんの対談シリーズ「おとな創造性Q&A」。創造性をめぐるさまざまな「お悩み」を起点にしながら、ビジネス×アカデミアの知見をお二人にぶつけていただきます。第3回のテーマは「脳と創造性」。
【今回のお悩み】
創造的なアイデアを出せる人って、やっぱり特別なんだと思います。
そもそも、脳のつくりとか遺伝子からして、ふつうの人とは違うんじゃないでしょうか?
岡田猛(以下、岡田):もちろん、「創造性の遺伝子」のようなものが存在するわけではないですが、やはり創造性には「遺伝的な要素」もあると考えられてはいますよ。たとえば、[以前の記事]でも指摘したとおり、「開放性」や「外向性」といったパーソナリティ因子は、創造性に大きく関係してきます。そして、こうしたパーソナリティを決定している一つの要因が「親からの遺伝」です。
ただ、すべてが「遺伝的素質」で決まるわけではありません。実際には、パーソナリティは、「親からの遺伝×子どものときの環境」の組み合わせで決まると言われています。たとえば、遺伝子レベルではまったく同じ一卵性の双子であっても、性格が異なっていたりしますよね。あれは「ジェネティック(遺伝的)な要素」と、「あとから加わったり発現したりするエピジェネティックな要素」「経験からの学習の要素」との組み合わせのなかで、パーソナリティが決定されるからです。
そういう面はあるものの、ジェネティックな部分はあとから自分でどうこうできるものではないので、特定の分野で創造性を発揮しようとするときには、有利・不利に働くことがあります。たとえば、100メートル競争をするとなれば、身体の大きさに関わるような遺伝的素質があったほうがいいというようなケースですね。
安斎勇樹(以下、安斎):たしかにそのとおりですね。一方で、個人的に興味があるのが「脳のつくり」の話です。[以前の記事]では、かつて創造性を阻害すると思われていた「神経症的傾向」が、意外と重要な役割を果たしていることがわかったというお話もありましたよね。
たとえば、ぼく自身もかなり多動傾向があって、昔は椅子にじっと座っていられないような子どもでした。ですが今では、多動性にしろ、注意欠如にしろ、衝動性にしろ、そうした認知特性ってクリエイティビティの根源そのものだと感じている部分もあるんです。そうした特性のおかげで、現在の自分があるような気もしているんですよね。
一方で世の中には、本来は創造の才能を持っているのに、それらの認知特性が社会的にマイナス認定されて抑圧された結果、うまくクリエイティビティを発揮できていないという不幸なケースも多いんじゃないかと思っています。ADHD(注意欠如・多動症)のような特性と創造性の関係性については、どんな研究知見があるんでしょうか?
岡田:それについては、カーソンという研究者が提唱している「共有神経認知脆弱性モデル(Shared Neurocognitive Vulnerability Model)」が参考になると思います。
双極性障害や統合失調症スペクトラム、ADHDなどの遺伝的要素の中には、「共有脆弱性因子」と言われる、高度な神経結合性(脳内の神経細胞の結合が強すぎる状態)や新しいものを好む性質(新奇性の追求)といった特徴を持つ因子があり、これが知能の低さだったり、ワーキングメモリーの小ささだったり、こだわりの強さ(固執性)といった「危険因子」と結びつくと、いわゆる精神病理につながるわけです。
一方で、「共有脆弱性因子」に、高い知能、大きなワーキングメモリー、認知的な柔軟性といった「保護因子」が組み合わさることで、「天才」と呼ばれるような創造性が生まれてくる──そういうふうに考えられています。
研究が発表されてからまだ日が浅いので、これから検証がより進んでいくと思いますが、面白い考え方ですよね。

安斎:ぼくのような人間にとっては朗報ですね!
岡田:私も軽いADHDの傾向があるのか、すぐに飽きてほかのことをやり始めてしまったりします。最近、アンデシュ・ハンセンという精神科医が書いた『多動脳』(新潮新書)という本を読んだんですが、そこでもわれわれにとって救いになるような話が書かれていました。
人類はアフリカから出てきたと言われているわけですが、そこから遠くに出かけた人たちには、脳の報酬系の働きが鈍くて、ものごとにすぐに飽きてしまうという、ADHDと関連する遺伝子(DRD4−7R遺伝子)を持っている割合が高いそうです。
これは探検遺伝子のようなもので、この遺伝子を持っている人は一つのところにずっと留まっているより、どんどん新しいものを求めて移動する傾向があるようです。南米のようにアフリカから遠く離れたところに行くと、5割以上の人がその遺伝子を持っている。東アジアにも同じような働きの遺伝子(DRD4-2R)を持っている人が多い。
昔の狩猟採集の時代には、生き残るうえでそういう遺伝子が必要だったんですね。物陰で何かが動いたら、パッとそこに注意がいかないと獲物が取れないし、身を守ることもできませんから。
でも、農耕時代になると、きょろきょろして注意散漫な性質の人はあまりよくない。こつこつ田畑を耕せる人のほうが重宝されるようになり、今日に至るまでADHD傾向の人たちがあまり評価されなくなってしまったということが書かれていました。
安斎:面白いですね! 『冒険する組織のつくりかた』のキーワードでもある「冒険(Quest)」のコンセプトが、認知特性の話とみごとにつながりました。
岡田:創造的活動のいいところは、ものすごく幅が広いということです。100メートル競争で創造性を発揮できなくても、別の活動領域で自分なりの創造性を発揮すればいい。何をトピックにするか、どういうふうにアプローチするのか、どういうタイプの創造性を生み出すかというところに関しては、自由度がすごく高いんです。
学術的には「最適適合モデル(Optimal-fit Model)」という考え方があります。人にはそれぞれリソースとして持っているものがありますよね。それは才能かもしれないし、育ってきた家庭環境かもしれないし、どこの国に生まれたかといったことも関係してくる。人が創造性を発揮するうえでは「自分が持っているリソースとうまくフィットする領域」を探せるかどうかがカギになるというわけです。
人間はうまくできていて、「自分がどれだけやってもダメなこと」ってやっぱり面白くないから続かないんですよね。それでほかの領域に移っていく。それを繰り返しているうちに、「あ、これならいけるんじゃない?」みたいに自分にぴったりくるものにたどり着くようにできている。
そう考えると、「創造性は遺伝で決まっている」と思って、別の領域を探すのすらやめてしまうのは、やはりもったいないと思いますね。
聞き手・編集:藤田悠




